・第二百五十二話 『街道』
お待たせしました!
いつもお読み頂きありがとうございます。
※リアルで少々トラブっております。
更新頻度は少し落ちてしまうかもしれませんが、決してエタったりはしませんので!
どうぞ生暖かい目で見守ってやって下さいorz
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、前回はお見苦しい物を見せてしまった。
残念と変態に悩まされながら、それでも兄貴は頑張っています。
とは言えやることはそんなに無いんだ。
竜兵の造ってくれた『飛空艇』は、全く手がかからない。
手がかからないどころか、とんだ便利ツールまで搭載しているのだから参ってしまう。
いや、良い事なんだけどな?
ただ・・・その安心感と言う類の物が悪かったのだろう。
「不謹慎かもしれないけど・・・平和だね・・・。」
アフィナがボソリ呟いた。
おいやめろ!いやな・・・いやな予感がする!
忘れたころにやってくる、逆に忘れてしまうのがスイッチなのかもしれない。
そう、あいつだよ!あいつ!
気付けば半開きのドアの隙間から、はたまたどこかの物陰から・・・じっとこちらの様子を伺っている奴の影。
みんなが知ってるあいつの名前は・・・そう、テンプレ君である。
さすがアフィナ・・・持ってるなぁ。
いや、彼女の責任かどうかははっきりしてないんだがな?
何と言うかアレだ、日頃の行い。
■
空の旅二日目の昼手前。
船室で朝昼兼用の簡単な食事。
柔らかい白パンに、ハムやレタス、ゆで卵をスライスして挟むだけ。
味付けは・・・。
朝から、いや・・・昨夜からうるさかったアフィナとエデュッサの罰と、まともに腕が上がらなくなるほど酷使して作ったマヨネーズだ。
マスタードをがっつり効かせてある。
そして信じられるか?
おれは材料をカットしただけ、仕上げは全部シルキーがやったんだぜ?
成長だ、確かな成長!挟むだけだが。
アフィナとエデュッサによる謎のバトルも食事の際に終結、一応の決着を着けたらしい。
正味二時間は組み合ってたからな・・・もう、あほかと。
因みに・・・現在のエデュッサ、またもや衣替え。
なににって?うん、これは・・・巫女服かな?
疑問形になるのは察して欲しい。
大方の予想通り、ヒョウ柄なんですよね。
とにかく、奴のヒョウ柄に対する拘りは並々ならない物があった。
それはともかく。
『亡国』トリニティ・ガスキンに至るまでの道のりを考察しようと思う。
いくら自動航行で、何事も無ければ目的地へ勝手に着くと言われても、一応町村の所在や地形の把握は必要なはず。
決して速くない飛行速度を鑑みるに、魔物の類に襲われることも警戒しなくてはならないだろう。
だから・・・少々過剰とも言える兵器を搭載してるんじゃないかと思う。
竜兵の趣味じゃないはずだ、たぶん、おそらく、きっと。
それから物資にまつわる問題。
もちろんそれなりに用意したが、突然何か入用になるかもしれない。
そもそも、メスティアの食料事情は決して良い物じゃないからな。
あんまり無理も言えなかった。
ウララの『図書館』にはいっぱい入ってそうだったが、それを思い出したのは残念ながら出発後だ。
ま、言った所でくれたかは謎だけどなぁ・・・。
最悪、現地入りする前に食料補充の為、街へ寄らなければいけない。
町村に立ち寄るならこの船は秘匿しなくちゃまずいだろうし、結果街道の類を辿ることも不可能。
着陸さえしてしまえば、後は『カード化』、『図書館』への収納でどうとでもなるんだが。
そんなことを考えつつ、おれは船室を後にした。
向かう先は操舵室。
全員来るかと思ったが、意外にも付いてきたのはシルキーだけ。
例の二人は、決着が着いたと思っていたんだが・・・どうやらまだだったらしい。
食後のまったりした空気の中、痛むだろう腕をさすりがらどちらともなく悪口の応酬。
「お前ら、暴れるなら外でやれよ?」
念の為声をかければ、同時に振り返って謎のアピール。
「ご主人様!あたいがこの駄エルフを屈服させます!期待していてくださいね!?」
「誰が駄エルフさ!?セイの貞操はボクが守るからね!」
まったく・・・何があいつらをそこまで駆り立てるのか?
