・第二十三話 『洗脳』
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異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、あれはどこの風習だったかな?
兄貴の記憶では、たしか京都とかだった気がする。
所謂、帰ってほしい人にお茶漬けを出すって奴だ。
おれはあの話を聞いたとき、日本人らしい奥ゆかしい風習だなー、なんて思ったが。
日本人でも、はっきり言葉で表さないといけない事ってあるよな。
最早帰れとかウンヌンの世界じゃなくて、なんだか犬に「ハウス」を教えている気分になってきた。
某ネットゲームの定型文辞書で言えば、【日本語は話せますか?】って奴だ。
いやむしろもう、【かえれ。】で良いか・・・。
■
今は深夜まではいかないが、それなりに遅い時間だ。
おれたちは、カーシャの作り出した転移ゲートによって、あっさりと『マルディーノス宮殿』の中庭に辿り着いた。
あの虫々パニックは何だったのか・・・。
今日は、ちゃんと兵士も巡回警備しているようで、突然庭木から現れたおれたちに一瞬、「すわっ!」っとなるが、どうも話が通っているらしく、アフィナを見ると一礼して職務に戻る。
おー、進化したな残念。
さすがは貴族だな。
忌み子云々も、クリフォードが手を打ってくれたのかね?
おれたちは、そのまま謁見の間へ向かうことにする。
法衣の裾が、ちょいちょいと遠慮がちに引っ張られる。
振り向くと、上目遣いのアフィナが何か言いたそうだ。
「なんだ?」とおれが促すと、「クリフォード様に会いに行くんだよね?」と聞いてくるので首肯で答える。
もう一度、なんとも言えない困った表情を浮かべたアフィナが、おれにそっと耳打ちする。
「連れてくの・・・?」
アフィナの視線の先には、ミニスカメイド服を着たエデュッサ。
oh・・・忘れてたわ。
いくらクリフォードが、一国の王とは思えぬお人よしでも、謁見の間に変態の盗賊連れて行ったらいかんわな。
忘れてただけじゃなかった、変態はこっそり『隠密』を発動していた。
「おい変態、何をする気だ?」
おれの問いかけに一瞬ビクリと肩を震わせ、ギギギっと演技がかった調子で振り向くエデュッサ。
「ご主人様、あたいちょっとお手洗いに・・・」
はい、ダウトー。
トイレはそっちじゃありません。
「うん、お前帰れ。」
おれは、問答無用で金箱を突き出す。
「素敵です、ご主人様!」
うっとりとした表情で、ビクンビクンと体を震わせる変態。
今の話に、どんな素敵要素があった?
もう変態の琴線が、どこに張り巡らされているかわかんねぇよ・・・
「やることやったら後はポイ捨て。あたい、今夜眠れません!」
すごく人聞きが悪い。
おまけにやることやったってなんだよ?
まったく身に覚えが御座いません。
仕方なくおれは、エデュッサの天敵だろう人物の名前を出すことにする。
「あんまりひどいと・・・リザイアに言うからな?」
リザイアの名前を出した瞬間、エデュッサは直立不動で敬礼し、
「畏まりましたご主人様!あたいは直ちに箱へ戻ります!」
と、言った。
(やっぱりリザイアが怖かったか。)
カードゲームの『リ・アルカナ』の設定で、魔族の国『砂漠の瞳』の後継者として育てられたエデュッサは、教育係でもあった先代の長、リザイアに相当厳しく躾けられたってのがあったからな。
「ではご主人様!何かありましたらまたお呼び下さいませ!」
まぁ・・・変わりすぎて、これはこれで怖いが・・・。
箱へ吸い込まれていくエデュッサが、「そういえば・・・」などと言って置き土産をしていく。
「ご主人様、イアネメリラ様に早々に、ご説明された方が良いかと・・・。」
そうだな、それはおれも思っていた。
だけど、お前のそのジェスチャーは違うよな?
所謂アレだ。
嫁が・・・身重で・・・お冠って、ハンドサインだろそれ?
最後まで意味がわからん。
■
移動だけで、とても疲れた気がする。
謁見の間の扉前に立つ二人の衛兵に促され、おれとアフィナは広間の中へ入室した。
いかに話が通ってるとは言え、少々無用心な気がするが。
なんだか昨日より更に憔悴したクリフォードが、玉座に座って待っていた。
おいおい、また寝てないんじゃないのか?
側近が、羽根妖精二人しか居ない。
鎧ドワーフと『歌姫』は別件か?
