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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第五章 亡国トリニティ・ガスキン編
265/266

・第二百五十二話 『街道』

お待たせしました!

いつもお読み頂きありがとうございます。


※リアルで少々トラブっております。

更新頻度は少し落ちてしまうかもしれませんが、決してエタったりはしませんので!

どうぞ生暖かい目で見守ってやって下さいorz


 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、前回はお見苦しい物を見せてしまった。

 残念と変態に悩まされながら、それでも兄貴は頑張っています。

 とは言えやることはそんなに無いんだ。

 竜兵の造ってくれた『飛空艇』は、全く手がかからない。

 手がかからないどころか、とんだ便利ツールまで搭載しているのだから参ってしまう。

 いや、良い事なんだけどな?

 ただ・・・その安心感と言う類の物が悪かったのだろう。

 「不謹慎かもしれないけど・・・平和だね・・・。」

 アフィナがボソリ呟いた。

 おいやめろ!いやな・・・いやな予感がする!

 忘れたころにやってくる、逆に忘れてしまうのがスイッチなのかもしれない。

 そう、あいつだよ!あいつ!

 気付けば半開きのドアの隙間から、はたまたどこかの物陰から・・・じっとこちらの様子を伺っている奴の影。

 みんなが知ってるあいつの名前は・・・そう、テンプレ君である。

 さすがアフィナ・・・持ってるなぁ。

 いや、彼女の責任かどうかははっきりしてないんだがな?

 何と言うかアレだ、日頃の行い。



 ■



 空の旅二日目の昼手前。

 船室で朝昼兼用の簡単な食事。

 柔らかい白パンに、ハムやレタス、ゆで卵をスライスして挟むだけ。

 味付けは・・・。

 朝から、いや・・・昨夜からうるさかったアフィナとエデュッサの罰と、まともに腕が上がらなくなるほど酷使して作ったマヨネーズだ。

 マスタードをがっつり効かせてある。

 そして信じられるか?

 おれは材料をカットしただけ、仕上げは全部シルキーがやったんだぜ?

 成長だ、確かな成長!挟むだけだが。


 アフィナとエデュッサによる謎のバトルも食事の際に終結、一応の決着を着けたらしい。

 正味二時間は組み合ってたからな・・・もう、あほかと。

 因みに・・・現在のエデュッサ、またもや衣替え。

 なににって?うん、これは・・・巫女服かな?

 疑問形になるのは察して欲しい。

 大方の予想通り、ヒョウ柄なんですよね。

 とにかく、奴のヒョウ柄に対する拘りは並々ならない物があった。


 それはともかく。

 『亡国』トリニティ・ガスキンに至るまでの道のりを考察しようと思う。

 いくら自動航行で、何事も無ければ目的地へ勝手に着くと言われても、一応町村の所在や地形の把握は必要なはず。  

 決して速くない飛行速度を鑑みるに、魔物の類に襲われることも警戒しなくてはならないだろう。

 だから・・・少々過剰とも言える兵器を搭載してるんじゃないかと思う。

 竜兵の趣味じゃないはずだ、たぶん、おそらく、きっと。


 それから物資にまつわる問題。

 もちろんそれなりに用意したが、突然何か入用になるかもしれない。

 そもそも、メスティアの食料事情は決して良い物じゃないからな。

 あんまり無理も言えなかった。

 ウララの『図書館ライブラリ』にはいっぱい入ってそうだったが、それを思い出したのは残念ながら出発後だ。

 ま、言った所でくれたかは謎だけどなぁ・・・。

 最悪、現地入りする前に食料補充の為、街へ寄らなければいけない。

 町村に立ち寄るならこの船は秘匿しなくちゃまずいだろうし、結果街道の類を辿ることも不可能。

 着陸さえしてしまえば、後は『カード化』、『図書館ライブラリ』への収納でどうとでもなるんだが。


 そんなことを考えつつ、おれは船室を後にした。

 向かう先は操舵室。

 全員来るかと思ったが、意外にも付いてきたのはシルキーだけ。

 例の二人は、決着が着いたと思っていたんだが・・・どうやらまだだったらしい。

 食後のまったりした空気の中、痛むだろう腕をさすりがらどちらともなく悪口の応酬。


 「お前ら、暴れるなら外でやれよ?」


 念の為声をかければ、同時に振り返って謎のアピール。


 「ご主人様!あたいがこの駄エルフを屈服させます!期待していてくださいね!?」


 「誰が駄エルフさ!?セイの貞操はボクが守るからね!」


 まったく・・・何があいつらをそこまで駆り立てるのか?

