・第四十話 『竜の都』
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『リ・アルカナ』の世界からコンチハ!
おいらの名前は北野竜兵、称号は『力』。
親しい人には竜とか、竜君なんて呼ばれてるんだ。
最近は「りゅうへ~」や「お竜ちゃん」とも呼ばれているよー。
みんなも好きに呼んでね。
ちなみに称号ってのは、おいらたちがハマってたカードゲームとVRの合作『リ・アルカナ』の、トップランカーたちに付けられるものなんだ。
おいらも一応中学生以下の部で、全国チャンピオンなんだよ?
まぁ、おいらの幼馴染たちに比べたら、まだまだなんだけどね。
おいらの幼馴染たちを少しだけ紹介するね。
まずはなんと言っても、アニキ!
名前は九条聖、通称『悪魔』のセイ。
魔族とか闇属性の盟友と一緒に、本人も空手を使って戦うイケメンだよ。
本当の兄ちゃんじゃないけど、おいら大尊敬してるからアニキって呼んでるんだ。
次はウラ姉かなー。
名前は橋本麗、称号は『正義』。
黒髪ツインテールのアイドルみたいな美少女なんだけど、口より先に手が出る怖い人。
スタイルも天使族を従えて、巨大なハンマーとか振り回して襲いかかって来るんだ。
本当は優しい人って知ってるけどね。
それから秋やん。
名前は川浜秋広、称号は『運命の輪』。
秋やんは・・・何だかよくわからない。
見た目は真面目な学級委員長って感じなのに、よくアニメとか漫画のセリフっぽいのを叫んでは、ウラ姉にドつかれてるイメージ。
一番年上だけど、兄ちゃんって感じはしないんだよね。
最後に美祈姉。
名前は九条美祈、おいらの大尊敬するアニキの妹さん。
お菓子作りとか手芸が趣味の女子力MAXお姉さん。
理由あって、アニキとは実の兄妹じゃないんだけど、おいらたちがみんなそんな事忘れちゃうくらい、アニキと美祈姉は仲良しなんだ。
あんまり『リ・アルカナ』でバトルはしないよ。
結構強いんだけどね~。
ある日、ダブルスで遊ぼうとしていたおいらたち、(アニキ、ウラ姉、秋やん)はどうも異世界転移ってのに、巻き込まれたみたいなんだ。
今日はおいらたちが住んでいた世界『地球』から、このカードゲームそっくりな世界『リ・アルカナ』に来てから約10日、アニキと再会するまでの話をするよ。
■
おいらは見慣れない場所で目覚めた。
「・・・知らない天丼だ?」
なんか違う。
見知らぬ場所で目覚めた時は、これを絶対言えって秋やんがなんか言ってたんだけど・・・。
「そだ、知らない天井だ!」
良かった、これ言っとけば大体OKって、秋やん言ってたもんな。
その時おいらの頭に爺ちゃんの声が響いた。
【おちびちゃん、一体どこから現れたのかの?】
ふぇ?何だろう・・・と思ってきょろきょろ辺りを見回す。
優しげな爺ちゃんの声は、笑いを堪えきれないと言うような声音で【下じゃよ、下。】と囁く。
おいらが下を見ると、そこには真っ白い毛のふわふわした大きな何かが居た。
と言うよりもおいらは、その大きな白い毛の生き物の頭の上で寝ていたみたい。
おいらこの生き物・・・と言うか、ドラゴン見覚えがある!
VRには、対応してなかったはずなんだけどなぁ?
「えっとー、『古龍』バイアだよね?なんだろこれバグ?クエストなのかな?」
【おちびちゃん、わしの事を知っとるんじゃな・・・。】
【ふむ。】と呟いた『古龍』バイアがおいらに、【おちびちゃん、悪いがちと降りてくれるかの?】と言ってきたので、慌てて降りる。
そこは洞窟みたいな場所だった。
【どうれ。】と言ったバイアが、ボウンと音がしそうな煙を上げると、そこには昔の中国で着られてたような、緑色の胴衣みたいのを着た白い髭のお爺ちゃんが立っていた。
はわわ!どゆことー?
「・・・じっちゃんは・・・バイア?」
「おちびちゃん、ちょいと目を合わせてくれるかの?」
んにゃ?
バイアのじっちゃんが言うように、おいらは目を合わせた。
じっちゃんはしばらくおいらの目を見つめた後、「ふむ。おちびちゃんの名前は竜兵と言うのかの。『地球』・・・カードゲーム。クエスト・・・?なるほどのぅ。」と呟いた。
じっちゃんはおいらの心が読めるのかな?
何だかおいらが考えてたことを反芻してるような・・・。
この雰囲気・・・何だか秋やんが言ってた事を、思い出しちゃったよ。
「ねぇ、じっちゃん・・・ここってもしかして・・・。」
「ふむ。お竜ちゃんや、結論から言うとの。おそらく異世界転移って奴じゃの。」
なんだってー!
