表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第一章 精霊王国フローリア編
36/266

・第三十四話 『絶滅』

いつも読んで頂きありがとうございます!

ブクマ励みになります。



 一方その頃。

 リラ大平原の帝国軍仮説拠点は、静寂に包まれた。

 それはとても不可思議な、そして納得のいかない光景だった。

 帝国が誇る『魔導兵器』2000体、そして『精霊王国フローリア』で捕らえた原住民を、人質兼動力として利用していた新型『魔導兵器・封』200体、合計2200体もの金属兵たちが黒い波動を受けた後、まるで最初から存在を許されぬ物だと言わんばかり、頭頂部から砂の塊になっていく。

 完全に砂の塊と化した、『魔導兵器』だったもの・・・全てが、カードに変わり黒い風に流されて消えていった。

 残されたのは、新型『魔導兵器・封』に内包されていた、原住民200人だけ。

 その人々を覆うように、薄緑色に輝く結界が展開された。


 「ふざけるなっ!なんだこれは・・・!」


 普段の冷静さの欠片も感じさせない怒声を上げたのは、『魔導元帥』キルア・アイスリバー。

 呆然とする帝国軍仕官たちの中で、この異様に最も早く立ち直れたのは、さすがと言えるだろう。

 しかしそれは虚勢に過ぎず、問題の解決には至らない。

 仮説拠点に設置された天幕の中、テーブルの上の戦略地図を乱暴にぐしゃぐしゃと握り潰し、地面へと叩きつける。

 そこへ飄々とした声がかけられる。

 どこか他人事のような、人を食った声音で。


 「いやー、派手にやられちゃいましたネー。」


 人の神経を逆撫でするような物言いに、目に見えてキルアの額に青筋が浮かんだ。


 「・・・ツツジ殿、何用かな?」


 キルアの冷たい声に、奇怪な猿面に白ローブを目深に被ったその男は、ひょいっと肩を竦めて見せ、「少々気になることがありましてネー。」と答える。

 ツツジの肩書きはあくまで『特設内政顧問』、戦場とはまったく畑違いである。

 神出鬼没なこの男の腰の軽さは知っているが、かと言ってキルアに納得できるわけも無い。

 そこで天幕の中へ、全身鎧に身を包んだ巨漢の男が駆け込んでくる。


 「元帥!これはどういうことだっ!?・・・ツツジ殿、貴殿がなぜここに?」


 キルアの統括する『魔導兵器』の後方で、後詰めとして歩兵部隊を率い待機していた、『大将軍』ガイウス・O・マケドナルだ。

 ガイウスもツツジの存在に違和感は覚えるが、どうせ物見遊山にでも現れたのだろう。と、無視することにしたようだ。

 苦虫を噛み潰した表情で、「わからん。」と答えるキルア。

 二人をじっと見詰めていたツツジが、ボソリと呟く。


 「これはね・・・『絶滅』ですヨー。」


 同時にツツジを睨み付けた二人の帝国幹部が、驚愕と共に顔色を失う。

 先に意識を取り戻したのはキルアだ。


 「バカなっ!『絶滅』だと!?」


 その声でハッとしたガイウスも、「そうだ、ありえん!」と後押しする。


 「『絶滅』は、『暗黒都市グランバード』の国家元首、『憂いの司教』ジェスキスの使った神代級禁呪で、専属魔法だ。余りの凶悪さゆえ、『第一次エウル大戦』の引き金になったと言われる魔法。ジェスキスは、20年前の大戦で死亡が確認されている。」


