・第二百四十一話 『魔王』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、ガクブルである。
兄貴がお伝えしたいのは、とんでもない事件に巻き込まれている件について。
ああ、うん・・・異世界転移の時点でとんでもないよね。
まぁそっちはそれなりにこう・・・うまくやっているとは言えないが、一応の目標に向けて頑張れてるんじゃないかなって。
・・・ごめん、もっと頑張るよ。
涙目は堪える・・・許してくださいorz
それもこれも・・・あのネガネーマンが悪いと思うんだ!
まぎらわしいわ、一人でずんずんどっか行っちゃうわ、どう考えてもこの世界を満喫している。
違う、そうじゃない。
秋広のオタンコナス(死語)は、再追跡するからいいとして・・・。
ドガッシャア!
「ちょ!?落ち着け!」
■
意外な所から口に上ったのは、暫定的次の目的地、『亡国』トリニティ・ガスキン。
最初にその情報をもたらしたのはホナミだ。
彼女も驚いたのか、俯いていた顔を上げおれを見る。
「『壁画』・・・か?」
コクリ頷くホナミに、ガウジ・エオは「『壁画』・・・?」と小首を傾げる。
彼女の態度を不審に思いながらも詳しい事情を確かめた。
その際に出てきた『レイベース帝国』の最高戦力、『剣聖』デュオル老と『皇太子』デューンの名前で更に絶句することとなる。
一体何がどうしてそんな二人と同行しているのか、ガウジ・エオも詳しい経緯はよくわかっていないらしい。
と言うか・・・「あたしゃ帝国が嫌いだからね。正直興味が無い!」とのお言葉。
いや、そんな「ドヤァ」って顔で胸を逸らされてもだな・・・?
「アニキ・・・あきやんは、何を目指しているの?」
「・・・さぁな。」
おれが聞きたいわ。
ガウジ・エオがわかっているのは、彼らの目的と秋広が協力するつもりであること。
トリニティ・ガスキンへ向かっているのは事故だが、『トリニティ・ガスキン正史録』を目的としている以上、詳しく調査するのではないかと言う予想。
「・・・『トリニティ・ガスキン正史録』。」
聞いたことは無い。
カードゲームの知識には引っかからない重要そうなアイテム。
おれの呟きを捉えたガウジ・エオが捕捉するように洩らした言葉、それこそがおれと竜兵には今日最大の驚きだった。
「それと・・・『ソウイチロウの手記』ね。」
「ソウ・・・イチロウ!?」
聞き捨てならない名前、おれと竜兵は目を見張る。
しかし、同様の反応をしていいはずのホナミは黙ったまま。
「知っていたって顔ね?」
それに気づいたガウジ・エオに、やはり無言で頷くホナミ。
「そのソウイチロウは・・・。」
「そうね。セイの考えている通りよ。」
賢者様にあっさりと肯定されたのは『リ・アルカナ』トップランカー、世界ランキングの第一位である『法王』神館宗一郎の存在だった。
一体・・・その正史録と手記には何が書かれているのだろう。
当然の問いとして考えていたであろうホナミが、重い口を開く。
「私が見た『壁画』には、化け物と相対する三人の姿が描かれていたわ。『法王』神館宗一郎、『戦車』ブラッド・伊葉、そして・・・『審判』堤浩二。」
彼女が語ったのは『壁画』の内容だった。
「まさか・・・そんな物が残ってたって言うのかい!?」
最初こそどこか胡散臭そうにホナミを眺めていたが、『壁画』の内容を聞くにつれ驚愕を隠さず叫ぶガウジ・エオ。
どうもこの情報、彼女でさえ知らなかった話らしい。
だが、それ以上に混乱していたのはおれだろう。
「ちょ・・・ちょっと待ってくれ!」
「アニキ・・・!」
背筋がうすら寒くなり必死、手で制したおれに視線が集まる。
この中では竜兵だけが理解できるその気持ち。
それは神館宗一郎よりも、ツツジの本名よりも驚愕の名前。
