・第三十一話 『追憶』
いつも読んで頂きありがとうございます。
ブクマ、励みになります。
※今回はセイ視点ではありません。
アフィナ視点でダイジェスト的なお話と感情描写です。
みんな、ちょっと聞いて!
ボクのこの一週間の大冒険。
あ!突然こんなこと言われても困るよね。
まずは自己紹介。
ボクの名前は、アフィナ・ミッドガルド。
『精霊王国フローリア』の『風の乙女』アフィナだよ。
ボクは、先代『風の乙女』でエルフ族のシイナと、ドワーフ族のお父さんの間に産まれた、ハーフエルフなんだ。
一応称号持ちだけど、指導者級の実力者だったお母さんと違って、まだまだひよっこなんだけどね。
この一週間の大冒険の話をする前に、少しだけボクのことを話すね?
■
ボクはこの国『精霊王国フローリア』の特別な存在、『風の乙女』シイナの一人娘として産まれたんだ。
物心ついた時には『忌み子』って呼ばれていた。
『忌み子』っていうのは、この世界で異種族間に産まれた子供の事で、両親の寿命を大幅に縮める悪魔の子ってことになってるの。
お母さんが居る間はそこまでひどくなかったけど、ボクが八歳の時両親が亡くなって、(この時は事故って聞いてたけど、実際には殺害されてたの。)それ以来は、あからさまに忌避されるようになった。
それからこの国の大臣職だったとても厳格な祖父に引き取られて、毎日針のむしろに居るような生活。
ボクが15歳になって成人の儀が終わり、『風の乙女』を引き継ぐことになってこの生活も終わるかと思ったんだけど、そんな時この国は『レイベース帝国』から戦宣布告を受けてしまうの。
そしてボクは、大臣様だった祖父の命令で、『双子巫女』セル様、ネル様の結界塔を強化するための『生贄』に志願させられた。
実際には祖父はそんな人じゃなかったんだけど、これはまた後で説明するね?
『双子巫女』セル様、ネル様の結界塔に行ってびっくりしたんだ。
お二人とも、2000年間子供を得られなくてボクのの事を我が子のように可愛がってくださったの。
お母さんともお知り合いだったみたい。
そしてボクは、お二人と一緒に神代級転移魔法『流転』を使って、伝説の勇者『蒼槍の聖騎士』ウィッシュさまを召喚しようとしたの。
ボクは召喚魔法の儀式中に、魔力欠乏で気絶したみたい。
結局『流転』は失敗してしまったのだけど、ウィッシュさまじゃなくて、異世界の魔導師を召喚してしまったんだ。
その異世界の魔導師が、たぶんボクの運命の人・・・。
そう思えるほどに彼は、すごい人だったんだ。
すごく強くて、美形なのに全然笑わないんだけど。
ボクのことを「おい、残念。」って呼ぶくせに、結局助けてくれる優しい人。
あ!でもマヨネーズの時は優しくないな・・・。
■
彼、異世界の魔導師、『悪魔』のセイのことをお話するね?
ボクが彼と初めて会ったのは、セル様、ネル様のベッドの上だった。
魔力欠乏で気絶したボクを、彼は不思議そうな顔で覗き込んでいた。
「・・・ウィ・・・ッシュ・・・さま?」
考えるより先に言葉が漏れた。
だって、その紫がかった黒髪も、意志の強そうな藍色の瞳も、逸話で聞くウィッシュさまの姿にそっくりだったから・・・それにすごく美人。
でも彼は素っ気無く否定すると、ボクのことを『風の乙女』シイナか?って聞いてきた。
ボクがシイナはお母さんのことだって答えたら、ひどく深刻な顔で納得してたっけ。
その後彼はいきなり、『レイベース帝国』に向かうって言うから、驚いて必死で引き止めたの。
お父さん譲りの膂力があったおかげで、なんとか引き止められたんだ。
なんで『レイベース帝国』なのか詳しく話を聞くと、この世界の主神、『カードの女神』アールカナディア様と話し合った結果そう考えたらしいの。
なんと、主神様から加護も授かったらしいんだよ!
そんな事を話していたら、帝国の斥候兵がこの結界塔に近付いてきていた。
それに気付いたのは、『幻獣王』ロカさん。
闇属性の霧を操る『精霊王国フローリア』の英雄で、20年前消息不明になったはずの人?犬?
