表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
251/266

・第二百四十二話 『贖罪』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^

 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、これがあらましである。

 兄貴の言いたかったこと・・・わかるよね?

 事件って言っても神様や異世界転移のことじゃなかった!

 いや、ある意味では神様のご乱心なんだが!

 女性とは言えだ、おれ並みの高身長で十分に肉付きの良いホナミが、ビンタ一発で回転しながら吹っ飛び・・・かつ壁にぶつかってやっと止まるとか・・・。

 全員口ポカーンですよ。

 「寝てんじゃないわよぉ!」

 ちょ!?寝てないよ!お前がぶっ飛ばしたんだからね?

 どこからつっこんでいいのか。

 もうね、あのバイオレンスジャンキーこそが、『悪魔デビル』なんじゃねーかと思う訳で。

 あれのどこが『正義の女神』なのか、アルカ様を小一時間問い詰めたい所である。



 ■



 すでにボヤいたが、前述の通りである。

 突如乱入したウララは、そのビンタでホナミをぶっ飛ばす。

 空中であり得ない回転、直線上の壁に叩きつけられ床へ落ちる。

 目を覆いたくなるような一撃、あれは・・・痛い! 


 「ぐ・・・ぐぅう・・・。」

 

 ドサリ、倒れ蹲るホナミが呻く。

 そんな彼女に、ツインテールの悪鬼が近づいていく。

 身体に纏った怒気が、まるで殺意的な何かに目覚めちゃった雰囲気である。


 「寝てんじゃないわよぉ!」


 どう見ても寝ていない、あえて言うなら倒れてるんだ。

 

 「ウララ!落ち着け!」


 このままでは・・・ホナミが殺される!

 そう考えたのはおれだけじゃなかったらしい。


 「何をする!」


 「ホナミ様を放せ!」


 ホナミの胸倉を掴み上げ、無理矢理引き摺り起こしたウララに、飛びかかるカリョウとテンガ。

 振り向きもせず一言、「邪魔!」の声、同時に吹き飛ぶ二人の王。


 (おいおい!?)


 ウララ先生、相当頭に血が上っていらっしゃる。

 ホナミもそうだが、そいつらも一応病み上がりなんだぞ!

 慌てて二人を受け止めに走れば、竜兵も同様に動いていた。

 ホナミよりは手加減されてるが・・・それでもカリョウ、テンガ二人とも白目を剥いて気絶してんだが。

 とりあえず二人を横たえウララを止める。

 なんかゴンッ!とか聞こえたが、たぶんキノセイって奴だろう。


 「お前!やり過ぎだぞ!?」


 「あ゛?」


 振り返ってのガン付け、普通に怖い。

 おれの腕の中、ロカさんがぶわっと毛を逆立てる。

 なんすか、これ・・・矛先がおれに向いちゃったりするんですかね?

 しかし、ウララはおれを一瞬だけ確認すると、「あんたは後で説教だから。」と言い捨て、再度ホナミに注視した。

 おれは後で説教らしい。

 美祈、兄貴を導いてくれ!


 タイミングが良いのか悪いのか、ウララの怒気に当てられ目を覚ます仲間たち。

 まだ意識がはっきりしないのだろう。

 何度も目を擦り、恐ろしい波動の発生源に気付き二度見。

 その後視線を彷徨わせ、おれの姿を見止めてこそこそと逃げてくる。


 もとい、一人逃げ遅れた。

 ウララのことを知っているアフィナとシルキーは咄嗟に退避した。

 しかし、今回初対面のポーラは腰が抜けたのか、ずりずりと後ずさった後必死の抵抗、掛け布団の中に潜り込む。

 だが悲しいかな、ガクブル震える彼の丸尻尾が丸見えである。

 まぁ隠れる意味も必要も無いんだがな。

 とりあえず、あのモフモフは癒されるからそのままにしておこう。


 「セイ、どうしてウララが?」


 「それにあの怒りよう・・・。」

 

