・第三十九話 『絶望(ディスペアー)』
めりくりでーす!
特にイベントもありませんがorz
いつも読んで頂きありがとうございます。
異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、誤解しないでほしい。
兄貴が目覚めた時には、事件は起きていた訳で・・・。
以前にも言ったが、たぶん体内の妹成分的な・・・。
ミキミンCとか、ミキシウムとか、その辺が足りてないんだと思う。
兄貴は無実だ。
おれが妹以外に欲情するなんて、ありえないと思うんだ。(マテ
だいじなことなので二回言っておく。
おれは無実だー!
■
すごく眠い。
そして体が重い。
だけどなんだか、良い匂いがする。
それに体の上に柔らかい感触が・・・。
おれは柔らかい何かを、ぎゅっと抱きしめた。
「ちょっ!セ、セイ・・・。」
何か聞こえたが関係ない。
おれはまだ眠いんだ。
「美・・・美祈・・・。」
おれの呟きに反応するかのように、すーっと息を呑む音が聞こえた。
「セイの・・・セイのバカーーーーー!」
すわっ!何事!?
目覚めたおれの目の前に、見知った顔。
我が最愛の妹、美祈ではない。
耳まで真っ赤にした、青い目の美少女の顔がおれの鼻先、ちょっと動けばキスしてしまいそうな位置にある。
思わず目線を右をずらす。
どこか見覚えのある、趣味の良い部屋だ。
今度は目線を左にずらしてみる。
明るい日差しが差し込む窓と、柔らかそうなベッド。
(うーん・・・夢か。)
おれは結論付けて「なんだ、夢か。」と、テンプレのセリフを吐き、目を瞑る。
「ま、ま、ま、待ってーーー!セイ、夢じゃない!起きてー!ちがっ、起きなくて良いから、離してー!」
(今日の夢は、ずいぶん煩いな・・・。)
おれはまだ眠いんだ。
なんだか体の上がもぞもぞして、「あうあう。」って聞こえるが、おれはそのまま意識を失った。
■
どれほど寝たんだろうか?
とにかく良く寝た気はするので、そろそろ起きようか。
そんな事を考えながら、それでも体の上下にある柔らかい感触を楽しんでいると、ズダダダダダダ、どこかを豪快に走る音が聞こえる。
そして「アニキー!」と、元気100%の声がする。
10年来良く知った幼馴染、弟分の竜兵だ。
そいつは元気良くバターンと扉を開けると、絶叫した。
「ア、ア、アニキが浮気してるーーー!!!」
(なんだとっ!?)
急激に覚醒するおれの意識。
おれが浮気!?
だれと!?
おれが勢い良くベッドに起き上がると、「きゃっ!」と悲鳴が上がる。
おれが寝ていたと思われるベッドにはおれと、淡い緑のサイドテール、ミニスカハイソックスが今日も眩しいハーフエルフ。
・・・アフィナ?
おれが・・・浮気・・・?
この残念ハーフと?
納得いかないおれは、思わず呟く。
「・・・夜這い?」
「ちがっ!セイがボクを、ベッドに引きずり込んだのー!」
おれに向かって、枕をボフンっと投げつけるアフィナ。
竜兵は「まさか・・・アニキに限って・・・」とかうろたえている。
なんだコレ。
数分後・・・。
「そうだよね!アニキが美祈姉以外の人に、手を出すわけないもんね!」
「そうだろう?おれが美祈以外に・・・いや、美祈にも手を出したことは無いぞ?」
なんだかわからないが納得する竜兵と、おれを真っ赤な顔で枕を抱いたまま、睨んでいるアフィナ。
そこで部屋の扉越しに聞き覚えのある、優しい老人の声がかかる。
「何だか賑やかじゃの。お竜ちゃんや、兄者は起きたのかい?」
「あっ!じっちゃーん。」と言って、扉を開けに行く竜兵。
扉の向こうには、緑の子ドラゴンを頭に乗せた、中華風衣装の仙人みたいな老人。
今日も髭が素敵にもこもこだ。
そしてもう一人。
『精霊王国フローリア』の元大臣、つまりアフィナの祖父が立っていた。
■
「つまりおれは、戦場で倒れた後、丸一日寝てたのか?」
「そうだよ!メリラ姉さんが、セイを抱えて飛んできた時は心臓が止まるかと思ったんだから!」
おれはどうやらあの時戦場で倒れ、イアネメリラによって『精霊王国フローリア』の『マルディーノス神殿』まで急送されたらしい。
そこでアフィナと、大臣職こそ解かれたものの、相談役として宮殿勤めに舞い戻った元大臣、アフィナの祖父ヒンデックに保護されたそうだ。
「そういえばメリラは?」
「メリラ姉さんは、ボクたちにセイを託した後、魔力切れって言って箱に戻ったよ。」
そうか・・・。
イアネメリラにも苦労をかけたな。
おれは聞こえるかわからないが、箱に向かって「ありがとな。」と言っておく。
