・第二十六話 『飛翔』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、君は飛行機が嫌いだったね。
兄貴は今日、生身で空を飛んだよ。
家族で行った初めての旅行。
飛行機を怖がる君の手を、ずっと握っていたことを思い出す。
こっちの世界だと魔法で空が飛べるんだ。
ただ問題は・・・動力が残念式エンジンだったことかな?
■
食堂での話し合いの後、半日ゆっくりしたおれたちは、翌早朝から『闇の乙女』サリカの守護する結界塔、『涙の塔』へ向けて出発した。
今は、『涙の塔』を抱く『パロデマ湿地帯』という流木地の、入り口に立っていた。
ここまでの移動距離、徒歩なら半日はかかる所だが、約一時間で辿り着いていた。
『風の乙女』に代々受け継がれる懐剣の力で、新たな能力を得たアフィナの風魔法、『飛翔』のおかげだった。
『飛翔』とは名前の如く、空を飛べる魔法だ。
正確には、風の精霊に空を運んでもらうんだそうだが。
新しい能力を得てドヤ顔、自信満々のアフィナを見て、おれは不安しか覚えなかった。
「うぇぇ・・・気持ち悪い・・・。」
真っ青な顔で、ぐったりしているアフィナ。
まぁ・・・お察しください。
テンプレは絶対逃さないコイツは、当然飛行のコントロールを失った。
まさかおれも、生身でアクロバット飛行させられるとは思わなかった。
途中からはおれが懐剣に魔力を流すと、驚くほど安定したんだが。
おれはここに誓う。
残念式エンジン搭載の『飛翔』には、二度と乗らないと。
それはさておき、この『パロデマ湿地帯』。
クリフォード曰く、『オリビアの森』同様、少々やっかいな結界によって、守られているらしい。
慣れた人間でも、三回に一回は迷うような場所らしい。
遭難率30%越えとかヤバくね?
まぁ、闇の魔力を持つ盟友が居ればなんともないらしいので、おれは暢気に構えていた。
なんせおれの『魔導書』には、闇属性の皆さんがひしめいている。
理想はロカさんだけどな。
闇の魔力はもちろん、水の魔力も持っていて、更には索敵能力まで兼ね備えたチート犬。
闇の湿地帯とか、まさにうってつけだろ?
「魔導書」
まだグロッキー状態のアフィナを尻目に、おれは『魔導書』を展開する。
おれの周りに、A4のコピー用紙サイズのカードが六枚現れる。
(よし、ロカさんは居るな。)
おれは灰色のカードを一枚、星型の紋章三つに変換し、召喚の理を唱える。
『霧の精霊を統べる者、全ての姿を得られし者、我と共に!』
金箱が輝きながら蓋を開け・・・あれ?
待てど暮らせど、ロカさんが出てこない。
アフィナも異変に気付いたのか、おれが握った金箱をじっと見つめている。
(魔力の発動も感じたし、紋章もちゃんと消費してるんだが・・・?)
「おーい、ロカさん?」
おれは箱に声をかける。
これ傍から見ると、なかなかシュールな光景だろうな。
その時、箱から子犬の首がヒョコンと出てきた。
「・・・主・・・。」
「ロカさん、どうし・・・。」「かわいっ」
言葉に詰まるおれと、アフィナの感想が重なった。
箱から首から上だけを出したロカさんの頭、天辺がちょんまげになって、ピンクのリボンが結ばれていた。
所謂、ヨークシャテリアとかが良くやっているアレだ。
「・・・主!イアネメリラ殿が限界である!アッー!」
それだけ叫んで、再度箱へ消えるロカさん。
いやむしろ、引きずり込まれたって感じが・・・。
箱の中から、「イ、イアネメリラ殿!後生である!我輩、そのような・・・アッー!」という悲鳴が聞こえた。
マジすか。
箱の中から、召喚妨害とかできるんですね・・・。
イアネメリラはどうしてしまったんだ。
呼ばないとまずい気もするけど、呼んでもまずい気がする。
おれはとりあえず、『魔導書』を展開する。
うん、引いてくるんですね。
さっきまでは確かに無かったカード。
補充された五枚目に、『黒翼の堕天使』イアネメリラ。
手札がもったいないが、そうも言っていられない。
おれは三枚のカードを選択し、羽根と星の紋章を産み出すと、召喚の理を恐る恐る唱えた。
『伝説の旅を続けし者、世界の希望と歩みし者、我と共に!』
金箱が蓋を開け、辺りが金色に輝く。
そして黒い翼を持ち薄桃色の髪をなびかせた、絶世の美女が現れた。
なぜかピンク色のドレスのような犬用の服を着せられ、ぐったりしたロカさんを胸に抱いて・・・。
■
うん・・・なんだこの状況?
