・第二百四十二話 『贖罪』
いつもお読み頂きありがとうございます。
ブクマ励みになります^^
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、これがあらましである。
兄貴の言いたかったこと・・・わかるよね?
事件って言っても神様や異世界転移のことじゃなかった!
いや、ある意味では神様のご乱心なんだが!
女性とは言えだ、おれ並みの高身長で十分に肉付きの良いホナミが、ビンタ一発で回転しながら吹っ飛び・・・かつ壁にぶつかってやっと止まるとか・・・。
全員口ポカーンですよ。
「寝てんじゃないわよぉ!」
ちょ!?寝てないよ!お前がぶっ飛ばしたんだからね?
どこからつっこんでいいのか。
もうね、あのバイオレンスジャンキーこそが、『悪魔』なんじゃねーかと思う訳で。
あれのどこが『正義の女神』なのか、アルカ様を小一時間問い詰めたい所である。
■
すでにボヤいたが、前述の通りである。
突如乱入したウララは、そのビンタでホナミをぶっ飛ばす。
空中であり得ない回転、直線上の壁に叩きつけられ床へ落ちる。
目を覆いたくなるような一撃、あれは・・・痛い!
「ぐ・・・ぐぅう・・・。」
ドサリ、倒れ蹲るホナミが呻く。
そんな彼女に、ツインテールの悪鬼が近づいていく。
身体に纏った怒気が、まるで殺意的な何かに目覚めちゃった雰囲気である。
「寝てんじゃないわよぉ!」
どう見ても寝ていない、あえて言うなら倒れてるんだ。
「ウララ!落ち着け!」
このままでは・・・ホナミが殺される!
そう考えたのはおれだけじゃなかったらしい。
「何をする!」
「ホナミ様を放せ!」
ホナミの胸倉を掴み上げ、無理矢理引き摺り起こしたウララに、飛びかかるカリョウとテンガ。
振り向きもせず一言、「邪魔!」の声、同時に吹き飛ぶ二人の王。
(おいおい!?)
ウララ先生、相当頭に血が上っていらっしゃる。
ホナミもそうだが、そいつらも一応病み上がりなんだぞ!
慌てて二人を受け止めに走れば、竜兵も同様に動いていた。
ホナミよりは手加減されてるが・・・それでもカリョウ、テンガ二人とも白目を剥いて気絶してんだが。
とりあえず二人を横たえウララを止める。
なんかゴンッ!とか聞こえたが、たぶんキノセイって奴だろう。
「お前!やり過ぎだぞ!?」
「あ゛?」
振り返ってのガン付け、普通に怖い。
おれの腕の中、ロカさんがぶわっと毛を逆立てる。
なんすか、これ・・・矛先がおれに向いちゃったりするんですかね?
しかし、ウララはおれを一瞬だけ確認すると、「あんたは後で説教だから。」と言い捨て、再度ホナミに注視した。
おれは後で説教らしい。
美祈、兄貴を導いてくれ!
