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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第一章 精霊王国フローリア編
29/266

・第二十七話 『記憶』

いつも読んで頂きありがとうございます!

ブクマ、励みになります。


※2/8 誤字修正しました。

 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょう ひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈のはっきりした記憶って、いつ頃からだい?

 兄貴は、美祈と出会う少し前くらいかなぁ・・・。

 お袋に手を引かれた幼稚園の帰り、保母さんがお袋に言った何気ない一言。

 「ひじり君は少し変わっていますね。何かに対する執着がすごく薄いと言うか・・・人と争ってまで、権利を主張しないんです。この年頃の子供にしては、どこか冷めてるんですよね・・・。」と言う言葉。

 お袋の手が、ぎゅっと握り締められたのを覚えている。

 泣きそうな顔で、「それのどこがいけないんですか?」と言ったお袋。 

 その後美祈と出会い、幼馴染たちと遊ぶようになって、おれも人並みに何かに執着するということを、覚えたんだろうか?

 家に遊びに来ていたアイツらが帰って、美祈が疲れて寝てしまった日。

 目を細めておれを見ていたお袋が、「ひじり、アンタ変わったね。」って呟いた。

 あの時お袋は、何を思ったんだろうな?

 今思い出すのは、君やアイツらの楽しそうな笑顔ばかりだ。



 ■



 おれがイアネメリラに髪やほっぺたを十二分に、蹂躙された後。

 やっと満足したのか、おれから少しだけ離れたイアネメリラ。

 変態に触られた時と違って、イヤな感じはまったくしないのが不思議だ。

 VRバーチャルリアリティの頃から、イアネメリラはスキンシップ過多だったけど、その時も不快感はまるで無かった。

 おれの心に秘められているかもしれない、エロスのせいだとは思いたくない。

 そこにロカさんを胸に抱きしめたアフィナが、おずおずと近づいてくる。

 「あ、あの・・・」と、もじもじするアフィナにイアネメリラは、おれと対する時とはまるで違う冷ややかな目を向け、「なぁに?残念子ちゃん。」と、問いかける。

 いや、怖いから。

 残念子て・・・確かにそうだけど。


 「あう、セイ以外にも残念って言われた・・・。」


 ちょっと半べそになりかかるアフィナだが、それは仕方ない。

 アフィナが残念なのは、おれの『魔導書グリモア』の中に居るメンバーには、周知の事実だろう。

 イアネメリラの言葉に身を竦ませ、ロカさんを強く抱きしめるアフィナ。

 許してやってくれ。

 ロカさんの首が絞まっている。

 おれはアフィナの魔の手から、ロカさんを救い出す。


 「あ、主ー!」


 ごめんよロカさん、大変だったな・・・。

 意を決したようにアフィナはイアネメリラを見つめ、すぅっと息を呑む。

 おい、何を言う気だ?

 なんか怖いからやめとけ。


 「あの!ボクは、先代『風の乙女』シイナの娘で、現『風の乙女』アフィナ・ミッドガルドです!本当に『黒翼こくよくの堕天使』イアネメリラさまなんですよね!?」


 なんだ自己紹介か。

 アフィナの気合の入った自己紹介に、一瞬眉を顰めたイアネメリラも「そうよ。」と答え、まるで「これが見えない?」とでも言わんばかり、綺麗な黒翼をバサバサと広げてみせる。

 それで一気に顔を輝かせたアフィナ。


 (なんだ?何が言いたい?)


