表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第一章 精霊王国フローリア編
32/266

・第三十話 『薬箱』

いつも読んで頂きありがとうございます!

ブクマ、励みになります。


 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょう ひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、また君に助けられたみたいだな。

 兄貴が歩いていた場所。

 あれは所謂、『峠』ってやつだったらしい。

 よく、川の向こうで死んだ祖母ちゃんが手を振ってたとか、聞くじゃないか?

 おれもそういう状態だったらしい。

 危ない危ない、あの坂を登り切ったらきっと、行っちゃいけない場所に辿り着いたんだろうな。

 「なぜ山に登るのか?」

 「そこに山があるからだ。」

 そんな会話が成り立つ世界には生きていない。

 少しだけ、天邪鬼的思考も自重しようと思ったんだ。



 ■



 額に柔らかな手の感触。

 これはイアネメリラかな・・・。

 ほっぺたがペロペロ舐められる。

 ロカさん、くすぐったいからやめてくれ。


 薄っすらと瞼を開くと、見たことが無い一目で上質とわかるような天蓋。


 「知らないて・・・。」


 (あぶねぇ・・・!そう何度も、秋広の呪いに侵されてたまるか!)


 テンプレを反射で呟きそうになったことで、急速に意識が覚醒する。

 おれの言葉を聴きつけたのか、ひどく心配そうな顔のイアネメリラが顔を覗き込んできた。

 薄桃色の長い髪が、おれの額や喉元に零れて少しくすぐったい。

 おれと視線が合うと、その大きな胸におれの頭を掻き抱き、「ますたぁ!」と叫んだ。

 イアネメリラさん、息ができません。


 おれの肩口にたしったしっと、子犬の手が当てられる。

 

 「主!無茶はいかんのである!」


 いつものロカさんよりだいぶ口調が強いのは、彼なりに精一杯の叱責なのだろう。

 

 「そうだよ!心配したんだからぁ!」


 一度おれの頭をがばっと離し、目尻に涙を溜めながらそう言ったイアネメリラが、再度おれの頭を自身の胸に埋め込む。

 話しできませんがな・・・。


 それから体感10分ほど、二人がかりでお叱りと説教を受け、おれはやっと解放された。

 

 「そうは言ってもだな・・・あの時おれが庇わなかったら、サリカが危なかったんだ。」


 おれの言葉に「それはそうだけど・・・。」と不服そうなイアネメリラ。

 そういえば・・・。


 「ところでおれは、どのくらい眠ってたんだ?サリカとアフィナは?」


 この手の体験をした後は二、三日、下手すりゃ一週間なんてことがザラだからな。

 それに本来なら、一番煩いはずのアフィナが、騒いでないのも気になる。

 違和感が無いから気付かなかったが、背中に受けたはずの傷が痛まないのも・・・誰か治してくれたのだろうか?

 気が付いた時には、仰向けで寝ていられたようだし・・・。


 「あーちゃんは・・・。」


 言葉を濁したイアネメリラの視線を追うと、おれとは別のベッドに横たえられたアフィナ。

 ひどく顔色が悪い、もはや真っ青と言える位だ。


 「一体なにが・・・?」


 「あのね・・・」


 おれの疑問に答え、イアネメリラはおれが寝ている間に起きたことを、話し始めた。



 ■




 尖塔の部屋で『影人』フェアラートの『自爆』を受けた後、おれは気を失った。

 その理由は、フェアラートの剣に塗られていた毒のせいだったらしい。

 倒れた後おれは、高熱を発した。

 慌ててイアネメリラがおれを浮かせ、サリカが用意した客間のベッドに寝かせたらしい。

 急いで法衣を脱がせ、ロカさんが産み出した水で傷口を洗った。

 そしてそこで、皆途方に暮れた。

 傷もさることながら、明らかに顔色を悪くしたおれ。

 血もかなり流したし、症状がどうみても毒のものだった。

 

 闇属性には回復手段が無い。

 一部あるにはあるが、それは『吸収』などによる自己回復の類だけ。

 イアネメリラやサリカはもとより、水属性も併せ持つチート犬のロカさんも、他者の回復などできようはずがなかった。

 

 そこでアフィナが、スカートのポケットから一枚のカードを取り出した。

 それは『薬箱』の魔法カード。

 『森の乙女』カーシャが、別れる際に「もしもの時の為。」と称して預けてくれた、秘蔵の一品だったらしい。

 『薬箱』には、外傷を塞ぐものや、解毒、病気の治癒など、様々な効果がある。

 しかしこのカード、症状の深刻さによって、魔力を注ぎ続けなければ回復が見込めない。

 それだけなら、居るメンバーで交互に、魔力供給をすればいいだけだったのだろうが・・・。

 厄介にもこの『薬箱』に闇の魔力が混ざると、一転毒の魔法に変わってしまうらしい。

 それが理由で、このカードを預かっていることはおれにも黙っていたらしい。

 まぁおれも、自分の魔力が闇属性なんじゃないかなって思いはする。

 召喚魔法に関しては、なんだかよくわからないってのが本音だが。


 (それにしても、なんて面倒な設定だ。)


