・第三十八話 『邂逅』
いつも読んで頂きありがとうございます。
前書き後書きコピペしてませんよーw
いつも心を込めて手打ちですw
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、ごめん。
兄貴はまた倒れました。
どうもおれは自分でも気付かぬ内に、無理をするくせがあるらしい。
それともおれの『魔導書』が、そういう仕様になっているからだろうか?
いや、良い訳は止めよう。
『魔導書』に入れるカードを選んだのも自分だしな・・・。
帝国の襲撃を一回は防いだ訳だが、また問題が浮上した。
とりあえず竜兵と会えて良かった。
そして『災害』起こしてくれてなくて・・・良かった。
■
『黒鉄の機神』デオグランと、『白鉄の機神』バーベリオンだった物は、その体躯に相応しいだけの大量な光の粒子を撒き散らした後、カードに変化した。
しかしその二枚のカードはいつものように空に消えていくのではなく、確かな意志を持つかのように北の方角、つまり『レイベース帝国』があるであろう方角へ飛んでいった。
(これはあのテキストの効果か・・・。)
おれはその現象に当たりをつける。
デオグランとバーベリオンのカードに書いてあったテキストが、『地球』での記憶の中に残っていた。
【能力『守護神』機神は消えない、そこに帝国がある限り。この盟友が破壊された場合、それを魔導書に入れ切り直す。】
『レイベース帝国』が存在する限り、二大『機神』は何度でも蘇るってことか。
つまり帝国を潰すには、またあのデカブツとやりあう必要があるって訳だ。
「アニキー!こっちも終わったよー!」
白毛のドラゴン、『古龍』バイアの頭の上から、おれに向かってブンブンと手を振る竜兵に向かって、おれも片手を挙げる事で返応する。
そこでふと、思い当たる。
(『古龍』バイアは、VRには反映されなかったはずだが・・・)
まぁその辺は後で、竜兵と話せばわかるだろう。
とりあえず、彼が生きているこの世界の住人ならば、礼の一つも言うのが筋だ。
「『古龍』バイア!助力を感謝する!」
おれの謝辞に対し、【なぁに、可愛いお竜ちゃんの兄者を助ける事ができて、わしゃ満足じゃ。】と、頭の中に優しい老人の声が響き渡った。
そして竜兵が、頭に緑色の小さなドラゴンを乗せ、颯爽と地面に降り立つと、バイアがボウンとでも音のしそうな煙に包まれ、そこに一人の老人が現れた。
竜兵とほぼ変わらぬ小さな体に、腰辺りまであるたっぷりとした長い白髭が、先ほどの白いもこもこ姿を髣髴とさせる。
まるで『地球』でいう中国の、昔の服のような緑色のすその長い服を着た老人は、竜兵と共におれたちの方へ歩み寄ってきた。
色々と気にはなる。
だがそれよりも、今は事態の収拾だな。
おれは、クリフォードの張る結界の中へと投げ込んでいた、『大将軍』ガイウスを再び足首を掴んで引き摺って来る。
(さて、仕上げといきますか。)
おれは、彼にとっては信じられない、いや、ありえないであろう光景を目にして、顔面蒼白のまま茫然自失とした様相の、『魔導元帥』キルアに向けて、ゆっくりと近付いていく。
「なんだこれは・・・なんなんだ・・・。」
座り込みブツブツと何事か呟くキルアを守るように、帝国兵が身構える。
キルアと違って、まだ心が折れていないのか?
と、言うよりは、キルアだけでも守ろうって感じか。
おれはキルアを守ろうとした帝国兵を、アリアンに命じて排除する。
その時、ひどく場違いな明るい声が戦場に響いた。
■
「いやー、キルア殿を潰されると、少々困るんですヨー。」
キルアの少し後ろに、見覚えの無い白ローブの人物。
声からしておそらく男だと思うが、その顔は奇怪な猿面に隠されていて見えない。
ハッとして身構えたおれたちをあざ笑うかのように、キルアの足元で拳大の氷が砕ける。
(これはロカさんの言っていた・・・しまった!)