 「ボ、ボク!『蒼槍の聖騎士ガラント・オブ・フィナーレ』ウィッシュさまの逸話が、大好きなんです!その中でも、イアネメリラさまの大ファンで・・・特にあの!火口に一人残ったウィッシュさまを、イアネメリラさまが皆の制止を振り切って助けに行ったお話や、『多頭竜ヒュドラ』の『再生』を『忘却』で無効化したお話、とっても格好良くて憧れなんです!・・・握手してもらえますか?」


 大声でまくしたてるように告白した後、慌ててスカートで手をごしごし擦り、上目遣いで「だめですか?」と、イアネメリラを伺うアフィナ。


 「「はい?」」


 おれとイアネメリラの声が重なった。

 


 ■



 (そういえばアフィナはウィッシュを召喚するつもりで、『流転』を使ったんだったな。)


 おれは今、そんな事を考えながら歩いていた。

 一応この湿地帯にも、水棲のモンスターなどが住んでいるらしいが、ロカさんが水溶性の獣避けの毒を流したらしく、周囲に危険は無い。

 相変わらずのチートスペックに胸アツだ。

 こんだけ強いのだから、「アフィナ如きどうとでもなるだろう?」と、問いかけると「むぅ・・・我輩、女に手を上げる事はできないのである。」との答え。

 紳士過ぎる。

 ロカさんの男前が、天井知らずだ。

 目の前には尻尾をふりふり、一定距離でこちらを振り返るロカさん。

 おれの後ろにアフィナで、一番後ろをイアネメリラがふよふよと浮いている。

 あの告白ですっかり、毒気を抜かれたイアネメリラは、アフィナに請われるまま色々と当時の逸話を、語って聞かせているようだ。

 いつのまにか、「あーちゃん。」「メリラ姉さん。」なんて呼び合う仲になったようだ。

 うん、女ってわからない。


 「そうなんですメリラ姉さん!セイはすぐ無茶するんです!」


 「そうね~、ますたぁは、自分だけで何とかしようとする事が多いのよね~。私やあーちゃんが心配する気持ちがわからないのよ~。」


 おれの事で盛り上がるのはやめてください?

 振り返ったロカさんが、おれにだけ聞こえるようにこっそり囁く。


 「主、イアネメリラ殿は、本当に主の事を心配していたのだ。」


 うん、悪いことをしたな。

 でも呼ばなかったんじゃない、呼べなかったんだ。


 「ロカさ~ん?そういう事は、私が居ない時にこっそり伝えると効果的なのよ~?」


 イアネメリラには、しっかり聞こえていたようだ。

 怯えたロカさんを尻目に、イアネメリラはボソリと呟く。


 「もうね・・・自分のますたぁを失うのはこりごりなの・・・。」


 そうか・・・イアネメリラの前の主人は、ウィッシュだからな。

 20年前の大戦は、色んな傷跡を残してるんだな。


 (あれ・・・でも待てよ?)


 「そういえば・・・ロカさんは『精霊王国フローリア』の英雄なのに、なんで『終末』に巻き込まれたんだ?フローリアは、あの大戦に参加してないだろ?」


 「ぬっ・・・それが・・・わからんのである。」


 ふと疑問に思いロカさんに尋ねるが、記憶の欠損している所か・・・。

 おれたちの疑問に、イアネメリラが答えをくれる。

 

 「ロカさんはね・・・ウィッシュ君のお友達だったの。だから彼を助けるために、フローリアから一人で参加してくれたのよ。」


 心なしか声も強張っていて、いつもの甘ったるい雰囲気が無い。

 イアネメリラは、さっきもアフィナの問いに明確に答えていた。

 それってつまり・・・おれは、半ば確信しつつも確かめる。


 「メリラは・・・昔の・・・生前の記憶が、はっきりしているのか?」


 その問いに、イアネメリラは弱弱しく頭を振って、「全部じゃないの。」と答える。


 「私がはっきり覚えているのは、ウィッシュ君に繋がることだけなの。たぶん彼の守護者って立場だったからだと思うんだけど。その記憶の中に、あの大戦中、ウィッシュ君の下へ一人駆けつけるロカさんの姿があったの。二人ともすごく嬉しそうで・・・きっと友達だったんだなって。」


