・第四十一話 『加護』
いつも読んで頂きありがとうございます!
ブクマ、作者の養分です。
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈が竜兵を、おれの元に届けてくれたんだな。
兄貴はおかげで命拾いしたよ。
君にはこちらの世界が見えているのかな?
おれも時々だけど、君の姿が見えることがあるよ。
いつも夢の中っていう条件付きだけどね。
それはそうと美祈、おれは『呪い』ってものの存在を確信した。
『地球』に居た頃は、怖がりのくせにあの類の映画を見たがる君を抱きしめて、おれは冷めた目で見ていたと思う。
所謂アレだ、TV画面の中から髪の長い女が出てくるようなやつだ。
あれはビデオが呪われてたらしいけど、どうやらこの世界、カードが呪われるらしい・・・。
■
「そうしておいらたちが半日程飛んだ所で、デオグランに撃たれる直前のアニキたちを見つけたんだ。」
そう締めくくって長い話を終えた竜兵が、ほぅっと息を吐く。
竜兵の娘でもある子『嵐竜』のヴェルデは、話の途中で竜兵の野球帽に潜り込んで寝てしまった。
器用に反対にした帽子をゆりかごのように揺らして、スピースピーと寝息を立てている。
なにコレ、可愛い。
竜兵でなくても、思わず目を奪われる可愛さだ。
暗い話に少し沈みかけた謁見の間に、優しい空気が流れる。
おいアフィナ、手をワキワキするのをやめろ。
せっかく寝てるんだからそのままにしとけ。
おれは目線でアフィナを大人しくさせてから、仙人姿の『古龍』バイアに正対する。
「『古龍』バイア。竜兵を守り続けてくれた事、おれたちの窮地を救ってくれた事、改めて感謝する。ありがとう。」
おれは丁寧に頭を下げた。
「なんの、なんの。」と手を振るバイア。
クリフォードとアフィナが、あんぐり口を開けている。
「あ、あのセイがあんなに丁寧にお礼を!?」
「クリフォード様、明日また帝国が攻めてくるかも・・・。」
お前ら、失礼すぎるだろ!?
曲がりなりにも兄貴分を自負してるんだ、弟分が世話になったら礼くらいするだろ?
それに命の恩人・・・恩竜だぞ!
おれの無言のジト目に気付いた二人が、さっと目線を逸らし沈黙したのを見計らって、ヒンデックが「そういえば・・・。」と切り出した。
「セイ殿は、『輝石』を探しておると聞いたが?」
おれが首肯で答えると、ヒンデックは「では。」と前置きして一旦謁見の間を出ると、ほんの一、二分して戻ってきた。
その手には一つの袋。
ヒンデックが袋を開けると中には二つ、拳大の『輝石』が入っていた。
「ルビーと・・・オニキスか!」
「使えるかね?」と聞いてくるヒンデックにおれは、「ああ、良さそうだ。」と答えた。
「ではこれを、セイ殿に収めてほしい。これは我が・・・ああいや、もう我が家では無いが、ミッドガルド家に秘蔵されていたものだ。」
「いいのか?それにアフィナと和解したなら、家名も戻してもらえよ。」
おれが問うと、「もちろんじゃ。だがわしは、家名を戻すつもりは無い。」と言う、ヒンデック。
(なんか拘りがあるのか?)
アフィナを見ると「ボクも何回も言ったんだけど・・・。」と、少々呆れ顔だ。
まぁ、その辺はおいおいか。
クリフォードもおれに目線を送って来ているし、何か思うところがあるのだろう。
この国の貴族関係にまで、口を出す必要も無いしな。
■
おれは受け取ったルビーとオニキスに『カード化』をかける。
問題なくカードになった『ルビー』と、『図書館』から出した『夢の林檎』のカードを、竜兵に差し出した。
「アニキ・・・一体何を?」
「ん?ああ、転移した日に『カードの女神』とやらに『加護』をもらった。これは『カード化』した『ルビー』と『夢の林檎』だ。」
困惑する竜兵と、『カードの女神』の名前に驚くバイア。
「いやはやまったく、さすがはお竜ちゃんの兄者と言う事か。」
なにやら一人感心しているバイアを横目に、おれが竜兵に二枚のカードを渡した瞬間だった。
おれの手と竜兵の手がカードを通して繋がり、見覚えのある金色の光。
そう、まるで盟友を召喚する時のような光が、謁見の間を包んだ。
そして竜兵の前には、赤い背表紙のカタログのようなものが現れる。
「・・・これは・・・。」
「アニキ・・・。」と呟いたまま絶句した竜兵に、「開けてみろ。」と頷いてやる。
合わせておれも、『図書館』を呼び出す。
収納していた『サファイア』の、『カード化』を解除する。
「竜兵、『カード化』と念じて、サファイアに触れてみろ。」
恐る恐ると言った感じで竜兵が触ったサファイアが、『サファイア』のカードに変わる。
テキストも問題なく【紋章羽根+2、ドロー1】になっている。
(『加護』が移動したとかじゃなく、竜兵にも『加護』が付いたと見ていいな。)
「異世界の魔導師と言うのは、本当にすごいな。『加護』の共有など聞いたことが無い・・・。」
執務椅子にぐったりと言う体で、深く沈みこむクリフォード。
その言葉を聞いた竜兵が、不意に弾ける様に顔を上げた。
「アニキ!おいら、ずっと引っかかってたんだ!」
「突然どうしたんだ?」
謁見の間に居る面々が、竜兵に注目する。
「アニキ、あのツツジとか言う奴の魔法、見た事無い?」
(ツツジの魔法・・・?羽虫を呼ぶ魔法・・・?)
