表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第一章 精霊王国フローリア編
35/266

・第三十三話 『人質』

いつも読んで頂きありがとうございます。

ブクマ、励みになります。


 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょう ひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、この世界ってなんなんだろうな?

 兄貴が今居る世界は、カードゲームの『リ・アルカナ』にどこか似てるんだ。

 だけどこの世界の人には、それが現実で。

 だからこそ思うんだ。

 なんで『生贄』とか平気なんだろうな?

 みんなもっと、「命をだいじに」しないとだめだろ。

 


 ■



 おれはカーシャの作り出した『ゲート』を抜けて、『迷子森』外縁部にあった村落の一つに降り立った。

 そこは確かに人の住んでいた形跡はあるが、猫の子一匹存在していなかった。

 この世界の生物は死ねば皆、光の粒子に変わり消えていく。

 だから不幸な骸を見ることこそ無かったが、地面や壁に広がる血飛沫や、燃え落ちてしまっている家屋だったものに、この場で残酷な饗宴が行われたことを疑わせる余地は無かった。

 食べかけだったであろう食事の残骸や、幼い子供の物と思われる中綿の出てしまった人形。


 (やっぱりアイツ(アフィナ)は、置いてきて正解だったな。)


 ほどなくしておれたちは、帝国軍の布陣に程近い『リラ大平原』の南端にたどり着く。

 クリフォードを筆頭とした『精霊王国フローリア』の国軍、3000名と一緒にだ。

 内訳は指導者級が『神官王』クリフォードと『歌姫』セリシアの二人。

 将軍級がクリフォードの側近である鎧ドワーフ含め、八人。

 その副官として仕官級が二人ずつ、計20人。

 なんと残りの2970人は、最下級の兵士級だった。

 

 対する帝国軍は目測だが、将軍級扱いとされる『魔導兵器』が2000体。

 それに見覚えの無い、球形の『魔導兵器』が200体。

 仕官級兵士が5000人。

 率いているのは陣形と兵装から、英雄級の称号持ち『大将軍』ガイウス・O・マケドナルと、指導者級称号持ち『魔導元帥』キルア・アイスリバーと推察された。

 その上兵士たちの上には、謎の青く輝く結界壁が見える。


 うん・・・これ詰んでない?

 おれは鎧ドワーフの報告を聞いて、正直そう思った。

 クリフォードの作戦によると、帝国兵をなんとか元の結界域まで追い出した後、指導者と兵士2000人で結界を張りなおす算段らしい。

 その、なんとか結界域まで追い出す。という作業を、おれにお願いしたいと言う訳だ。

 イアネメリラと顔を見合わせる。

 まぁ、なんとかなるか・・・。


 おれはクリフォード、セリシアと共に帝国陣営が良く見える場所に案内された。

 あの新型『魔導兵器』は何だろうな?

 軽い気持ちで目を凝らしたおれの血の気が引いたのが、自分でもわかった。


 「クリフォード・・・あの中、見えるか・・・?」


 自分の声が、からからに乾いてしまったような感覚。

 おれの言葉に目を凝らしたクリフォード、セリシアが絶句する。


 「あれは・・・人だよな?」


 新型『魔導兵器』の球形の胴体に、埋め込まれるようにして老若男女の妖精族。

 まだ年端も行かぬ子供も居れば、明らかな老人も居る。

 そして彼らは、一様に苦悶の表情だった。 



 ■



 「ますたぁ・・・プレズント君呼んだよね?」


 衝撃が冷め切らない頭で、イアネメリラの問いに首肯する。


 「その時、兵士一人逃がしたよね?たぶん、そのせい・・・。」


 「・・・どういうことだ?」


 訳がわからないおれに、イアネメリラは淡々と説明する。


 「あれはたぶん『人質』、魔力を強制的に吸い出して、動力に回してるみたいだけど・・・あの兵士たちの上に広がってる青い結界も、耐火の強力な奴だよ。ウィッシュ君もプレズント君も、この手の策にすごく弱かったの。優しい子たちだったから・・・。」


