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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第一章 精霊王国フローリア編
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・第二十六話 『飛翔』

ブクマ、毎日少しずつ増えてて嬉しいです!

これからもがんばって執筆します。


 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょう ひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、君は飛行機が嫌いだったね。

 兄貴は今日、生身で空を飛んだよ。

 家族で行った初めての旅行。

 飛行機を怖がる君の手を、ずっと握っていたことを思い出す。

 こっちの世界だと魔法で空が飛べるんだ。

 ただ問題は・・・動力が残念式エンジンだったことかな?



 ■



 食堂での話し合いの後、半日ゆっくりしたおれたちは、翌早朝から『闇の乙女』サリカの守護する結界塔、『涙の塔』へ向けて出発した。

 今は、『涙の塔』を抱く『パロデマ湿地帯』という流木地の、入り口に立っていた。

 ここまでの移動距離、徒歩なら半日はかかる所だが、約一時間で辿り着いていた。

 『風の乙女』に代々受け継がれる懐剣の力で、新たな能力を得たアフィナの風魔法、『飛翔』のおかげだった。

 『飛翔』とは名前の如く、空を飛べる魔法だ。

 正確には、風の精霊に空を運んでもらうんだそうだが。

 新しい能力を得てドヤ顔、自信満々のアフィナを見て、おれは不安しか覚えなかった。


 「うぇぇ・・・気持ち悪い・・・。」


 真っ青な顔で、ぐったりしているアフィナ。

 まぁ・・・お察しください。

 テンプレは絶対逃さないコイツは、当然飛行のコントロールを失った。

 まさかおれも、生身でアクロバット飛行させられるとは思わなかった。

 途中からはおれが懐剣に魔力を流すと、驚くほど安定したんだが。

 おれはここに誓う。

 残念式エンジン搭載の『飛翔』には、二度と乗らないと。

 

 それはさておき、この『パロデマ湿地帯』。

 クリフォード曰く、『オリビアの森』同様、少々やっかいな結界によって、守られているらしい。

 慣れた人間でも、三回に一回は迷うような場所らしい。

 遭難率30%越えとかヤバくね?

 まぁ、闇の魔力を持つ盟友ユニットが居ればなんともないらしいので、おれは暢気に構えていた。

 なんせおれの『魔導書グリモア』には、闇属性の皆さんがひしめいている。

 理想はロカさんだけどな。

 闇の魔力はもちろん、水の魔力も持っていて、更には索敵能力まで兼ね備えたチート犬。

 闇の湿地帯とか、まさにうってつけだろ?


 「魔導書グリモア


 まだグロッキー状態のアフィナを尻目に、おれは『魔導書グリモア』を展開する。

 おれの周りに、A4のコピー用紙サイズのカードが六枚現れる。


 (よし、ロカさんは居るな。)


 おれは灰色のカードを一枚、星型の紋章クレスト三つに変換し、召喚のことわりを唱える。


 『霧の精霊を統べる者、全ての姿を得られし者、我と共に!』


 金箱が輝きながら蓋を開け・・・あれ?

 待てど暮らせど、ロカさんが出てこない。 

 アフィナも異変に気付いたのか、おれが握った金箱をじっと見つめている。


 (魔力の発動も感じたし、紋章クレストもちゃんと消費してるんだが・・・?)


 「おーい、ロカさん?」


 おれは箱に声をかける。

 これ傍から見ると、なかなかシュールな光景だろうな。

 その時、箱から子犬の首がヒョコンと出てきた。


 「・・・主・・・。」


 「ロカさん、どうし・・・。」「かわいっ」


 言葉に詰まるおれと、アフィナの感想が重なった。

 箱から首から上だけを出したロカさんの頭、天辺がちょんまげになって、ピンクのリボンが結ばれていた。

 所謂、ヨークシャテリアとかが良くやっているアレだ。


 「・・・主!イアネメリラ殿が限界である!アッー!」


 それだけ叫んで、再度箱へ消えるロカさん。

 いやむしろ、引きずり込まれたって感じが・・・。

 箱の中から、「イ、イアネメリラ殿!後生である!我輩、そのような・・・アッー!」という悲鳴が聞こえた。

 マジすか。

 箱の中から、召喚妨害とかできるんですね・・・。

 イアネメリラはどうしてしまったんだ。

 呼ばないとまずい気もするけど、呼んでもまずい気がする。

 おれはとりあえず、『魔導書グリモア』を展開する。

 うん、引いてくるんですね。

 さっきまでは確かに無かったカード。

 補充された五枚目に、『黒翼こくよくの堕天使』イアネメリラ。

 手札がもったいないが、そうも言っていられない。

 おれは三枚のカードを選択し、羽根と星の紋章クレストを産み出すと、召喚のことわりを恐る恐る唱えた。


 『伝説の旅を続けし者、世界の希望と歩みし者、我と共に!』


 金箱が蓋を開け、辺りが金色に輝く。

 そして黒い翼を持ち薄桃色の髪をなびかせた、絶世の美女が現れた。

 なぜかピンク色のドレスのような犬用の服を着せられ、ぐったりしたロカさんを胸に抱いて・・・。



 ■



 うん・・・なんだこの状況?