アフィナもいちいち相手にしなきゃ良いだろうに。
あとエデュッサ、お前は見張りしろ、見張り。
何のために呼び出したと思ってるんだ。
まぁ、前の『潜水艇』と違ってこの『飛空艇』、操舵室はかなり小さめだから全員だときついんだがな。
操舵室って言っても舵がある訳じゃ無い。
室内にあるのは、進行方向の正面に据えられた操舵手用のシート。
その前には、座ったまま前方を見渡せる大ぶりの強化ガラスと、謎金属で成形された如何にもなコントロールツール。
シートの横には、液晶パネルにしか見えないスクリーンだ。
とうとう世界観も文明レベルもガチシカト。
竜兵のやらかしてる感が止まる所を知らない。
おれも粗方の操作方法は聞いている。
言われた通りの手順でツールをタッチ。
ブンッと小さな起動音、一昔前のPCに電源を入れた時のような音。
横手のスクリーンに青や緑の空間、そして何やら図形が映し出される。
「セイさん・・・これは、地図?」
「ああ。」
小首を傾げながらのシルキーへ端的に答え、おれは映し出された画面に注視する。
(倍率はどれだったか・・・。)
竜兵の言う通りなら、今は周辺1kmを表示しているはずだ。
最大範囲50kmとか言ってたか・・・普通にすごいな。
表示された地図を見ながらボタンの操作、順当に探り当てた一つで画面上のオブジェクトが縮小した。
(おっとこれか・・・。)
ポンポンとボタンを操作する度、5km単位で範囲を広げていることが表示される。
肩越しに画面を覗き込んでいたシルキーが、「ふわぁ・・・すごいねぇ・・・。」と目を白黒。
おれも思わず「・・・だな。」と呟き苦笑。
彼女にも竜兵の造った代物が、明らか常軌を逸したものだと認識できたようだ。
■
はてさて、今回50km・・・最大範囲までは拡大しなくても良いだろう。
丁度単位が20kmになった所で、街道と思しき地図の線を確認できたからだ。
街道を辿れば自然、どこかしら町村を経由することになるだろう。
あとは、自動航行のルートをこの街道沿いに軌道修正してやるだけ。
もちろん一定の距離、一般人が通りえない距離に設定する必要はあるが。
「シルキー、旧トリニティ・ガスキン領の道程にある町村、知ってるか?」
余り期待はしていない。
成長著しいとはいえ、元は野生の馬・・・もとい『一角馬』である。
クリフォード辺りに「ドラゴンホットライン」で尋ねた方が早いか?とも思いつつ、何となしシルキーに問いかけた。
意外にも返ってきたのは肯定。
「うん、知ってるよ?」
なんともあっさり、口の端から「・・・まじか?」と漏れる呟き。
おれも知らないのにいつの間に?
「セイさん。自分で聞いといて「まじか?」って何なの?」
「いや・・・済まん。」
ズイッと顔を寄せる彼女に押され気味、とりあえず謝っておく。
唇を尖らせながら、「まぁ・・・良いけどさ。」なんて拗ねるシルキーを宥めつつ、先を促した。
「メスティアの城に居た時、『真・賢者』様から聞いておいたんだよ。彼女がどんなルートを使うつもりだったかはわからないけど、もしかしたら必要になるかもしれないと思って。実際こうなってみると、私の考えも無駄じゃ無かったね?流石に『真・賢者』様の石化は予想外だったけどさ・・・。」
そんな風に締めくくり、少しだけ困ったように微笑むシルキー。
なるほど。
シルキーの勤勉さに涙が出そうだ。
もうおれは、彼女に足を向けて眠れないかもしれない。
あの残念と変態にも、シルキーの爪の垢を煎じて飲ませるべきじゃなかろうか。
爪じゃなくて蹄?
止せ!このパーティで一番の常識人?だぞ!
「ありがとうな。シルキーが一緒に来てくれてよかった。」
心からの謝辞、おれも微笑んで一礼を返す。
瞬時、シルキーの頬が赤く染まり、おおげさに手を振りながら照れる。
「そっ、そんな!私は自分でできることをしてるだけだよ?・・・それにセイさんと一緒に居るのは、自分で選んだ事だし・・・。」
後半はゴニョゴニョとして聞こえなかったが、謙遜しているのだろう。
もう一度、「それでも、ありがとう。」と声をかけ、話を先に進めてもらう。
「じゃあ、道中に存在する町村を教えてくれるか?」
「うん。『真・賢者』様の話によると、帝国はかなり入念な焦土作戦をしたんだってさ。特に、トリニティ・ガスキンの周辺はかなり酷い状況らしいよ。彼の国と付き合いがあった、それなりの大きさの街で現存する都市はほぼ皆無。山間の農村とか狩人の集落に限っては、破壊を免れている可能性もあるって。あと、唯一残っていると言うか再建したらしい所が、『中立都市』メイデ。大体・・・そんな感じみたい。」
「そりゃまた・・・。」
壮絶な話だった。
帝国は、或いはその背後に居るであろうツツジは、トリニティ・ガスキンに余程恨みでもあったのだろうか?
それとも『ソウイチロウの手記』や、『壁画』が指し示す過去に。
(でも待てよ・・・?)
