・第三十二話 『侵略』
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異世界からおはよう。
おれは九条 聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、君は平穏に暮らせているか?
兄貴はこっちの世界に来てから、ずっと激動の最中だ。
神様や王様としゃべったり、残念や変態が仲間になったり。
帰っても君に話す物語は尽きないと思う。
それはそうと・・・『帝国』、と言えば侵略だ。
あいつらなんでああも簡単に、戦争おっぱじめるんだろうな?
どこの世界の話でも、大抵『帝国』ってのは侵略、征服、暴行、略奪だ。
お兄ちゃんちょっと、皇帝に会って拳骨してくるわ。
■
アフィナが起きているなら、すぐ『マルディーノス神殿』に戻ろうかとも思った。
今度は『涙の塔』を探す必要も無いし、イアネメリラが居るなら、直接飛んでいけば良いと思ったからな。
しかしイアネメリラは、一人しか運べない。
おれだけなら良いが、アフィナを置いていく訳にもいかないだろう。
魔力欠乏の気絶から回復したばかりのアフィナに、『飛翔』でついて来いって言うのもさすがにはばかられる。
まして彼女が、魔力欠乏に陥った理由はおれのためだしな。
おれたちはアフィナの回復を待って、翌早朝に『涙の塔』を後にする。
サリカは未だ結界の修復中らしいので、見送りはスケルトン執事とスケルトンメイドだ。
深々と頭を下げる彼らに、「サリカによろしく。」と言付けておく。
「じゃあセイ!ボクと一緒に飛・・・」
言いかけるアフィナを遮って、おれは「メリラよろしく。」と、イアネメリラの手を取った。
見るからに不満そうなアフィナが頬を膨らませ、「がんばって回復してあげたのに・・・。」とか言っているが、それはそれ、これはこれだ。
おれはあの日誓った。
二度とアフィナの『飛翔』には乗らないと。
「では、我輩は主の箱に・・・。」
そう言ってそそくさと、おれの金箱に逃げようとしたロカさんが捕まった。
「よ、よせ娘!なにゆえ我輩の首を掴むのである!?あ・・・主!アッー!」
すごいな・・・トリプルアクセルなんて目じゃないぞ・・・縦回転だけど。
■
時刻は昼少し前。
おれたちは、『マルディーノス神殿』の中庭に降り立った。
「主・・・我輩、もうお空はいやなのである。・・・少し休んでもいいであるか?」
耳も尻尾もぺったりしたロカさんに、そっと金箱を差し出す。
ロカさんはもそもそと、箱の中へ消えていった。
そんなことをしている間に、衛兵たちの人垣ができていた。
(妙にざわめいてるな。なんかあったのか?)
「セイ殿!丁度良い所においで下さった!クリフ様とお会いくだされ!」
でかい声で名前を呼ばれる。
聞いた事無い声だな?
声の主を見つけて納得した。
ああ、クリフォードの側近の鎧ドワーフだ。
初めてしゃべったんじゃないか?
「なんかあったのか?」と問いかけるおれに、「クリフ様がお話申すゆえ。」と口をつぐむ鎧ドワーフ。
んー、悪い予感しかしないな。
おれたち三人は顔を見合わせつつ、鎧ドワーフの後ろを付いて行った。
「クリフ様!セイ殿をお連れ致しました!」
鎧ドワーフのでかい声が謁見の間にかけられると、中から「入ってくれ。」と、クリフォード。
謁見の間にはクリフォードと、『歌姫』セリシアだけが待っていた。
「すまんなセイ、実は大変なことが起きてな・・・。」
そう言ってクリフォードが語ったのは、謎の結界弱体化時間に『レイベース帝国』の軍隊が攻め込んできて、外側の町や村が一部占領されたという事だった。
うあー、その謎の内容知ってるわ・・・。
そしておれは、サリカの結界塔で起きた事件のあらましを語った。
■
「そうか、そんな事が・・・セイ、傷の方はもう良いのか?」
「ん、ああ。カーシャが預けててくれたらしい『薬箱』を、アフィナが使ってくれてな。」
えっへんと胸を張るアフィナ。
確かに助かったがあんまり調子に乗るな?
