・第二百五十一話 『憑依蜘蛛(ポゼッションアルケニー)』
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おれは即座、出発の準備にかかろうと踵を返す。
間際、突如後ろ襟をむんず。
去り際の一シーン、普通なら颯爽と・・・とか形容詞が付く場面だぞ。
誰の仕業かって?言わずもがなウララ様だよ。
「待ちなさい!あたしも見送りに行くわ!」
見送りは良いけどお前、首グイーンってなったんですけど?
思わず「ぐえっ」とか声が出そうになって必死で止めたわ。
「それなら撫子も行く~。」
便乗する形、撫子姉さんがさっとおれの腕を取る。
クリフォードやサラも自然にそれに倣おうとしたのだが・・・。
「クリフォードとサラはだめよ!二人は、ホナミとガウジ・エオに結界を張ってもらうわ!」
無慈悲な女神の神託である。
目に見えてしょんぼりするエルフの王と銀髪の天使。
「わ、私はどうしようか?」
サビール氏・・・影が薄すぎて忘れてた。
いやむしろ、あえて気配を殺していたのかもしれない。
なんでって?
ウララが怖いからだろ・・・。
「待機!」
ウララ・・・その人も一応偉い人だから!指差すのやめれ!
がっくりと項垂れたサビール氏を含め、三人には気の毒だが、ウララの言う事にも一理ある。
ただ・・・このメンバーで言えば、ウララや撫子姉さんも・・・つまりおれ以外なら、結界やら障壁やらはできたはずなんだが。
ツッコまない方が良いんだろうな、たぶん、おそらく、きっと。
ともあれ、恨みがましい視線を向けられながらも連れだって三人、客室の扉へと向かう。
撫子姉さんはおれの腕を完全にホールド。
放してくれって言っても・・・聞きやしないだろう。
ウララが横目でおれの腕と撫子姉さんの接点を伺っている。
「セイの・・・エロ魔神!」
「・・・誤解だ。」
状況をちゃんと見ようぜ?
おれは何もしてないだろう・・・。
撫子姉さんはと言えば、「あらあら、くすくすー。」と更に圧迫を強めるのみ。
姉さん・・・「くすくす」は口で言うもんじゃ無いと思うぞ?
なんかこう、理由は良く分からんが・・・撫子姉さんがウララをからかっている感じなんだろうな。
そこはさすが撫子姉さんか。
おれたち幼馴染の姉貴分をしていただけの事はある。
下手な人間がそれをやれば、己が命を縮めるだけ。
未だ気絶中のカリョウとテンガが良い見本だ。
いや、あいつら別にウララをどうこうした訳じゃ無かったんだけど・・・南無。
「いつまでもばかなことやってないで!さっさと行くわよ!」
そっぽを向いて扉を開け放つウララに続き、おれと撫子姉さんも退室。
一応言っとくがウララさん、障害になっていたのはむしろお前だ。
はぁ・・・とにかく、ロカさんとアフィナ、シルキーを拾って移動しよう。
(あ・・・だけど、どうやって行くんだ?)
当初はガウジ・エオが同行する予定だったからな。
なんか「あたしに任せときな!」的対応でごまかされてしまったが、結局道程の話を何も聞いてないじゃねえか・・・。
(最悪、また船か?)
でっかなイカさんがタイガーホースになりかけてるんだが、まさかそう何度も・・・。
待て、この考えはまずいぞ。
所謂フラグって奴だ。
そんな益体も無いことを考えながら扉をくぐれば、廊下の向こうから聞きなれた足音と声。
ズダダダダダッ!
「アニキーーーー!」
「主ーーーー!」
竜兵の手にはしっかりと一枚のカードが握られている。
どうやらヴェルデの母親は取り戻せたようだ。
ん?だけど・・・カードから時折、なんか黒いモヤが出てる感じだな。
(ロカさんが何かしたのか?)
