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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
252/266

・第二百四十三話 『宴』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


※遅ればせながら、活動報告に1000pt突破の感謝を込めてSSを上げます。

覗いてやって下さいorz


 異世界からこんばんは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、思えば何時振りだろうか?

 この国に来て以来、兄貴ずっと忙しかったからなぁ・・・。

 最後はポーラの里で、寄せ鍋をしたのが最後かもしれない。

 宴会料理ねぇ・・・何を作った物だろう・・・。

 人数が常識的だったら、それこそ唐揚げとかで事足りるんだけどな。

 500人前のかつ丼ですらあほかと思ったのに、ウララが言うには800人前。

 思わず「あっハイ。」しちゃったけど、物理的に無理じゃない?

 もはや宴じゃなくて戦後の炊き出しってレベルなんだけど。

 おれの腕は二本しかありませんよ。

 竜兵やシルキー、撫子姉さんもきっと手伝ってくれるだろう。

 それでもオーバースペックじゃねぇかな。

 そもそも800人前ってどういう計算なの?

 余ったら間違いなく自分の『魔導書グリモア』に収納するつもりだろう。

 おい、ウララ!目を逸らすな!



 ■



 山積みの食材を呆然と見つめ考える。

 ついウララの勢いに流され請け負ってしまったが、800人前の宴会料理ってなんぞ?

 

 「おれも・・・一応、戦闘後で疲れてるんだがな・・・。」


 苦笑いで呟けば、仲間たちも心配気な視線を送ってきた。

 そこで「ふふん!」と、フラットな胸を反らしたウララは、『範囲回復エリアヒール』と唱えて魔法カードを行使する。

 室内が柔らかな癒しの光に包まれて、おれ自身胸の中に清々しいぬくもりを感じた。

 「ほぉ・・・。」と目を細めたガウジ・エオが印象的だ。


 そして、「これで文句無いだろう?」と目線が雄弁に語るウララさん。

 回復魔法はあくまで傷の回復である。

 疲労は回復しねーんだよ・・・。

 ともあれ、ここで悩んでいても仕方ない。

 800人前ってのは如何ともしがたいが、ご要望通り宴会料理?でも作りますか。

 正直おれも腹が減ってるしな。


 それにしても・・・あほみたいにぽこぽこ具現化しやがって・・・。

 調理場に運ぶにも一苦労、やむおえず再度『カード化』していく。

 どう考えても二度手間、なぜカードのまま渡さなかったし。

 粗方カードに纏め考える。

 さすがに一人じゃしんどいぞ。 

 メンバーを見回し、お手伝いを募るとしよう。


 「竜兵、シルキ・・・。」


 「任せて!」


 「セイさん、私も手伝うよ。」


 皆まで言わずとも返ってくる承諾の声。

 お前ら・・・まったく、涙がちょちょ切れちゃうぜ。(死語)

 それにひきかえ・・・順調に女子力を磨いている馬の人と比べてどうだ!

 アフィナとウララは、おれが声をかける間もなく一瞬で目線を逸らし、その後一切こっちを見ない。


 「せーちゃん!撫子も手伝うよ!」


 認識外から絡めとられ、ウララとは逆ベクトルで大変なことになっている胸に、おれの腕を埋める撫子姉さん。

 うん、抜けない。 

 おれは「あ、ああ。助かるよ。」と答えることしかできない。


 「そんじゃ・・・あたしも少し手伝ってやるかね?」


 意外なところから参加の声。

 ビキニで赤銅色な、この世界一な賢者様である。


 「ガウジ・エオ・・・良いのか?」


 (料理できるのか・・・?)


 どう見ても雰囲気がウララ側の人間だ。

 ウララの料理?考えるな、感じろ。

 おれの不遜な思考をまたしても読んだのか、「あ゛?」と睨みを利かせた後、椅子から立ち上がり寄ってくるガウジ・エオ。


 「花嫁修業の年季が違うってことを見せてやるよ。」


 冗談めかして言ってるが、ありゃ目がマジだぞ!

 花嫁修業て・・・貴女たしか・・・一万・・・いかん!