ハタと思い当たり、「まさか・・・。」と呟いたおれに、竜兵は一度頷き言葉を続ける。
「あれ、『羽虫の突進』じゃないかな・・・。それにおいらたちが見た、鳥面の白ローブが使ってた鉄杭とギロチンの魔法・・・それとドラゴンの『吐息』を反属性で打ち消したのも・・・『痛みの楔』、『死の閂』、『意地悪』だったとしたら・・・。」
竜兵の言葉を聞いたクリフォードが、顔色を悪くして話す。
「竜兵・・・この世界の魔法に、今聞いたような名前の物はない。それに鳥面の輩はその魔法を連続で使用したのだろう?我々の魔力はそこまで多くないし、ドラゴンを何体も同時に倒すような大型魔法ならば、魔方陣が必要になるだろう。」
「うん、それはじっちゃんに聞いてたから知ってる。だからこそ、この想像に至ったんだけど・・・。」
竜兵の言葉に頷くバイア。
そして全員の視線がおれに集まる。
皆、おれの出す答えを待っているようだ。
おれは一つ大きく深呼吸をしてから、竜兵が至った考え。
そして最早おれの中でも、ある種確信に満ちてしまった事を告げた。
「この世界『リ・アルカナ』の敵『略奪者』は、おれたちと同じ『地球』からの転移者かもしれない・・・!」
■
問題は山積みだ。
『略奪者』は十中八九、おれたちの同郷なんだろう。
それがどうやら『レイベース帝国』や『竜の都』で暗躍していた。
奴等の目的は一体何なのか・・・。
今までこの世界の住人が気付いていないことも考えると、表面化していない場合も多々あるのではないだろうか?
それに幼馴染の中で出会えたのは竜兵だけだし、おれたちが帰るための遺失級魔法、『回帰』のパーツも現在集まっているのは三つだけ。
この『回帰』のパーツ集めを説明した時竜兵が、「七つのパーツを集めて、願いを叶えてもらう・・・?ドラゴンボ・・・。」と危険な事を言い出したりしたので、慌てて口を塞いだりもした。
秋広病の感染率が深刻だ。
いや、それは他の問題と一緒にするほどの問題じゃなかった。
話がズレた、戻そう。
とは言っても、実質おれたちができる事は少ない。
『略奪者』についてはその格好、奇怪な面と白ローブくらいしか判断材料が無いし、目的やはたして何人いるのかすらわかっていない。
残りの幼馴染、ウララと秋広の事についてもそうだ。
ウララの行方はようとして知れないし、秋広も『氷の大陸メスティア』に居るんじゃないか?って事以外続報は無い。
クリフォードが続けて情報収集をしてくれているので、それに期待するしかない状態だ。
おれと竜兵は客間に戻り、今できること。
つまり『魔導書』をこの世界に対応した形に整えようとして、またしても問題にぶつかった。
「アニキー、おいら盟友ドラゴンがはずせないんだけどー。」
「我侭言うな、二枚分空けろ。」
おれに向かって「心底困った。」と言う顔をする竜兵を冷たく切って捨てたのだが。
「いあ、そうじゃなくってー。」と竜兵は、自身の『魔導書』をおれに見せてくる。
竜兵がドラゴン族の盟友カードを、『魔導書』からはずそうとすると、バイーンとでも音がしそうな雰囲気で、元あった場所にそのカードが戻っていく。
「はぁ?」
訳がわからない。
目を疑うおれに、竜兵が「アニキもこんなんなるー?」と聞いてくるので、おれもカードの入れ替えを始める。
強化魔法カード、『謎の道具』、問題なくはずれる。
リザイア、ロカさん、サーデイン、ジェスキス、アリアン他、ほとんどの盟友カードはずれる。
イアネメリラ、はずれない。
『魔王の左腕』召喚と『絶望』、はずれない。
そして・・・エデュッサ、はずれない。
なにコレー!?
あの有名なコンシューマーゲームのテキストが脳内再生された。
「ひじりは、のろわれてしまった。このそうびは、はずせないようだ。」
おれ・・・知らない間に呪われてました。
教会どこですか・・・?
ここまで読んで頂きありがとうございます。
仕事がスーパーハードになって参りました。
更新がんばりまっす!