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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第一章 精霊王国フローリア編
41/266

・第三十九話 『絶望(ディスペアー)』

めりくりでーす!

特にイベントもありませんがorz

いつも読んで頂きありがとうございます。


 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、誤解しないでほしい。

 兄貴が目覚めた時には、事件は起きていた訳で・・・。

 以前にも言ったが、たぶん体内の妹成分的な・・・。

 ミキミンCとか、ミキシウムとか、その辺が足りてないんだと思う。

 兄貴は無実だ。

 おれが妹以外に欲情するなんて、ありえないと思うんだ。(マテ

 だいじなことなので二回言っておく。

 おれは無実だー!



 ■



 すごく眠い。

 そして体が重い。

 だけどなんだか、良い匂いがする。

 それに体の上に柔らかい感触が・・・。

 おれは柔らかい何かを、ぎゅっと抱きしめた。

 

 「ちょっ!セ、セイ・・・。」


 何か聞こえたが関係ない。

 おれはまだ眠いんだ。


 「美・・・美祈・・・。」


 おれの呟きに反応するかのように、すーっと息を呑む音が聞こえた。


 「セイの・・・セイのバカーーーーー!」


 すわっ!何事!?

 目覚めたおれの目の前に、見知った顔。

 我が最愛のめがみ、美祈ではない。

 耳まで真っ赤にした、青い目の美少女の顔がおれの鼻先、ちょっと動けばキスしてしまいそうな位置にある。

 思わず目線を右をずらす。

 どこか見覚えのある、趣味の良い部屋だ。

 今度は目線を左にずらしてみる。

 明るい日差しが差し込む窓と、柔らかそうなベッド。


 (うーん・・・夢か。)


 おれは結論付けて「なんだ、夢か。」と、テンプレのセリフを吐き、目を瞑る。


 「ま、ま、ま、待ってーーー!セイ、夢じゃない!起きてー!ちがっ、起きなくて良いから、離してー!」


 (今日の夢は、ずいぶん煩いな・・・。)


 おれはまだ眠いんだ。

 なんだか体の上がもぞもぞして、「あうあう。」って聞こえるが、おれはそのまま意識を失った。



 ■



 どれほど寝たんだろうか?

 とにかく良く寝た気はするので、そろそろ起きようか。

 そんな事を考えながら、それでも体の上下にある柔らかい感触を楽しんでいると、ズダダダダダダ、どこかを豪快に走る音が聞こえる。

 そして「アニキー!」と、元気100%の声がする。

 10年来良く知った幼馴染、弟分の竜兵だ。

 そいつは元気良くバターンと扉を開けると、絶叫した。


 「ア、ア、アニキが浮気してるーーー!!!」


 (なんだとっ!?)


 急激に覚醒するおれの意識。

 おれが浮気!?

 だれと!?


 おれが勢い良くベッドに起き上がると、「きゃっ!」と悲鳴が上がる。

 おれが寝ていたと思われるベッドにはおれと、淡い緑のサイドテール、ミニスカハイソックスが今日も眩しいハーフエルフ。

 ・・・アフィナ?

 おれが・・・浮気・・・?

 この残念ハーフと?

 納得いかないおれは、思わず呟く。


 「・・・夜這い?」


 「ちがっ!セイがボクを、ベッドに引きずり込んだのー!」


 おれに向かって、枕をボフンっと投げつけるアフィナ。

 竜兵は「まさか・・・アニキに限って・・・」とかうろたえている。

 なんだコレ。


 数分後・・・。


 「そうだよね!アニキが美祈姉以外の人に、手を出すわけないもんね!」


 「そうだろう?おれが美祈以外に・・・いや、美祈にも手を出したことは無いぞ?」


 なんだかわからないが納得する竜兵と、おれを真っ赤な顔で枕を抱いたまま、睨んでいるアフィナ。

 そこで部屋の扉越しに聞き覚えのある、優しい老人の声がかかる。

 

 「何だか賑やかじゃの。お竜ちゃんや、兄者は起きたのかい?」


 「あっ!じっちゃーん。」と言って、扉を開けに行く竜兵。

 扉の向こうには、緑の子ドラゴンを頭に乗せた、中華風衣装の仙人みたいな老人。

 今日も髭が素敵にもこもこだ。

 そしてもう一人。

 『精霊王国フローリア』の元大臣、つまりアフィナの祖父が立っていた。

 


