・第二百五十話 『時縛りの秘法』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、突然すぎる展開に付いていけないだろう?
大丈夫、当事者であるはずの兄貴もだ。
さっきまで寝ていた、或いは話していた相手が石化だぞ?
攻撃の類じゃないのはわかるさ。
直前まで明らか『告死蝶』の効果を抑え込んでいたように見えたし、「時を止める」のセリフからも、ガウジ・エオがホナミに対する敵意から行った事じゃないのは一目瞭然。
それに彼の賢者が無意味な事をしたとも思えない。
ちゃんとした理由もあって、逆に時間は無かったのだろう。
それにしたって、情報が急すぎやしませんかね・・・。
壁画に手記に宝物庫。
重要な代物だってことだけは、殊更はっきりわかっているんだが・・・。
何と言うか、一も二も無くトリニティ・ガスキン行っとけ!的な。
■
ポツン、おれの手に残された一つのカギ。
誰しもが予想外、彼女の行動を押し留める隙など無かった。
それはまるで・・・最初からこうすることを決めていたかのように。
室内を沈黙が包む。
サラと撫子姉さんは突然の事に唖然としていた。
一番早くこっちの世界に戻ってきたのは当然ウララだ。
一息で距離を詰め、問答無用おれの胸倉を掴む。
「ちょっと!どういうことよ!?」
「いや、知らんがな・・・。」
きりっきりに吊り上がった眉で、身長差から見上げながらの威圧。
今にも殴り掛からんばかりの勢いとはこのことだろう。
なにゆえおれに喧嘩腰だし・・・心が弱い子なら泣いちゃうぞ?
むしろおれだってどういうことか知りたいわ。
「とりあえず、落ち着け。」
彼女の固く握りしめられた拳を端目、その肩にそっと手を乗せる。
怒りの表情が少しずつ納まり、ウララは目線を下げ「・・・ごめん。」と小さく呟いた。
おれの襟首を絞めていた力も和らぐ。
何とか・・・死線は免れた。
それはともかく。
ウララが落ち着くタイミングを見計らっていたのだろう。
石化したガウジ・エオとホナミを調べていたらしいサラと撫子姉さんが、揃ってこちらへ集合する。
目線で問いかければ、口々にわかっていることを報告してくれた。
「セイさん、二人は完全に石化しているわ。」
「生命活動は全く感じられないわ。まぁ・・・そのおかげで『告死蝶』のカウントダウンも止まってるみたいだけれど。」
とは言っても見たまんまだな。
二人もそれはわかっているらしく、何とも形容しがたい表情になっている。
これは彼女たちの責任じゃないんだが、状況が状況だ。
実際に間近で対応していたからこそ、止められなかった事に悔恨の念もある。
もちろんおれやウララだって同じだ。
そんな思いで口を開こうとした最中、ドンドンドンと荒々しくノックされる扉。
「皆さん!こちらにおいでか!?」
「ウララ!何事だ?」
騒ぎを聞きつけたのか、この世界のお偉方から声がかかった。
最初のはテンガ、次はクリフォードか。
女性陣の客室らしいからな・・・飛び込むのは控えたらしい。
それでもただ事じゃないのは理解しているのか、双方とも声に焦りが垣間見える。
ウララの「入って良いわよ。」と言う言葉で、扉を開けた上層部が凍り付く。
クリフォードを筆頭に、サビール氏とカリョウにテンガ。
中年男性四人、兄弟のように雁首をそろえて口がポカーン。
いち早く復活したのはこの国の王二人。
「「ホナミ様!」」
相変わらず謎の忠誠心で、ベッド上ホナミに向かって駆け出した。
だがしかし、その忠義は叶うことは無い。
「寄んなっ!」と叫んだウララ、無慈悲な回し蹴りで王様二人を蹴り飛ばす。
高速の横移動、一瞬で壁に叩きつけられたカリョウとテンガは、「「へぶらぁ!?」」とうめき声を上げた後、静かに崩れ落ちた。
「いや・・・やりすぎだろ?」
「顔がキモかったのよ!」
おれのツッコミもどこ吹く風、なぜか誇らしげなウララに頭痛。
額に冷汗を浮かべながら、仕切り直しとばかりゆっくり近づいてくるクリフォード。
それはまるで・・・ウララを刺激しないように注意しているかの如く。
ああ、これ知ってるぞ。
野生動物に近づくとき・・・いや、何でもないです。
