・第二十五話 『スタイル』
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※2/13 誤表記修正しました。
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、優しい君ならアイツと、友達になってくれるかもしれないな。
兄貴にはちょっと無理そうだ。
あの残念は仲間・・・ではないし・・・
手の掛かる妹って感じかなぁ?
竜兵と歳も同じだしな。
君と違って、どこへ行っても予想の斜め上で失敗する奴なんだ。
もちろんおれにとって、最愛の妹は君だけだ。
なんたっておれの辞書の『妹』のとこには、「めがみ」ってルビ振ってあるからな。
■
今日はもう昼になったので、『涙の塔』行きは明日に延期した。
ちょっと大臣の件でゴタついたからな。
おれたちはゆっくり話すために、謁見の間から大食堂へ移動した。
クリフォードが言った、「そう言えば朝から何も食べていないな、セイもアフィナも空腹ではないか?」の言葉に、テンプレでアフィナが腹の虫を鳴らしたからだ。
おれの作ったものが食べたいと言うアフィナに、「マヨネーズを作るなら、作ってやってもいいぞ。」と言うと、全力で首を横に振ったので、これはしばらく使えそうだ。
この大食堂、50人程度が同時に食事できそうな大部屋なのだが、特に何か無ければクリフォードも同じ場所で食事するらしい。
一国の長とは思えない距離の近さだな。
食堂には今、おれたちしかいない。
おれたちというのは、おれとアフィナ、クリフォード、セリシアと羽根妖精二人だ。
テーブルに並べられたのは丸パンに薄切りのハム、生野菜のサラダっぽいやつと果物か。
お茶だけはおれが淹れた、作り置きの紅茶を出してやろう。
紅茶を一口飲んだアフィナが、「・・・やっぱりセイが作った・・・」と呟いたので、おれが目線を合わせて「マヨ・・・」と言うと、慌てて視線を逸らした。
そんなにいやか。
そういえばこの世界に来てから、米を見ていないな。
テンプレの異世界物よろしく、白米には苦労しそうだ。
美祈の作った、炊き込みご飯とお味噌汁が食べたいです。
一息ついた所で、おれと幼馴染たちの話をしようか。
「おれは悪魔族、堕天使、闇精霊等の盟友と、闇炎系の攻撃魔法を好む、身体強化魔法と拳で戦う。」
「・・・なるほど、それで『幻獣王』ロカか。」
クリフォードが得心顔で頷く。
「ロカさんはおれの主力だな。次は竜兵か。」
「竜兵っていうのは、おれの弟みたいなもんだな。あいつは・・・とにかくドラゴンだ。ドラゴン族をこよなく愛す。本人は両手剣使ってるな。こいつには、『ルビー』か『トパーズ』があれば助かるだろう。」
セリシアがメモを取り始める。
「姿は目立ちそうか?」
クリフォードの問いに、おれは首肯で答える。
「この世界では余り見たことが無いような格好をしているだろうな。半袖半ズボンに、つば付きの帽子を被ってるんじゃないかな・・・。」
「それは確かに目立ちそうだな・・・」
クリフォードはそう言うが、今のところ該当する容姿に心当たりも無さそうだ。
もう一週間近く、この世界をうろついてるが、あいつもどこに飛ばされたやら・・・。
「次はウララだな。この世界に転移したと思われる、おれの幼馴染たちの中で唯一の女だ。」
「その娘はどんな特徴だ?」
ウララか・・・。
特徴がありすぎて逆に怖いな。
「綺麗な黒髪のツインテール、黒い瞳のとんでもない美少女だ。・・・見た目はな。」
ウララの説明をした所で、アフィナが息を呑む。
なんだ?
「・・・その人はセイの・・・?」
何が言いたい?
幼馴染だと言っているだろう。
呟くアフィナを無視して話を進める。
「アイツは・・・天使族しか使わない。肉体強化魔法と回復魔法に特化してるな。服は・・・ピンクのなんかヒラヒラした奴だ。得物は巨大な鈍器。」
ゴスロリ魔法少女風の服なんて、どう説明したら良いんだ?
おれの大雑把な説明だが、クリフォードたちがひっかかったのはそこでは無かったらしい。
「「「・・・巨大な鈍器?」」」
クリフォード、アフィナ、セリシアが揃って首を傾げる。
そこか?