 一昔前の漫画的表現なら、間違いなく目の前をからすが横切っていった。


 「呼んだぁ?ますたぁ。」


 いつもの甘ったるい声と笑顔におれは、「ああ、メリラ・・・。」と声をかけようとして、ハタと気付く。

 

 (あぶね!あっぶねー!この人目が全く笑ってねーよ。)


 後ろで「セイがまた新しい女を・・・。」とか呟いたアフィナを、拳骨で沈黙させておく。

 おれは恐る恐る、イアネメリラに声をかける。

 思わず声が震えたのは見逃してほしい。


 「イ、イアネメリラさん?どうしてそんなに・・・怒っているのかな?」


 おれの問いに小首を傾げ、イアネメリラは言う。


 「ん~?別に怒ってないよ~?ますたぁは何か、私を怒らせるような事したのかな~?それよりどうしたの、いつもみたいに愛称で呼んでよ~。」


 いや、ウソですよね?

 未だに目が、全く笑ってないですやん。

 イアネメリラの胸に抱きしめられたロカさんが、「イアネメリラ殿、後生である。尻尾は許してほしいのである。」と、涙目な所を見ると、イアネメリラの胸に隠されて見えないロカさんの尻尾が、なにやらピンチのようだ。


 「メリラ、ずっと呼べなくて済まなかった。とりあえずロカさんで遊ぶのやめてやってくれ・・・。」


 おれはひとまず、ロカさんを救出することにした。


 おれの言葉にイアネメリラは、ロカさんをそっと地面に降ろす。

 テケテーっとイアネメリラから距離を取り、無理矢理着せられたであろうドレスを、必死で脱ごうともがくロカさん。

 尻尾にも結ばれたリボンが、更なる哀愁を誘う。

 そしてロカさんは・・・アフィナに捕まった。


 「こら娘!何をするやめるのである。アッー!」

 

 今度はアフィナの胸に抱きしめられるロカさん。

 「あ・・・主ー!」助けを求めるロカさんだが、安心してほしい。

 おれも捕まっている。

 イアネメリラがおれの脇から手を回し、その柔らかい手でおれの頬を両側からホールドだ。

 あの・・・イアネメリラさん、近いです。

 VRバーチャルリアリティと違って、本物の感触があるこの世界で、絶世の美女であるイアネメリラと息が掛かるほどの距離。

 おれだって年頃の男の子だ、色々と・・・まぁお察しください。


 「ますたぁ?浮気はだめって言ったよね~?」


 「浮気なんてしてないぞ?」


 即答するおれに、イアネメリラは少し目を細めるととつとつと、おれを責め始める。

 普段柔らかな表情の美女が、こんな表情するとマジで怖い。


 「この世界に来てから今まで一回も呼んでくれないし、ロカさんやエデュッサは二回ずつも呼ばれてるのに・・・今回は空を飛ぶときも呼んでくれないし、闇の魔力云々の話が出ても、真っ先に呼ぶのはロカさんだし・・・私、いらない子?」


 「いやいやいや、まて。たまたまメリラを引けなかっただけだ。ロカさんは別として、あの変態は、おれも呼びたくて呼んだんじゃない。」


 必死の言い訳に、少しだけ表情を緩め、「ほんとぅ?」と聞いてくるイアネメリラに、おれはぶんぶんと首肯で答える。


 「んふふ~、ならいいの。私、ますたぁにいらない子って言われたら、死んじゃうんだからね?」


 にっこりと微笑むイアネメリラだが、セリフが怖い。

 こんなにヤンデレな娘だったとは・・・。

 まぁたしかに彼女は『堕』天使な訳で、何かしらの闇を心に抱えていてもおかしくはないと言うことか。

 それよりも問題は、現在の体勢だ。

 おれより背が低いはずのイアネメリラの顔が、おれと同じ位置にある所を見ると少し浮いているのだろう。


 「あとな、メリラ?」


 「なぁに?ますたぁ。」


 おれの首に手を回し、正にゴロニャーン状態のイアネメリラに苦言する。


 「その・・・当たってるんだが・・・。」


 「んふふ~、なにがぁ?って知ってるよ~当ててるんだもん。ますたぁのえっち~。」


 どうやら彼女は、しばらく離れるつもりはないようだ。

 うーん、この先が思いやられる。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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