 アフィナもいちいち相手にしなきゃ良いだろうに。

 あとエデュッサ、お前は見張りしろ、見張り。

 何のために呼び出したと思ってるんだ。


 まぁ、前の『潜水艇』と違ってこの『飛空艇』、操舵室はかなり小さめだから全員だときついんだがな。

 操舵室って言っても舵がある訳じゃ無い。

 室内にあるのは、進行方向の正面に据えられた操舵手用のシート。

 その前には、座ったまま前方を見渡せる大ぶりの強化ガラスと、謎金属で成形された如何にもなコントロールツール。

 シートの横には、液晶パネルにしか見えないスクリーンだ。

 とうとう世界観も文明レベルもガチシカト。

 竜兵のやらかしてる感が止まる所を知らない。


 おれも粗方の操作方法は聞いている。

 言われた通りの手順でツールをタッチ。

 ブンッと小さな起動音、一昔前のPCに電源を入れた時のような音。

 横手のスクリーンに青や緑の空間、そして何やら図形が映し出される。


 「セイさん・・・これは、地図?」


 「ああ。」

 

 小首を傾げながらのシルキーへ端的に答え、おれは映し出された画面に注視する。


 (倍率はどれだったか・・・。)


 竜兵の言う通りなら、今は周辺1kmを表示しているはずだ。

 最大範囲50kmとか言ってたか・・・普通にすごいな。

 表示された地図を見ながらボタンの操作、順当に探り当てた一つで画面上のオブジェクトが縮小した。


 (おっとこれか・・・。)


 ポンポンとボタンを操作する度、5km単位で範囲を広げていることが表示される。

 肩越しに画面を覗き込んでいたシルキーが、「ふわぁ・・・すごいねぇ・・・。」と目を白黒。

 おれも思わず「・・・だな。」と呟き苦笑。

 彼女にも竜兵の造った代物が、明らか常軌を逸したものだと認識できたようだ。


 

 ■

 


 はてさて、今回50km・・・最大範囲までは拡大しなくても良いだろう。

 丁度単位が20kmになった所で、街道と思しき地図の線を確認できたからだ。

 街道を辿れば自然、どこかしら町村を経由することになるだろう。

 あとは、自動航行のルートをこの街道沿いに軌道修正してやるだけ。

 もちろん一定の距離、一般人が通りえない距離に設定する必要はあるが。


 「シルキー、旧トリニティ・ガスキン領の道程にある町村、知ってるか?」


 余り期待はしていない。

 成長著しいとはいえ、元は野生の馬・・・もとい『一角馬ユニコーン』である。

 クリフォード辺りに「ドラゴンホットライン」で尋ねた方が早いか?とも思いつつ、何となしシルキーに問いかけた。

 意外にも返ってきたのは肯定。


 「うん、知ってるよ?」


 なんともあっさり、口の端から「・・・まじか?」と漏れる呟き。

 おれも知らないのにいつの間に?

 

 「セイさん。自分で聞いといて「まじか?」って何なの?」


 「いや・・・済まん。」


 ズイッと顔を寄せる彼女に押され気味、とりあえず謝っておく。

 唇を尖らせながら、「まぁ・・・良いけどさ。」なんて拗ねるシルキーを宥めつつ、先を促した。

 

 「メスティアの城に居た時、『真・賢者』様から聞いておいたんだよ。彼女がどんなルートを使うつもりだったかはわからないけど、もしかしたら必要になるかもしれないと思って。実際こうなってみると、私の考えも無駄じゃ無かったね?流石に『真・賢者』様の石化は予想外だったけどさ・・・。」


 そんな風に締めくくり、少しだけ困ったように微笑むシルキー。

 なるほど。

 シルキーの勤勉さに涙が出そうだ。

 もうおれは、彼女に足を向けて眠れないかもしれない。

 あの残念と変態にも、シルキーの爪の垢を煎じて飲ませるべきじゃなかろうか。

 爪じゃなくてひづめ

 止せ!このパーティで一番の常識人?だぞ!


 「ありがとうな。シルキーが一緒に来てくれてよかった。」


 心からの謝辞、おれも微笑んで一礼を返す。

 瞬時、シルキーの頬が赤く染まり、おおげさに手を振りながら照れる。

 

 「そっ、そんな!私は自分でできることをしてるだけだよ?・・・それにセイさんと一緒に居るのは、自分で選んだ事だし・・・。」


 後半はゴニョゴニョとして聞こえなかったが、謙遜しているのだろう。

 もう一度、「それでも、ありがとう。」と声をかけ、話を先に進めてもらう。


 「じゃあ、道中に存在する町村を教えてくれるか?」


 「うん。『真・賢者』様の話によると、帝国はかなり入念な焦土作戦をしたんだってさ。特に、トリニティ・ガスキンの周辺はかなり酷い状況らしいよ。彼の国と付き合いがあった、それなりの大きさの街で現存する都市はほぼ皆無。山間の農村とか狩人の集落に限っては、破壊を免れている可能性もあるって。あと、唯一残っていると言うか再建したらしい所が、『中立都市』メイデ。大体・・・そんな感じみたい。」


 「そりゃまた・・・。」


 壮絶な話だった。

 帝国は、或いはその背後に居るであろうツツジは、トリニティ・ガスキンに余程恨みでもあったのだろうか?

 それとも『ソウイチロウの手記』や、『壁画』が指し示す過去に。


 (でも待てよ・・・?)