 ゆっくりとイアネメリラの言葉が、おれの心に浸透してくる。


 「・・・なるほど、あいつらはプレズントを警戒して、あんな行動に出てる訳だ・・・。つまり、おれのせいってことだな。」


 自身への憤りが抑えられない感覚。

 「ちがっ!そういう意味じゃ・・・」と、叫んだイアネメリラの頭をポンポンと撫でる。


 「自分の行いに、責任は取らなきゃな。魔導書グリモア


 おれの周りにA4のコピー用紙サイズのカードが、六枚現れる。

 『魔導書グリモア』はいつも、おれの気持ちを汲んでくれる。


 「クリフォード、作戦は変更だ。目の前の帝国軍を殲滅する。」


 静かに告げたおれの言葉に、目を見開くクリフォードとセリシア。


 「セイ!何をする気だ!?」


 「まずは『人質』を救助する。おれが『魔導兵器』を何とかするから、クリフォードはタイミングを見て結界壁を広げてくれ。『人質』を助けた後は・・・こんな事を考えた奴を、ぶん殴ってくる。」


 「待てセイ!」


 「そうよセイ君、落ち着いて!『人質』は帝国軍の常套手段なのよ!」


 ほう・・・常套手段と来たか・・・。

 おれを落ち着かせるためなら、セリシアの言葉は逆効果だったな。 

 イアネメリラが二人をある程度押しやったのを確認して、おれは『魔導書グリモア』を操作する。

 灰色のカードを一枚タップして、目の紋章クレストを三つ産み出す。

 光るカードを一枚選択して、召喚のことわりを唱える。 


 『砂漠の瞳を追われし者、血の涙を流す者、我と共に!』


 おれの握った箱の蓋が開き、辺りが金色の光に包まれる。

 青い髪、糸によって塞がれた目、病的な程白い肌の隻腕の男が現れる。

 その男は自身の髪色と同じ色彩の、日本史の教科書に出てくる邪馬台国時代のような服を着ていた。

 男はその隻腕で腰に下げられた、禍々しい気配を放つ短剣を鞘ごと捧げ持ち地面に置くと、


 「マイロード、下命により馳せ参じました・・・。」


 と、おれの前に跪いた。



 ■



 おれが呼んだ盟友ユニットは、『暗黒都市グランバード』の国家元首にして英雄、『憂いの司教』ジェスキスという男だ。

 50年前『第一次エウル大戦』の引き金になった。と、噂される専属魔法を持っている。


 「状況は?」


 「理解しております、マイロード。」


 おれの短い問いに、深々と頷くジェスキス。


 「しかし無礼を承知で、発言させていただけるのなら・・・宜しいのですか?アレを使った後、私は魔力切れで帰らねばなりませんし、マイロードの手札も・・・。」


 「覚悟の上だ。おれの逆鱗に触れた奴を、ぶん殴る。」


 「ならば是非もありません。マイロード、私の全力でお答えいたします。」


 おれは一枚のカードを選択し、ジェスキスに渡す。

 ジェスキスが詠唱を始めると、おれの残りの手札三枚が、光の粒子になってジェスキスが持つカードに吸い込まれていく。

 ジェスキスの詠唱が終わる。


 「マイロード、対象は?」


 「対象は『魔導兵器』、その存在を否定しろ。」


 「承りました・・・。」と答えたジェスキスが、地に置いた短剣を構え、地面に突き立てるとその魔法を発動した。


 「対象は『魔導兵器』・・・『絶滅』」


 ジェスキスの短剣を通して、おれが指差す方、帝国陣地に昏い波動が広がっていく。

 その波動が当たると、『魔導兵器』だけが頭の先から砂の塊に変わっていく。

 新型『魔導兵器』に束縛されていた『人質』たちにも、帝国兵にも傷一つ与えずにだ。

 ジェスキスの全魔力、おれの手札全てをコストに変え、一定のエリア内で選択した種族の存在を否定する魔法。

 これがジェスキスの持つ専属魔法の一つ、神代級禁呪『絶滅』の効果だった。



 ■



 ジェスキスが一礼して箱に戻っていくのを見送り、おれは呆然としていたクリフォードに結界の拡張を促す。

