・第二百五十二話 『不変』
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異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、世の中には不変と言う物が実在する。
兄貴は今日それを痛感していた。
良く言うだろう?
変わらない物なんてない、人は誰しも成長するものだ・・・と。
物語の主人公なら、こんな言い方もするだろう。
朝、太陽が必ず昇ってくるように、明けない夜なんて無い!とかな?
否、断じて否である。
世界には変わらない物もあるし、成長しない人間も居る。
朝日など望むべくも無い、覚めない悪夢の夜と言うのも実在するのだ。
比喩である。
現在は早朝、空は晴天、お日様も元気いっぱいだ。
だが・・・おれの心は悪夢に囚われている・・・。
■
上空、ほぼ澄み切った青空に近い晴天。
数は少ないが多少の雲・・・体感、かなりの近くに見える。
甲板を吹き抜ける風が、おれの髪を柔らかく撫でていく。
まだ薄い朝もやの中、悠々と泳ぐように滑る『飛空艇』。
バイアの飛行よりは高度も速度も劣っている。
だがそれで十分。
燃料である魔石的な物に魔力を注ぐだけ、休む必要も無く一定速度で飛んでくれるこいつは、間違いなくこの世界の常識を覆す代物だ。
しかも奥さん、自動航行らしいですよ?
ある意味『地球』の航空機を越えている。
魚雷の代わりにミサイル的な何か、ボタン一つで『火弾』を十数秒乱射できる機銃っぽい何か、そして標準装備らしい・・・ドリル。
『飛空艇』にドリルが標準装備であることは、どこまでも違和感が尽きなかったが・・・。
嬉しそうにスペックを語る竜兵に、おれもツッコむのは諦めた。
今一度だけ、問題提起をしても良いだろうか?
『潜水艇』の時から・・・いや、転移の『ゲート』やら『ドラゴンホットライン』もそうなんだが、竜兵のこれは既に、シルバーアクセ作成が趣味だったからでは到底説明できないと思うんだ。
まだおれの料理や、ウララの歌の方が理解の範疇だろ・・・。
あいつその内、まじで合体ロボとか作りそうなんだが?
まぁそれは良い。
本人が居ない所でいくらツッコんだ所で何が変わる訳で無し、大体にしておれたちも彼の物づくりで恩恵を得ている立場だからな。
明け方、早朝と言っても良い時間に、なんだか自然と目が覚めた。
わかっている・・・これはある意味での逃避。
いや、実際にはある意味も何も、間違いなく逃避だった。
諸事情により、船室では気が休まらなかったのだ。
カチャっと小さな音を立て、船室へと続くドアが開く。
「おはよう、セイさん。早いね?」
その金髪ポニーを揺らしながら、にっこりと笑いかけてくるシルキー。
「眠りが・・・浅くてな。」
そう漏らしたおれに、「あはは」と乾いた笑い、彼女はつと目を逸らす。
一つため息、おれはシルキーに問いかけた。
「で・・・あの二人も目が覚めたのか?」
シルキーは曖昧な笑みを浮かべ、それでもコクリと頷いた。
おれの眠りが浅かった理由、約二名の問題児が起因する。
一人は言わずもがな・・・我らがテンプレマスター、残念の名を欲しいままにするハーフエルフのあいつ・・・アフィナ・ミッドガルドその人。
そしてもう一人・・・。
「ご主人様!荒ぶる朝のご主人様にご奉仕致します!さぁ!ご主人様の欲望をあたいに全てぶちまけて下さい!」
「朝からうるさーい!セイは朝からそんなことしないの!」
もつれあうように船室から現れたのは、件のアフィナと褐色肌に白髪のグラマー魔族。
ヒョウ柄のミニスカポリスに変貌した『女盗賊頭』エデュッサ。
おれを同時に見つけた二人、「ご主人様!」「セイ!」と叫んで駆け寄ってこようとする。
お互いに足を引っかけ合い見事に転倒。
「何するんですか!この貧乳!」
「ひ!貧乳じゃないもん!ボクだってエルフの平均よりあるもん!なにさ!変態のくせに!」
「ハン!変態はあたいにとって褒め言葉ですよ?そもそも、これだけチャンスがありながら、ご主人様の寵愛を得られていない事が何よりの証明!貴方は眼中に無いんです!」
「な!そ、そんなことないもん!セイはちょっとアレなだけだもん!君だって昨日の『なーす服』?見せた時はドン引きされてたじゃない!?」
おれには理解不能の論争である。
口汚い罵り合いの決着はどうやら引き分けだったらしく、お互いとても悔しそうに相手を睨む。
「「ぐぬぬ・・・!」」と唸りつつ、甲板で突如手と手を合わせた。
仲直り?まさかぁ・・・。
所謂レスリングのアレ、力比べって奴だ。
意外にも拮抗する勝負。
『リ・アルカナ』の等級で言えばエデュッサに軍配が上がるのだろうが、残念ながら彼女はパワー型の盟友じゃあない。
『索敵』と『隠密』、それに投げナイフ生成による手数で勝負するタイプだ。
それにアフィナ、魔法で身体強化してるしな。
朝っぱらから姦しい事この上ない。
ご理解頂けただろうか?
