・第二百四十話 『眠りの霧』
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異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、祟り神も退けたっていうのに・・・どうしてこう。
兄貴を導いてくれ!
大団円とはいかないとわかっていた。
『略奪者』には逃げられ、『太陽』のテツは死んだ。
ホナミが盛大にやらかしている訳だし、他の国同様復興作業が待っている。
だが、これでやっと「狐の女」って懸念も無くなり、尚且つ秋広の情報を持っている様子の賢者様に確認。
幼馴染最後の一人、件のメガネボーイと合流か?
やっと見えた光明に思っていたのだが・・・。
ええ、ええ、そこは流石の秋広君、簡単に尻尾は掴ませない。
その時の会話がコレだ。
「狐の女?デイジーのことか?・・・ホナミ??」
・・・え?
「ん?秋広なら、もうこの国には居ないぞ?」
・・・はい?
どうも、情報に齟齬がありますね・・・。
美祈!兄貴を導いてくれ!
■
明けて・・・翌日。
穏やかな日差しに目を覚ます。
「ん?起きたかい?」
「おはようじゃ、兄者君。」
声をかけられ仰ぎ見れば、おれが寝ていたベッドの脇、備え付けの丸テーブルにて向かい合う『古龍』の老人と、ビキニ姿の『真・賢者』。
周囲には死屍累々・・・もちろん死体じゃ無いんだが、意識を失い布団に埋もれ眠る仲間たちの姿がそこにあった。
胸も呼吸に合わせ上下しているし、それぞれ寝息も立てている。
傷ついていたはずの面々にも目立った外傷は無く、明らか治療済みであると伺えた。
ただ・・・一つ、いやごめん、二つほどつっこんでおかないといけないことがあるだろう。
一つ、仲間たちに加え・・・王様二人、カリョウとテンガも一緒くたに寝かされてるのは何なんですかね?
どう考えても問題ですよね?
それから、どう見てもホナミも居るんだよね。
『略奪者』は裏切った、最後はこっちに味方した、金箱とカードはガウジ・エオが預かっている?
うーん、問題ないのか?
一応こいつこの国で『蠱毒』とかやらかしてた悪女、言わば罪人だと思うんだが・・・。
拘束も何も無しって・・・いや、そういうプレイとかじゃねーし!
暴れても二秒で撲殺できる?いやいや・・・。
あともう一つ、ベッドの逆側。
いや・・・この部屋十分広いから何とも・・・無くわねーわ!
すっげー違和感だよ!
リライ!リライいるよ?部屋には入るかもしれないけど、どうやって扉通したの!
え?ガウジ・エオが魔法で・・・?
あっハイ。
いや、詳細とかいいです・・・なんか怖いんで・・・。
ごめん、少し取り乱した、しかも二つって言って三つつっこんだわ。
モチツケ・・・もとい、落ち着けおれ。
未だ覚醒していない頭で想起する。
目が覚めてからの異常過ぎる風景、ハードルが高いわ!
日差しからも夜が明けているのは間違い無い訳だし・・・。
徐々に繋がる記憶のライン。
それはそう・・・勝ち鬨を上げた後。
盛り上がる兵士たちを尻目、自然と集まったおれの仲間たちに二人の王。
そして予期せぬ援軍、『真・賢者』ガウジ・エオその人。
ホナミも表情を陰らせおれたちに習う。
「ガウジ・エオ・・・。改めて礼を言わせてくれ。あんたが居なけりゃ、おれたちは間違いなく負けていた。」
おれの謝辞に軽く手を振りながら、「硬いねぇ。」と笑うビキニ姿の魔女。
死語かもしれないが、コケティッシュって感じかね?
周囲で「え!?ガウジ・・・エオ!」「『真・賢者』!」等々声が上がるが、とりあえずお前ら今は黙っとけ。
色々と確かめたいこと、聞きたいことが有り余っていた。
「それはともかく、秋広の事を教えてくれ!」
逸る気持ちを押さえきれず、少々語気が強くなる。
彼女はそんなおれの様子に眉を少し顰め、ふぅ~と小さくため息・・・聞き取れるか聞き取れないかギリギリの声量で呟いた。
『眠りの霧』
「「「なっ!?」」」
直後、おれたちを包むピンク色の霧。
大きすぎる修羅場を越えて弛緩しきっていたおれたちに、その霧を避ける手立ては無かった。
「一体・・・何を・・・!?」
バタバタと倒れていく仲間たちを目端に捉えながら、驚くほど気だるい身体に必死で抗う。
彼女も敵だったのか?わからない・・・。
困惑する思考、跪きながら見上げたガウジ・エオの顔には、穏やかな慈愛の微笑み。
「あんたも・・・周りの奴らももう限界なのさ。少し・・・休みな?」
肌も髪も、ましてや年齢すらかけ離れているだろうに、その声はまるで『地球』に居るはずの母さんのようだった。
なぜかホッとした気持ち、手放した意識の向こうで彼女が兵士たちへ向け、おれたちを城へ運ぶよう指示しているのが聞こえた気がした。
なんかこう、完全に掌握してる感じだったけど・・・たぶん突っ込まない方がいいのだろう。
