・第二十九話 『魂の首飾り』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、君はちゃんと眠れているか?
兄貴は、こっちの世界に来てから寝不足が続いているよ。
仕方ない事とはいえ、不規則な生活が悪いんだと思う。
今日は、昼頃まで寝てしまったしな。
おれが寝坊しているといつも君が、「お兄ちゃん、朝だよ。」と優しく起こしてくれたのを、思い出すよ。
まだ一週間程度しかたっていないのに、もう何年も会っていないようだ。
こっちの世界では、おれが起こす役のようで・・・
もちろん君の様に、優しくなんて起こさないけどな。
■
夢を見ていた。
不思議だが、自分ではっきりと夢だとわかる夢。
『地球』の美祈の部屋。
美祈はベッドで眠っていた。
手作りと思われる、おれを模したような人形を胸に抱きしめ、その可愛らしい眉をぎゅっと顰め、眉間に皺が寄っている。
(苦しそうな表情だ・・・。)
そう思ったおれは、きっと触れられないだろうと考えながらも、美祈の顔に手を伸ばす。
当然届くことは無かったが、眠っているはずの美祈が一筋涙をこぼした。
胸が締め付けられるような感覚の中、美祈の呟きが聞こえた。
「お兄ちゃん・・・そっちはだめ・・・。」
そこでおれの意識は覚醒した。
■
目覚めるとそこは、『闇の乙女』サリカの結界塔、『涙の塔』を抱く洋館のバルコニーだった。
太陽の高さを見るに、どう考えても昼近い。
(痛っつ・・・なんだこれ・・・)
椅子で寝ていたらしく、痛む首を捻りながら周りを見渡した後、思わず二度見してしまう。
昨日の夜、サリカが月見酒と称する宴会に参加していた面々が、床や椅子に横たわっている。
序盤、からあげをつまみに静かに呑んでいた面々だったが、サリカが秘蔵の火酒「ドラゴンキラー」と言う物を引っ張り出してきてから、その様相を変えた。
完全に絡み酒と化したサリカに「わらわの酒が飲めんのか!?」などと言われながらも、おれは酒精の類は一切拒否していたし、いやな予感しかしなかったのでアフィナにも飲ませなかった。
しかし、スケルトン執事に果実水と言う名目で手渡された飲み物。
爽やかな口当たりの飲み易さに騙されたが、どうもアルコールを含んでいたらしい。
『地球』で似た物を口にした事がある。
悪戯をしかけるのがとても楽しい。という表情をした親父に、「オレンジジュース」といって呑まされた・・・所謂、スクリュードライバーってやつだ。
結局後半の記憶が無くなるまで、全員呑み続けたらしい。
起きる気配を感じたのか、スケルトン執事が持ってきた水差しから水を受け取り、おれは頭を振りながら現状を確認する。
サリカは机に突っ伏したまま眠り、いつのまにかドレスを着せられたロカさんが、アフィナにしっかりと抱かれたまま床で眠っている。
アフィナは幸せそうな表情で寝ているが、ロカさんは若干苦しそうだ。
イアネメリラは体育座りして翼を広げ、自分を覆い器用に中空を漂っている。
あれだけあったからあげが、一つも無くなっている。
(まじか・・・胸肉20枚分揚げたんだぞ・・・。)
それはともかく、こうしてはいられない。
今日はやることがあるのだ。
昨日の宴会の中で出た話。
サリカの守護する『涙の塔』の結界制御にも使用されている、『闇の乙女』用『謎の道具』、『魂の首飾り』の力で、おれの幼馴染たちの行方を捜すことができないか?そんな話が出ていた。
サリカが持つ『特技』、『波長』の方向性を、おれと一緒に魔力を込めることで、おそらく近しい力を持つであろう、幼馴染たちの魔力を探知してみる、と言う話だった。
この洋館の中央にある尖塔の頂上に、『魂の首飾り』は安置されているらしい。
おれはすぐ起きてくれるであろう、イアネメリラとロカさんに声をかける。
「メリラ、ロカさん起きてくれ。」
おれの言葉に反応し、すぐに目を開いたイアネメリラとロカさんが、「ますたぁ、おはよ~。」「主、おはようである。」と返応してくるのを、「おはよう、状況わかるか?」と言って覚醒させる。
ロカさんがもがいているが、アフィナのホールドはほどけそうにない。
イアネメリラにサリカを起こすように頼み、おれはアフィナを揺するが当然起きる気配など無い。
以前『迷子森』でも全然起きなかったことを思い出し、アフィナの鼻と口を塞ぐ。
(痛っ!こいつ噛み付いてきやがった!)