そんなおれを見ていた白髭の老人、『古龍』バイアの人型モードと思われる存在が声をかけてくる。
「お竜ちゃんの兄者は、なぜあそこで倒れたか、わかっておるかの?」
怪訝な表情をしたであろうおれに、一つ頷いたバイアが言葉を繋ぐ。
「お前さんが左手に宿しておったのは魔王じゃろう?そして使った魔法『絶望』、あの時発生した紅い光は、全てお前さんの生命力に間違いないの?」
半ば確信を込めて問うバイアに、おれも何となく予想が付き、首肯で答える。
『絶望』のテキストを思い出す。
【専属魔法:使用者が『魔王の欠片』を宿していることが条件】
【自身の生命力をコストにすることで、相手の生命力をそのコスト分失わせる。】
自分の生命力って言うのが、ゲームと現実だとこんなに影響が違うのかって思いはあるが、かといって『藍の掌』みたいに抜いてしまうのもな・・・。
何より『魔王の左腕』召喚から、『絶望』はおれの必勝パターンだ。
おれを興味深げに見つめていたバイアは、その眉を片方だけ上げると無情な一言を告げた。
「あれはまずいの。魔王と『絶望』、使い続ければ、お前さん死ぬぞい。」
「「「「なっ!?」」」」
その場に居た面々が絶句する。
「魔王はまだいいわい。何より、まずいのはの。『絶望』の効果、自分の生命力をコストに変える、そして相手の生命力を失わせる。ダメージを与えるのではなく、失わせる・・・そこじゃ。失った物は帰ってこんのじゃよ。」
そこで一度言葉を切るバイア。
「お竜ちゃんの言っていた、カードゲームでならどうかは知らんが、少なくともお前さんが今居る世界は現実じゃ。自分を『生贄』にするような事は、およしんさい。」
おれは愕然とした。
ここはカードゲームの世界じゃないと、わかっていた・・・はずだった。
それなのにおれは、自分が最も忌避する『生贄』を、まさか自分に行っていたとは。
たしかに何かを『生贄』にするくらいなら、自分が命を賭けた方がいいだろう。
だが、避けられるなら避けるべきだ。
これからはできるだけ使わない方がいいか。
「アニキ・・・。」「セイ・・・。」と、心配気な年少組の二人に、「まぁ、これからは気をつける。」と言っておく。
■
そしておれたちは、宮殿の客間を後にした。
おれと竜兵が転移後の情報擦り合わせをしようとしたところで、ヒンデックが「せっかくだから、クリフ様も交えて、話した方が良いのでは?」と言ってくれたからだ。
忘れてたわ・・・戦後の情報も聞かないと。
謁見の間に着くと、クリフォードだけしかいなかった。
いつも思うけど・・・一国の王の防衛が、ずさん過ぎないだろうか?
今日は『歌姫』セリシアすら居ないんだが・・・。
疲れた雰囲気で執務机に座っていたクリフォードが、おれの姿を認めると表情を明るくした。
「セイ!無事目覚めたか!良かった。」
「クリフォードにも心配をかけたようだな。客間を使わせてもらって助かった。竜兵にも世話を焼いてくれたらしいな?」
竜兵たちにも個室を与えてくれた事を聞いて謝辞するおれに、大袈裟に手を振り否定するクリフォード。
「救国の英雄が何を言う。それに竜兵にも、ずいぶんと世話になっているのだ。」
そこからクリフォードは、おれが倒れてからの話をしてくれた。
それによると竜兵は、あの後ずいぶんがんばったらしい。
クリフォードとセリシアの張った結界の内容を聞いたバイアが、「お竜ちゃん、アレを試してみんさい。」と言ったのが始まりだそうな。
竜兵は『龍樹』マヤを召喚した。
そしてその『特技』『樹海降臨』を使い、荒廃しきっていた『リラ大平原』の『精霊王国フローリア』側、三割もを大森林に変えたそうだ。
森林であれば当然、クリフォードたちエルフの能力も上がる。
クリフォードとセリシアの張った結界は、森の力で増幅され中々の強度になったそうだ。
『森の乙女』カーシャの転移『ゲート』なんかも然りらしい。
「がんばったな。」と、声をかけたおれに、竜兵はまたしても子犬化しそうだ。
おれとクリフォードの話が尽きた頃、おれは竜兵の話を聞くことにする。
彼はこの二週間程を、どう過ごして来たのか?
VRには存在しなかった、『古龍』バイアや緑色の子ドラゴンのこと。
彼らが発した「鳥面の人物」と『略奪者』ツツジ。
そして、おれを危機一髪で救ったこと。
「それじゃ、おいらの今まで・・・この世界に転移してからの事を話すよ。」
そう前置きして、竜兵は語り始めた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
※次回は竜兵視点です。