 引っかかったのは、この世界ならではの事象。

 つまり、神と言う存在の事だ。


 「そこまでの破壊があって、トリニティ・ガスキンの神は何もしなかったのか・・・?」


 ふと漏らした呟きに、シルキーは「その事も聞いておいたよ。」と一つ頷いた。


 「トリニティ・ガスキンの守護神は、『学問の神』ティエルザ。神とは言え称号の通り、荒事はひどく苦手な方だったらしいよ?今は行方不明だってさ。その辺は、アールカナディア様ならわかるかも?」


 初めて聞く神だった。

 少なくともカードでは見たことが無いし、ラカティスのテキストなんかにも存在しない。

 まぁ、ラカティスのテキスト自体、祖国が滅んでいることの説明は酷く曖昧なんだが。


 「ティエルザ・・・ティエルザ・・・ねぇ?ノモウルザに似てるな・・・。」


 おれの思い付きは存外的を射ていたらしい。

 続くシルキーの説明で、ティエルザがノモウルザの姉であると知る。

 

 「巨人蛮族の姉が『学問の神』かよ・・・。」


 「うん。私もそれを聞いた時はびっくりしたよ。」


 ともあれ、この話はここまでに。


 次の目的地がおのずと決まった。

 山間の農村や狩人の集落に、物資の余裕があるかはわからない。

 それに、そういう場所は得てして排他的、よそ者に良い顔はしないだろう。

 偏見かもしれないが。

 ならば、唯一再建したらしい『中立都市』メイデに行くしかあるまい。

 更に倍率を変更した地図に、シルキーが「この方向。」と指す方へ航行ルートの修正。

 しばらくの間、街道の近くを飛ぶことになってしまうが、多少はやむなしか。

 

 自動航行に任せ、シルキーと連れだって甲板へ。

 いい加減無意味な闘争を終えてくれていると良いのだが・・・。

 


 ■



 甲板には予想外、争うことを辞めたらしい二人が揃って遠くを眺めていた。

 同時に気付き、「セイ!」「ご主人様!」と振り返る。


 「なんだ?もう醜い争いは辞めたのか?」


 すると、アフィナとエデュッサは顔を見合わせ笑うのだ。


 「ま、一時休戦って奴?ね、エディ!」


 「ええ、あたいたちが争っても良い事はありませんから!」


 そんなことをのたまいつつ、二人は固い握手を交わす。

 なんだこれ、お前ら・・・何があった・・・。

 アフィナがエデュッサを愛称で呼んで居たり、突然笑顔で握手を交わしたり、不自然過ぎて気持ち悪い・・・。

 いや、むしろ怖い。

 シルキーも困惑顔でおれを伺っている。

 仲が良くなったら・・・良い事・・・なのか?

 どうにも釈然としない。


 (なっ!?速い!)


 警戒を強めたおれやシルキーをどこ吹く風、二人は自然な動きでおれの両サイドを固めていた。

 まるでどこぞの堕天使や魔族な女神がするように、おれの両腕を各自がホールド。


 「おい、やめろ。」


 抵抗むなしく拘束が始まる。


 「まぁまぁご主人様。あたいたちと景色を眺めましょう?中々に綺麗ですよ。」


 だからお前は見張りをしろと。

 ん?景色を眺めるのは見張りなのか?

 アフィナもいつになく?強引な構え。


 「いっつも戦いばっかりなんだから、偶にはゆっくりしてよ!ほら、座って座って!」


 無理矢理な形、三つ並んだデッキチェアに押し込められる。

 おれの左右にアフィナとシルキー、なぜか背後にエデュッサ。

 なにこれ?なんの包囲網?

 最初こそ戸惑っていたシルキーも、今はされるがままだ。

 おい、お前だけが頼りなのに・・・!


 何をするでもなく景色を眺めさせられ、アフィナやエデュッサから執拗なボディタッチ。

 完全にセクハラ、おれ訴えて良いよね?

 どれほどこの時間が続くのかと思っていた時、その爆弾は投下された。

 ご存じ、世界のテンプレマスターアフィナさんである。

 

 「不謹慎かもしれないけど・・・平和だね。」


 やめろ!いやな・・・いやな予感がする!

 それは・・・フラグだ!

 案の定、『飛空艇』の航路が街道へと近付いた瞬間の出来事だった。


 「ご主人様!あれを!」


 肩越し、エデュッサの指差した先には、街道を疾走する馬車。

 だけなら良い。

 整地された街道を馬車が走っているだけの、どこか牧歌的とも言える情景。

 しかし、問題はその速度と周囲の事情だろう。

 

 どう考えても無茶なスピードを出す馬車と、それを囲うように馬に乗った数人の男。

 遠目からでも装備の乱雑さ、及び弓や剣などの武器で武装しているのがわかる。

 ありていに言って、盗賊に襲われる旅人以外の何者でも無かった。

 こんな所で、異世界テンプレさんだとぉ・・・!


 「セ、セイさん!どうするの!?」


 シルキーが尋ねてくるが、その表情には「助けてあげて。」と書いてある。

 先人たちの忠告が聞こえてくるようだ。

 そう、「間違いなく面倒事だ。」と。


 「くそ!アフィナのせいだからな!」


 「えぇ!?なんで!?」


 おれがアフィナに当たったとて、誰が責められることだろう?

 

 



ここまでお読み頂きありがとうございます。

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