『戦車』ブラッド・伊葉の名前だった。
おれは・・・夢の中、『地球』と思われる世界で、美祈が伊葉さんと何度も会っているのを思い出す。
抱えていてもわからない、幸いここにはこの世界一の賢者が居ることを考え、おれはガウジ・エオに全てを語る。
「なるほどね・・・そりゃ、『地球』だと思って間違いないよ?なんせ、ソウイチロウとイバは・・・帰ったからね。」
「かえ・・・った!」
竜兵の震え声、おれの法衣がぎゅっと握りしめられる。
それ以上の反応を示したのはホナミだ。
がばり、突然ガウジ・エオに跪き土下座。
「お願い!お願いします!その方法を教えてください!帰らなきゃ、私帰らなきゃいけないんです!妹が・・・!アスカが!」
涙声で懇願するホナミだが、ガウジ・エオはため息一つ、「その方法はもう無いんだよ。」と告げる。
「そんなっ!どうして!?確かに私はこの世界にひどいことを・・・!」
涙ながら取り乱すホナミを遮り賢者は言う。
「違うんだよ!あたしゃあんたが何をしてようが知りゃしない。その方法は・・・『魔王』を倒すことだったんだ!もう『魔王』はあいつらが倒したのさ。そして『魔王』を生み出す『魔神』は・・・20年前にギルド『伝説の旅人』が倒した。」
後半に行くにつれ、どこか悲し気になっていくガウジ・エオを前に、ホナミは「・・・そんな。」と呟き崩れ落ちた。
しかし、『魔王』に『魔神』・・・どんどんカードゲームに実装されなかった存在が現れる。
(いや待て・・・『魔王』?)
おれの『魔導書』には・・・『魔王』を冠したカードがある。
思考に落ち込みかけるも目くばせで促され、おれは『回帰』のことを説明する。
何と言うか、帰る手段があることはホナミに言っていたんだが、実際に聞くまではどうにも不安だったのだろう。
それが実際に帰った人間が居ると聞いて暴発した。
これはアフターケアを怠ったおれの責任かもしれない。
まぁ・・・時間も無かったんだけどな。
遺失級転移魔法『回帰』・・・その内容、難易度には表情を曇らせるも、ガウジ・エオの「ああ、あれね。いけるんじゃないかい?」の軽すぎるセリフで、少しだけ落ち着きを取り戻したホナミ。
彼女が落ち着いた後、賢者様はギロリと睨みを利かす。
「それよりも・・・その『壁画』に描かれていたのはそれだけかい?」
目力に怯みながらホナミは答える。
「・・・いえ、そこには碑文がありました・・・。魔法文字で・・・私には読めなかったけど、あれはイバやソウイチロウが帰ったことの説明だったんでしょうか?」
ガウジ・エオはつと目線を宙に上げ、パチンと一つ指を鳴らす。
その手に紙とペンが現れ、ホナミへと無造作、渡して寄越す。
「魔法文字か・・・全部じゃなくてもいい。思い出せる部分を書けるかい?」
「はい・・・。」と返し、ホナミが思い出し思い出し、記号のような魔法文字を書いていく。
書き終わったらしく渡された紙を見て、ガウジ・エオは心底いやそうにこめかみを押さえた後こう言った。
「これはね、こう書いてあるんだよ。「世界を救いし異世界の勇者、イバ、ソウイチロウ、地球へ帰る。ツツジ、世界の管理者として『リ・アルカナ』に残る・・・。」 ってね。」
「「世界の・・・管理者?」」
余りにも不穏な物を感じて、一旦休憩を挟まざるおえなかった。
ホナミもガタガタ震えて寝込んじまったしな。
■
おれや竜兵、ホナミから遅れること数時間。
そうこうする内にロカさんと二人の王が目を覚ます。
「主っ!」
「ここは・・・?」
「終わった・・・と言うことか?」
起きがけに飛びついてくるロカさんは別として、状況把握に周囲を見回す二人の王。
そして青い顔で眠るホナミを見て、やたら幸せそうな表情に変わる。
「寝姿もなんと美しい・・・!」
「まさに・・・女神・・・。」
(おい・・・それどころじゃないだろ?)