昨晩・・・エデュッサを召喚してからずっとこの調子なのだ。
「今日こそ!あたいこそがご主人様に相応しいと見せつけてやりますよ!」
「もうこの人きらーい!」
そしてまた・・・どこかで見覚えのある光景が繰り広げられる。
おれとシルキーは完全に蚊帳の外、いやむしろ放っておいてくれ。
■
そもそもの話をしよう。
なぜここに至ってエデュッサを召喚したのかと言う事。
発端は、箱内に事情説明に行ったロカさんからだった。
「主!どうやらヴィリスも戻ったようであるし、吾輩は一度、箱内に顔を出してくるのである!」
出発からしばし空の旅。
ロカさんが、尻尾をふりふり切り出した。
おれの脳裏、最初に浮かんだのは・・・アフロやモヒカンになって泣いているロカさんの姿。
「・・・大丈夫なのか?」
思わず、絞り出すような声が漏れた。
おれの心情を読んだか、犬顔で器用にニヒルを演出するロカさん。
「なに・・・流石にもうイアネメリラ殿も落ち着いたであろう。それに吾輩も、今回は少し長居しすぎたのである。」
言われれば確かに。
今回・・・ヴェリオン出発の折よりメスティアに滞在中、ずっとおれたちを護ってくれたのはロカさんだ。
魔力は常に譲渡していたとは言え、激しい戦闘の中・・・身体を癒す暇も無かっただろう。
(少し・・・無理をさせたか・・・。)
またしてもおれの心を感じ取り、「あいや!主と共に旅するのが、大変だったとかでは無いのである!」と弁明。
おれも慌てたロカさんに、「わかってるよ。」と笑いかける。
「それにな、主。吾輩の住処がどうなっているかも・・・心配なのである。」
「あぁ・・・それな・・・。」
前に一度聞いたことがある。
箱内には沢山の浮島があり、盟友たちは各自その一つに個室を持っていると。
ロカさんが言ったのは、その個室が箱内大戦でどうなったか気になるって事だろう。
「それじゃロカさん。とりあえずお疲れさん。」
「うむ。また呼んで欲しいのである!」
おれは「もちろんだ。」と声をかけ、ベルトに括ってある金箱を外して蓋を開く。
去り際のロカさん、黙って見守っていたアフィナとシルキーを一瞥。
「シルキー、娘、主を頼むのである!」
「うん、任せて。」
「ちょ!ロカさん!?シルキーは名前なのに、ボクはなんで娘なの!?」
日頃の行いだろ?
シルキーの返答を受け、アフィナの苦情を聞き流し、ロカさんは金箱へ飛び込んだ。
直後・・・。
「・・・ぬぅ!?イアネメリラ殿?いや・・・待ってくれ・・・話せばわか・・・主!主!吾輩は・・・アッーーー!」
箱内から悲鳴が聞こえた。
まだ・・・治まってないの?なんなの?
おれたちは、聞こえなかったフリをするしかなかった。
ロカさんが居なくなって三人、とりあえずカードから具現化した料理を出して夕食、人心地。
『飛空艇』の自動航行も順調だし、後は寝るだけ。
既にアフィナは、椅子に座ったまま船を漕ぐ構え。
そんな中おれは、『魔導書』を展開し眺めていた。
手札にある一枚のカードが、果たしておれに何を訴えかけているのか。
「・・・うーむ。」と悩むおれの様子に、シルキーが目線で問いかけてくる。
「いや・・・。ロカさんの穴を誰で埋めるかと思って、『魔導書』を展開してみたんだがな・・・?」
「うん。・・・盟友を引けなかったとか?」
言いよどむおれを促す如く、シルキーは少し考え相槌を打つ。
どう答えるべきか。
結局はストレート、むしろ彼女の意見も聞きたい所。
「一枚引いている事は引いているんだ。それも・・・ロカさんの役割をこなせる盟友な。」
答えを聞けば、何を悩んでいると思うだろう。
事実シルキーもキョトン顔を見せた。
しかし、彼女との付き合いも長い。
おれの戸惑う理由を自分で予想、正しくその答えを導き出した。
「問題のある盟友だったの?」
「ああ。」
それは間違いなく頷ける。
なんなら太鼓判も押せるくらいの問題児。
おれの後ろに回って手札を確認したシルキー。
そこにあった一枚を見て頬がピクリ、「だ、大丈夫なの?」と尋ねてきた。
「うーん・・・。あれだけの騒ぎになったんだし、反省はしたんじゃねぇかなぁ・・・たぶん。むしろ・・・シルキーはどう思う?」
逆に質問されるのは想定外だったのだろう。
眉をへの字に、ポニーテールが不安げにゆーらゆら。
それでもポツリ。
「確かに・・・ロカさんの抜けた役割に関しては、間違いなく一番の人なんだろうね。反省したかはわからないけれど・・・。」
そうですか、全く同じ意見ですか。
何よりも今までの経験上、このタイミングで盟友カードが一枚ってことが、答えのような気もする。
そのことも合わせて伝えれば、迷いながらも頷くシルキー。
「そうだほら?人間は成長する生き物って言うじゃない?」
彼女の気休めに苦笑を返し、おれは召喚の理を唱えた。
『砂漠の瞳の後継者、冷蔑湛えて微笑む者、我と共に!』
眩い召喚の光が室内を照らし、一人の人物を形成していく。
「ご主人様!貴方の愛人エデュッサが参りました!」
そしておれは・・・ヒョウ柄のナース服でポーズを決めるエデュッサを見て、心の底から後悔するのだった。
これがあらましだ。
お付き合いくださった皆様ありがとう。
えーっと、視界に入れないようにはしてますが、未だ残念と変態のキャットファイトが続いております。
もう頭痛で頭が痛い。
「・・・セイさん、とりあえずお茶淹れようか?」
「・・・ああ。」
現在シルキーだけが、おれの心の清涼剤。
女子力!馬なのに!
余計な事を考えた瞬間、船室へ戻るために背を向けたシルキーが、目にも留まらぬ勢いで振り向いた。
「セイさん?」
「・・・済まん。」
とてもイイ笑顔だが、ポニーテールが回転している彼女に、おれは即謝った。
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