現れた時は真っ黒な子犬だったけど、セイに魔力をもらうと2m大の狼に変身した。
ロカさんはセイが使役してるって聞いた時には、言葉を失ったよ。
でもね、セイの力はそれどころじゃなかったの。
彼とロカさんは、帝国の斥候兵をあっと言う間に倒した。
でも、抵抗鎧を着込んだオーガが残ったの。
ボクは隠れてろって言われたんだけど、ロカさんが火が弱点って言うのを聞いて、『火球』の魔法で攻撃したの。
オーガの腕の一振りで弾かれた時にはショックだったな。
でも事態はそんなの問題じゃなかった。
なんとセイは、『永炎術師』プレズントさまを召喚して、オーガを消し炭に変えた。
びっくりのしすぎで、もう気持ちが追いつかないよっ!
その後彼をなんとか説得して、クリフォード様に会って貰えることになったんだけど。
『精霊王国フローリア』の首都に辿り着くまでの道程は、あんまり話したくないんだ。
小さい頃は庭だったはずの『迷子森』で迷ったり・・・。
豹柄の水着みたいな服を着た変態女に襲われたり・・・。
もう・・・とにかく大変だったの!
■
バレちゃった!
セイにボクが、『忌み子』で『生贄』だってことがバレちゃった・・・。
こっそり『マルディーノス神殿』へ行こうとしたけど、その前に街の中でボクのことがバレちゃったの。
『生贄』、この単語を聞いた瞬間、ずっと落ち着いていたセイの表情が、明らかな怒りに染まったのをボクは忘れない。
ボクを抱きかかえて、ロカさんと疾走する彼は、とても逞しくて優しくて。
(きっとこの人なら、ボクの運命をぶち壊してくれる・・・。)
根拠は無いけど、そう確かに感じたボクは、大人しく彼の胸に顔を埋めたの。
『マルディーノス神殿』でも大事件が待っていた。
クリフォード様にタメ口で話すセイにハラハラしたけど、彼は静かに怒っていた。
そして彼が召喚した人に、謁見の間は大いに動揺した。
『古の語り部』サーデイン・L・フローリア。
50年以上前、『暗黒都市グランバード』に亡命した、『神官王』クリフォード・R・フローリアの実弟、つまり『精霊王国フローリア』の王弟に当たるはずの人。
ボクも肖像画でしか知らなかったけど、クリフォード様の反応で、間違いなく本人なんだってわかった。
それから後は激動だったよ。
お祖父ちゃんの相談役を務めていた『占い師』が、お母さんとお父さんを殺害した犯人で、お祖父ちゃんを洗脳していたことが判明したの。
ボクは途中で気を失ってしまったんだけど、起きたら全て解決してた。
この国の守護神『自由神』セリーヌ様とクリフォード様に、セイが苦言を呈してくれたらしいんだ。
気絶してたから、後で『歌姫』セリシア様に聞いたんだけどね・・・。
そして宮殿の客間で目覚めたボクが、セイにお礼を言うと彼は少しだけ照れたように「成り行きだ。」って言ったの。
たぶんこれが決定打。
惹かれてる気はしてたけど、彼の本質にある熱さと優しさが、垣間見えたような気がしたんだ。
■
それからボクたちは、セイと幼馴染たちが元の世界に帰るための遺失級転移魔法、『回帰』の七つに分かたれたパーツを集めに回ることになるの。
セイはボクを置いて行くつもりだったかもしれないけど、そうはいかないよっ!
付いて行くんだからね?絶対。
最初は『森の乙女』カーシャ様の守護する、『オリビアの森』。
セイはボクに何度も言ったの。
「森に入るんだから、ズボンを履け。」
でもでも、お母さんが言ったんだもん。
「好きな男ができたら、ミニスカハイソックスで、絶対領域を魅せ付けるのよ?鉄板なのよ?」
って。
おかげで大変な目に合ったよーーー!
逆さ吊りになって危ない所だったんだよ?
セイになら・・・ちょっとくらいパンツ見られても・・・きゃー!
セイが変態さんを呼んだ・・・。
うん、ボクが逆さ吊りになったせいなんだけどね?
なんでこの人呼ぶのさー!
