・第三十七話 『力(ストレングス)』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、きっと君は心配してるだろうな。
兄貴も今回は、さすがにやばいと思った。
いくらチートって言っても、ドでかいビーム食らったらさすがにな・・・。
いや、実際には食らってないんだけど。
この異世界の科学水準がわからない。
魔法もあればビームもある世界。
雰囲気的には、魔法を収束させて撃ってる様な感じだったから、ある意味これもありなのか?
とりあえず気持ちの良い物ではないから、できるだけ食らわないようにするよ。
今日はこの世界に転移してから、少しだけ良い事があったんだ。
■
咄嗟に身構えたが、さすがにアレはヤバイという予感があった。
イアネメリラもきっと魔力壁を張っただろう。
いや、それは希望的観測だな。
あの時はイアネメリラも焦っていた。
ロカさんやイアネメリラがやってるので見たことはあるけど、おれにはまだ即席魔力壁ってのが使えそうに無い。
攻撃に魔力を流すのは簡単にできたのにな。
たぶん適正みたいな?
向き不向きってのもあるかもしれない。
どう転んでもおれには、防御系の能力があるようには思えない。
え?ダンプカー並みの突進食らって、ほぼ無傷なのは十分チート?
聞こえません。
だからなんとなく左手の手甲『魔王の左腕』を前に、身構えただけだ。
しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。
いつのまにか瞑っていた目を、ゆっくりと開く。
(・・・もこもこ・・・?)
おれの目の前には、真っ白な長い毛玉があった。
よくわからないままに、毛の流れを目で追っていく。
魔力のビーム砲で攻撃してきたはずの『黒鉄の機神』デオグランと、おれを挟んだ真ん中にそのもこもこがある。
どうもおれの目の前にある毛玉は、尻尾のようだ。
(・・・デカいな。)
その毛玉はケンタウロス型の機神、『白鉄の機神』バーベリオンくらい、つまり全高12m程のサイズがあった。
もこもこの前面部、デオグラン側に光の玉が浮いている。
魔力の雰囲気から、彼の機神が直前に放った魔力のビームのように見えた。
白いふわふわの体毛をさわりと震わせると、その光の玉が拡散し空中へ消えていく。
ただただ静寂に包まれる戦場の中で、動いているのはその毛玉の巨体だけ。
『魔導元帥』キルアを含む帝国兵や二体の機神はもとより、イアネメリラ、アリアンもおれの元へ駆けつけようとしていた姿のまま、固まっている。
凍りついた空気の中、たかが10日かそこらぶりなのに、やけに懐かしい声が戦場に響き渡った。
「アニキのピンチにおいらが参上!この喧嘩、おいらも買ったぁ!」
■
白いもこもこの毛玉・・・いや、もう面倒くさい。
賢明な人ならすでに察しはついただろう。
白い長毛を持ったドラゴンの頭頂部に、見慣れた姿。
派手な柄のTシャツとハーフパンツに身を包み、野球帽から明るい色の茶髪をツンツンはみ出させた、おれの幼馴染である二つ年下の少年。
野球帽の頭の上に、見覚えの無い綺麗な緑色の小さなドラゴンを乗せていること以外は、あの転移の日と寸分変わらぬ姿で、北野竜兵、『力』の竜兵はおれに向いて、サムズアップで立っていた。
自分のセリフに照れたのか、人差し指で鼻の下をこする姿に思わず、「どこのガキ大将だ。」とつっこみそうになるが、おれも苦笑しつつサムズアップを返す。
「アニキ!なんとか間に合ったね!」
虚空から己が得物、ナタの様な長大の大剣を取り出し、肩へ担ぐ竜兵。
「竜兵こそ無事で良かった。」
おれが彼の無事を喜ぶ言葉をかけると、まるで子犬のように嬉しそうな表情を浮かべる。
今おれには竜兵の頭とお尻に犬耳、犬尻尾が見えているがあながち幻覚でも無いかも知れない。
イアネメリラも彼の側まで飛んで行き、「りゅうへ~、えらーい。」と手を振っている。
竜兵の助っ人は素直に嬉しいが、今はそれどころではない。
おれは、つと表情を改め、「積もる話は後にしよう。」と言う。
「アニキ、デオグランとバーベリオン・・・それにキルアかな?」
振り返り状況を聞く彼の声は、すでに先ほどの子犬の物ではなく、完全に一人の魔導師のそれだった。
「いいか、竜兵。あいつらは『最終兵器』だ。」
おれの言葉に、正確に意味を捉えた竜兵は、「じゃ、どうとでもなるね。」と実にあっさり答えた。
竜兵のセリフには理由があった。
本来莫大な維持コストを必要とする『レイベース帝国』の二大『機神』、『黒鉄の機神』デオグランと『白鉄の機神』バーベリオンは、基本的に拠点防衛にしか使われない。
正確には、そのコストパフォーマンスの悪さゆえ、拠点防衛にしか使えないのだ。
それを無理矢理戦場へと引っ張り出す、『最終兵器』の魔法カード。
協力無比な力に思えるが、当然それにはデメリットが生じる。
魔法の使用にかかる魔力は莫大。
キルアが蒼白になって膝を突いたのは、このためだろう。
そして呼び出された盟友も、攻撃力こそそのままだが、耐久力が本来のそれから比べて三分の一まで減少する。
つまり撃ちっ放しで返ってこない、ミサイルみたいなもんだ。
異世界ではカードゲームの知識がどこまで正確かわからないが、今のところ十中八九同じ効果に思えた。
もちろん例外はあるだろうが・・・。
一人だったら正直八方塞りだったが、竜兵が一緒に戦ってくれるならどうとでもなる。
竜兵のセリフは、ここまでの内容を正確に捉えたものだった。
歳こそおれの二つ下だが、この世界でもちゃんと魔導師をしていた竜兵にホッとする。
竜兵が小さな緑色のドラゴンと、白い体毛のドラゴンに声をかけている。
「ヴェルデ、じっちゃんの髪に隠れてて。じっちゃんいけるかい?」
すると、おれの頭に優しげな口調の老人の声が響いた。
【お竜ちゃんや、わしゃいつでもいけるぞい。】
(これは・・・?もこもこドラゴンの声か?)