 どうやらおれの症状は、中々に深刻なものだったらしく、一晩中生死の境を彷徨う事となった。

 たぶんおれが、峠の夢を見ていた頃なのだろう。

 結果アフィナは、昨日の晩から今日の昼まで、魔力を注ぎ続けて倒れた。

 『風の乙女』に伝わる懐剣を使って、やっと将軍級下位程度の実力しかないアフィナが、一昼夜休み無しで魔力を放出すれば仕方ない。

 おかげでおれは助かったわけだが、まったく無茶をする。


 そしてサリカは今、結界の修復に全力で取り組んでいるらしい。

 『魂の首飾り』の補助が無くとも、張って維持するだけならそう難しくは無いんだとか。

 ただ、その間動けなくなるし、『魂の首飾り』経由で、広域化していた乙女ネットワークも今は断線状態だ。

 これでまた、幼馴染たちの情報を得る手段が無くなった。

 

 

 ■



 コンコンと、客間のドアがノックされた。

 イアネメリラが「はぁ~い。」と声をかけると、「失礼致します。」と一声かかった後、執事スケルトンが扉を開いて現れる。

 室内に入ってきた執事がおれの姿を見止め、「セイ様が回復されたようで何よりです。」と、恭しく頭を垂れる。

 

 「起きられて早々申し訳ございませんが、サリカ様は今結界維持の為に動けないので、一度儀式部屋までお越し頂けますでしょうか?」


 執事のお伺いに、「わかった。すぐ行こう。」と答え、服を探す。

 イアネメリラが持ってきてくれた法衣を着ようとして、違和感を覚えた。


 「・・・あれ?」


 見間違うはずもない、おれが愛用してきた漆黒の法衣。

 背中を刺し貫かれたはずの傷も無ければ、血の跡すら無かった。


 「あのね、ますたぁ~、その服自動修復とかかかってるみたい。」


 そうだったのか・・・。

 また新たな現象が発覚したな。

 この法衣と言い、召喚した盟友ユニットたちが、勝手に出入りする金箱と言い、なんだか謎が増えるばかりだ。

 

 おれはささっと着替えを済ませ、イアネメリラを伴って執事に案内され、儀式部屋へと向かう。

 ロカさんには、寝ているアフィナを見ていてもらうことにした。

 握り締めていた懐剣におれが魔力を流してやると、かなり顔色が良くなったので純粋に、魔力切れのような状態だったんだろう。


 洋館の正面階段の裏側に、その部屋はあった。

 『双子巫女』の結界塔で見た、石櫃のような部屋。

 おれが、この世界に召喚された時に居た部屋とよく似ている。

 違うのは地面を照らす魔方陣が、紫の光を発していることくらいだ。

 その魔方陣の中央に、サリカが祈るような姿勢で両膝をついていた。

 おれたちが入室したことで、サリカが閉じていた相貌を開く。


 「セイ殿、イアネメリラ殿、このような場所で失礼するのじゃ。」


 目礼してくるサリカに、「気にするな。」と片手を挙げる。


 「・・・セイ殿のご友人の探索ができなくなった事、非常に遺憾に思っている。」


 それは仕方ないだろう。

 サリカのせいではない。

 

 「その上で申し訳ないのだが・・・一つ頼まれてくれぬじゃろうか?」


 まぁ大体想像はつくがな。

 おれが一つ頷くと、サリカは少し言い辛そうにしながら依頼を告げる。

 おそらく自分を庇って怪我を負った相手に、頼み事をするというので気に病んでいるのだろう。

 おれはそういう律儀な人間は嫌いじゃない。


 「わらわの乙女ネットワークの復旧は未定じゃ。ゆえに結界が一度破られたという、火急の報せを

クリフォード様に伝えていただけぬじゃろうか?」


 乙女ネットワークが使えないのは確かに痛いな。

 それに、結界が張られている所に侵入できた敵勢力も気になる。

 一度クリフォードに、注意を促した方がいいだろう。


 「まぁどうせ、一度戻るつもりだったからいいぞ。」


 おれの返事に安堵した表情になり、「セイ殿、ありがとう。」と謝辞するサリカにもう一度、「気にするな。」と言っておく。

 イアネメリラも頷いているところを見ると、彼女的にもおれの判断で間違いないようだ。


 「そういえば・・・。」


 と言って、サリカが執事に目配せを送る。

 執事が布に包まれたカードを、一枚差し出す。

 『影人』フェアラートのカード。

 アンティルールが適用されるってことは、『レイベース帝国』の手駒じゃなくて、『略奪者プランダー』の方か・・・。

 しかし、結界の破壊ってことなら帝国の思惑とも一致するのか?

 奴の行動も不可解だった。

 『魂の首飾り』破壊が目的だったなら、おれたちが塔に登るのを待つ必要は無いだろう。

 

 (狙っていたのはサリカ?・・・もしくは、おれかもしれんな。)


 おれはそのカードを受け取り、『図書館ライブラリ』に収納する。

 『魔導書グリモア』に入れるつもりはない。


 「それじゃサリカ。アフィナが回復したら『マルディーノス神殿』に戻る。」


 おれはそう告げて、イアネメリラとともに儀式の部屋を後にした。



ここまで読んで頂きありがとうございます。

これからもよろしくです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