 理由を並べるキルアだが、ツツジは肩を竦めるだけだ。

 猿面のせいで顔は見えないが、なんとなくバカにされているような雰囲気は、二人にも感じられた。

 それでもキルアは、辛抱強い男である。

 非常に遺憾だが、この男が何らかの情報を持っているのだろうと、殴りつけたい衝動をグッと堪える。 

 そうでなければ、若干28歳という若さで、帝国の『魔導元帥』などという称号は得られない。


 「ツツジ殿・・・何か言いたいのなら、はっきり言ってくれないか?」


 ツツジは小さく嘆息した後に、


 「だから~、ジェスキスが居るんでしょ?」


 と、吐き捨てるように告げた。


 「「なんだと・・・」」


 再度驚く二人を見つめツツジは、今度こそ隠す気を失ったかのように、「くふふ」と笑った。



 ■



 「・・・説明してもらえるかな?」


 「居ますよ、ジェスキス。いや・・・正確には、居た。ですかネー?」


 そんな事を言いながら、ツツジは中空を一撫でする。

 ツツジの前に、80cm程の光る四角い板が現れる。

 慣れた様子で、ポンポンと四角い板を叩くツツジ。

 するとそこには、一つの映像が映し出された。


 「これは・・・ツツジ殿の『遠見』か?」


 キルアが訪ねるが、当のツツジは、「ま、そんなようなもんです。」と適当に返し取り合わない。


 「それより、内容が驚きですヨー?」


 ツツジが顎で促したことで、映像に注目するキルアとガイウス。

 映像には三人の男女が映っていた。

 『精霊王国フローリア』の術師が張ったと思われる、緑色に輝く結界のすぐ外。

 一際目立つのは一番前に立つ漆黒の法衣をはためかせ、まっすぐに帝国陣営を睨みつけている、まだ歳若い青年。

 いや、むしろ少年と言った方が正しいくらいの年齢に思われる。

 その左手に控えるように、禍々しい短剣を隻腕で構えた青髪の男。

 そして・・・少年の右手後方に大きな黒い翼を広げ悠然と浮かんでいる、薄桃色の長い髪と褐色の肌を持つ絶世の美女。

 青髪の男が短剣を地面へ突き刺すと・・・。

 先ほど見た、昏い波動が戦場に駆け巡る。


 「ジェスキス・・・それに、まさか・・・イアネメリラだとっ!?」


 ガイウスには真ん中の少年以外、確かに見覚えがあった。

 20年前の大戦時どちらとも、戦場で合い間見えたことがあったのだ。

 真ん中に居た少年もどことなくだが・・・。

 いや、そんなはずはない。

 『蒼槍の聖騎士ガラント・オブ・フィナーレ』ウィッシュとは年齢も違うようだし、何より彼の代名詞と言える蒼い鎧と大槍も持っていない様だ。

 ガイウスは別人であると判断した。


 ガイウスの発言に、背筋に氷でもつき込まれたような感覚を覚えるキルア。

 確かに・・・確かにだ。

 プレズントが実際に居るならば、他の面々とて居てもおかしくはない。

 そう思わせるほどに、かのギルド『伝説の旅人』は有名だった。

 これが夢なら覚めてくれ・・・思わずにはいられない。

 『永炎術師クリムゾン・オブ・エターナル』プレズント対策にと、『氷の賢者』プリエイルから譲り受けた耐火結界、それと共に用意した新型『魔導兵器・封』の人質200人など、何の意味も無かった。

 いや、正確には効果があったのだが・・・そのせいで逆に、最悪のシナリオを引き当てたなど、彼が知る由も無いことだ。

 

 (どうすればいい?どうすれば・・・)