 ■



 「つまりおれは、戦場で倒れた後、丸一日寝てたのか?」


 「そうだよ!メリラ姉さんが、セイを抱えて飛んできた時は心臓が止まるかと思ったんだから!」


 おれはどうやらあの時戦場で倒れ、イアネメリラによって『精霊王国フローリア』の『マルディーノス神殿』まで急送されたらしい。

 そこでアフィナと、大臣職こそ解かれたものの、相談役として宮殿勤めに舞い戻った元大臣、アフィナの祖父ヒンデックに保護されたそうだ。


 「そういえばメリラは?」


 「メリラ姉さんは、ボクたちにセイを託した後、魔力切れって言って箱に戻ったよ。」


 そうか・・・。

 イアネメリラにも苦労をかけたな。

 おれは聞こえるかわからないが、箱に向かって「ありがとな。」と言っておく。

 そんなおれを見ていた白髭の老人、『古龍』バイアの人型モードと思われる存在が声をかけてくる。


 「お竜ちゃんの兄者は、なぜあそこで倒れたか、わかっておるかの?」


 怪訝な表情をしたであろうおれに、一つ頷いたバイアが言葉を繋ぐ。


 「お前さんが左手に宿しておったのは魔王じゃろう?そして使った魔法『絶望ディスペアー』、あの時発生した紅い光は、全てお前さんの生命力に間違いないの?」


 半ば確信を込めて問うバイアに、おれも何となく予想が付き、首肯で答える。


 『絶望ディスペアー』のテキストを思い出す。

 【専属魔法:使用者が『魔王の欠片』を宿していることが条件】

 【自身の生命力をコストにすることで、相手の生命力をそのコスト分失わせる。】


 自分の生命力って言うのが、ゲームと現実だとこんなに影響が違うのかって思いはあるが、かといって『藍のハンズ・オブ・インディゴ』みたいに抜いてしまうのもな・・・。

 何より『魔王の左腕』召喚から、『絶望ディスペアー』はおれの必勝パターンだ。

 おれを興味深げに見つめていたバイアは、その眉を片方だけ上げると無情な一言を告げた。


 「あれはまずいの。魔王と『絶望ディスペアー』、使い続ければ、お前さん死ぬぞい。」


 「「「「なっ!?」」」」


 その場に居た面々が絶句する。

 

 「魔王はまだいいわい。何より、まずいのはの。『絶望ディスペアー』の効果、自分の生命力をコストに変える、そして相手の生命力を失わせる。ダメージを与えるのではなく、失わせる・・・そこじゃ。失った物は帰ってこんのじゃよ。」


 そこで一度言葉を切るバイア。


 「お竜ちゃんの言っていた、カードゲームでならどうかは知らんが、少なくともお前さんが今居る世界は現実じゃ。自分を『生贄』にするような事は、およしんさい。」


 おれは愕然とした。

 ここはカードゲームの世界じゃないと、わかっていた・・・はずだった。

 それなのにおれは、自分が最も忌避する『生贄』を、まさか自分に行っていたとは。

 たしかに何かを『生贄』にするくらいなら、自分が命を賭けた方がいいだろう。

 だが、避けられるなら避けるべきだ。

 これからはできるだけ使わない方がいいか。


 「アニキ・・・。」「セイ・・・。」と、心配気な年少組の二人に、「まぁ、これからは気をつける。」と言っておく。

 

 

 ■



 そしておれたちは、宮殿の客間を後にした。

 おれと竜兵が転移後の情報擦り合わせをしようとしたところで、ヒンデックが「せっかくだから、クリフ様も交えて、話した方が良いのでは?」と言ってくれたからだ。

 忘れてたわ・・・戦後の情報も聞かないと。


 謁見の間に着くと、クリフォードだけしかいなかった。

 いつも思うけど・・・一国の王の防衛が、ずさん過ぎないだろうか?

 今日は『歌姫』セリシアすら居ないんだが・・・。

 疲れた雰囲気で執務机に座っていたクリフォードが、おれの姿を認めると表情を明るくした。


 「セイ!無事目覚めたか!良かった。」


 「クリフォードにも心配をかけたようだな。客間を使わせてもらって助かった。竜兵にも世話を焼いてくれたらしいな?」


 竜兵たちにも個室を与えてくれた事を聞いて謝辞するおれに、大袈裟に手を振り否定するクリフォード。


 「救国の英雄が何を言う。それに竜兵にも、ずいぶんと世話になっているのだ。」

 

 そこからクリフォードは、おれが倒れてからの話をしてくれた。

 それによると竜兵は、あの後ずいぶんがんばったらしい。

 クリフォードとセリシアの張った結界の内容を聞いたバイアが、「お竜ちゃん、アレを試してみんさい。」と言ったのが始まりだそうな。

 竜兵は『龍樹』マヤを召喚した。

 そしてその『特技スキル』『樹海降臨』を使い、荒廃しきっていた『リラ大平原』の『精霊王国フローリア』側、三割もを大森林に変えたそうだ。

 森林であれば当然、クリフォードたちエルフの能力も上がる。

 クリフォードとセリシアの張った結界は、森の力で増幅され中々の強度になったそうだ。

 『森の乙女』カーシャの転移『ゲート』なんかも然りらしい。


 「がんばったな。」と、声をかけたおれに、竜兵はまたしても子犬化しそうだ。

 おれとクリフォードの話が尽きた頃、おれは竜兵の話を聞くことにする。

 彼はこの二週間程を、どう過ごして来たのか?

 VRバーチャルリアリティには存在しなかった、『古龍』バイアや緑色の子ドラゴンのこと。

 彼らが発した「鳥面の人物」と『略奪者プランダー』ツツジ。

 そして、おれを危機一髪で救ったこと。


 「それじゃ、おいらの今まで・・・この世界に転移してからの事を話すよ。」


 そう前置きして、竜兵は語り始めた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


※次回は竜兵視点です。

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