やっぱりかーorz
思わずがっくり項垂れたおいらにじっちゃんは、「原因はわからぬがのぅ。どうやらお竜ちゃんは、わしらと繋がりが深いようじゃからの。そのせいでここに飛んだのやもしれん。」と、言った。
「じっちゃん、ここが異世界なのは・・・何となく納得したよ。でも異世界のどこ?それに繋がりが深いってなんだろう?」
おいらが立ち直るのが、思いのほか早かった事に驚いているじっちゃん。
まぁ、この手の話は秋やんと付き合ってたら・・・ね?
「・・・ふむ、見たほうが早いじゃろ。お竜ちゃん、こっちにおいで。」
バイアのじっちゃんに導かれるまま、おいらは後ろをついて洞窟の外へ向かった。
■
「ふぁぁぁぁ!!!すごいねー!じっちゃん、ここはすごいねー!」
おいらは思わず叫んだ。
目の前に広がるのは雄大な崖。
『地球』で言うところのグランドキャニオンみたいなものを、想像してもらえたら良いかな?
でももっと緑が豊かな感じ。
崖の壁面には、おいらが出てきた洞窟みたいな穴が、いっぱい開いてる。
背の低い木がいっぱい生えていて、色とりどりの果物がたくさんなっている。
崖下は草原が、そよそよと風になびいている。
でもおいらが驚いたのはその風景じゃないんだ。
崖に開いた洞窟、崖下の草原、崖の上に開けた空にも・・・ドラゴンがいっぱい居た。
果物を食む親子のステゴサウルスみたいな『地竜』、草原を駆け抜ける『ラプトル』の群れ、空にはおいらも良く使うプテラノドンみたいな『翼竜』の姿。
空から『翼竜』や、周りの横穴から出てきた『地竜』の子供たちが、おいらに寄ってくる。
おいらは彼らの鼻先を撫でたり、背中をポンポンして抱きついたりしたよ。
みんな嫌がりもしないで、おいらとじゃれてくれるんだ。
ここは天国?
「ほっほ、お竜ちゃんはわしらの事が好きなんじゃのう。皆もそれがわかっているようじゃな。」
「もちろんだよ、じっちゃん!この世にドラゴンより綺麗な生き物居ないでしょう?」
大興奮だよおいら。
あー今のセリフはアニキには秘密だよ?
アニキならきっと、「この世で最も美しい生き物は、美祈だ。」って言うからね。
美祈姉とドラゴンを比べるのもどうかと思うんだけど・・・。
アニキは普段クールだけど、美祈姉の事が絡むとちょっとアレになるんだ。
それからじっちゃんが色々教えてくれた。
ここは『竜の都』と呼ばれる渓谷で、この世界『リ・アルカナ』に住むドラゴン族の、約八割が住んでるんだってさ。
ここに居るドラゴンたちは、みんな穏やかな気性の子ばかりなんだってさ。
外の世界では魔物扱いで平和に暮らせない事も多いらしくて、それを竜族の最長老『古龍』バイアのじっちゃんが見守っているんだって。
じっちゃんと話し合って、毎日『魔導書』を調べたりもした。
VRみたいに盟友が呼べたり、魔法も使えることにはびっくりしたな。
でもVRで使えなかったカードは、やっぱり使えなかった。
寝るときは毎日、ドラゴンモードになったじっちゃんの髪の中で。
その間においらに娘が出来たんだ。
風を操るすごく綺麗な緑色のドラゴン、『嵐竜』の子供なんだ。
人に討伐されかけて手負いだった『嵐竜』のお母さんの代わりに、おいらが暖めたんだよ。
孵化した子ドラゴンを見てじっちゃんがおいらに、「名前を付けてあげなされ。」って言った時はびっくりしたけど。
お母さん『嵐竜』も同意のイメージを送ってくれたから、名付け親になったんだ。
その体色の緑、イタリア語で「ヴェルデ」って名付けたよ。
女の子だし、英語で「グリーン」じゃあんまりだしね?
秋やんが時々かかる発作でイタリア語勉強してたのを、横から見てて良かったーと思った。
おいらはこの『竜の都』で、じっちゃんたちと一週間程平和に生活したよ。
九日目の朝・・・楽園の崩壊は突然やってきた。
■
【お竜ちゃんや!起きておくれ!】
ドラゴンモードのじっちゃんが、頭に直接呼びかけてきて、おいら目が覚めた。
寝ぼけ眼を擦りながら起き上がると、何かおかしい。
何だか良くわからない地震のようなものと・・・匂い?
