・番外編 ある懲りない男の娘
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時間は少しだけ遡る。
セイたちが『略奪者』やノモウルザとの決着を着け、『真・賢者』の『眠りの霧』によって昏倒させられた直後。
それこそ各員が泥のように眠りこけている時の話だ。
場所は・・・セイの金箱の中。
そこは不思議な空間。
端が到底見通せない空間に、大小さまざまな小島が浮かんでいる。
特に大きな小島・・・本来は湖や草木の溢れる庭園的な場所であるそこは・・・。
現在、まるで隕石が降り注いだように荒廃した荒地、随所クレーターが顔を覗かせていたりする。
他の小島には共通点がある。
どの島にも扉がそそり立っているのだ。
もちろんそこに建物など無い。
ただ一つ、前から見ても後ろから見ても一枚の扉にしか見えないオブジェが鎮座していた。
そして、その扉には等しくネームプレートが架けられている。
島と島の間をトーン、トーンと軽やかに跳躍。
くすんだ金髪のショートカット、小柄な少年が移動を繰り返していた。
少年は一枚の扉の前に立ち、声をかける。
「カオスさーん?会議だってよー?」
コンコン、コンコンとノックを繰り返すが、扉の向こう・・・部屋の主である『愚者の王』カオスが顔を覗かせることは無い。
どころか、まるで抜け殻。
返事は元より、物音ひとつしないのだ。
声をかけた弓兵の少年・・・『嘆きの射手』フォルテは小首を傾げ、そこで途方に暮れてしまう。
「召集の鐘は聞こえたはずなんだけどなぁ・・・。」
先ほど『暗黒騎士』アルデバランが箱に帰ってきた。
毎度のことながらピンチに陥る主人の為、緊急会議が発令されたのだ。
今回の戦いにおける情報のすり合わせ、それと箱内で起きた内乱?の収拾を付けるため、ネームレベル・・・所謂称号持ちの盟友は参加が義務付けられている。
因みにこの会議、セイ以外の魔導師・・・少なくとも幼馴染たちの箱内では、普通に行われていることだったりする。
ただ・・・セイの場合は箱内に居る盟友全てが称号持ちなので、自ずと全員参加になってしまうのだが・・・。
それはともかく。
現在召喚中の『幻獣王』ロカ、及び『水の戦乙女』ヴィリス以外は強制参加の大事な会議。
そこへ約二名ほどの遅刻者がおり、急きょフォルテがお使いに出された訳である。
理由は・・・一番暇そうだったから。
(面倒だなぁ・・・これ連れて行かないと、僕の責任になるのー?)
ニート気質の彼が警戒するのは、桃髪の堕天使様だった。
彼女の機嫌は未だに最悪のまま。
逆らってはいけない・・・それだけはニートにもわかる。
本来庭園のような施設である浮島を、見るも無残な荒野へと変えた張本人の一人。
もちろん彼女にそんなつもりは全くなかったのだが、荒ぶる変態二人と悪ノリしたおっさん騎士やら放火魔に煽られた結果だった。
「若様・・・今こそ僕を呼んでよ?寝てるんでしょう・・・?」
強制的にベッドへ連行されたセイたちが、心底羨ましいと思うフォルテ。
その時、彼の弓兵として研ぎ澄まされた感覚が何かを捕らえた。
「あっちは確か・・・。」
フォルテが視線を向けた先。
そこにも同様の小島と扉、感じられたのはその扉の向こう側から。
またもや軽やかに跳躍、扉に架かったネームプレートを確認して背筋が凍る。
「ウソ・・・でしょ?」
そのネームプレートには・・・『女盗賊頭』エデュッサと書かれていた。
■
フォルテの嫌な予感が現実の物となる。
「これが・・・アタイ!?」
「そうだよ♪エディ!君は可愛いの!自信を持って♪」
「カオスおに・・・お姉さま。この衣装があればイアネメリラ様にも・・・勝てますか!?」
「エディ・・・あたぼうよ!こんな可愛いエディを見れば、お堅い旦那だって思わず【ピー】な【ピー】を【ピー】して【ピー】な訳♪そして・・・その流れで一緒に・・・ぐへへ。」
「カオスおに・・・お姉さま!」
「エディ!」
扉の向こう、聞こえてくる声は二つ。
当然部屋の主であるエデュッサと、フォルテが探していた人物カオス。
まさしく、今回箱内が荒れに荒れた元凶とも言うべき二人の変態。
(あの人たち!まだ懲りてないの!?)
どう考えても不穏なセリフ。
心の中で盛大に突っ込むフォルテを、誰が責められることだろう。
(あれは本当に酷かった・・・。)
本来であれば面倒事には関わりたくないフォルテも、旅の間に荒野と化した庭園に思うところが無い訳でも無い。
危険は承知、ひどく珍しい使命感に燃え、二人を止めるべく部屋の扉を開け放った。
そう、魔窟の蓋を開けてしまったのだ。
「二人とも!いい加減に・・・え?」
「きゃー!まだご主人様にも【ピー】してないのに!」
着替え中のエデュッサと視線が絡む。
ニヤニヤとペイントされた顔を歪めるカオス。
ヒョウ柄の変態同様着替え中である。
「フォルテ~♪乙女の部屋にノックも無く入るなんて・・・良い度胸だね♪」
そのセリフ、到底承服できない。
百歩譲って女性であるエデュッサは良い、しかしカオスの物言いはむしろ己を指しているように感じられてしまった。
カオスはあくまで・・・男の娘である!
「え?乙女?カオスさん・・・?」
不用意な発言が・・・彼の命運を分けた。
「ふふ・・・エディ!GO♪」
「わかりました!カオスおに・・・お姉さま!」
「ちょ!?なに!やめてぇー!」
「ふむ・・・素材は・・・中々♪」
しばし時は過ぎ・・・。
いつまでも集合しないエデュッサとカオス、そして二人を探しに出たまま帰ってこないフォルテを探し・・・エデュッサの部屋に現れたリザイアの目に入ってきたのは・・・。
ヒョウ柄のナース服を着たエデュッサと、青白ストライプの旧スク水・・・(胸にひらがなで「かおす」と書かれた物)を着たカオスが、鏡の前でポーズを決めている姿。
そして・・・セーラー服を無理矢理着せられ、床に崩れ落ちているフォルテだった。
「一体・・・お前らは・・・何を・・・!?」
戸惑うリザイアの耳に届いたのは、小さな小さなフォルテの呟き。
「鬱だ・・・死のう・・・。」
「ま、待て!早まるな!」