 消息不明だった20年前の亡霊とも言うべき、二人の英雄の姿に、思考の堂々巡りへ落ち込むキルア。

 彼の思考を切り裂くようにツツジが呟く。


 「ああ、これはまずいですネー。本当にえげつない・・・。」


 ツツジの呟きにキルアが再度、彼が作り出した板へと注意を向けると、そこにジェスキスの姿は無く、代わりに身の丈3m程の両手に斧を持った赤鬼。

 オーガの一種だと思われるその赤鬼は、両手両足、それに両目を銀色の金属板のようなもので覆っていた。


 「バカな・・・。」


 今日ほどキルアは、自分の目を疑った事は無いだろう。

 その赤鬼の名は、『反乱者』アリアン。

 元『砂漠の瞳』の住人で、『レイベース帝国』が彼の住んでいた町を占領した際、家族を人質に帝国の捕虜とした。

 元は称号も持たぬ一般民、しかしその身体の頑強さに目をつけた帝国の兵器開発部が、度重なる人体実験を加え、その両手両足と両目を奪い戦闘奴隷に仕立て上げた。

 しかし、彼との唯一の約束。

 「自身が犠牲となることで家族には手出ししない」、そんなものを守る帝国兵など居るはずも無く、彼の家族はとっくに人体実験で皆殺しにされていた。

 彼がそれに気付いたのが八年前。

 彼は暴れ狂い、実に帝国兵784名を道連れに、立ったまま壮絶な最期を遂げた。

 キルアは当時仕官候補として、その現場を目撃していたのだ。

 言葉を失うキルアの元に戦場から、


 「オォォォォォォォ!!!」


 と、身の毛もよだつような雄たけびが聞こえてくる。

 雄たけびの後、戦場は悲鳴と怒号に包まれた。

 画面の中で戦場は、もはやアリアンの屠殺場と化していた。 


 「これはね・・・全部この男が元凶なんですヨー。」


 ツツジは画面の中に居る、漆黒の法衣を着た少年を指差す。


 「だからですネー、ガイウス殿にはこれですヨー。」


 そんな事を言いながら、懐から出したカードをガイウスへ渡す。

 そのカードを見たガイウスの顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。


 「ツツジ殿!貴殿、まさかわしに、このような小僧の相手をしろとでも!?」


 ツツジがガイウスに渡したカードは、帝国の秘匿魔法『一騎打ち』。

 使用者と対象を強制的に一つの加速空間に閉じ込め、どちらかが死ぬか、三時間経過するまで戦わせる魔法だ。

 『一騎打ち』の間その空間は、時間すらも超越した世界へ移動する。


 「だからぁ、元凶はそいつだって、言ってるじゃないですか?それとも何ですか、帝国にその人在りとまで言われた『大将軍』様が、そんな小僧一人倒してこれないとでも?」


 ツツジの言い様に、ガイウスのこめかみが最早破裂寸前である。

 しかし、ツツジはなおも言葉を続ける。


 「いいんですか?こんな所で問答している間に、アリアンによって歩兵部隊は全滅しますヨー?」


 確かに・・・気に食わない、気には食わないが、外の喧騒がひどすぎる。

 ガイウスにも当時アリアンに受けた被害が脳裏を過ぎる。


 「アリアンでなくて良いのだな!?彼の小僧が元凶だと言うなら、わしが葬ってやる!」


 自分が半ば乗せられた事に気付きつつも、ガイウスは踵を返し、天幕の外へ出る。

 残されたのはツツジとキルア。

 ツツジの心情を図ろうとするキルアだが、猿面に隠され当然その表情は読めない。


 「ツツジ殿・・・貴殿、一体何を考えている?」


 思わず漏れ出たキルアの呟きに、ツツジはパチンと手を叩き振り向くと、「そうですヨー、これを忘れてました。キルア殿にはこれを差し上げますヨー。」と言って、懐から一枚カードを出しキルアに差し出す。

 そのカードを見て、絶句するキルア。


 「なっ!これは!」


 ツツジは更に一枚の書状を差し出しながら、「もちろん陛下の承認は得てますので、ご心配無くー。」と、言った。

 書状には『紅帝』カーマインの直筆で、「『特設内政顧問』ツツジに、帝国の固有魔法『一騎打ち』と『最終兵器』を貸し付ける。並びに当魔法の使用許可、譲渡権を一任する。」と書かれていた。


 「ツツジ殿・・・貴殿はまさか、ガイウス殿が負けるとでも?」


 問うキルアにツツジは、ひょいっと肩を竦めて見せ、


 「まっさかぁ?あくまでも、保険の、保険ですヨー?」


 と、うそぶいた。

 キルアには、彼の言葉がまったく信じられなかった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


※次回はまたセイ視点です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