 彼女の周りに、なんかどす黒いオーラが見えるような気がする。

 そしてガウジエオはおもむろ、撫子姉さんがホールドしたのと反対側の腕を抱え込んだ。

 「さて、行こうか?」なんて言いながら、おれの顔を悪戯っぽく覗き込んでくる賢者様は、到底一万歳なんて言う年齢には見えない。

 更に力を込める撫子姉さん、シルキーまで背中に抱き着いてきた。


 「ちょ!動けん!離れ・・・!」


 「セイのバカーーー!」


 「なに!鼻の下!伸ばしてんのよ!」


 直後、横合いから飛んできた風の塊と光の矢が、おれの頬を掠めて後方へ。

 犯人は残念ハーフエルフと暴力女神。


 「おまっ!殺す気か!」


 「ウルサイ!さっさと行けー!」


 ウララの頭上に膨れ上がる光の球体。

 なにあれ、おれ死ぬの?

 ちょっと・・・脳内に走馬燈が流れかけた。 


 「アニキ!先に行って!ここはおいらがぁ!」


 竜兵に後押され、おれたちは慌てて部屋から飛び出した。

 外に出た途端、顔を見合わせ笑い出す撫子姉さんとガウジ・エオ。

 そんな二人に釣られ、シルキーも笑顔になっていた。


 「ふふ、やっぱりせーちゃんの側は楽しいね!」


 「全くだ、こんなに笑ったのは何時以来だろうねぇ?」


 「お二人とも、悪趣味だよ・・・ふふ。」


 何がそんなに面白かったのかは、おれにはさっぱりわからない。

 いや・・・飯作るだけじゃん?

 まぁ、女性陣がえらく楽しそうだから良いか。

 おれたちは城内に居た氷人族のメイドさんを捕まえ、調理場へと案内してもらうのだった。



 ■



 迷った結果、一品目はポトフに決めた。

 量的に汁ものが断然楽だし、この地域は野菜が貴重だからな。

 材料切って煮るだけだし、最悪追加もしやすいのが理由だ。


 ポーラの里でもらったベーコンを分厚くカット、大鍋にオリーブオイルを入れ軽く炒める。

 そこへ女性陣が、玉ねぎ、じゃがいも、人参、キャベツなんかの野菜を、かなり大きめに切って投入していく。

 撫子姉さんは普通に上手だし、シルキーも拙いながら頑張っている。

 まぁ量が量だ、切っても切っても終わりは見えない。


 意外とって言ったら怒るだろうが、粗方の予想は良い方で裏切られた。

 うん、賢者様がすげーんだ。

 さすがは年季の入った?花嫁修業。

 ガウジ・エオの手際が本当に素晴らしい。

 おれ・・・よりは遅いけど、十分常人の域を越えてるな。


 「なんだい?惚れちまったのかい?」


 思わずその手元に目線が吸い寄せられ、気付いた彼女からそんな軽口。


 「・・・ああ、さすがだな。」


 「いやだね、冗談だよ!照れるじゃないか!」  


 素直に称賛したら、突然頬を染めそっぽを向いた。

 これアレか?自分からグイグイ行くのは良いけど、相手に来られると引いちゃう的な・・・。

 おれが賢者様の意外な弱点に驚いていると・・・。


 「セイさん!私も頑張るっ!」


 「撫子も負けないよー!」


 なぜか撫子姉さんとシルキーに火が点いた。


 材料をほぼほぼ投入、自家製コンソメの素を加え、塩コショウで味を調える。

 最後にウインナーをどぼどぼと落とし、あとはじっくり煮込むだけ。

 腹から脳髄へ、食欲をそそる香りが広がる。


 しばらくして竜兵も合流。 

 さて、もう一品といこうか。

 最初に見本を見せ、とりあえず女性陣には生地を作っていてもらう。

 

 「これは・・・パンか?」


 「まぁ・・・似たようなもんだな。」


 ガウジ・エオの質問には適当に答えた。

 説明するにはちょっと難しい。

 撫子姉さんだけは何を作るかすぐにわかったようで、「パーティーの定番だねー。」と笑っていた。


 「竜兵、窯みたいなものは作れるか?」


 「うん!任せてー!」


 竜兵に大体の設計を話し頼んでみる。

 この国の調理場にはその手の設備が無かったんだよな。


 「アニキ!出来たよー!」


 言われて目を向ければ、確かにおれが頼んだ通りの窯が出来上がっていた。


 「・・・おおぅ・・・。」


 この間およそ10秒ほどである。

 彼はもう、完全に自重をやめてしまった!