変態さんはなぜか、ミニスカメイド服に着替えた。
ボクこの人苦手だよぅ・・・うぅ・・・。
カーシャ様はとっても優しかった。
お母さんの従姉妹だったんだね。
夜は一緒に寝てくれて・・・なんだかほんとに、お母さんみたいだったよ。
カーシャ様の所で、セイは色々得るものがあったみたい。
『夢の林檎』や、『輝石』の情報に喜んでいた。
そしてご飯を作る事になったんだけど・・・。
そこであの、『悪魔』の調味料が登場したの。
そいつの名は「マヨネーズ」。
ボクと変態さんが、必死で混ぜたんだよ?
あの辛さは、後世に語り継がれるべきだと思うの・・・。
でもでも、マヨネーズから作ったたまごサンドは、とんでもない絶品だったな。
カーシャ様が使う『ゲート』の話で、また一悶着あったの。
セイったら、カーシャ様の手を握って「一緒に来てくれ!」なんて言うから、大変だったんだよ!
結局『ゲート』の有用性に、興奮しただけらしいんだけどね?
去り際にカーシャ様が、『薬箱』っていう癒しの魔法が込められたカードを下さった。
「闇の魔力を込めると、毒になっちゃうから気をつけてね?」って言われたから、セイには内緒。
セイもセイの使役する人たちも、闇属性ばっかりみたいだしね?
■
宮殿に戻ってセイが、クリフォード様にお祖父ちゃんの事を相談してくれた。
翌日牢屋に居たお祖父ちゃんに会いに行くことになった。
お祖父ちゃんは、すっかり憔悴していたよ。
洗脳されてたとは言え、お母さんとボクを不幸にしたことで、自分をずっと責めていたみたい。
何度も何度も「済まなかった。」って泣くお祖父ちゃんを見てたら、これが本当のこの人だったんだーって気持ちが、スーッとボクの中に入ってきて、是非も無く許したの。
これからもセイに付いて行くって言ったボクを、お祖父ちゃんはすごく心配していたけれど・・・。
なぜか素直に、「ボク、セイのことが好きみたい・・・。」って言ってしまったら、急に納得してくれて「体にだけは気をつけて頑張りなさい。」って言ってくれたの。
お母さん、もう大丈夫だよ。
ボクとお祖父ちゃんはきっと、この先うまくやっていけるよ。
あの後、お祖父ちゃんとセイは少し話したみたい。
クリフォード様が預かってくれていた、『風の乙女』の懐剣をボクに渡すように言ってくれた。
その時にセイと、彼の幼馴染たちの話をしたんだけど。
異世界の人ってみんな変わってるんだねー。
ドラゴンしか使わない人、天使しか使わない人、もう一人は狙撃?らしいよ。
内の一人がすっごい美少女だって言うから、ちょっと警戒しちゃったけど、セイとその子は全然そんな感じじゃないみたい。
巨大な鈍器で戦うんだって・・・怖いね。
この三人とは違う夜中に目覚めた時、隣で眠るセイが時々呟く「みき」って誰なんだろう・・・。
なんだか胸がチクチクするの。
■
次は『闇の乙女』サリカ様の守護する、『涙の塔』へ向かったよ。
宮殿から『涙の塔』がある『パロデマ湿地帯』までは、『風の乙女』の懐剣の力でパワーアップしたボクが『飛翔』っていう魔法で、飛んでいくことになったんだけど・・・。
また失敗しちゃった。
風の精霊さんが全然言うこと聞いてくれないの!
お空で何回宙返りしたかわからないよ・・・。
ボク『風の乙女』なのにダメで、なんでセイが懐剣に魔力を流すと安定するの!?
なんかズルいよ!
セイは『パロデマ湿地帯』の案内を、ロカさんに頼むつもりだったみたい。
でも現れたのはロカさんじゃなかった。
ううん、ロカさんも呼ばれたんだけど、一緒にもう一人現れたの。
薄桃色のウェーブがかった長い髪に、少し垂れ目な碧眼で褐色の肌の、もうすんごい美女。
背中に綺麗な黒い翼が二枚。
セイがまた新しい女の人呼んだ・・・と、思ったけど。
ちょっと待って!
綺麗な黒い翼・・・この人知ってる!
そう!びっくりしちゃうよね、『黒翼の堕天使』イアネメリラ様だったんだ!