「セイ、アフィナおかえり。ずいぶん早かったじゃないか。」
「ああ、帰りはカーシャがゲートで送ってくれてな。」
おれが答えると、クリフォードは「ほう・・・」と一声唸り、こんなことを言い出した。
「それはずいぶん気に入られたな。ゲートなんて、私でも中々使ってくれないぞ?カーシャは人見知りだしな。」
そうか・・・?
最初からずいぶん友好的だったが。
まぁ、従兄弟の娘であるアフィナの存在が、好意的な行動になった理由だろう。
「それはそうと、虫がすごかったぞ・・・。」
おれがクリフォードをジト目で見ると、「さすがのセイでも苦労したか。アッハッハ」なんて言って笑っている。
「しかし、今日はどうしたのだ?てっきり『オリビアの森』から、『涙の塔』へ直接向かうと思っていたが・・・」
「ああ、おれもそのつもりだったんだがな・・・」
おれは前置きしてから、『オリビアの森』カーシャの結界塔での事を話す。
「・・・なるほど、アイテムカードの新しいテキスト、それに『輝石』にそんな使い道があったとはな。」
おれの話が終わり、ふぅっと息を漏らすクリフォード。
「わかった、明日には用意しておこう。今日はまた客間で泊まっていくと良い。」
「済まんな、助かる。」
おれたちの話を、側で黙って聞いていたアフィナが縋る様な目で「セイ・・・」と言ってくる。
わかっている、忘れちゃいない。
「あー、それとクリフォード。もう一つ相談があるんだが・・・」
「んっ?」っと言う表情になったクリフォードに、おれは塔の前でアフィナとした話。
そう、アフィナの祖父である元大臣の今後について、相談してみた。
「・・・そうか、アフィナはヒンデックを許すか。」
「はい、クリフォード様。きっと祖父も、元からああだったとは思えないんです。お母さんは言ってました。忙しい人だったけど、男手一つで自分を育ててくれた父を裏切る形になってしまった事は、私がずっと背負っていく十字架なんだって。もう、そのお母さんも居ないんですけどね。」
言い終わって目を伏せるアフィナを横目に考える。
今の話を聞くと、大臣も元から悪党ではなかったと言う事か。
どうやら元凶は、紫ローブのせいだったように思えるな。
洗脳でもされてたんだろうか?
「ふぅ~・・・しかしだな。」
重い沈黙を破って、クリフォードが否定の言葉を告げる。
おれが口を出す事とも思えんが、一応言うだけの事は言っておくか。
口利きしてやるって約束だしな。
「クリフォード、紫ローブが洗脳してたとかなら、せめて国外追放だけでも勘弁してやってくれないか?なんならおれが、セリーヌに頼んでも良い。」
「いや、そうではないんだセイ。」
沈痛な面持ちで、頭を振るクリフォード。
(む?どういうことだ。)
「『自由神』セリーヌ様は寛大だ。当事者のアフィナが許すと言うなら、是非も無くその決定をお認め下さるだろう。問題は・・・ヒンデックの方なのだ。どうも娘と孫を勘当した頃には、すでに洗脳を受けていたようでな。それを思い出した今、牢の中で自決しようとしたのだ。」
(なっ!?)
「今は・・・セリシアが『音楽魔法』で眠らせている。・・・まぁ、なんにせよ、今日はここまでにしよう。二人とも少し休んだ方が良い。」
これは簡単には済みそうに無い問題か。
クリフォードの話を聞いて、その大きな青い瞳からポロポロと涙を零すアフィナ。
おれはアフィナの頭をポンポンと撫ぜてやり、「とりあえず一度休むぞ。」と声をかけ、クリフォードに暇を告げる。
「・・・また、明日の朝顔を出す。クリフォードも顔色が悪い、少し休めよ?」
おれは去り際に、クリフォードの執務机に、作り置きのお茶を用意してやった。
「セイ、私の国の事で気を使わせる・・・済まんな。」
苦笑交じりのセリフをバックに、おれとアフィナは謁見の間を退出した。
■
クリフォードに宛がわれた客間で、アフィナを先にベットへ寝かしつけ、おれもベットに潜り込んだ。
すっかりやってる事が、保父さんになってきた。
しかし・・・この世界は辛い事が多いな・・・。
疲れも溜まっていたおれは、あっという間もなく意識を手放した。
今日は夢を見た。
夢の中の美祈は、なぜかPUPAに乗り込み、どこかで見たことがあるような、金髪立て巻きカールの女と戦っていた。
あれ・・・こいつ誰だっけ?
その時、ウララがお嬢様をボッコボコにしている風景が、フラッシュバックする。
(ああ・・・あの時の地雷女か・・・でもなんで美祈が・・・?)
そこで目が覚めた。
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