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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第五章 亡国トリニティ・ガスキン編
262/266

・第二百五十話 『時縛りの秘法』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、突然すぎる展開に付いていけないだろう?

 大丈夫、当事者であるはずの兄貴もだ。

 さっきまで寝ていた、或いは話していた相手が石化だぞ?

 攻撃の類じゃないのはわかるさ。

 直前まで明らか『告死蝶コールド・バタフライ』の効果を抑え込んでいたように見えたし、「時を止める」のセリフからも、ガウジ・エオがホナミに対する敵意から行った事じゃないのは一目瞭然。

 それに彼の賢者が無意味な事をしたとも思えない。

 ちゃんとした理由もあって、逆に時間は無かったのだろう。

 それにしたって、情報が急すぎやしませんかね・・・。

 壁画に手記に宝物庫。

 重要な代物だってことだけは、殊更はっきりわかっているんだが・・・。

 何と言うか、一も二も無くトリニティ・ガスキン行っとけ!的な。

 


 ■



 ポツン、おれの手に残された一つのカギ。

 誰しもが予想外、彼女の行動を押し留める隙など無かった。

 それはまるで・・・最初からこうすることを決めていたかのように。

 

 室内を沈黙が包む。

 サラと撫子姉さんは突然の事に唖然としていた。

 一番早くこっちの世界に戻ってきたのは当然ウララだ。

 一息で距離を詰め、問答無用おれの胸倉を掴む。


 「ちょっと!どういうことよ!?」


 「いや、知らんがな・・・。」


 きりっきりに吊り上がった眉で、身長差から見上げながらの威圧。

 今にも殴り掛からんばかりの勢いとはこのことだろう。

 なにゆえおれに喧嘩腰だし・・・心が弱い子なら泣いちゃうぞ?

 むしろおれだってどういうことか知りたいわ。


 「とりあえず、落ち着け。」


 彼女の固く握りしめられた拳を端目、その肩にそっと手を乗せる。

 怒りの表情が少しずつ納まり、ウララは目線を下げ「・・・ごめん。」と小さく呟いた。

 おれの襟首を絞めていた力も和らぐ。

 何とか・・・死線は免れた。


 それはともかく。

 ウララが落ち着くタイミングを見計らっていたのだろう。

 石化したガウジ・エオとホナミを調べていたらしいサラと撫子姉さんが、揃ってこちらへ集合する。

 目線で問いかければ、口々にわかっていることを報告してくれた。


 「セイさん、二人は完全に石化しているわ。」


 「生命活動は全く感じられないわ。まぁ・・・そのおかげで『告死蝶コールド・バタフライ』のカウントダウンも止まってるみたいだけれど。」


 とは言っても見たまんまだな。

 二人もそれはわかっているらしく、何とも形容しがたい表情になっている。

 これは彼女たちの責任じゃないんだが、状況が状況だ。

 実際に間近で対応していたからこそ、止められなかった事に悔恨の念もある。

 もちろんおれやウララだって同じだ。

 そんな思いで口を開こうとした最中、ドンドンドンと荒々しくノックされる扉。


 「皆さん!こちらにおいでか!?」


 「ウララ!何事だ?」


 騒ぎを聞きつけたのか、この世界のお偉方から声がかかった。

 最初のはテンガ、次はクリフォードか。

 女性陣の客室らしいからな・・・飛び込むのは控えたらしい。

 それでもただ事じゃないのは理解しているのか、双方とも声に焦りが垣間見える。

 ウララの「入って良いわよ。」と言う言葉で、扉を開けた上層部が凍り付く。

 クリフォードを筆頭に、サビール氏とカリョウにテンガ。

 中年男性四人、兄弟のように雁首をそろえて口がポカーン。

 

 いち早く復活したのはこの国の王二人。

 