おれが一瞬あっけに取られたのも束の間、竜兵が作戦を提案する。
「アニキ、おいらとじっちゃんでバーベリオンをやるよ!アニキはデオグランを!」
おれが手を挙げて肯定した事で、凍っていた戦場の空気が動き出す。
■
「次から次へと・・・ええい、忌々しい!デオグラン、バーベリオン、そこの畜生もついでに潰せ!」
憎々しげに吐き捨てたキルアを横目に、おれは『魔導書』を展開する。
頭の中に、無機質な女性の声でアナウンスが流れる。
【魔王の欠片を確認・限定条件を解除】
(こんなとこだけゲームのままかよ!)
悪態をつきたい気持ちをグッと堪え、一枚しかない手札を確認する。
おーけー、勝利へのルートは見えた。
おれはイアネメリラ、アリアンを伴って走り出す。
目指すは『黒鉄の機神』デオグラン。
デオグランはおれたちの姿を見止めると、腰だめに右手の砲身を構える。
二度目の砲撃はさせない。
イアネメリラが『忘却』を発動する。
対象はデオグランの『砲撃』。
デオグランは英雄級、完璧に止めることはできない。
しかし、数秒魔力の充填が遅れる。
それで十分、アリアンがデオグランの脚に組み付き、力任せに引き倒す。
おれは、自身の手が届く位置まで下がったデオグランの右手、砲身に左手の『魔王の左腕』を叩き付ける。
ガキャァァァァン!!
巨大な金属音を響かせて、奴の砲身が確かにひしゃげる。
おれたちは一気に距離を取る。
溜めきった魔力が出口を失って、砲身内部で爆発を起こす。
かなりのダメージは負っているが、それでもさすがは『機神』。
多少よろめきながらも、煙の中から抜け出してくる人狼型機神。
右手の砲身は無残にも、中ほどからぽっきり折れている。
きょろきょろと妙に人間臭い仕草で、おれたちの姿を探すデオグランが、アリアンとイアネメリラをみつける。
彼、彼女は一度距離を取ってから動いていない。
なぜなら、デオグランはもう詰んでいるからだ。
おれはデオグランの脚を、『魔王の左腕』でガッチリ固定し、詠唱を始めた。
『我が友たる魔の王へ願う。我が全ての生命もて、彼の者に破滅をもたらさん。』
おれの全身から、紅く輝く球体がいくつも浮かび上がり消えていく。
【覚悟と対価は受け取った・・・我が魔力の使用を許可しよう・・・】
左手の手甲から静かに声が響き渡り、おれはその魔法を解き放つ。
『絶望』
おれが優しく告げた魔法名と共に、辺り一面から浮かび上がる紅い光球が、デオグランを埋め尽くす。
デオグランの体が弾け飛び、光の粒子に変わったのを確認して、おれはがっくりと膝をつく。
VRの時には感じなかった、急速な倦怠感。
(くっ・・・これが生命力を捧げるって事か・・・)
「ますたぁ!」「長っ!」と、口々におれを呼びながら駆け寄ってくる、イアネメリラとアリアンを「大丈夫だ。」と手で制す。
どうやら竜兵の方も、勝利はすぐそこだ。
竜兵の 『重力の鎖』の効果により、三本の鎖を胴体に巻き付かせたバーベリオンが、がっくりとその馬脚を折って地面に貼り付けられている。
その両手にすでに武器は無い。
と言うよりも・・・すでに腕が無い。
バーベリオンの両腕は、肩口からぶった切られて、地面に転がっていた。
(あいつも大概えげつないな・・・。)
そして竜兵を頭に乗せたドラゴンが、その手をゆっくりと振りかぶり・・・。
バーベリオンの頭を、グシャリと叩き潰した。
(ああ・・・あのドラゴン『古龍』バイアか。強いはずだわ。)
どこか見覚えのあるその姿に、記憶を辿ってようやくみつけた答え。
ドラゴン族の最長老。
二万年生きたと言われるドラゴンの中のドラゴン。
相手が機械みたいなもんだとは言え、両腕をぶった切り、頭を叩き潰すその陰惨な光景に、おれはちょっとだけ現実逃避したのかもしれなかった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
※やっとセイ以外の転移者が出せましたー。