「・・・ロカさん、水。」
諦めたおれの言葉に、ロカさんが頷き産み出した水球が、アフィナの頭に落ちた。
■
一同は顔を濡らした手ぬぐいで拭いてすっきりした後、サリカに先導されて、『魂の首飾り』が安置されている尖塔内の螺旋階段を登っていた。
高さはさほどでもないが、階段の一段一段が低めな為、結構な段数があるようだ。
これはサリカのための措置かもしれないな。
年齢と中身はどうあれ、肉体的には五、六歳の幼女然としているからな。
カッチャカッチャと、ロカさんの爪が石段に当たる音が響いている。
かわいそうに、ドレスを着せられたままなのが哀愁を誘う。
塔の頂上部にたどり着き、サリカが指示した金属製の扉を開けた瞬間だった。
おれの第六感とでも言うべき、危険察知のような物が違和感を告げた。
咄嗟に一番前に居たサリカを胸に引き寄せ、慌てて扉を開け放った部屋に背中を向ける。
そして背中に訪れた衝撃と灼熱感。
おれの背中には、何かが突き刺さった。
「セイ殿!?なにを!?」「ますたぁ!」「主!」「えっ!なに?」
順にサリカ、イアネメリラ、ロカさん、アフィナだ。
「・・・ぐぅ、メリラ!ロカさん!敵だ!」
背中の灼熱感に耐えながら、サリカをアフィナへと突き飛ばし、言葉を捻り出す。
魔力を譲渡し2m大に変化したロカさんが、おれを自分の背後に庇う。
もちろん犬用ドレスは、びりびりに破けた。
おれが部屋の中を確認すると、中には人型の影が一つ。
メリラが影に向けて、『忘却』を発動する。
『隠密』系『特技』だと、当たりをつけたのだろう。
その行動は正解だったが、ベストではなかった。
人型の影がボンヤリとした闇を纏った人間に変わる。
イアネメリラの『忘却』が、完全には機能していない。
『忘却』は、格下相手には問答無用だが、自分と同等か、それ以上の存在に効果が完全には発動しない。
つまり相手は、英雄級以上の存在。
(『影人』フェアラート!)
おれの記憶、カードゲームの『リ・アルカナ』に存在した盟友。
VRにも反応せず、おれが使わなかったカード。
こげ茶の皮鎧とぴったりとした黒い服に身を包み、双剣をだらりと降ろした両手にぶら下げている。
双剣の片方から、おれのだろう血が滴っていた。
スキンヘッドの頭には、奇怪な文様のタトゥー。
痩せぎすの体を前傾姿勢に倒し、下からねめつけるような瞳にも、口ひげを湛えた顔にも生気のような物が感じられない。
(こいつは、まずいっ・・・!)