タイミングが良いのか悪いのか、ウララの怒気に当てられ目を覚ます仲間たち。
まだ意識がはっきりしないのだろう。
何度も目を擦り、恐ろしい波動の発生源に気付き二度見。
その後視線を彷徨わせ、おれの姿を見止めてこそこそと逃げてくる。
もとい、一人逃げ遅れた。
ウララのことを知っているアフィナとシルキーは咄嗟に退避した。
しかし、今回初対面のポーラは腰が抜けたのか、ずりずりと後ずさった後必死の抵抗、掛け布団の中に潜り込む。
だが悲しいかな、ガクブル震える彼の丸尻尾が丸見えである。
まぁ隠れる意味も必要も無いんだがな。
とりあえず、あのモフモフは癒されるからそのままにしておこう。
「セイ、どうしてウララが?」
「それにあの怒りよう・・・。」
アフィナとシルキーが口々尋ねてくるが、おれも答えを持ち合わせていない。
むしろおれが聞きたいくらいだ。
当然事情を知っているであろう竜兵に、自然一同の視線が集まり、おれも目線で問いかける。
ガウジ・エオも興味深げにウララを見つめていた。
竜兵がいきさつを語る。
「おいら・・・青白のおっちゃんたちに頼んで、転移ゲートの設置をさせてもらったんだ。ウラ姉もこっちが落ち着いたら顔を出すって言ってたから。ゲートの設置が終わって、「ドラゴンホットライン」でウラ姉に連絡して・・・こっちの状況を話してたんだけど、ホナミを捕まえたって所でウラ姉が突然飛んできたんだよ。その後は・・・。」
なるほど、わかります。
廊下ツカツカツカー、扉ババァーン!「あたしが来たわ!」からのビンタ、バチィーン!な。
いやごめん、わからねぇわ。
行動のルートはわかったけど、その意味がさっぱりです。
ホナミの胸倉を掴んだウララ、そのきつすぎる視線から目を逸らすホナミ。
彼女の頬にはくっきりとモミジが浮かんでいる。
ウララは入ってきた時とは全く違う落ち着いた声、しかし有無をいわせぬ圧力で静かに言った。
「ねぇホナミ。今の一発は、この世界であんたが迷惑をかけた全ての人々からの一発よ。でも・・・こんなもんで許されるとは思わないでよね。あんたに事情があるように、この世界の住人にだって命が、家族があるのよ。償うのは容易じゃないわよ?これは、この世界の『正義の女神』としての言葉よ。」
「・・・それは・・・。」
ウララの言葉に声を詰まらせるホナミ。
彼女の瞳にまた涙が溜まっていく。
「・・・そして。これは同郷の人間として。」
ウララが続けた言葉、振り上げられる掌。
ホナミは思わず身を縮こまらせて目を瞑る。
そりゃそうだ、あんなビンタ食らったらトラウマになってもおかしくない。
しかし、ウララが放った二度目のビンタは想像以上に柔らかく、ホナミの頬をペチリと叩く。
そのまま動かなくなるウララを不審に思い、恐る恐る目を開けたホナミは固まった。
「なん・・・で!あんた!最初からあたしたちを頼んないのよ!?竜兵に会ったんでしょ!セイが居ることも知ってたんでしょ!?あたしや竜兵が頼りなくても、なんで・・・なんでさっさとセイに相談するなりしなかったのよ!」
号泣、その大きな瞳からボロボロと涙を溢しウララが訴える。
「ごめ・・・ごめんなさ・・・い!ウララ!私・・・!」
その涙は伝播して、ホナミはウララに抱き着き泣いた。
これはおれの勝手な推測だが、おそらくウララは・・・神として罰を下したんだ。
『正義の女神』直々の罰、そして贖罪の約束と・・・ホナミの罪の意識を少しでも軽減するため。
それがビンタってのはどうかと思わないでもないが。
■
ワンワンと声を上げて泣き、しばらくして二人は眠ってしまった。
もうホナミ、今日どんだけ泣き眠りを繰り返しているのか。
アフィナとシルキーが二人をベッドに引き上げ、ポーラが「こ、怖かったべぇ・・・。」と呟きながらおれの下へ。
ロカさんもポーラを出迎え、「吾輩もである!」と追随していた。
大丈夫、おれもだ。
そんなおれたちの様子を見ていた賢者様が、突然「堪えきれない。」とばかり笑い出した。
「あは、あははは、あーっはっは。」
呆然、クエスチョンマークを頭に浮かばせたおれたちが見守る中、「悪りぃ、悪りぃ。」と手を振るガウジ・エオ。
