・第二百四十三話 『宴』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、思えば何時振りだろうか?
この国に来て以来、兄貴ずっと忙しかったからなぁ・・・。
最後はポーラの里で、寄せ鍋をしたのが最後かもしれない。
宴会料理ねぇ・・・何を作った物だろう・・・。
人数が常識的だったら、それこそ唐揚げとかで事足りるんだけどな。
500人前のかつ丼ですらあほかと思ったのに、ウララが言うには800人前。
思わず「あっハイ。」しちゃったけど、物理的に無理じゃない?
もはや宴じゃなくて戦後の炊き出しってレベルなんだけど。
おれの腕は二本しかありませんよ。
竜兵やシルキー、撫子姉さんもきっと手伝ってくれるだろう。
それでもオーバースペックじゃねぇかな。
そもそも800人前ってどういう計算なの?
余ったら間違いなく自分の『魔導書』に収納するつもりだろう。
おい、ウララ!目を逸らすな!
■
山積みの食材を呆然と見つめ考える。
ついウララの勢いに流され請け負ってしまったが、800人前の宴会料理ってなんぞ?
「おれも・・・一応、戦闘後で疲れてるんだがな・・・。」
苦笑いで呟けば、仲間たちも心配気な視線を送ってきた。
そこで「ふふん!」と、フラットな胸を反らしたウララは、『範囲回復』と唱えて魔法カードを行使する。
室内が柔らかな癒しの光に包まれて、おれ自身胸の中に清々しいぬくもりを感じた。
「ほぉ・・・。」と目を細めたガウジ・エオが印象的だ。
そして、「これで文句無いだろう?」と目線が雄弁に語るウララさん。
回復魔法はあくまで傷の回復である。
疲労は回復しねーんだよ・・・。
ともあれ、ここで悩んでいても仕方ない。
800人前ってのは如何ともしがたいが、ご要望通り宴会料理?でも作りますか。
正直おれも腹が減ってるしな。
それにしても・・・あほみたいにぽこぽこ具現化しやがって・・・。
調理場に運ぶにも一苦労、やむおえず再度『カード化』していく。
どう考えても二度手間、なぜカードのまま渡さなかったし。
粗方カードに纏め考える。
さすがに一人じゃしんどいぞ。
メンバーを見回し、お手伝いを募るとしよう。
「竜兵、シルキ・・・。」
「任せて!」
「セイさん、私も手伝うよ。」
皆まで言わずとも返ってくる承諾の声。
お前ら・・・まったく、涙がちょちょ切れちゃうぜ。(死語)
それにひきかえ・・・順調に女子力を磨いている馬の人と比べてどうだ!
アフィナとウララは、おれが声をかける間もなく一瞬で目線を逸らし、その後一切こっちを見ない。
「せーちゃん!撫子も手伝うよ!」
認識外から絡めとられ、ウララとは逆ベクトルで大変なことになっている胸に、おれの腕を埋める撫子姉さん。
うん、抜けない。
おれは「あ、ああ。助かるよ。」と答えることしかできない。
「そんじゃ・・・あたしも少し手伝ってやるかね?」
意外なところから参加の声。
ビキニで赤銅色な、この世界一な賢者様である。
「ガウジ・エオ・・・良いのか?」
(料理できるのか・・・?)
どう見ても雰囲気がウララ側の人間だ。
ウララの料理?考えるな、感じろ。
おれの不遜な思考をまたしても読んだのか、「あ゛?」と睨みを利かせた後、椅子から立ち上がり寄ってくるガウジ・エオ。
「花嫁修業の年季が違うってことを見せてやるよ。」
冗談めかして言ってるが、ありゃ目がマジだぞ!
花嫁修業て・・・貴女たしか・・・一万・・・いかん!
彼女の周りに、なんかどす黒いオーラが見えるような気がする。
そしてガウジエオはおもむろ、撫子姉さんがホールドしたのと反対側の腕を抱え込んだ。
「さて、行こうか?」なんて言いながら、おれの顔を悪戯っぽく覗き込んでくる賢者様は、到底一万歳なんて言う年齢には見えない。
更に力を込める撫子姉さん、シルキーまで背中に抱き着いてきた。
「ちょ!動けん!離れ・・・!」
「セイのバカーーー!」
「なに!鼻の下!伸ばしてんのよ!」
直後、横合いから飛んできた風の塊と光の矢が、おれの頬を掠めて後方へ。
犯人は残念ハーフエルフと暴力女神。
「おまっ!殺す気か!」
「ウルサイ!さっさと行けー!」
ウララの頭上に膨れ上がる光の球体。
なにあれ、おれ死ぬの?
ちょっと・・・脳内に走馬燈が流れかけた。
「アニキ!先に行って!ここはおいらがぁ!」
竜兵に後押され、おれたちは慌てて部屋から飛び出した。
外に出た途端、顔を見合わせ笑い出す撫子姉さんとガウジ・エオ。
そんな二人に釣られ、シルキーも笑顔になっていた。
「ふふ、やっぱりせーちゃんの側は楽しいね!」
「全くだ、こんなに笑ったのは何時以来だろうねぇ?」
「お二人とも、悪趣味だよ・・・ふふ。」
何がそんなに面白かったのかは、おれにはさっぱりわからない。
いや・・・飯作るだけじゃん?
