・第三話 『サプライズ』
学生服姿のセイが、PUPAの扉を開けて機体の外へ出ると、そこには一足先に外に出ていた学生服姿の竜兵が、orzになって待っていた。
「勝てない・・・アニキにはどうやっても勝てない・・・」
すっかり落ち込んでしまった竜兵の肩に手を置きながら、慰めるセイ。
「今回は惜しかったよ、『重力の鎖』の後、もう一体盟友喚ばれてたら、結果はわからなかったかな。」
「そこそこは、いいとこ行ってたんだね・・・」
「だから言ったろ?脇が甘いって、オレの魔導書より竜兵の方が多かったんだから、落ち着いて攻めるべきだったんだよ。」
その言葉に、ウンウンと頷きながらやっと立ち上がる竜兵。
少しはモチベーションも持ち直したらしい。
二人が居るのは、この町最大のゲームセンター『サプライズ』の、『リ・アルカナ』専用バトルスペースである。
合計四台のPUPAと、大型のモニターを備えた半円状の舞台。
モニターの前には、50人程の少年少女が固まって話していた。
「あの『力』をあっさり・・・」「やっぱり『悪魔』・・・」「引きがおかしいんだって・・・」「マヤ放置とか正気と思えん・・・」等々、どうも先ほどの戦いを口々に批評しているようである。
ざわつきながら、好き勝手批評する彼らの姿に憮然とするセイと竜兵。
その時集団が、モーゼの十戒さながら真っ二つに割れると、中央をセイと同年代に見える一人の美少女が、二人の方へ歩み寄る。
彼女は二人の前に仁王立ちすると、黒髪のツインテールを揺らしながら、そのささやかな胸を大きく反らし腕組みをして口を開く。
「相変わらずえげつないわね!なによあの引き!本当に鬼ね・・・いえ、悪魔ね!デビルドローよ!竜も情けないわね・・・本気じゃないセイにも負けるとか、アンタ付くもん付いてんの?」
まるでアイドルのような外見にも関わらず、吐き捨てるように告げられたセリフと、少々スレンダー(・・・)に過ぎるプロポーションが、なんとも残念な雰囲気をかもしだしていた。
まぁ、一部の大きなお友達には「ご褒美です!」と言えるのだろうが、残念ながらセイにも竜兵にもそんな趣味は無い。
(デビルドローって・・・おれは地獄耳でも、熱光線を出せるわけでもないんだが・・・)
そんなことを思いながら盛大に苦笑するセイと、せっかく持ち直した所に辛辣なセリフで、またも落ち込んでしまった竜兵。
そこにもう一人少年が近づいてくる。
セイや竜兵と同じ制服をきっちりと着込み、黒ぶち眼鏡をかけた、いかにも学級委員長です。と言った感じの長身の少年。
もちろん制服のえりは立っている。
その少年は、落ち着いた声音で、
「まぁまぁウララ、たしかにセイは本気じゃないけど、PUPAに反応しないカードが多いんだから仕方ないじゃないか、まぁリザイアとイアネメリラが出た時点で詰んでたけどね。セイも竜もお疲れ様。少し休憩しようか?」
そう言って、またもorzになっていた竜兵を起こし、三人を取り成した。
■
北野竜兵セイの二つ年下で、『リ・アルカナ』中等部の日本チャンピオン。
竜召喚を好み、本人も大剣で戦う豪快な姿から、称号は『力』
橋本麗セイと同級生の残念美少女、称号は『正義』
川浜秋広セイとウララの一つ年上で、同じ高校に通っている眼鏡少年、称号は『運命の輪』
この三人とセイが、このエリアに居る『リ・アルカナ』のトップランカーで、また十年来の幼馴染だった。
秋広が予約していた、休憩用のテーブルスペースに移動する四人。
そこには一人の少女が待っていた。
「お兄ちゃん、竜君、おつかれさま。みんなお茶飲むよね?」
セイに向けてお兄ちゃん、と呼びかけた栗色のショートカットの少女は、四人ににっこりと微笑んだ。
ウララと比べると、特別美少女という訳ではないが、ウララには申し訳ないがその柔和な笑顔と、段違いのスタイルの良さは、クラスでかわいい女子にはランクインしなくても、付き合いたい女子トップ3には入るであろう。
セイの一つ年下の妹、九条美祈である。
自前であろう水筒から、冷たいお茶を人数分紙コップへ注いでいる彼女へ、
「美祈は優しいな。」
そんな声をかけながら、その栗色の髪をポンポンと優しく撫でるセイ。
そして、コップと彼女の手を取り、当然のごとく二人掛けソファーの隣へ座らせる。
それを見たウララは、眦をキリキリと吊り上げて声を荒げる。
「兄妹でイチャイチャ禁止ー!」
「そんなウララちゃん・・・イチャイチャだなんて・・・」
まったく素知らぬふりのセイに対して、真っ赤になってソワソワする美祈。
「女子力・・・ぐぼぉ!!」
竜兵の不用意な発言に、ウララの肘鉄がわき腹へと突き刺さる。
「セイ!次はあたしとバトルしなさいよね!ボッコボコにしてやるわ!」
「まぁ落ち着け。今休憩始めたとこだろう?ウララ、人様を指差さない。」
セイに人差し指を突きつけて叫ぶウララを宥めて椅子へ座らせ、床で悶絶する竜兵も助けて椅子に座らせる。
そこでやっと自分も椅子へ腰掛け、「みきちゃんありがとう。」そう言いながらお茶を飲む秋広。
なんとも苦労性のようである。
未だウーウー唸っているウララに向けてセイは言う。
「今日はだめ、竜兵と三戦するって約束だから。」
にべもなくフラれたウララが、少し涙目である。
「じゃあウララは僕とバトルしようよ。」
(これは面倒くさいことになる・・・)そう思った秋広が慌ててフォローするが、
「あっきーとはいやよ!バトルスタイルがいやらしい!」
こちらもあっさりフラれてしまう。
堪らないのは竜兵である。
特になにかは言わないが、視線で殺してくるウララを感じて、背中に冷や汗を流しながらビクビクしている。
セイは美祈の髪を撫でながら、どこ吹く風である。
「なんで竜兵と美祈の言うことは聞くのに、あたしの誘いは断るのよ!」
「そんなの簡単なことだろう?美祈は最愛の妹で、竜兵はなんか、犬みたいで可愛い。」
激怒するウララ、照れまくる美祈、犬と言われ、思わず耳と尻尾が幻視できるような表情でセイにじゃれる竜兵、美祈と竜兵をかまうのに忙しいセイ。
中々にカオスな空間が出来上がっていた。
カオスだが幸せな、いつもの空間に水が挿されたのはその時であった。