ちゃんと見ろ?その表情は苦悶以外の何でもないだろうが?
当然というか、そんな二人の平穏は長く続かない。
ビキニ姿 (もう慣れた)のおっかないお姉さんが、カリョウとテンガの首をむんずと捕まえる。
普通に持ち上げられる青年二人に恐怖しか無い。
「起きたんなら行くよ!」
「ぐえっ!」とか「な、なにをぉ!?」なんて悲鳴を上げるカリョウとテンガを引き摺って、部屋の外へ出るガウジ・エオ。
「この鬱陶しい結界と、認識阻害を解除する!」
そんな宣言を最後に残し、王と賢者がどこかへ消える。
ずっとおれたちを見守るだけだったバイアが口を開いた。
「お竜ちゃん。この地域の結界が解けるなら、あれを用意した方が良いんじゃないかのぅ?」
(あれ・・・?)
おれの疑問を他所、「あ!そうだね!」と二人の王を追いかける竜兵に、「ふぉっふぉ。」と笑いながら続くバイア。
おれは危険察知が働いたような・・・気がした。
30分ほど経って賢者と王が帰ってくる。
既に結界と認識阻害は解除したらしい。
恐ろしい早業である。
今頃、世界はこの地域の真相を思い出しているのではなかろうか。
竜兵とバイアはまだ帰ってこないし、おれの仲間たちもロカさん以外目覚める気配は無かった。
王二人は帰ってくるなりホナミの様子をチラチラと伺っている。
請われて彼女の事を粗方説明した。
まぁおれもそこまで深くはわかっちゃいないんだが・・・。
話題を転換。
「それで・・・今更だが、ガウジ・エオはどうしてここへ?」
おれの問いに「うーん・・・。」と宙を睨む彼女。
「『略奪者』?あいつらに気に入ってる別荘を破壊されたってのが一つ。それから・・・ノモウルザの顕現は、周囲の魔力からわかっていたしね。あとは・・・女の勘かしら?」
何となくだが・・・一番最後の理由が最も大きかったような気がする。
おかげでおれたちは助かったけどな。
「秋広は、なんでこっちに来なかったんだ?」
ちょっと引っかかる。
あいつの性格なら、ガウジ・エオに同行してもおかしくは無かったんだが。
「ああ・・・それはね。秋広と『剣聖』はともかく、デイジーと坊やは足手まといだったからね。」
帝国の最高戦力の一人を、「足手まとい」と切り捨てる賢者様に苦笑いしか出てこない。
おれとガウジ・エオが話している間にホナミが目を覚まし、カリョウとテンガがそれに気付く。
気遣う様子の王二人に対し、彼女は床に伏し許しを請うた。
「私は・・・私は、この国に・・・!」
「もう良いのです、ホナミ様。」
「失われた命は戻りませんが、おかげでノモウルザの永き呪縛から解き放たれたのです。」
三人の会話は平行線、同じ問答が続く。
うーん、こいつらのホナミに対する執着はどんだけなんだ?
ホナミも色々と納得できないのか、表情を曇らせるばかり。
『地球』に帰りたいがあまり、ツツジの傀儡となっていた事もある。
どうしたものか・・・。
その時・・・突如室外が騒がしくなった。
室内で起きている面々が扉に注目する。
ややあって・・・ドバァーン!と扉を開け放った人物が言うのだ。
「あたしが来たわ!」
黒髪ツインテールで、ピンクのゴスロリドレスを着込んだ超絶美少女。
おれの幼馴染で『正義の女神』、橋本麗は入室するなり吠えた。
「ホォナァミィィィィ!!!」
「ひっ!」
うん、ホナミわかるぞ。
おれも同じ状況なら恐怖するわ。
そしてウララは怯えて腰を抜かすホナミに駆け寄ると、胸倉を掴んでその身を起こさせる。
誰もが声も無く見守る中、扉の向こうでは竜兵が頭を抱えていた。
「歯ぁ!食いしばれぇ!」
ベッチィッ!ドガッシャア!
ホナミはウララのビンタを受け、空中で身体を捻りながら吹き飛んだ。
「ちょ!?落ち着け!」
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