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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第五章 亡国トリニティ・ガスキン編
260/266

・第二百四十八話 『罠』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※新章開幕です。


 異世界からおはよう。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、君には到底想像もつかないだろう。

 兄貴たちを覆う空気が、暗雲立ち込めるそれであるだなんて。

 永き呪縛から解き放たれたメスティアの民も、祝福と共に歓待した各国の重鎮も、おれやウララ、竜兵だってそうだ。

 きっとそれは、重い十字架を背負ったホナミだって同じだっただろう。

 やはりいくばくかのしこりを残したまま、それでも前に進もうとした。

 そんな兄貴たちを嘲笑うように、奴の醜悪な罠が口を開けて待っていたんだ。

 おれたちはそうとも知らず、気付けば事態が動いていた。

 ここまで読んでいたのか?

 読んでいたのだろう・・・。

 そんな自問自答を繰り返すおれには、奴の不気味な含み笑いが聞こえるようだった。

 


 ■



 突発的に発生した宴会の翌日。

 宛がわれた一室で目を覚ませば、この世界に来てからやたら見慣れた光景。

 おれの仲間たちと幼女が同じベッドで就寝中。

 本日はさすがにホナミが居なかったのでホッとする。

 どうも『地球』組は三人で部屋に行ったらしい。

 いや、確かガウジ・エオも一緒だったな。

 何でもガールズトークがどうこうとか言っていた。

 ちょ、やめろ!そこは触れるな!彼の人物は女子認定しとけ?

 一万歳でも乙女らしいから!


 それはそれとして、ヴェルデとリューネはまだしも・・・なにゆえアイナとシルキーはここに居るのか。

 お前らもウララの方行けよ?

 ああ、ポーラとリライも居ないぞ。

 ポーレ長老と同室になったらしい。

 

 とりあえず、寝ている面々を起こさないようそっとベッドから抜け出る。

 今日中にはここを発たねばならないが、もう少し寝かせておいても良いだろう。

 おれがベッドから降りると、布団をかき分け漆黒の毛玉が飛んできた。


 「主、おはようである!」


 「おはよう、ロカさん。」


 当然お互いに小声だ。

 いつものようにひょいと抱え上げ、彼の定位置・・・おれの頭の上へ。

 おれたちは静かな城内へと移動した。


 散歩がてらゆっくりとしばし。

 明らか寒いだろう屋外テラスに、場違いTシャツ短パン姿の人影を見止める。

 

 (おいおい・・・。)


 心の中でツッコミを入れつつ、その少年・・・竜兵の下へ。

 空は驚くほど晴れていた。

 

 「寒くないのか?」


 まぁ聞いているおれだって、いつもの法衣だから大した厚着じゃない。

 

 「アニキ・・・。」


 何をするでもなく物憂げ、テラスに頬杖を突いて遠景を眺めていた竜兵。

 おれの問いに軽く頭を振り否定、どこか寂し気に微笑んだ。

 その表情に当たりを付ける。


 「ヴェルデには・・・言ったのか?」


 「・・・ううん。」


 予想はしていたがやはり。

 サカキから取り返した彼女の母親、『嵐竜ストームドラゴン』のカード。

 とりあえず一つの目標は果たしたと言えるのだろう。

 しかし、まだ大きな問題が残っている。


 「アニキ・・・おいら、どうしたら良いと思う?」


 そこに集約される問いは、おそらくこの先もおれたち全員の課題になる。

 つまり、ヴェルデの母親を『魔導書グリモア』に組み込み使役するのか?と言う事。

 おれもエデュッサやフェアラートを組み込んだが、言うなれば彼、彼女らは一度輪廻の輪からはずれてしまった存在だった。

 同様にバイアやアリアムエイダ、サラの時とも状況は違う。

 盟友ユニットになってしまえば、輪廻の輪からははずれてしまうだろうし、これから更に激しくなる『略奪者プランダー』との戦いに巻き込む形になる。

 アンティルールと言う無慈悲な仕様が適用されている世界で。

 きつい言い方になってしまうが、竜兵とて無駄カードを『魔導書グリモア』に入れておく余裕は無いはずだ。

 そして何より、竜兵がこの世界に居る間はまだしも、帰る時には彼も母親も失われてしまう。

 まだ幼いヴェルデには・・・酷な話。

 

 「お竜ちゃんの思うようにすればいいんじゃよ・・・。」


 簡単には答えの出ない問い、おれが何かを答える前に、背後から穏やかな声がかかった。


 「・・・じっちゃん。」


 長い髭を撫でながら、ゆっくりとテラスに現れたドラゴンの長老。

 瞳には慈愛を湛え、実の孫を見守るような空気で竜兵を導く。


 「そうだな。竜兵はどうしたいんだ?」


 ずるい聞き方かもしれない。

 彼の悩みを解消している訳でも無い。

 ただ何となく、竜兵の気持ちはすでに決まっている気がした。

 たぶん竜兵は、少しだけ背中を押して欲しかったように見えたから。


 一度目を閉じた竜兵。

 深呼吸、数秒後目を開けた彼の目に迷いは無かった。


 「おいら、ヴェルデとお母さんを会せてあげたい!」


 「なら、そうしろ。」


 「うんっ!」


 グッと握り拳を突き出す竜兵に、おれは頷いてグータッチ。

 そんな二人を頭の上座す漆黒の子犬と、仙人姿の老爺が見守っていた。



 ■



 昼に差し掛かる一歩手前。

 昨夜宴会に使われた大ホールは、すっかり片づけられている。

 無礼講で行われ、外国からの遠征組は元より、城内のほぼ全員が参加したはずなのだが・・・。

 この国のメイドさんはかなり優秀らしい。

 

 竜兵のお願いで呼び出されたメンバーはつつがなく集まった。

 ヴェルデにはまだ教えていない。

 不自然にならぬよう、おれの部屋で寝ていた仲間たちは全員集合だ。

 そんで、起こした直後からヴェルデが右腕、リューネが左腕に納まっている件はいかんともしがたい。

 もちろんロカさんも頭の上だぞ。

 おれだけえらい人口密集率なんだがー?