まぁ、女性陣がえらく楽しそうだから良いか。
おれたちは城内に居た氷人族のメイドさんを捕まえ、調理場へと案内してもらうのだった。
■
迷った結果、一品目はポトフに決めた。
量的に汁ものが断然楽だし、この地域は野菜が貴重だからな。
材料切って煮るだけだし、最悪追加もしやすいのが理由だ。
ポーラの里でもらったベーコンを分厚くカット、大鍋にオリーブオイルを入れ軽く炒める。
そこへ女性陣が、玉ねぎ、じゃがいも、人参、キャベツなんかの野菜を、かなり大きめに切って投入していく。
撫子姉さんは普通に上手だし、シルキーも拙いながら頑張っている。
まぁ量が量だ、切っても切っても終わりは見えない。
意外とって言ったら怒るだろうが、粗方の予想は良い方で裏切られた。
うん、賢者様がすげーんだ。
さすがは年季の入った?花嫁修業。
ガウジ・エオの手際が本当に素晴らしい。
おれ・・・よりは遅いけど、十分常人の域を越えてるな。
「なんだい?惚れちまったのかい?」
思わずその手元に目線が吸い寄せられ、気付いた彼女からそんな軽口。
「・・・ああ、さすがだな。」
「いやだね、冗談だよ!照れるじゃないか!」
素直に称賛したら、突然頬を染めそっぽを向いた。
これアレか?自分からグイグイ行くのは良いけど、相手に来られると引いちゃう的な・・・。
おれが賢者様の意外な弱点に驚いていると・・・。
「セイさん!私も頑張るっ!」
「撫子も負けないよー!」
なぜか撫子姉さんとシルキーに火が点いた。
材料をほぼほぼ投入、自家製コンソメの素を加え、塩コショウで味を調える。
最後にウインナーをどぼどぼと落とし、あとはじっくり煮込むだけ。
腹から脳髄へ、食欲をそそる香りが広がる。
しばらくして竜兵も合流。
さて、もう一品といこうか。
最初に見本を見せ、とりあえず女性陣には生地を作っていてもらう。
「これは・・・パンか?」
「まぁ・・・似たようなもんだな。」
ガウジ・エオの質問には適当に答えた。
説明するにはちょっと難しい。
撫子姉さんだけは何を作るかすぐにわかったようで、「パーティーの定番だねー。」と笑っていた。
「竜兵、窯みたいなものは作れるか?」
「うん!任せてー!」
竜兵に大体の設計を話し頼んでみる。
この国の調理場にはその手の設備が無かったんだよな。
「アニキ!出来たよー!」
言われて目を向ければ、確かにおれが頼んだ通りの窯が出来上がっていた。
「・・・おおぅ・・・。」
この間およそ10秒ほどである。
彼はもう、完全に自重をやめてしまった!
出来上がった生地を薄く薄く伸ばし、その上に自家製トマトソースを隙間なく塗る。
スライスした玉ねぎ、トマト、ピーマンやソーセージをふんだんに。
もちろんチーズもたっぷり乗せる。
ここまで来たらわかるよな?え?最初からわかってた?
安直ですまんな、そう・・・ピザだ。
トッピングが終わった一枚を窯へ入れ、次の一枚へ。
有難いことにスモークサーモンやアスパラガスなんかもある。
エビや貝類の海鮮は・・・サムズアップしている竜兵の提供か。
思わずニヤリ、顔を見合わせ笑いあった。
おれの作業を見ていた面々も、おもいおもいのトッピングを施しピザを焼く。
こんがりと、チーズが焦げる香ばしい香り。
一枚目に焼き上げたピザを窯から出せば、その場に居た全員の視線が釘付けだった。
(これは・・・たまらん!)
ゴクリ、つばを飲み込んだ音は誰が発した物か。
あの丸のこみたいなのが付いたぼっこ、なんて言うの?
おれはその名称を知らないので、とりあえず包丁でカット。
三角に切り分けられたピザを各自の前へ。
「味見だ。」
うん、言い訳である。
旨いのはわかってる、もう我慢できなかった。
それぞれがおもむろ、手を伸ばし頬張ったのは同時。
「「「「「うっま・・・!あっつ!!!」」」」」
いや、そりゃそうだわ、焼きたてだもの。
とにかく・・・弾は出来た・・・。
気を抜いた時、それは予想外の方向からやってくる。
「おじさまーーー!!!」
「お兄様ーーー!!!」
ドゥフ!ドゥフ!
「おうふ!」
腹に直撃した衝撃は二発、幼女の弾丸が二つ。
ドラゴンな幼女と人魚な幼女が、おれの腹部に纏わりついていた。
「セイ様!僕もお手伝いします!」
どうやら、ウサ耳の弟も来ていたらしい。
続いてドヤドヤと、数人見知った奴らが厨房へと入ってくる。
「リューネ!パパを置いていかないでくれ!」
「殿下!ヴェリオンは目途が付きました!」
「セイ、今回もお疲れさまだ。」
「セイさん・・・?ウララ様がこちらに居るって・・・。」
「セイ!また旨い物が食えると孫に聞いたが!」
保護者?なのだろうか・・・。
『深海王国』ヴェリオンの宰相サビール氏、おれの盟友『水の戦乙女』ヴィリス、『精霊王国』フローリアの『神官王』クリフォード、ウララの盟友でもある『銀髪の天女』サラ、そしてポーラの祖父・・・『北海峡』にある里の長ポーレ長老。
人族、人魚、エルフやら天使・・・獣人、どんだけ!?
もう宰相やら王様に関しては、フットワークが軽すぎて引くわ。
そして、各人の瞳に宿るのは・・・食欲。
残り一枚のピザの切れ端に、全員の視線が集中していた。
「「「「「それは・・・余っているのかな?」」」」」
「お前ら・・・さっさと宴会場に行け!」
「「「「「そんな!?」」」」」
声合わせるほどの事なの?
宴は・・・予想以上の規模になるのかもしれない。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
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※メスティア編はあと三話、地球、秋広、『略奪者』で終わる予定です。
その後SSを数話、『亡国』トリニティ・ガスキン編へ移行します。