 アフィナとシルキーが口々尋ねてくるが、おれも答えを持ち合わせていない。

 むしろおれが聞きたいくらいだ。

 当然事情を知っているであろう竜兵に、自然一同の視線が集まり、おれも目線で問いかける。

 ガウジ・エオも興味深げにウララを見つめていた。

 竜兵がいきさつを語る。


 「おいら・・・青白のおっちゃんたちに頼んで、転移ゲートの設置をさせてもらったんだ。ウラ姉もこっちが落ち着いたら顔を出すって言ってたから。ゲートの設置が終わって、「ドラゴンホットライン」でウラ姉に連絡して・・・こっちの状況を話してたんだけど、ホナミを捕まえたって所でウラ姉が突然飛んできたんだよ。その後は・・・。」


 なるほど、わかります。

 廊下ツカツカツカー、扉ババァーン!「あたしが来たわ!」からのビンタ、バチィーン!な。

 いやごめん、わからねぇわ。

 行動のルートはわかったけど、その意味がさっぱりです。


 ホナミの胸倉を掴んだウララ、そのきつすぎる視線から目を逸らすホナミ。

 彼女の頬にはくっきりとモミジが浮かんでいる。

 ウララは入ってきた時とは全く違う落ち着いた声、しかし有無をいわせぬ圧力で静かに言った。


 「ねぇホナミ。今の一発は、この世界であんたが迷惑をかけた全ての人々からの一発よ。でも・・・こんなもんで許されるとは思わないでよね。あんたに事情があるように、この世界の住人にだって命が、家族があるのよ。償うのは容易じゃないわよ?これは、この世界の『正義の女神』としての言葉よ。」


 「・・・それは・・・。」


 ウララの言葉に声を詰まらせるホナミ。

 彼女の瞳にまた涙が溜まっていく。


 「・・・そして。これは同郷の人間として。」

 

 ウララが続けた言葉、振り上げられる掌。

 ホナミは思わず身を縮こまらせて目を瞑る。

 そりゃそうだ、あんなビンタ食らったらトラウマになってもおかしくない。

 しかし、ウララが放った二度目のビンタは想像以上に柔らかく、ホナミの頬をペチリと叩く。

 そのまま動かなくなるウララを不審に思い、恐る恐る目を開けたホナミは固まった。


 「なん・・・で!あんた!最初からあたしたちを頼んないのよ!?竜兵に会ったんでしょ!セイが居ることも知ってたんでしょ!?あたしや竜兵が頼りなくても、なんで・・・なんでさっさとセイに相談するなりしなかったのよ!」


 号泣、その大きな瞳からボロボロと涙を溢しウララが訴える。


 「ごめ・・・ごめんなさ・・・い!ウララ!私・・・!」


 その涙は伝播して、ホナミはウララに抱き着き泣いた。

 これはおれの勝手な推測だが、おそらくウララは・・・神として罰を下したんだ。

 『正義の女神』直々の罰、そして贖罪の約束と・・・ホナミの罪の意識を少しでも軽減するため。

 それがビンタってのはどうかと思わないでもないが。



 ■



 ワンワンと声を上げて泣き、しばらくして二人は眠ってしまった。

 もうホナミ、今日どんだけ泣き眠りを繰り返しているのか。

 アフィナとシルキーが二人をベッドに引き上げ、ポーラが「こ、怖かったべぇ・・・。」と呟きながらおれの下へ。

 ロカさんもポーラを出迎え、「吾輩もである!」と追随していた。

 大丈夫、おれもだ。

 そんなおれたちの様子を見ていた賢者様が、突然「堪えきれない。」とばかり笑い出した。

 

 「あは、あははは、あーっはっは。」


 呆然、クエスチョンマークを頭に浮かばせたおれたちが見守る中、「悪りぃ、悪りぃ。」と手を振るガウジ・エオ。


 (なんかこう、馬鹿にされてる感じなんだが・・・。)