 倒れている『人質』たちへと向かいながら、再度『魔導書グリモア』を展開する。

 当然と言わんばかり、『夢の林檎』を引いてくる。

 迷わず選択、空中で林檎が三つに割れるエフェクト。

 『魔導書グリモア』が三枚に増える。


 『人質』たちの様子は芳しくない。

 まだ幼い少女がおれの手を握り、「お父さん?」と呟きながら息絶えた。

 ゆっくりと光の粒子に変わっていく少女の体から、急速に温度が消えていく。

 体力も魔力も少ない子供や、老人たちからどんどん光の粒子が立ち昇っていく。

 呆然とその光景を見詰めていたおれは、追いついてきたセリシアに尋ねる。

 

 「この世界では・・・こんなことが許されるのか?」


 セシリアはすっと目をそらし、その背後に居たクリフォードが答える。


 「セイは、戦争の無い国に住んでいたと言ったな?これは許す、許さないの問題では無いんだよ。戦いに敗れるもの、戦う力を持たぬものは、圧倒的強者の前でただ、その猛威が過ぎ去るのを祈ることしかできない。それが、この世界の現実だ。」


 感情のこもっていないクリフォードの言葉が、急速におれを冷静にさせる。

 なんで気付かなかった。

 現実ならこんな手段に出る奴だって居るだろう。

 中途半端にゲームの知識があるせいで、どこかしら楽観していた自分を殴りたい。

 兵ならばまだわかる。

 望んで剣を持ち、戦いに出たなら仕方ないだろう。

 おれの手の中で消えて行った、確かな命の灯火。

 あんな幼い少女に、選択肢があったとでも?


 おーけー、いいだろう。

 今から『レイベース帝国』は・・・おれの敵だ。

 自分が絶対的強者だと思い込んでるお山の大将に、『悪魔デビル』の名前を刻み付けてやろう。 

 イアネメリラがおれの背後に浮いて、微笑んでいるのがわかる。


 「おれは・・・ガキだな。」


 「ううん、ますたぁはそれでいいよ?・・・違うね。それがいいの。」


 おれの決意は、優しく美しい守護者に後押しされた。


 「魔導書グリモア


 そうか、そうだな。

 お前も悔しいんだな。

 おれの周りに現れた三枚のカードの一つに、見覚えのある盟友ユニットがある。

 その盟友ユニットのテキストに書かれている事が、胸にストンと収まった気がした。

 おれは灰色のカードをタップし、目の紋章クレスト三つに変換する。

 そして彼のカードを選択して、召喚のことわりを唱える。


 『砂漠の瞳を守りし者、己が無力を嘆く者、我と共に!』


 箱の蓋が開き、金色の光を割って現れたのは、身の丈が3m以上ある赤鬼。

 彼の両手両足、両目があるべき所には、不思議な光沢の金属板。

 そしてその金属の両手で、二本の手斧を持っていた。

 『反乱者』アリアン、『砂漠の瞳』の英雄級盟友ユニットで、オーガ種という魔族だ。

 彼のテキストに書かれていたのは二つ。

 【帝国の人体実験によって、家族と己が半身を失った、悲しき凶戦士。】

 【能力アビリティ『帝国殺し』自身の等級以下の帝国兵に攻撃した場合、それを即死させる。】


 「アリアン、お前のテキストは、お前に起こった『現実』なんだな?」


 確信を込め聞いたおれに、アリアンは深く頷き嘆願してくる。


 「オデ、家族も、自分の体も、みんな失った。おさ!オデに、命令を。帝国兵を、蹴散らせと!」


 おれは、彼に残された人の部分、わき腹に軽く触れ、終わりの言葉を紡いだ。


 「これはおれの八つ当たりで、自己満足だ。帝国は、敵だ。・・・潰せアリアン。」

 

 「オォォォォォォォォ!!!」


 おれの命令を聞きアリアンは、戦場中に響き渡る咆哮を上げた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


※明日は三人称視点で帝国軍側のお話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