「それで・・・被害はどのくらいなんだ?」
「うむ、詳細はまだわからんが、滅ぼされた街、村は20を下るまい。住人はおおよそ1000人程度居たが、おそらくは・・・。」
そうか、そんなにか・・・。
帝国兵は残忍らしいからな・・・住民の安否は絶望的か。
「それでだな・・・非常に言いにくいのだが・・・。」
言葉を詰まらせるクリフォードを、おれは目線で促す。
「この国の住民は戦いに不慣れだ。異世界の魔導師たるセイには、関係無きこと。むしろ召喚の折より、ずっと迷惑をかけている・・・そこを押して頼む。助けてはくれないか?」
「ん、いいぞ。」
「わかっている、セイが自分の世界に帰る事を第一と考えているのも、この世界に義理が無いと言うのも・・・ん?」
「「ん?」」
どうやらおれがすげなく断ると思っていたらしいクリフォードが、なおも説得の言葉を続けた後、首を傾げる。
アフィナとセリシアもだ。
「別にいいぞ。どうせ帝国とはいずれ、事を構えるんだ。それがちょっと早くなるだけの話だ。」
(それにここは、ロカさんの故郷だしな。)
あとはそうだな・・・
たぶんおれは、ここの連中がそう嫌いじゃない。
迷惑をかけられたのも確かだが、少なくともクリフォードを始め、ここの称号持ちの奴等は、総じておれに真摯だったし親切だった。
ちょっとだけこの国が、気に入りだしてるってのもあるかもな。
まぁ、そんな事は口には出さないが。
イアネメリラにはバレてるっぽいな・・・。
ずっとにこにこしてるしな。
答えを反芻し、硬直から解けたクリフォードが「ほ、本当に良いのか?」と聞いてくるので、もう一度「いいぞ。」と答えておく。
「メリラ姉さん・・・セイが、おかしくなっちゃったよ?」
残念がイアネメリラの腕を掴んで何か言ってるが、聞こえないふりをしておこう。
ああ、そうだ。
これは言っておかないと。
「アフィナは来るなよ。留守番してろ。」
「なっ!絶対行くもん!」
今回はどんなに駄々をこねてもだめだ。
戦争に、連れて行くわけにはいかない。
おれはイアネメリラに「後は任せた。」と目で頼み、クリフォードと作戦会議に入る。
イアネメリラがアフィナを説得している。
「良~い、あーちゃん?今回だけ、ますたぁの言葉を翻訳してあげるね?」
翻訳・・・?
何か不穏当なセリフが聞こえたが、アフィナが「えっ?」っ言って、大人しくなったので任せよう。
「ますたぁが言ったのは~「アフィナは(心配だから)来るなよ。(大人しく)留守番して(おれの帰りを待って)ろ。」だよ?」
イアネメリラさーん!かっこの中が不適切です!
「メリラ姉さん、本当ぅ?」と訪ねるアフィナに、「私がますたぁと、何年付き合ってると思ってるの~?」と答えるイアネメリラ。
それで納得したのか、アフィナがコクンと頷いたのを見て、イアネメリラがおれにバチコーンとウィンクをかましてくる。
まぁ・・・来ないなら良いか。
■
帝国兵は外縁の街村を蹂躙した後、『迷子森』付近に展開したようだ。
ここからそこまで、徒歩で約二日。
ちょっと遠いな・・・。
言葉に詰まったおれとクリフォードに、遠慮がちに声がかけられた。
「あの~、クリフ様、セイ君?」
ん?この声・・・。
おれが声の主に振り向くと、そこには移動チート・・・もとい、『森の乙女』カーシャが、微笑んで立っていた。
「カーシャさん!どうしてここに!?」
思わず椅子をガタタンさせておれが立ち上がると、カーシャは少し驚きつつも答える。
「結界が弱まった時、魔方陣に居たからかしら。サリカさんから連絡があってね。もしかしたら私の力が必要になるかもしれないから・・・森を一時、『木精霊』達に任せて、ゲートで来たのよ。ずっとは無理なんだけどね?」
さすが・・・デキる女は違うな。
どこかの残念と血縁関係なのは、秘匿しておいた方がいいだろう。
しかしこれは助かった。
おれはまたもやらかす。
「カーシャさんが来てくれて助かる。それに『薬箱』のおかげで命を拾ったよ。今度たまごサンドを届ける。」
思わず彼女の手を握って言ったおれの一言に、約二名ほどからオーラが吹き出た。
なんで口説くみたいな感じになるんだ!?
たぶんこの人の雰囲気が悪い。
柔らかで女子力高そうな感じが、きっと美祈を思い出すんだ!
その後カーシャは、「まぁ嬉しいわ、でもセイ君。最初みたいに呼び捨てで良いのよ?」なんて言うし、アフィナのほっぺたには、ヒマワリの種が50個くらい詰まっていそうだ。
イアネメリラは目を細め、すーっと近付いてくると、おれの手の甲を抓り上げた。
痛いですイアネメリラさん。
はい、反省します。
そこでクリフォード・・・余計な事、言わなきゃいいのに・・・。
「ふむ・・・セイはモテモテだな。どうだ?この国の乙女を嫁にして、永住しないか?」
女性人全員から、冷ややかな眼差しを受けたクリフォードは、黙って俯いた。
お前ら、そんなことしてる場合じゃないだろ・・・。
戦争の最中なんですよ?
ごめんなさい、ややこしくしたのはおれです。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
※次回いよいよ、帝国軍とセイが激突です。
ここまで長かった・・・。
終わりじゃないですよw
まだまだ続く予定です。