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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
253/266

・第二百四十四話 『金貨(コイン)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※『地球』側のお話です。


 その男は恐怖した。

 コンボによって無数、呼び出したはずの『剣闘奴隷スレイブソードマン』の群れが、ボロボロの帆船・・・『幽霊船ゴーストシップ』の弾幕によって、もろとも吹き飛ばされるのを見て。


 「だが!これなら!」


 相手が大型で来るなら、こちらにも考えはある。

 手札を二枚タップ、召喚のことわりを早口で。

 中空生み出された武骨なエンジンが、瞬時に巨大な装甲列車へと変化する。

 魔力で編み上げられた線路を、滑るように走り出す鉄の戦車。

 砲門はピタリ、『幽霊船ゴーストシップ』に狙いをつける。

 気を取り直した男は戦慄した。

 己が切りエース、『魔装甲列車』エルダーサインが、突然現れた海原と大渦、ストーンサークルの中へ呑み込まれていくのを見て。

  

 「降参ギブアップしませんか?」


 (いつのまにっ!?)


 ゆっくりと近付く人影に、その男は驚愕した。

 穏やかな声、見た目はシスターのような法衣を纏う丸眼鏡の美少女。

 こてんと傾げられた肩に、純朴そうな黒髪のおさげが揺れる。

 誰が見ても可愛らしい仕草、そのことが逆に不気味。

 彼女の行う戦法とは、余りにも空気が違うのだ。

 可愛らしい少女が使用するカード、一言で言い表すならば・・・蹂躙。

 自分の必勝パターンは悉く食い破られている。


 「う・・・あああ!!!」


 ズガガガガガッ!!

 反射的、携帯していた魔銃を乱射する男。

 男には、どうして自分がここまで追い込まれているのか理解できなかった。

 自分は『金貨コイン』の称号持ち、『聖杯カップ』と『ソード』が昇格して不在になった今、最もタロットの称号に近いはずである。

 それが・・・名も知らぬ少女に完全に翻弄されていた。


 (いや・・・待てよ・・・。)


 男は思う。

 そういえば、『聖杯カップ』も『ソード』も、女子高生では無かったか?

 男の脳裏に過ぎったのは二人の少女。

 先日の称号争奪戦で優勝した九条美祈くじょうみき、『世界ワールド』のミキと、準優勝の天京院飛鳥てんきょういんあすか、『ムーン』のアスカだった。


 銃撃の後、彼が見たのは銀色の壁と、その壁からちょこんと覗く無傷の少女。

 銀色の壁は少女の影に溶け込んで、彼女の全貌を見せつける。

 さっきまでは存在し無かった物体に、その男は絶望した。

 彼女の華奢な腕に余りにも似合わない異物。

 禍々しいとしか言いようの無い大鎌が、しっかりと握られていた。

 ヒュンと手元で一回転、天頂達した得物を振りかぶる少女。


 「ごめん、ね!」


 その一撃は、想像以上に速く鋭い物だった。


 (そういえば・・・あの子たちは三人組って言ってたか・・・まさか!『MAWまう』!?)


 迫り来る凶刃を前に、男が考えていたのはこんなこと。 

 戦闘結果を告げる無機質なアナウンス・・・響く。


 短いため息、どちらかと言えば安堵の吐息。

 そんな物憂げな呼気を洩らし、眼鏡でおさげな少女が繭型VRマシン・・・PUPAピューパから体を起こす。

 対面、ほぼ同時に起き上がってきたのは先ほどまで対戦中だった男性。


 (はふぅ・・・勝っちゃったな・・・。)


 眼鏡の少女・・・井上若菜いのうえわかなは一人ごちる。

 相手は『金貨コイン』の準称号持ち、とても『リ・アルカナ』を始めて半月・・しか経たない自分が勝てる相手ではないと思ったのだが・・・。

 蓋を開けてみれば、結果は圧倒的。

 観戦していた人々もさぞかし驚いたことだろう。

 しかし若菜が感じたのは勝利の喜びでも対戦の楽しさでも無く、戦闘中常に纏わりつくような違和感だった。


 (ほんと・・・何なんだろ・・・コレ。)


 実際には見当が付いている。

 それでも認めたくなかった、故に出てくるそんな言葉。


 「あの・・・。」


 対戦を受けてくれた男性が、恐る恐ると言った体で声をかけてきた。

 面倒はいやだな・・・そう思った若菜、先んじて思い切り頭を下げると、「対戦してもらってありがとうございました!」と言い捨て逃げるように退室する。


 「待って!君ってもしかして・・・『MAWまう』のわかにゃん!?」


 (やっぱり!もう!)