 竜兵から一定の距離を置いてめいめいが並ぶ。


 「おじさまー?お父様はどうかちたんですかー?」


 「お兄様?一体何が始まりますの?」


 両手の幼女から投げられる問いに、なんと答えるか思案しながら曖昧な笑顔。

 揃って小首を傾げる二人を宥めつつ、竜兵の動きを見守っている。 

 おれたちを一度見まわし、「よし!」と気合。

 竜兵が『図書館ライブラリ』を展開し、『魔導書グリモア』の納まる金箱を開く。

 『図書館ライブラリ』から抜き出した一枚のカードを、金箱の一枚と入れ替えシャッフル。

 虚空へとカタログを送還し、竜兵が告げる『魔導書グリモア』の一言。

 彼の目の前へ浮かび上がる、A4のコピー用紙サイズ・・・六枚のカード。

 手札を確認した竜兵とおれの視線が交錯。

 静かな首肯に、それが手札にあることを理解した。


 緊張しているのだろう。

 一度胸に手を当てて呼気を整える竜兵。

 おれを始め、事情を知るバイアにロカさん、アフィナやシルキーと言った面々には何とも言えない緊張感。

 竜兵が何をしようとしているかわかっているからだ。


 「・・・いくよ!」


 己を鼓舞するように、竜兵はカードへ指先を滑らせる。

 選択された二枚のカード、一枚が風を意匠化した紋章クレスト三つに変換された。

 そして灰色だったもう一枚は光だし・・・ヴェルデの母親を満を持して召喚。

 ・・・することはできなかった。

 『魔導書グリモア』に組み込むことも、ドローすることもできたのにだ。

 

 「うそ・・・だろ?なんで・・・こんなっ!」


 狼狽え取り乱す竜兵。

 召喚するはずだったカードを握りしめ、わなわなと肩を震わせる。

 尋常ならざる様子、その手元に感じる違和感。

 咄嗟、両手の幼女をアフィナとシルキーに押し付ける。


 「「ふぇぇ!?」」


 「ちょ!セイ!?」


 「セイさん!どうしたの!」


 急に放逐された幼女二人が泣きそうで、アフィナとシルキーが慌てているが、はっきり言って今はそれどころじゃあない。

 竜兵に駆け寄ったおれとバイア。


 「アニキ・・・!じっちゃん!」


 潤んだ瞳で見上げる竜兵が持っていたそのカード。

 本来のイラストは綺麗なエメラルド色のドラゴン、『嵐竜ストームドラゴン』のはずなのだ。

 それが今は、真っ黒な蜘蛛の巣に覆われていた。


 「なんと・・・!」


 バイアが絶句した瞬間、ゾワリと背筋を駆け巡る悪寒。

 おれは咄嗟に竜兵の手を払う。

 直後、カードから影絵のように伸びた蜘蛛の多脚が、わきゃっと空間を薙いだ。

 ギリギリ、一瞬遅れたらその毒牙は竜兵に襲い掛かっていただろう。

 しかし、それだけでは済まない。

 空中で姿勢制御したカードが、しっかりと脚から着地を決め、カサカサと床面を走り出す。

 滑るような移動、動きは正しく虫のそれ。


 「くそっ!ロカさん!」

 

 「承知!」


 逃げ出したカードを追いかけロカさんがダイブ。

 直撃コースの跳躍を、背中に目でも付いているように難なく躱すそのカード。


 「おのれ!面妖な!」


 当然だがおれも走り出す。


 「お竜ちゃん!」


 「じっちゃん!わかってる!」


 我に返りカードを追う竜兵とバイア。

 だが、そんなおれたちの焦りを嘲笑う如く、縦横無尽にカードは駆ける。 

 他のメンバーは、呆然とその光景を見ていることしかできない。

 最悪な事に、ホールと廊下を繋ぐ扉が開かれてしまった。

 案の定スルリ、その隙間を駆け抜けるカード。


 「ちぃ!」


 思わず漏れる舌打ちを他所に、扉を開けた人物・・・ウララが息も絶え絶えに立っていた。

 膝に手を突き呼気を整え叫ぶ。


 「ハァ!セイ!すぐに・・・来て!ガウジ・エオが呼んでるのよ!」


 「「ウララ(ウラ姉)!今はそれどころじゃ・・・!」」


 図らずもハモったおれと竜兵の言葉は、続いて発せられたウララのセリフで遮られた。


 「ホナミが・・・ホナミが倒れたのよ!!!」


 「なんだとっ!?」



 



ここまでお読み頂きありがとうございます。

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