 ジト目を向ければ目尻の涙を拭いつつ言い訳を始めた。


 「いやね。あんたらの行動が、まるっきり秋広の言う通りだったもんでさ!こういうのなんて言うんだっけ?中坊日記?教育番組かって!」


 「「・・・・・・。」」


 もはや憮然とするしか無いだろう。

 あのバカ(秋広)は、この世界の賢者様に一体何を教えているのか。

 おれと竜兵はアイコンタクトで語り合った。

 あいつを見つけたら、必ず正座させると・・・。


 そのタイミングで新たな来訪者。

 コンコンとノック、「お竜ちゃん、連れてきたぞい。」とバイアの声。


 「あ!おかえり、じっちゃん!」


 竜兵がすぐに開いた扉の先、控えていたのは声の主であるバイアと・・・。

 高下駄を履き、妙になまめかしく着崩した前合わせの着物、まるで花魁のような衣装。

 羊のような巻角を頭に生やした赤い髪の褐色美女。


 「せーちゃん!それにりゅーちゃんも!うららちゃんとホナミも居るの!?」


 バイアの背後からひょこり、顔を覗かせ嬉々として『地球』の魔導師たちの名を呼ぶ彼女。

 『狂気の女神』アギマイラ、またの名を栗林撫子くりばやしなでしこ

 おれたち幼馴染にとっては近所のホンワカお姉さんで、不治の病で亡くなりアギマイラに転生した人物だった。


 「なで姉・・・!」


 一足飛び、竜兵が撫子姉さんに飛びつく。

 それを「あらあらー?」なんて言いながら受け止める姉さん。

 外見は完全に異種族そのものなんだが、二人が醸し出す空気は間違いなく姉弟のそれだ。

 なんか、見てるだけで優しい気持ちになれる。


 明るい声に反応したのか、ウララとホナミも目を覚ます。

 

 「撫子姉さん!」

 

 「なで・・・しこ!?」


 ベッドから飛び降り、手を繋いだまま撫子姉さんに駆け寄る二人。

 忙しいなお前ら。


 その後、青白の王様も復活し、色々な事が決まった。

 と言っても今までとそう変わりは無いんだが。

 『氷の大陸』メスティアが国交を回復してフローリア、シャングリラ、ヴェリオンの三国同盟に加入。

 すでに竜兵がやらかしているが、転移ゲートの設置で連携を密にする。

 各国復興作業に当たりつつ、来たる帝国との決戦に向けて準備。

 おれたちはと言えば・・・。


 ウララはフローリア、シャングリラの二国を防衛。

 竜兵がヴェリオンで同様に防衛を務める。

 そしてここ、メスティアは撫子姉さんが守護することになった。

 青白の王様二人は「是非、ホナミ様に!」って吠えていたが、ウララが一言。


 「馬鹿言ってんじゃないわよ!ホナミはあたしが預かるわ!」


 で、沈黙した。

 色々と詰めなきゃいけない話もあれば、ホナミの心情をウララが慮ったってのもあるだろう。

 たぶん、おれや竜兵よりケアしてやることができるはずだ。

 

 そしておれは・・・。


 「流石に明日ってのは無理だしな。出発は明後日、今度こそあのバカ(秋広)を捕獲する!」


 決意を新たにしていた訳だが。


 「寂しく・・・なるべな。」


 「ヴォフゥ・・・。」


 ポーラ、リライとはここでお別れ。

 おれもモフモフと別れるのは・・・辛い!

 ポーラとは握手、リライは撫でることで気持ちを表す。

 べ、別に肉球が触りたいんじゃないんだからねっ!


 逆に・・・なぜか、この人が付いてくることになった。


 「まぁ・・・生きてりゃいつかまた会えるんじゃないの?それはそうと・・・あたしゃ、セイに付いてくことにしたからね?よろしく頼むよ。」


 気まぐれな『真・賢者』様、突然の同行を表明。

 この先どうなることやら・・・。

 

 少々湿っぽくなった空気を割り割くように、無駄に綺麗で通る声。


 「こんな時は宴よ!」


 お前はどこの海賊船船長だよ・・・。

 まぁ、これもあいつなりの気遣いってやつなのかね?


 「セイ!何してるのよ!?さっさと料理の準備をしなさいっ!」


 あ・・・それっておれの役目なのね?

 目の前にドサドサと具現化される食材の山、山、山!

 

 (ちょ?どんだけ作らせるんだよ!?)


 「シャングリラでは500人前だったかしら・・・今日は800人前で行きましょう!」


 あっハイ・・・。

 







ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