 「人違いです!じゃ!」


 若菜は脱兎のごとく走り去った。


 

 ■



 慌てて次世代ゲームセンター『サプライズ』から飛び出せば、級友二人と黒スーツにサングラスの男が待っていた。


 「わかなちゃん!すごかったね!」


 「ええ、ワタクシも驚きですわ!」

 

 「うーん・・・どうにも私の実力って感じがしないんだけど・・・。」


 待っていてくれた級友、美祈とアスカに苦笑を浮かべ、手を取り合う三人。

 どこか気持ちが和む、心穏やかな時間は脆くも崩れ去る。

 後方から大勢の走る音、叫ぶ声。


 「おい!『MAWまう』が来てるらしいぞ!?」


 「さっき、わかにゃんが『金貨コイン』を倒したらしい!」


 「「「探せーーー!!!」」」


 黒スーツの男・・・アスカのSSシークレットサービスである山本が、「お嬢様方、お早く・・・!」と言って車の後部ドアを開ける。

 促されるままピンクのロールスロイスに乗り込めば、そこには先客が居た。


 筋肉でピッチピチに盛り上がったYシャツと紺色のスラックス。

 明らか殺人者の眼を気だるげに片方だけ開いた男・・・『戦車チャリオット』のブラッド・伊葉。

 そしてその対面、不機嫌そうに目を逸らす黒髪オールバックに眼鏡の男。

 

 「え・・・宗一郎・・・さん?」


 美祈はいち早くその男性の正体に気付く。

 『法王ハイエロファント』の神館宗一郎かんだてそういちろう

 世界ランキング、一位と二位の揃い踏み。

 伊葉に師事している女子高生三人もこれには流石に面喰う。

 「まぁ座んな。」と伊葉、少女たちが座席に着くと、車体はゆっくり動き出した。


 静かな車内、牽制し合うかのように誰も言葉を発しない。

 今、最も混乱しているのは間違いなく若菜だろう。

 車内には『法王ハイエロファント』、『戦車チャリオット』、そして近しい存在であるはずの美祈、アスカも『世界ワールド』に『ムーン』。

 更には運転手でさえ『ハングドられたマン』の山本。

 実に・・・『地球』の『リ・アルカナ』トップランカー、そのほとんどが一堂に会した形。

 どうにも場違い、そんな思考しか出てこない。

 重苦しい沈黙、破ったのはやはりこの男。


 「問題が起きた。」


 運転手である山本と事情を知っている宗一郎以外、少女たちの視線は発言者・・・伊葉の下へ。

 このメンバーで話す問題と言うなら・・・それは当然、異世界のことなのだろう。

 各人が心の中で当たりを付けつつ二の句を待つ。

 伊葉はおもむろ、自身のYシャツ胸ポケットに手を入れる。

 取り出されたのはいつもくしゃくしゃの煙草・・・では無く、『リ・アルカナ』のカードが二枚。

 一枚は・・・砂漠を煌々と照らす太陽・・・『太陽サン』のカード。

 そしてもう一枚、王酌を構え宝冠を頂く女性・・・『女帝エンプレス』のカード。

 

 「これは・・・。」


 思わず若菜の口から洩れる呟き。

 余りにも似ている、自分の持つ『デス』のカードと。

 

 「やっぱり・・・そうなんですか?」


 問いかける美祈の声も硬く、アスカに至っては顔色を失っている。

 「ああ。」と端的に答えた伊葉、それが意味することを社内の面々は知っている。

 つまり・・・異世界転移したトップランカー、その魂とでも言うべきものがカードに宿っていると。

 黙していた宗一郎が口を開く。


 「渡嘉敷哲とかしきてつ、『太陽サン』のテツが有する記憶には、九条聖くじょうひじり北野竜兵きたのりゅうへい、そして・・・鈴原保奈美すずはらほなみの姿が確認された。だが・・・桜庭春さくらばはる、『女帝エンプレス』のハルに関しては何も見えなかった。」


 「姉さん!ホナミ姉さんが見えたんですの!?」

 

 叫んだのはアスカ、ずっと安否のわからなかった姉の情報に堪えきれなかったのだ。

 伊葉の手から奪うように『太陽サン』のカードを引ったくり、指を這わせるアスカ。

 密かに便乗、美祈と若菜もそれに倣う。

 カードから流れてくる情報が三人を翻弄した。


 「姉さんは・・・生きていると思いますか?」


 ハラハラと涙を零し、誰にともなく問うアスカに宗一郎は残酷だった。


 「わからん。無駄な希望は持つな。」


 「おい!そんな言い方ねぇだろ?」

 

 「それが・・・事実だ。」


 宗一郎の突き放したようなセリフ、しかしその裏にある気持ちも理解しながら伊葉は諌める。

 だが、彼女には全く効いていなかった。

 そう・・・『悪魔デビル』の妹、九条美祈には。


 「落ち着いてください。アスカちゃんも・・・ね?お兄ちゃんと竜君はホナミさんを守っていたみたい。きっと無事なはずだよ。」


 美祈に肩を抱かれ、少しずつ落ち着きを見せるアスカ。

 若菜は美祈の強さに驚きながら、彼女たちの親友となった自分を誇りに思った。

 美祈は宗一郎、伊葉の両名をしっかと見据える。


 「それより今は・・・伊葉さんが言った問題と言うのが、重要だと思うんです。これが・・・問題じゃないですよね?」


 このカード自体は確かに驚愕だろう。

 しかし、宗一郎まで引っ張り出して始める話だろうか?

 答えは・・・否。

 ならばもっと深刻な、重要な話が待っている。

 確信を込め、その瞳に宿る強固な意志。

 伊葉は彼女と血の繋がらないはずの兄・・・『悪魔デビル』と呼ばれる少年を想起した。

 

 「問題ってのは・・・PUPAピューパのことだ。」


 『リ・アルカナ』のカードを含め、謎組織が作り上げたと言われるVRシステム。

 そこに言及しなければいけない時が近付いていた。







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