「待て!ロカさんだめだ!」
姿を見止めたロカさんが、飛び掛ろうとするのを咄嗟に止める。
「主!?」
「だめだ、ロカさん!不用意に攻撃しちゃいけない!」
訝しむロカさんを再度押しとどめる。
イアネメリラがおれの傷を心配して、チラチラとこちらを見ている。
サリカもアフィナも状況が把握しきれないのか、青い顔で怯えている。
実際背中の灼熱感はドンドンひどくなり、血もかなり流れているようだ。
打開策を考じるが、背中の傷が痛んで考えがまとまらない。
『砂漠の瞳』の英雄級盟友、『影人』フェアラートは、とてもやっかいな存在だった。
奴の持つ『特技』は二つ。
一つがイアネメリラが『忘却』で無効化した『影化』。
『隠密』の上位に当たるその『特技』は、影と同化し己が存在を、周囲からほぼ完全にシャットアウトする。
サリカの結界塔に、ロカさんの索敵能力を過信して油断した。
そしてもう一つの『特技』。
闇属性の盟友にも関わらず、おれが使うことを忌避した理由。
『自爆』。
その名の通り、自身が絶命する時、闇属性の大爆発を引き起こし、周囲を巻き添えにする『特技』だ。
『忘却』を、そちらに使ってもらえばまだ良かった。
だがそれはしょせん、後付の理由だ。
あの時は姿の見えない相手をなんとかするべきだった。
イアネメリラを責める事はできない。
(くそっ!ドンドン痛みがひどくなってきやがった。)
こんな時、ウララならあっさりと回復してお終いなんだろうが・・・。
「魔導書」
おれの『魔導書』に回復魔法は皆無。
打開策があるとは思えないが、『魔導書』を展開する。
おれの周りに広がる六枚のカードから、とりあえず運動強化魔法『幻歩』を選択する。
すでに構えているロカさんとイアネメリラに続き、痛みに耐え戦闘態勢を取ったおれを見て、フェアラートは距離を保つように、少しずつ後ろへ下がっていく。
(どうすればいい?どうすれば・・・)
倒すだけなら簡単とは言わないにしても、英雄級のロカさん、イアネメリラ二人に加え、手負いとはいえ強化魔法発動済みのおれだ。
できない事は無いだろう。
だがこんな場所で、『自爆』などたまったものではない。
警戒するおれたちをあざ笑うかのように、フェアラートはその口を三日月のように歪めた。
緊張を高めたおれたちだが、その後のフェアラートの行動は想定外だった。
フェアラートは一気に後方へ(・・・)、おれたちと距離を取る方へ跳躍すると、安置されていた『魂の首飾り』の前に立ち・・・己が首を双剣で切り裂いた。
「・・・しまっ・・・!」
おれが最後まで言葉を発することは、叶わなかった。
自害したフェアラートから、暗い魔力があふれ出す。
ロカさんが慌てておれたちを背中に庇い、体から『魔霧』を放出して即席の魔力壁を張る。
そして部屋が暗い魔力に満ちて、爆発が起きた。
しばらくの爆発の後、ロカさんが庇ったおれたちに傷は無かった。
ロカさんも魔力を使い果たし、子犬姿に戻ってしまったが無事なようだ。
吹き飛んでしまった結界塔と『謎の道具』、『魂の首飾り』。
『魂の首飾り』があった場所には、一枚のカードが浮いていた。
被害を確認して、おれは意識を失った。
■
おれは暗いトンネルを歩いていた。
手を伸ばせば、指先さえ見ることができないそんな空間。
いつから歩き続けているのだろう。
気が付けばずっと、歩いていた気がする。
でもまだ歩かなければいけない。
漠然とした焦燥感に急き立てられるように、おれは歩き続けた。
どれくらい歩いていただろう?
突然風景が変わった。
真っ暗な空間に居たはずなのに、左右を崖に挟まれた山道のような場所に立っていた。
目の前に続く道が二本ある。
(うーん・・・どっちだ?)
片方は下り道、片方は登り道。
登りは傾斜がきついように見えた。
(こういう時はきつい方かな?)
生来の天邪鬼的な思考もあるだろうおれは、あえてきつそうな登り道を選択し、そちらへ踏み出した。
その時、なつかしい声が聞こえた。
今は離れているが、聞き間違えようはずなどない最愛の妹、美祈の声。
彼女の声はまるで泣きそうで・・・。
「・・・お兄ちゃん・・・そっちはダメ」
と、聞こえた。
美祈が言うんだ。
おれにとっては是非も無い。
おれは自分の選択をあっさりと覆し、下り道へ進路を変えると、また歩き始めた。
その後しばらく歩き続けているうちに、段々世界が白み始め・・・おれは意識を手放した。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
きっとこの作品は漫画にできたら、情景がわかりやすいんだろうなぁと思っています。
でも絵心の無い作者には、そんなことはできないので・・・
読者のみなさんには、作者が思い描いている風景を少しでも思い描けるような描写を、苦悩しつつ書いているつもりです。
なんとなくでも主人公たちがやっている事など、想像して頂けているでしょうか?
これからも更新がんばりますので、どうぞ末永くよろしくお願いします。