ウララ、『女神の鉄槌』はいくらなんでもまずいと思うんだ。
「セイ、ウララ、一体何が起きたのか・・・教えてくれ。」
クリフォードに追随、コクコクと頷くサビール氏。
そうだな・・・余りの急展開で、さすがに場が荒れ過ぎだ。
一度状況確認するべきだろう。
■
一通り状況を説明し、ホナミとガウジ・エオの状態を確かめたクリフォードは、深々と呼気を吐き出した。
集ったメンバー・・・気絶中の二名以外を見渡した後、ゆっくりと口を開く。
「まぁ・・・目の前の情景通りとしか言いようが無いな。」
「・・・だよな。」
答えたおれの声も、実に苦み走った物だった。
しかし、クリフォードの言葉には続きがある。
「ただ・・・『真・賢者』が使ったのは『時縛りの秘法』で間違いなかろうよ。それだけが救いと言えば救いやもしれん。」
小首を傾げたウララが、「時縛りの・・・秘法?」と口の中で反芻する。
魔法名なんだろうが、おれも初耳だ。
サラや撫子姉さんに視線を送っても、小さく首を左右に振るだけ。
どうやら、この場でガウジ・エオの使った魔法に心当たりのある者は、クリフォードしか居ないようだ。
それが長命種であるエルフだからか、それとも『精霊王国』なんて言う魔法国家の王様だからかはわからん。
もしかしたら両方だからかもな。
「私もセリーヌ様から聞いたことがあるだけなのだがな・・・。」
そんな前置き一つ、クリフォードは語りだす。
「術者と対象の時間を止める魔法と聞いている。傍目にはただ石となっているようにしか見えないが、二人はちゃんと生きているぞ。私もセイが聞いたと言う『真・賢者』の発言・・・「時を止める」を聞いていなければ、わからなかったかもしれないな。この魔法、等級的には・・・神代級に分類されるらしい。」
なんともはや、随分と大層な代物だ。
おれは、答えを予想しつつもあえて問いかける。
ある意味ではウララにちゃんと聞かせるためだ。
「解けるのか?」
しばし石化した二人に目を向けたクリフォード。
ややあって、予想通りの答えが返ってくる。
「まぁ・・・本人以外には無理だな。神代級と言うのはその名の通り、神々の使った魔法だよ。それを容易く成した『真・賢者』も大概だが、実際他に使える者も居ない今、遺失級に分類されてもおかしくない物だ。」
「神・・・それなら!」
クリフォードの言葉尻を捕らえ、自身と撫子姉さんを指し示すウララ。
確かに・・・そうなんだが、だとしたら彼もこんな言い方はしないだろう。
「いや、ウララとナデシコでも駄目だ。ウララは神としての期間が短すぎるし、ナデシコは・・・分体なのだろう?それこそ・・・アールカナディア様なら・・・。」
「そん・・・な・・・。」
崩れ落ちそうになったウララを、撫子姉さんが抱きとめる。
サラも銀髪を操作して、後ろからそっと支えているようだ。
おい、ウララ?諦めるのが早すぎねーか?
どうもホナミと再会してから不安定だな。
思えばあのどえらいビンタも・・・喜びの裏返しだったのかもしれない。
おれは再度、エルフの王に問いかける。
「クリフォード、これは無制限なのか?それとも期限付き?実際問題・・・この二人を起こすにゃ、どうすればいい?」
「ふむ・・・。はっきりとした期限はわからんが・・・一月あるかどうか・・・ああ、本国に戻ったらセリーヌ様にお伺いを立ててみよう。それと、起こす際にはおそらく自分で起きるだろう。こんな姿でもさすがは『真・賢者』・・・しっかりと内部に魔力を感じる。」
「おーけー。じゃあおれのやることは単純だな。」
そんな質疑の応酬を、呆然と見ていたウララ。
「ちょっと・・・セイ!どういうこと?」
本当にこいつらしくない。
クリフォードが最初から言ってるだろうが・・・二人とも生きている、本人なら解けるって。
結局の所、行くべき場所もやるべき事も決まっている。
どうしてもおれに訪ねてもらいたいらしい『亡国』トリニティ・ガスキン。
そして、壁画と手記の確認に、宝物庫から『生命の花』と『回帰』のパーツを回収だ。
あとアレだな。
放浪癖が過ぎるメガネーマンの捕獲。
最後のが・・・一番面倒そうだ。
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