一昔前の漫画的表現なら、間違いなく目の前をからすが横切っていった。
「呼んだぁ?ますたぁ。」
いつもの甘ったるい声と笑顔におれは、「ああ、メリラ・・・。」と声をかけようとして、ハタと気付く。
(あぶね!あっぶねー!この人目が全く笑ってねーよ。)
後ろで「セイがまた新しい女を・・・。」とか呟いたアフィナを、拳骨で沈黙させておく。
おれは恐る恐る、イアネメリラに声をかける。
思わず声が震えたのは見逃してほしい。
「イ、イアネメリラさん?どうしてそんなに・・・怒っているのかな?」
おれの問いに小首を傾げ、イアネメリラは言う。
「ん~?別に怒ってないよ~?ますたぁは何か、私を怒らせるような事したのかな~?それよりどうしたの、いつもみたいに愛称で呼んでよ~。」
いや、ウソですよね?
未だに目が、全く笑ってないですやん。
イアネメリラの胸に抱きしめられたロカさんが、「イアネメリラ殿、後生である。尻尾は許してほしいのである。」と、涙目な所を見ると、イアネメリラの胸に隠されて見えないロカさんの尻尾が、なにやらピンチのようだ。
「メリラ、ずっと呼べなくて済まなかった。とりあえずロカさんで遊ぶのやめてやってくれ・・・。」
おれはひとまず、ロカさんを救出することにした。
おれの言葉にイアネメリラは、ロカさんをそっと地面に降ろす。
テケテーっとイアネメリラから距離を取り、無理矢理着せられたであろうドレスを、必死で脱ごうともがくロカさん。
尻尾にも結ばれたリボンが、更なる哀愁を誘う。
そしてロカさんは・・・アフィナに捕まった。
「こら娘!何をするやめるのである。アッー!」
今度はアフィナの胸に抱きしめられるロカさん。
「あ・・・主ー!」助けを求めるロカさんだが、安心してほしい。
おれも捕まっている。
イアネメリラがおれの脇から手を回し、その柔らかい手でおれの頬を両側からホールドだ。
あの・・・イアネメリラさん、近いです。
VRと違って、本物の感触があるこの世界で、絶世の美女であるイアネメリラと息が掛かるほどの距離。
おれだって年頃の男の子だ、色々と・・・まぁお察しください。
「ますたぁ?浮気はだめって言ったよね~?」
「浮気なんてしてないぞ?」
即答するおれに、イアネメリラは少し目を細めるととつとつと、おれを責め始める。
普段柔らかな表情の美女が、こんな表情するとマジで怖い。
「この世界に来てから今まで一回も呼んでくれないし、ロカさんやエデュッサは二回ずつも呼ばれてるのに・・・今回は空を飛ぶときも呼んでくれないし、闇の魔力云々の話が出ても、真っ先に呼ぶのはロカさんだし・・・私、いらない子?」
「いやいやいや、まて。たまたまメリラを引けなかっただけだ。ロカさんは別として、あの変態は、おれも呼びたくて呼んだんじゃない。」
必死の言い訳に、少しだけ表情を緩め、「ほんとぅ?」と聞いてくるイアネメリラに、おれはぶんぶんと首肯で答える。
「んふふ~、ならいいの。私、ますたぁにいらない子って言われたら、死んじゃうんだからね?」
にっこりと微笑むイアネメリラだが、セリフが怖い。
こんなにヤンデレな娘だったとは・・・。
まぁたしかに彼女は『堕』天使な訳で、何かしらの闇を心に抱えていてもおかしくはないと言うことか。
それよりも問題は、現在の体勢だ。
おれより背が低いはずのイアネメリラの顔が、おれと同じ位置にある所を見ると少し浮いているのだろう。
「あとな、メリラ?」
「なぁに?ますたぁ。」
おれの首に手を回し、正にゴロニャーン状態のイアネメリラに苦言する。
「その・・・当たってるんだが・・・。」
「んふふ~、なにがぁ?って知ってるよ~当ててるんだもん。ますたぁのえっち~。」
どうやら彼女は、しばらく離れるつもりはないようだ。
うーん、この先が思いやられる。
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