「アリアン!」
おれの叫びに反応して、キルアにその金属製の拳を振り下ろそうとしたアリアンの目の前で、帝国の『魔導元帥』キルア・アイスリバーは、その姿を消した。
「・・・お前が、ツツジか?」
やられたっ!と思いながらも、努めて平静を装い心当たりを付ける。
その人物はやけにおどけた仕草で、驚いた!と言うジェスチャーをする。
所謂アレだ、某テーマパークの人型ネズミのマスコットがやるやつだ。
その人を食った態度にいやおう無く、周囲の仲間たちから警戒の空気が広がる。
特に竜兵とバイア、緑色の子ドラゴンの様子がおかしい。
まるで仇敵を見つけたとでも言うような、鋭い目つきで睨みつけている。
「いやー、まさか名前を知られているとは、思いませんでしたヨー。それにデオグランやバーベリオンを倒した手腕。さすがは『悪魔』と言った所でしょうかネー?」
「ガイウスが、お前の名前を口走ったからな・・・。」
ツツジに答えた後、ふと違和感を覚える。
(おかしい・・・おれはガイウスにしか『悪魔』と名乗っていない。それにあそこは『一騎打ち』の隔離空間だった・・・)
言い知れぬ気持ち悪さを感じたおれたちに向けて、ツツジは「ああ、なるほど。」と、ポンと握った拳を掌に乗せる。
いちいち行動が、芝居じみているこの男は一体何者なのか。
「ツツジとか言ったかの?おんしの連れに、鳥面の輩はおるか?」
おれに先んじて言葉を発したのは、老人の姿になった『古龍』バイア。
この姿なら直接会話ができるらしい。
「んっんー?鳥面・・・ああ、居ますネー。」
なんてことは無い。そんな雰囲気で答えたツツジの言葉に対し、竜兵、バイア、子ドラゴンの殺気が膨れ上がった。
「おやおや?これは怖いですネー。」
そう言って、くるりと回るツツジ。
「じゃ、やることやってさっさと逃げましょう。」
一度回って、こちらを振り向いたツツジの袖から、無数の羽虫が飛び出してきた。
「長っ!」
咄嗟に飛び出したアリアンが、おれとイアネメリラを庇う。
竜兵の方は、バイアが張った魔力壁に守られているようだ。
自身の生命など省みない羽虫たちの突進で、アリアンが少なくない傷を負っていく。
(くそっ!どうする!?)
突然の凶行に、反応が遅れた。
対策を考える間に、ツツジの声が響く。
「今回はね、これで勘弁してあげますヨー。目的も果たせましたし、せっかくのヘルモードを、もっと楽しみたいですからネー。」
その言葉と共に羽虫の猛攻が止む。
しかし、犠牲者が出ていた。
おれたちではない。
帝国の『大将軍』ガイウスが、地面から現れたまるでムカデのような細長い虫に、鎧ごと胸を貫かれていた。
光の粒子を放ちながらガイウスがカードに変わり、いつのまにかおれたちからかなり距離を取っていたツツジの元へ飛んでいく。
ツツジはそのカードを掴み、懐へと入れた。
(・・・この現象はっ!)
「お前が『略奪者』か!」
叫んだおれに対し、小首を傾げたツツジが呟く。
「・・・プランダー?・・・略奪者・・・。」
そして突然、得心がいったとばかりに大袈裟に頷き、大声を出す。
「ああ、なるほど!あなた方はおれを、そう呼んでいるんですね。これは良い・・・。その名称採用です!さすがは『悪魔』、ネーミングセンスも抜群ですネー!」
そうか、『略奪者』は、『カードの女神』が付けた名前だった。
奴が知らないのも無理は無い。
おれたちが会話している間に、大剣を構えた竜兵とバイアが一気にツツジへと距離を詰める。
「今日はここまでですネー。さようならー。」
そう言ってツツジは、拳大の氷塊を地面に叩き付ける。
竜兵が横薙ぎにした大剣は虚しく空を切り、そこには白ローブに猿面の男、ツツジの姿はもう無かった。
とても悔しそうな竜兵と、「ぬぅ。」と唸る、老人姿のバイア。
バイアが言っていた鳥面の人物と、何か浅からぬ因縁があるんだろうか?
とりあえず傷ついたアリアンを、箱へと回収する。
「長・・・オデ、また頑張る。呼んで、くれ。」
苦しげに呟く肩に手を触れ、「ああ、必ず呼ぶからまずは傷を癒せ。」と、言って帰らせた。
竜兵と情報の擦り合わせをしないと・・・と思い、振り向く。
そこでおれの左手の手甲から、突然声がかけられる。
【友よ・・・時間切れだ・・・また会おう。】
手甲がかき消えると同時に、おれの体に信じられないような虚脱感と倦怠感が襲い掛かる。
がっくりと膝をついたおれに駆け寄り、イアネメリラと竜兵がおれを呼ぶ声がどこか遠くへ消えていく。
ドサッ、自身が地面に倒れたのが何となくわかった。
そしておれの意識は、暗闇に吸い込まれた。
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