引っかかったのは、この世界ならではの事象。
つまり、神と言う存在の事だ。
「そこまでの破壊があって、トリニティ・ガスキンの神は何もしなかったのか・・・?」
ふと漏らした呟きに、シルキーは「その事も聞いておいたよ。」と一つ頷いた。
「トリニティ・ガスキンの守護神は、『学問の神』ティエルザ。神とは言え称号の通り、荒事はひどく苦手な方だったらしいよ?今は行方不明だってさ。その辺は、アールカナディア様ならわかるかも?」
初めて聞く神だった。
少なくともカードでは見たことが無いし、ラカティスのテキストなんかにも存在しない。
まぁ、ラカティスのテキスト自体、祖国が滅んでいることの説明は酷く曖昧なんだが。
「ティエルザ・・・ティエルザ・・・ねぇ?ノモウルザに似てるな・・・。」
おれの思い付きは存外的を射ていたらしい。
続くシルキーの説明で、ティエルザがノモウルザの姉であると知る。
「巨人蛮族の姉が『学問の神』かよ・・・。」
「うん。私もそれを聞いた時はびっくりしたよ。」
ともあれ、この話はここまでに。
次の目的地がおのずと決まった。
山間の農村や狩人の集落に、物資の余裕があるかはわからない。
それに、そういう場所は得てして排他的、よそ者に良い顔はしないだろう。
偏見かもしれないが。
ならば、唯一再建したらしい『中立都市』メイデに行くしかあるまい。
更に倍率を変更した地図に、シルキーが「この方向。」と指す方へ航行ルートの修正。
しばらくの間、街道の近くを飛ぶことになってしまうが、多少はやむなしか。
自動航行に任せ、シルキーと連れだって甲板へ。
いい加減無意味な闘争を終えてくれていると良いのだが・・・。
■
甲板には予想外、争うことを辞めたらしい二人が揃って遠くを眺めていた。
同時に気付き、「セイ!」「ご主人様!」と振り返る。
「なんだ?もう醜い争いは辞めたのか?」
すると、アフィナとエデュッサは顔を見合わせ笑うのだ。
「ま、一時休戦って奴?ね、エディ!」
「ええ、あたいたちが争っても良い事はありませんから!」
そんなことをのたまいつつ、二人は固い握手を交わす。
なんだこれ、お前ら・・・何があった・・・。
アフィナがエデュッサを愛称で呼んで居たり、突然笑顔で握手を交わしたり、不自然過ぎて気持ち悪い・・・。
いや、むしろ怖い。
シルキーも困惑顔でおれを伺っている。
仲が良くなったら・・・良い事・・・なのか?
どうにも釈然としない。
(なっ!?速い!)
警戒を強めたおれやシルキーをどこ吹く風、二人は自然な動きでおれの両サイドを固めていた。
まるでどこぞの堕天使や魔族な女神がするように、おれの両腕を各自がホールド。
「おい、やめろ。」
抵抗むなしく拘束が始まる。
「まぁまぁご主人様。あたいたちと景色を眺めましょう?中々に綺麗ですよ。」
だからお前は見張りをしろと。
ん?景色を眺めるのは見張りなのか?
アフィナもいつになく?強引な構え。
「いっつも戦いばっかりなんだから、偶にはゆっくりしてよ!ほら、座って座って!」
無理矢理な形、三つ並んだデッキチェアに押し込められる。
おれの左右にアフィナとシルキー、なぜか背後にエデュッサ。
なにこれ?なんの包囲網?
最初こそ戸惑っていたシルキーも、今はされるがままだ。
おい、お前だけが頼りなのに・・・!
何をするでもなく景色を眺めさせられ、アフィナやエデュッサから執拗なボディタッチ。
完全にセクハラ、おれ訴えて良いよね?
どれほどこの時間が続くのかと思っていた時、その爆弾は投下された。
ご存じ、世界のテンプレマスターアフィナさんである。
「不謹慎かもしれないけど・・・平和だね。」
やめろ!いやな・・・いやな予感がする!
それは・・・フラグだ!
案の定、『飛空艇』の航路が街道へと近付いた瞬間の出来事だった。
「ご主人様!あれを!」
肩越し、エデュッサの指差した先には、街道を疾走する馬車。
だけなら良い。
整地された街道を馬車が走っているだけの、どこか牧歌的とも言える情景。
しかし、問題はその速度と周囲の事情だろう。
どう考えても無茶なスピードを出す馬車と、それを囲うように馬に乗った数人の男。
遠目からでも装備の乱雑さ、及び弓や剣などの武器で武装しているのがわかる。
ありていに言って、盗賊に襲われる旅人以外の何者でも無かった。
こんな所で、異世界テンプレさんだとぉ・・・!
「セ、セイさん!どうするの!?」
シルキーが尋ねてくるが、その表情には「助けてあげて。」と書いてある。
先人たちの忠告が聞こえてくるようだ。
そう、「間違いなく面倒事だ。」と。
「くそ!アフィナのせいだからな!」
「えぇ!?なんで!?」
おれがアフィナに当たったとて、誰が責められることだろう?
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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