 「「ホナミ様!」」


 相変わらず謎の忠誠心で、ベッド上ホナミに向かって駆け出した。

 だがしかし、その忠義は叶うことは無い。

 「寄んなっ!」と叫んだウララ、無慈悲な回し蹴りで王様二人を蹴り飛ばす。

 高速の横移動、一瞬で壁に叩きつけられたカリョウとテンガは、「「へぶらぁ!?」」とうめき声を上げた後、静かに崩れ落ちた。


 「いや・・・やりすぎだろ?」


 「顔がキモかったのよ!」


 おれのツッコミもどこ吹く風、なぜか誇らしげなウララに頭痛。

 額に冷汗を浮かべながら、仕切り直しとばかりゆっくり近づいてくるクリフォード。

 それはまるで・・・ウララを刺激しないように注意しているかの如く。

 ああ、これ知ってるぞ。

 野生動物に近づくとき・・・いや、何でもないです。

 ウララ、『女神の鉄槌』はいくらなんでもまずいと思うんだ。


 「セイ、ウララ、一体何が起きたのか・・・教えてくれ。」


 クリフォードに追随、コクコクと頷くサビール氏。

 そうだな・・・余りの急展開で、さすがに場が荒れ過ぎだ。

 一度状況確認するべきだろう。



 ■



 一通り状況を説明し、ホナミとガウジ・エオの状態を確かめたクリフォードは、深々と呼気を吐き出した。

 集ったメンバー・・・気絶中の二名以外を見渡した後、ゆっくりと口を開く。


 「まぁ・・・目の前の情景通りとしか言いようが無いな。」


 「・・・だよな。」


 答えたおれの声も、実に苦み走った物だった。

 しかし、クリフォードの言葉には続きがある。


 「ただ・・・『真・賢者』が使ったのは『時縛りの秘法』で間違いなかろうよ。それだけが救いと言えば救いやもしれん。」


 小首を傾げたウララが、「時縛りの・・・秘法?」と口の中で反芻する。

 魔法名なんだろうが、おれも初耳だ。

 サラや撫子姉さんに視線を送っても、小さく首を左右に振るだけ。

 どうやら、この場でガウジ・エオの使った魔法に心当たりのある者は、クリフォードしか居ないようだ。

 それが長命種であるエルフだからか、それとも『精霊王国』なんて言う魔法国家の王様だからかはわからん。

 もしかしたら両方だからかもな。

 

 「私もセリーヌ様から聞いたことがあるだけなのだがな・・・。」


 そんな前置き一つ、クリフォードは語りだす。


 「術者と対象の時間を止める魔法と聞いている。傍目にはただ石となっているようにしか見えないが、二人はちゃんと生きているぞ。私もセイが聞いたと言う『真・賢者』の発言・・・「時を止める」を聞いていなければ、わからなかったかもしれないな。この魔法、等級的には・・・神代級に分類されるらしい。」


 なんともはや、随分と大層な代物だ。

 おれは、答えを予想しつつもあえて問いかける。

 ある意味ではウララにちゃんと聞かせるためだ。


 「解けるのか?」


 しばし石化した二人に目を向けたクリフォード。

 ややあって、予想通りの答えが返ってくる。


 「まぁ・・・本人以外には無理だな。神代級と言うのはその名の通り、神々の使った魔法だよ。それを容易く成した『真・賢者』も大概だが、実際他に使える者も居ない今、遺失級に分類されてもおかしくない物だ。」


 「神・・・それなら!」


 クリフォードの言葉尻を捕らえ、自身と撫子姉さんを指し示すウララ。

 確かに・・・そうなんだが、だとしたら彼もこんな言い方はしないだろう。


 「いや、ウララとナデシコでも駄目だ。ウララは神としての期間が短すぎるし、ナデシコは・・・分体なのだろう?それこそ・・・アールカナディア様なら・・・。」


 「そん・・・な・・・。」


 崩れ落ちそうになったウララを、撫子姉さんが抱きとめる。

 サラも銀髪を操作して、後ろからそっと支えているようだ。

 おい、ウララ?諦めるのが早すぎねーか?

 どうもホナミと再会してから不安定だな。

 思えばあのどえらいビンタも・・・喜びの裏返しだったのかもしれない。

 おれは再度、エルフの王に問いかける。


 「クリフォード、これは無制限なのか?それとも期限付き?実際問題・・・この二人を起こすにゃ、どうすればいい?」


 「ふむ・・・。はっきりとした期限はわからんが・・・一月あるかどうか・・・ああ、本国に戻ったらセリーヌ様にお伺いを立ててみよう。それと、起こす際にはおそらく自分で起きるだろう。こんな姿でもさすがは『真・賢者』・・・しっかりと内部に魔力を感じる。」 


 「おーけー。じゃあおれのやることは単純だな。」


 そんな質疑の応酬を、呆然と見ていたウララ。


 「ちょっと・・・セイ!どういうこと?」


 本当にこいつらしくない。

 クリフォードが最初から言ってるだろうが・・・二人とも生きている、本人なら解けるって。 

 結局の所、行くべき場所もやるべき事も決まっている。

 どうしてもおれに訪ねてもらいたいらしい『亡国』トリニティ・ガスキン。

 そして、壁画と手記の確認に、宝物庫から『生命ライフリングフラワー』と『回帰』のパーツを回収だ。

 あとアレだな。

 放浪癖が過ぎるメガネーマンの捕獲。

 最後のが・・・一番面倒そうだ。




ここまでお読み頂きありがとうございます。

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