イアネメリラ様はボクの憧れの人。
『蒼槍の聖騎士』ウィッシュ様を守護する存在で、何度もその窮地を救った逸話に事欠かない方なの。
最初は、セイに迷惑をかけまくっているボクに、冷ややかな態度だったイアネメリラ様だけど、きっと優しい方なんだよね。
話してる間にボクのことを「あーちゃん」って呼んでくれるようになって、ボクにも「メリラ姉さん」って呼びなさいって、言ってくれたの。
「お姉ちゃんになってあげる~。」って、お言葉に甘えちゃった。
それから、『闇の乙女』サリカ様の『涙の塔』に着くまで、たくさん当時のお話を聞かせてくれたの。
サリカ様の『涙の塔』でもびっくりしたよー!
執事さんもメイドさんも、『スケルトン』なんだもの。
サリカ様も五、六歳くらいに見えたしね。
その晩は楽しかった。
『からあげ』もおいしかったし。
お料理手伝わなかった罰で、マヨネーズ作りさせられて疲れちゃったけど・・・。
ボク月見酒なんて初めてだよ。
セイが「絶対だめだ。」って言うから、お酒は飲まなかったけどね?
この国では15歳からお酒飲んでいいことになってるし、ボク、ドワーフ族の血が混ざってるから、お酒強いはずなのにね。
でも執事さんがくれた、『果実水』って言うの飲んでから、意識がはっきりしないの。
覚えてるのは、いやがるロカさんに無理矢理ドレスを着せて、抱きしめた所まで。
だって、すっごく可愛いんだもの。
次の日、大変な事が起きた。
セイが大怪我をしたの。
彼の幼馴染を探すために、サリカ様の『謎の道具』、『魂の首飾り』を使ってみようって話しになって。
『魂の首飾り』を安置してある部屋の扉を開けた瞬間、突然セイがサリカ様を引っ張って自分の胸に抱きしめ、後ろ向きになった。
彼はサリカ様を庇って、敵の剣に刺されていたの。
セイはサリカ様をボクに突き飛ばして、メリラ姉さんとロカさんに警戒を呼びかけた。
謎の敵と睨みあう三人を前に、ボクとサリカ様は震えることしかできなかった。
そして爆発が起きた。
ロカさんが咄嗟に、魔力壁を張ってくれたおかげでみんな無事だったけど、『魂の首飾り』は壊れてしまった。
そして、セイが倒れた。
慌てて運び込んだ客間のベッドに横たわるセイ。
明らかに傷だけじゃない苦しみ方。
皆、毒だってわかった。
カーシャ様、ありがとうございます。
ボクは『薬箱』のカードを使うことにした。
『薬箱』を使い始めてから一昼夜、彼の呼吸が穏やかになったのを確認して、ボクは倒れた。
■
目覚めたら、ロカさんがボクを覗き込んでいた。
「娘、大丈夫であるか?」
問いかけるロカさんを抱き寄せ、ベッドに座る。
いつも嫌がるけど、今日は平気みたい。
隣のベッドを確認したらセイが居ない。
「ロカさん・・・セイは?」
「娘のおかげで回復したのである。今はサリカの所へ話しに行ったのである。」
そっか・・・良かった。
ロカさんの答えに、ホッと胸を撫で下ろす。
そういえば懐剣から、セイの魔力の残滓のような物を感じるね。
その時、客間の扉が開いて、セイとメリラ姉さんが戻ってきた。
「あーちゃん、もう起きて平気~?」
ふよふよと寄ってきたメリラ姉さんに、こくんと頷く。
セイはボクの近くまで来て、「アフィナ、世話をかけたな。助かった。」って言ったの。
「当たり前のことしただけだよ!ボクはセイの・・・な、仲間なんだから!」
思わず慌てて、噛んじゃったけどバレてないかな?
メリラ姉さんにはバレてるなぁ、くすくす笑ってるもの。
セイは一瞬眉を顰めた後、「そうか、ありがとな。」ってボクの頭をポンポン撫でて、柔らかく微笑んでくれたの。
うぅー、顔が真っ赤になりそうで俯いちゃった。
これがきっとセイの、鉄板なんだね。
まんまとはまっちゃてるよー!
そしてメリラ姉さんが、ボクにだけ聞こえるように囁いた。
「今の仕草はね、ますたぁの最愛の妹、美祈ちゃんにいつもしてることだよ。彼女はすっごく手強いよ~。私も勝てる気がしないの~。」
そうだったんだ・・・。
「みき」って、セイの妹さん・・・最愛の・・・。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
※次回からまたセイ視点です。