(なんかこう、馬鹿にされてる感じなんだが・・・。)
ジト目を向ければ目尻の涙を拭いつつ言い訳を始めた。
「いやね。あんたらの行動が、まるっきり秋広の言う通りだったもんでさ!こういうのなんて言うんだっけ?中坊日記?教育番組かって!」
「「・・・・・・。」」
もはや憮然とするしか無いだろう。
あのバカ(秋広)は、この世界の賢者様に一体何を教えているのか。
おれと竜兵はアイコンタクトで語り合った。
あいつを見つけたら、必ず正座させると・・・。
そのタイミングで新たな来訪者。
コンコンとノック、「お竜ちゃん、連れてきたぞい。」とバイアの声。
「あ!おかえり、じっちゃん!」
竜兵がすぐに開いた扉の先、控えていたのは声の主であるバイアと・・・。
高下駄を履き、妙になまめかしく着崩した前合わせの着物、まるで花魁のような衣装。
羊のような巻角を頭に生やした赤い髪の褐色美女。
「せーちゃん!それにりゅーちゃんも!うららちゃんとホナミも居るの!?」
バイアの背後からひょこり、顔を覗かせ嬉々として『地球』の魔導師たちの名を呼ぶ彼女。
『狂気の女神』アギマイラ、またの名を栗林撫子。
おれたち幼馴染にとっては近所のホンワカお姉さんで、不治の病で亡くなりアギマイラに転生した人物だった。
「なで姉・・・!」
一足飛び、竜兵が撫子姉さんに飛びつく。
それを「あらあらー?」なんて言いながら受け止める姉さん。
外見は完全に異種族そのものなんだが、二人が醸し出す空気は間違いなく姉弟のそれだ。
なんか、見てるだけで優しい気持ちになれる。
明るい声に反応したのか、ウララとホナミも目を覚ます。
「撫子姉さん!」
「なで・・・しこ!?」
ベッドから飛び降り、手を繋いだまま撫子姉さんに駆け寄る二人。
忙しいなお前ら。
その後、青白の王様も復活し、色々な事が決まった。
と言っても今までとそう変わりは無いんだが。
『氷の大陸』メスティアが国交を回復してフローリア、シャングリラ、ヴェリオンの三国同盟に加入。
すでに竜兵がやらかしているが、転移ゲートの設置で連携を密にする。
各国復興作業に当たりつつ、来たる帝国との決戦に向けて準備。
おれたちはと言えば・・・。
ウララはフローリア、シャングリラの二国を防衛。
竜兵がヴェリオンで同様に防衛を務める。
そしてここ、メスティアは撫子姉さんが守護することになった。
青白の王様二人は「是非、ホナミ様に!」って吠えていたが、ウララが一言。
「馬鹿言ってんじゃないわよ!ホナミはあたしが預かるわ!」
で、沈黙した。
色々と詰めなきゃいけない話もあれば、ホナミの心情をウララが慮ったってのもあるだろう。
たぶん、おれや竜兵よりケアしてやることができるはずだ。
そしておれは・・・。
「流石に明日ってのは無理だしな。出発は明後日、今度こそあのバカ(秋広)を捕獲する!」
決意を新たにしていた訳だが。
「寂しく・・・なるべな。」
「ヴォフゥ・・・。」
ポーラ、リライとはここでお別れ。
おれもモフモフと別れるのは・・・辛い!
ポーラとは握手、リライは撫でることで気持ちを表す。
べ、別に肉球が触りたいんじゃないんだからねっ!
逆に・・・なぜか、この人が付いてくることになった。
「まぁ・・・生きてりゃいつかまた会えるんじゃないの?それはそうと・・・あたしゃ、セイに付いてくことにしたからね?よろしく頼むよ。」
気まぐれな『真・賢者』様、突然の同行を表明。
この先どうなることやら・・・。
少々湿っぽくなった空気を割り割くように、無駄に綺麗で通る声。
「こんな時は宴よ!」
お前はどこの海賊船船長だよ・・・。
まぁ、これもあいつなりの気遣いってやつなのかね?
「セイ!何してるのよ!?さっさと料理の準備をしなさいっ!」
あ・・・それっておれの役目なのね?
目の前にドサドサと具現化される食材の山、山、山!
(ちょ?どんだけ作らせるんだよ!?)
「シャングリラでは500人前だったかしら・・・今日は800人前で行きましょう!」
あっハイ・・・。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
良ければご意見、ご感想お願いします。