遠くで喧騒も聞こえるみたい。
急激に意識がはっきりする。
「血の・・・匂い!じっちゃん!?」
おいらが感じたのは血の匂いだった。
【お竜ちゃん、何者かに『竜の都』が襲われておる。わしゃ皆を、助けに行かねばならん。】
慌てた様子で洞窟から出ようとするじっちゃんに、「おいらも行く!」と行って飛び乗る。
洞窟を抜けるとそこには、地獄が広がっていた。
おいらにとって楽園だった『竜の都』は、信じられない惨状だった。
おびただしい数のドラゴンたちが、混乱している。
たった一人の宙に浮かぶ、白いローブ姿の人物が原因だ。
その白いローブの人物は、鳥を模した異様な面を被り、まるで作業でもこなすかのように、逃げ惑うドラゴンたちに魔法を放つ。
ローブの袖を一振りすると、そこから産まれた無数の鉄杭がドラゴンに突き刺さる。
鉄杭が刺さったドラゴンたちが、光の粒子を撒き散らしてカードに変わる。
カードに変えられたドラゴンたちは、鳥面の人物に引き寄せられ回収されてく。
もちろんドラゴンたちだって、黙ってやられてばっかりじゃないよ。
未知の相手に、果敢に挑みかかっていく。
でも、鳥面に向かった20体を越える飛行種は、無数の閂が首に掛かかりあっという間も無くその首がギロチンされる。
下から『吐息』で攻撃したドラゴンたちは、全てその逆属性の攻撃で返される。
奇怪な鳥面の人物の蹂躙劇で、『竜の都』はすぐに壊滅状態になったんだ。
そして鳥面の人物が、ヴェルデとそれを守るお母さん『嵐竜』を見止めた。
ヤバイ!
おいらがそう思った時には、すでに鳥面が鉄杭を放っていたんだ。
ヴェルデを守ったお母さん『嵐竜』が、鉄杭に貫かれてカードに変わる。
更に追い討ちをかけようとした鳥面に、咄嗟に虚空から生み出したおいら愛用の大剣、『龍王の牙』で切りかかった。
おいらたちの事を認識できていなかったのか、浅くだけど肩口を切り裂いた。
でもそこまで。
振り返った鳥面が無数の鉄杭を、体勢を崩したおいらに向かって放ったのがわかった。
その直後、ふわりと柔らかい毛に包まれる感覚があって、おいらは気絶した。
■
じっちゃんはおいらを庇って、助からないような傷を負っていた。
それでも最後の力で最大級の『吐息』を放ち、鳥面の白ローブを撃退したらしい。
今この『竜の都』で生きているのは、おいらとじっちゃん、そしてヴェルデだけ・・・。
どんどんその白い長毛を、血で赤く染めていくじっちゃん。
おいらはドラゴンを全回復する魔法カード、『龍王の秘法』を引こうと何度も『魔導書』を引き直す。
どうやっても引けない!
アニキならきっと引けるのに!
ヴェルデが心配そうにおいらを見上げ、じっちゃんが優しく首を振る。
その時、おいらの引き直しで残り一枚になった『魔導書』のカードが、光り輝いた。
そのカードは『古龍』バイア。
VRで反応しなかったけど、おいらの『切り札』だったこのカードを抜く気になれなくて、そのまま『魔導書』に入れっぱなしになっていた一枚。
じっちゃんが光の粒子になって、そのカードに吸い込まれていった。
おいらの頭にじっちゃんの優しい声が響いたんだ。
【可愛いお竜ちゃんや、悲しまないでおくれ。わしゃお前さんと過ごした一週間、ほんに楽しかった。これからもわしゃ、お竜ちゃんと一緒じゃよ。二人でヴェルデのお母さんを、助けに行かんかね?】
おいらは何となくだけど、何が起こったか理解できた。
じっちゃんはおいらの『古龍』バイアのカードに宿ったんだ。
心配そうにおいらの足に擦り寄るヴェルデを抱き上げる。
おいらはじっちゃんと一緒に、ヴェルデのお母さんを取り返す!
そう胸に誓い、その日はヴェルデを抱きしめて眠ったんだ。
この世界に転移してから、初めてじっちゃんの温もり無しで。
そしておいらは夢を見た。
夢の中で美祈姉が、おいらにはっきり言ったんだ。
「竜君!お兄ちゃんを助けて!」
おいらは飛び起きて、『魔導書』を展開した。
金箱を握り締め、三枚のカードを選択する。
二枚の灰色のカードが、羽と炎の紋章三つずつに変わる。
おいらは宙に浮かぶじっちゃんのカードを見ながら、召喚の理を唱える。
『全ての竜の長たる者、始まりと終わり見守る者、我と共に!』
箱から産まれた金色の光が収まって、ドラゴンモードのじっちゃんが現れる。
「じっちゃん!アニキがピンチなんだ!」
【なんと!お竜ちゃんの兄者が?】
おいらはヴェルデを頭に乗せて、じっちゃんの頭に飛び乗る。
「じっちゃん!飛んでくれ!」
おいらが指差すのは、夢の中で見た美祈姉が指差していた方向。
【心得た!】と、頼もしい返答でじっちゃんは、洞窟から空に飛び出した。
そしておいらたちは、ドラゴンの楽園だった渓谷『竜の都』を後にしたんだ。
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※次回はセイ視点です。