羽根妖精二人はその三人の上を、忙しくくるくる回っている。
お前ら居たんだな。
「かじきー?」「違うよーマグロだよー。」
違います、魚は鈍器ではありません。
カジキもマグロの仲間だしな。
疑問顔のままクリフォードが、「鈍器とは・・・どのような?」と聞いてくる。
「んー、良く使ってるのは、ハンマーとか棍棒だな。基本的には柄の付いた硬いものなら何でも良いとか言ってたな・・・あっでも、その辺にある岩とかでも普通に殴ってくるからな?」
ドン引きする面々。
まぁ気持ちはわかる。
とんでもない美少女が、その辺の岩をぶん投げてくる映像。
うん、おれも実際に見てなければ信じたくないな。
でもアイツ、おれの『魔導書』と一番相性悪いんだよな。
序盤一気に押し切れないと、無尽蔵の回復で逆にボッコボコにされるからな・・・。
ああ、そうだ。
あとアレがあった。
「あと、ウララは・・・胸が『リラ大平原』だ。」
「ん?それはどういう・・・?」と言うクリフォードに、「凹凸が無いってことだ。」と答えると、なぜか物凄い寒気がした。
おーこわ、新人類かしら・・・。
「ウララに必要なのは『サファイア』だけだ。次は、秋広だな。」
天使は『サファイア』の産む紋章しか必要としないからな。
そこは純粋に羨ましい。
秋広は『氷の大陸メスティア』に居るっぽいんだけどなー。
「セリーヌ様が感知されたかもしれないと言っていた?」
ポンと手を叩いたセリシアに、首肯で答える。
「秋広は・・・簡単に出会えるかもわからんが・・・。うーん、アイツどう説明したら良いんだ?」
おれは少々困った。
秋広のスタイルは、独特すぎて説明が難しい。
とりあえず容姿か。
「青い縁取りと、金糸で刺繍されたようなロングコートを着ているが・・・アイツのことだ、たぶんうまく隠してると思うんだよな・・・。あとは・・・眼鏡だな。」
ド近眼だから、変装してたにしても眼鏡ははずさないだろう。
「その子のスタイルは?」
クリフォードに問われるが・・・ああ、そうだ。
特徴というか、教えても連絡を取る事の解決になるかはわからんが・・・。
「アイツのスタイルは『狙撃』だな・・・。」
「「「・・・狙撃?」」」
またも声を合わせる三人。
この世界だと、あんまり馴染みの無い言葉なのかもしれないな。
「長弓とか、魔銃なんかを使ってな、超長距離から対象を攻撃するのが得意なんだ。盟友は色々使うからわからないな。」
よく「僕の後ろに立つんじゃない。」とか言ってたな。
一番ひどかったのは例のアニメの影響で、「狙い撃つぜ。」って言って、眼鏡をクイっとした時だな。
おれと竜兵は流してたけど、ウララの逆鱗に触れて・・・「なんかむかつく!」って言われて『サプライズ』のコインロッカーに連れ込まれた後、二度とそのセリフは言わなかった。
うん、黒歴史だ。
忘れよう。
「秋広には一応『エメラルド』と・・・できたら『パール』だな、アイツはたしか『深海王国ヴェリオン』の盟友も使ってたはずだ。」
「なるほど・・・まぁ各々の容姿はわかった。異世界の魔導師はやはり変わっているな。どこかで目撃情報があれば、顔を繋ぐようにしよう。」
気を取り直したクリフォードが言うが、おれは注意を促す。
「竜兵と秋広はそれで良いけどな。ウララに関しては、不用意な接触は気をつけてくれ。」
「どういうことだ?」
訝しげなクリフォード。
「いいかクリフォード。ウララは、見た目こそ美少女だが・・・呆れるほど沸点が低い。そして必ず口より先に手が出る。この異世界でどうなってるかわからんが、下手に触ると・・・文字通り蒸発するぞ。」
またもや食堂が静寂に包まれた。
だって生身の人間がハンマーでぶっとばされて、ミンチになるとこ見たくないだろ?
■
「セイは、友達がいっぱいいるんだね。」
「友達・・・と言うか、腐れ縁だな。」
話が一段落するとそんなことを言うアフィナ。
むしろ確認しなおすと、おれの幼馴染たち怖いわ。
「ボクなんて、友達一人も居ないし・・・」
そんな事言って、タハハって笑われたらさすがにかける言葉が無いぞ?
空気と化していた羽根妖精が、アフィナの前でくるくる回る。
「ボクたちが友達になってあげるー。」「違うよー、もう友達だよー。」
ちょっと涙ぐむアフィナ。
微笑ましい光景に見えるが羽根妖精A、人差し指を一本出して光らせるのはやめろ。
自転車があったら、空飛んじゃうだろ?
羽根妖精Bがおれに寄ってきて、耳元で囁く。
「アフィナが、友達にしてほしそうな目であなたを見ている。友達にしますか?」
⇒ はい
いいえ
んー、とりあえず「いいえ」で。
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