 ふむ、そんな繋がりがあったのか。


 「メリラ、君もプレズントも呼べるのにウィッシュが呼べないんだ。何か心当たりは?」


 おれは、無国籍ギルド『伝説の旅人』のメンバーを確認する。

 まぁたとえ原因がわかっても、今はカードが無いから呼べない。

 ウィッシュのカードは美祈に預けてきた。

 イアネメリラは、沈痛な面持ちで言葉を紡ぐ。


 「わからないわ・・・私が覚えているのは、あの日の事が最後。」


 そうしてイアネメリラは、あの日『終末』が使われた時までの記憶を語り始めた。


 「あの大戦にはきっと、『カードの女神』様が言った『略奪者プランダー』が、深く関わっていたと思うの。当時漠然とでも、それに気付いていたのはおそらく二人だけ。リーダーのウィッシュ君と、サブリーダーのプレズント君だけだと思うわ。考えたら不思議なの。私たちが作ったギルド『伝説の旅人』は、基本的に人同士の争いには介入せず、『リ・アルカナ』に危険を及ぼす、魔神族やモンスターを相手に冒険していたわ。それがあの日は違った。ある日突然ウィッシュ君が、「この戦争を終わらせる。みんな力を貸してくれ。」って言い出して、メンバーは何だかよくわからない内に、全員参加していたわ。いざ戦闘に突入してからは、ウィッシュ君もプレズント君も、被害のひどいエリアを鎮圧しながら、どこか別の場所を見ていた気がするの・・・。それに気付いたのは、ずっと先になってからだったのだけど。」


 そこで一度、言葉を切るイアネメリラ。


 「最後だけははっきり・・・そういやになるほど、はっきり覚えているの。私たちが最後に居たエリアは、『終末』を使用した『聖域の守護者』ティル・ワールドの居た『天空の聖域シャングリラ』陣営からは、かなり離れた場所だったのだけど・・・『終末』が発動する直前、ウィッシュ君とプレズント君は、確かにそっちを見ていたわ。発動した魔力で、世界が白く染まっていく中で、動けたのは彼ら二人だけだった。私も、他のメンバーも絶望的な光景に、ただただ呆然としていたわ。まず、プレズント君がすごい結界を張ったの。まるで事前に起きることが解かっていて、準備していたみたいに。『終末』の爆心地から距離もあったし、プレズント君の結界なら皆大丈夫だって思った・・・。でも、だめだった。」


 (距離もあって、事前に準備していたような大結界でだめだった?そんなに強力な魔法だったのか?)


 おれの思考がわかっているのか、イアネメリラは一つ頷いてから真相を語る。


 「もちろん『終末』の威力は、とてつもないものだったわ。でもプレズント君の結界は耐えていた。三重構造の大結界が、一枚破られるごとにプレズント君が新しいものを張りなおしていたわ。でも・・・そこで横槍が入ったの。いつのまにか、結界の中に人の頭ほどもある蜂型のモンスターが入り込んでいて、狙い済ましたようにプレズント君の喉を貫いたの。いくらプレズント君が、世界最強の火魔術師と言われていても、喉を裂かれては魔法が使えないわ。」


 (・・・蜂型のモンスター?なんだかすごく引っかかる・・・。)


 まるで背中に氷を入れられたような・・・首筋がゾクリとする感覚。

 話には続きがあるようだ。


 「すぐにモンスターは倒された。でももう手遅れ、結界は破られた。そして・・・ウィッシュ君が皆を背に庇うように、一人立ちふさがって魔力壁を展開した。でも無理だったの、世界が真っ白になった。・・・本当は私が、皆の前に立たなきゃいけなかったのに・・・。」


 全てを語り「私の記憶はそこまで・・・。」と言う、イアネメリラの目尻に涙が光る。

 辛い事を思い出させてしまったな・・・。


 「メリラ姉さん・・・。」


 アフィナがイアネメリラを、そっと抱きしめる。

 おれもイアネメリラの綺麗な黒翼を、優しく撫でてやる。


 「二人とも、ありがとぅ。」


 いつもの甘ったるい声に戻ったイアネメリラが、ふぅわりと微笑む。

 そしておれたちはなんとも言えぬ悲しい空気と、漠然とした不安感を抱えながら、『闇の乙女』サリカの守護する結界塔、『涙の塔』へ辿り着いた。

 


ここまで読んで頂きありがとうございました。

更新がんばります!

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