 出来上がった生地を薄く薄く伸ばし、その上に自家製トマトソースを隙間なく塗る。

 スライスした玉ねぎ、トマト、ピーマンやソーセージをふんだんに。

 もちろんチーズもたっぷり乗せる。

 ここまで来たらわかるよな?え?最初からわかってた?

 安直ですまんな、そう・・・ピザだ。


 トッピングが終わった一枚を窯へ入れ、次の一枚へ。

 有難いことにスモークサーモンやアスパラガスなんかもある。

 エビや貝類の海鮮は・・・サムズアップしている竜兵の提供か。

 思わずニヤリ、顔を見合わせ笑いあった。


 おれの作業を見ていた面々も、おもいおもいのトッピングを施しピザを焼く。

 こんがりと、チーズが焦げる香ばしい香り。

 一枚目に焼き上げたピザを窯から出せば、その場に居た全員の視線が釘付けだった。

 

 (これは・・・たまらん!)


 ゴクリ、つばを飲み込んだ音は誰が発した物か。

 あの丸のこみたいなのが付いたぼっこ、なんて言うの?

 おれはその名称を知らないので、とりあえず包丁でカット。

 三角に切り分けられたピザを各自の前へ。


 「味見だ。」


 うん、言い訳である。

 旨いのはわかってる、もう我慢できなかった。

 それぞれがおもむろ、手を伸ばし頬張ったのは同時。


 「「「「「うっま・・・!あっつ!!!」」」」」


 いや、そりゃそうだわ、焼きたてだもの。

 とにかく・・・弾は出来た・・・。

 気を抜いた時、それは予想外の方向からやってくる。


 「おじさまーーー!!!」


 「お兄様ーーー!!!」


 ドゥフ!ドゥフ!


 「おうふ!」


 腹に直撃した衝撃は二発、幼女の弾丸が二つ。

 ドラゴンな幼女と人魚な幼女が、おれの腹部に纏わりついていた。


 「セイ様!僕もお手伝いします!」

 

 どうやら、ウサ耳の弟も来ていたらしい。

 続いてドヤドヤと、数人見知った奴らが厨房へと入ってくる。


 「リューネ!パパを置いていかないでくれ!」


 「殿下!ヴェリオンは目途が付きました!」


 「セイ、今回もお疲れさまだ。」


 「セイさん・・・?ウララ様がこちらに居るって・・・。」


 「セイ!また旨い物が食えると孫に聞いたが!」


 保護者?なのだろうか・・・。

 『深海王国』ヴェリオンの宰相サビール氏、おれの盟友ユニット『水の戦乙女』ヴィリス、『精霊王国』フローリアの『神官王』クリフォード、ウララの盟友ユニットでもある『銀髪の天女』サラ、そしてポーラの祖父・・・『北海峡』にある里の長ポーレ長老。

 人族、人魚、エルフやら天使・・・獣人、どんだけ!?

 もう宰相やら王様に関しては、フットワークが軽すぎて引くわ。

 そして、各人の瞳に宿るのは・・・食欲。

 残り一枚のピザの切れ端に、全員の視線が集中していた。


 「「「「「それは・・・余っているのかな?」」」」」 


 「お前ら・・・さっさと宴会場に行け!」


 「「「「「そんな!?」」」」」


 声合わせるほどの事なの?

 宴は・・・予想以上の規模になるのかもしれない。




 


ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※メスティア編はあと三話、地球、秋広、『略奪者プランダー』で終わる予定です。

その後SSを数話、『亡国』トリニティ・ガスキン編へ移行します。

 

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