黒いモヤ・・・で何となくだが、ロカさんの闇の力だと当たりを付ける。
おれたちの前まで来て急制動、手に持ったカードを差し出した。
揃って覗き見れば、やはり『嵐竜』のイラストに蜘蛛の巣が張っている。
表示名は『憑依蜘蛛』。
案の定と言うか何と言うか、盟友カードに寄生して不意打ちをする盟友のようだ。
しかし今は、そこから多脚が飛び出すことも無く、一定間隔で黒いモヤがカードを覆う。
「アニキ!なんとか捕まえたよ!今ロカさんがあの蜘蛛・・・『憑依蜘蛛』を抑え込んでくれてるって!」
「そうか、ロカさん良くやってくれた。」
「なんのこれしき!」
飛びついてきたロカさんを抱え上げて労う。
だが、これで大団円とはいかない訳だ。
カードを取り返した喜びもつかの間、竜兵の顔色が曇る。
■
容易に想像の付く話だった。
現状、『嵐竜』・・・ヴェルデの母親のカードから、『憑依蜘蛛』を引き離す手段がわからない。
出来る物なら既にやっているだろう。
それが、ロカさんが封じ込めるにとどまった理由だ。
「じっちゃんもこんな盟友は見たことが無いって・・・。無理矢理引きはがしたら最悪・・・。」
皆まで言わずとも、その場に居たメンバーは続きの言葉を理解する。
「ヴェルデには・・・?」
おれの問い、力なく首を振って答える竜兵。
そこで思い出したように彼は叫んだ。
「そうだアニキ!エオ姉なら何かわかるんじゃないかなって!それにホナミ姉のことはどうなったの?」
「「「・・・・・・。」」」
言葉も無く、ハッとするウララと撫子姉さん。
おれ自身、眉がピクリと動いてしまった。
「何が・・・あったの?」
竜兵は場の雰囲気に聡い奴だ。
それだけでただ事では無いだろうことを察してしまった。
百聞は一見に如かず、おれたちは今退室したばかりの客室の扉を開ける。
ベッドの上・・・横たわるホナミに手を当てた賢者。
それを覆うクリフォードの緑色結界と、サラの銀髪から漏れ出た輝き。
だが、ホナミもガウジ・エオも石像そのもので。
明らか異常であることだけが一目瞭然。
「そ・・・そんな!一体・・・何が!?」
竜兵はその場に膝から崩れ落ちる。
おれは彼の手を取って立たせ、その瞳を覗き込んだ。
「竜兵、二人は生きている。」
まだ動揺が治まっていない・・・続ける。
「ホナミに『告死蝶』がかけられた。ガウジ・エオは緊急措置で自分とホナミの時間を止めた。それがあの結果だ。」
「『告死蝶』・・・時間を止めた・・・。」
もごもごと呟き反芻、竜兵はおれの端的な言葉から状況を必死に想定しているのだろう。
呆然から戻ってくる意志、やんちゃな鳶色の瞳は彼らしい輝きを取り戻す。
『地球』の知識から、答えの一枚を導いた。
「ならアニキ!『生命の花』!でも・・・おいらもウラ姉も・・・なで姉も無いよね?」
目まぐるしく回転しているであろう竜兵の思考は、答えを見つけたがゆえに袋小路。
そこまで至っているなら、おれが伝える言葉は簡単だ。
「竜兵、『生命の花』はある。」
「・・・どこに?」
「『亡国』トリニティ・ガスキンだ。」
「そんな!そんなことって!」
余りにも出来すぎてると思うよな?おれだってそうだ。
テンプレとフラグの神様が大名行列。
だが、それが事実なら選べる答えは一つだけ。
「竜兵、おれは・・・すぐに出る。」
ウララや撫子姉さんも居る。
言葉には出せない、視線で語る。
こっちは任せろ、だからお前は皆を守ってくれ・・・と。
言うなれば、男の約束だ。
「・・・わかった!」
一瞬の躊躇、しかし頼れる弟分は・・・言外に告げた言葉すら把握して頷いた。
そうして四人になった『地球』組、幼馴染のメンバーはその場を後にする。
途中、バイアに引率されたアフィナとシルキーを拾い門前の広場。
何だかんだいつものメンバー。
おれとロカさん、アフィナにシルキー。
最寄りは竜兵とバイア。
四人を見送るため、少し離れた場所にウララと撫子姉さん。
二人に抱き上げられたヴェルデとリューネ。
それからポーラとポーレ長老、王二人の代わりだろう氷人族と雪人族の面々。
各人、急な出発とこの場に居ない彼、彼女に思うことあれど敢えて訪ねては来ない。
きっと、おれたちが出発した後、結構な騒ぎになるだろう。
「ねね、セイ?出発は良いけどどうやって行くの?」
一同の視線にいたたまれなくなったか、小声で尋ねてくるアフィナ。
正直・・・おれもそこは気になっているのだが。
ただ、竜兵が何とかすると言ったのしか聞いていないんだよな。
満を持して、何処か聞き覚えのあるセリフを放つ竜兵。
「こんなこともあろうかと!」
掲げた一枚のカードを具現化、そこに現れたのは・・・。
例のドリルな船を一回り小さくしたようなサイズ、しかし形はそっくりな・・・『潜水艇』?
「「「・・・船?」」」
全員の声が綺麗にハモっていただろう。
ウンウンと頷いた竜兵は、満面の笑みにサムズアップで言うのだ。
「そう船。・・・但し、『潜水艇』じゃないよ。おいらが作ったのは・・・。」
溜める竜兵。
いやな・・・いやな予感がする!
「おいらが作ったのは『飛空艇』さ!飛ぶよ!」
ちょ!竜兵ぃぃぃ!?自重ぅぅぅ!
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一周年の節目にブクマも500になっていて「すわっ!?」と思ったり思わなかったりw
まぁすぐに減ったりするかもしれませんが^^;
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