■
(思い出した。)
おれたち強制的に眠らされたんだったわ。
ついつい目線強くなるおれに、苦笑を返すガウジ・エオとバイア。
「セイ、そんな目で睨むな。あの場はああするのが最善さ。」
「兄者君も、何となくわかってはおるじゃろう?」
試すような目くばせ、二人は口々に語る。
それはまぁ、ベッドの上で泥と化している奴らを見れば言うまでも無い。
こいつらは本当に限界だったのだろう。
「あんたが休むって言わなきゃ、無理してでもついていきそうな連中だよ。」
ああー、うん、それは全く否定できんわ。
「お竜ちゃん、元気そうに見えたかもしらんが、貫徹三日目じゃよ。」
寝ろよ・・・まぁそれだけ、心配してくれてたってことなんだろうが。
おれが素直に目礼で答えれば、「若いねぇ。」「ふぉっふぉ、だがそれがいい!」などと返される始末。
敵わねぇな・・・ほんとに。
そんな中、おれに続いて目覚めた者が二人。
「・・・アニ・・・!」
おれと目が合いいつものフレーズ、叫ぼうとして周囲で眠る人々に気付く。
慌てて口を押さえ、それでも目線で「アニキー!」と訴えかけてくる弟分に首肯を一つ。
竜兵は周りを気にしながらも、ゆっくりとベッドからこちらへ。
そしてもう一人。
一度目が合い、「・・・セイ・・・。」と呟いて俯く。
仲間たちや王二人は全く目覚める気配も無いし、異世界の魔導師は回復が早いとかあるのかもな。
ベッドで俯いたまま女の子座りのホナミを見て、何とも言えない表情になる竜兵だが、「ホナミ姉も・・・こっちおいでよ?」と優しく手を引いた。
促されるまま、おれとガウジ・エオ、それにバイアが陣取るテーブルへ。
数歩で届くような距離を、死刑台に進まされる囚人のように歩むホナミ。
一歩一歩、歩を進める度に床へ落ちる雫。
おれと相対した時の覇気はもう何処にも無く、年相応・・・否、むしろその歳よりも幼く見えてしまうほどに、心折られた女性の姿。
椅子に腰かけた後も無言。
ただ、膝頭で硬く握られた拳に、ポタリポタリと水滴が落ちる。
黙っていても仕方ない、おれは意を決し彼女に問い質す。
「ホナミ、秋広の事を教えてくれ。」
「・・・知らないわ・・・やっぱり彼も居るのね?」
「「・・・・・・。」」
おれと竜兵、顔を見合わせたまま固まる。
聡い竜兵の事だ、ホナミが軍門に下ったのは神殿で戦っていた時点で勘を働かせていただろう。
ここでウソをつく意味があるのか?
焦燥や憤りは感じない、むしろおれたちにあるのは大きな困惑。
だから責めない、しかし納得は・・・できない。
「お前が「キツネの女」だろう・・・?」
故に出てくるのはこんな問い。
「キツネの女」、その単語に反応、ピクリ肩を震わせたホナミは、俯いたままで小さく頷く。
やはり・・・と思う気持ちを他所に、意外なところから声が上がる。
「キツネの女?デイジーのことか?」
「「・・・え?」」
全く知らない固有名詞、それが賢者様の口から発された。
きょとん、そんな表現がぴったりの表情で「デイジー?」と反芻する竜兵。
小首を傾げながらガウジ・エオも言う。
「ん?んん?秋広が連れている狐族の娘だが・・・違うのか?」
おいおい、ちょっと待て・・・。
竜兵も「・・・アニキ。」と一言、おれを見詰めて固まっている。
おれたちは、勘違いしてたのか!?
その後、おれたちがする質問に俯きながら、しかし淡々と答えるホナミ。
確認すればするほど、彼女は秋広と一切関係が無かった。
ぐおお・・・まぎらわしいいいい!!
「なんか・・・ごめん・・・。」
更にホナミが凹んだ、もうベッコベコである。
ある意味自業自得の面もあるが、デイジー?とかいう狐族の女性に関してホナミに非は無いだろう。
むしろ非は全て、あのメガネマンに集約されている。
「結局・・・秋広の情報を持ってるのはガウジ・エオだけか・・・。」
「と、言うことじゃのう。」
おれたちのやり取りを興味なさげ、自身の枝毛探しをしていた魔女が「ん?」っと反応する。
「ガウジ・エオ、教えてくれ。秋広は今どこに居るんだ?この地域に・・・居るんだよな?」
目線を合わせて問い質す・・・祈りも込めつつだ。
そしてその祈り、あっさりと破れた。
「ん?秋広なら、もうこの国に居ないぞ?」
・・・oh・・・。
悪い予感ばっかり当たるぜチキショウ!
「エオ姉、あきやんはどこ行っちゃったの?」
さすが竜兵、すでに『真・賢者』が姉になっている。
そんな竜兵の純真な瞳を真っ向から受けたガウジ・エオは、一瞬「うっ!」と息を詰まらせ頬をポリポリと掻いた。
うわぁ・・・すごく嫌な予感。
それは竜兵も同じだったのか、明らかに顔色を曇らせる。
慌てて説明に入る賢者様。
「いや、あのな・・・『古の図書館』に行きたいって言うから、扉を開けてやったんだがよ?仮面の奴ら・・・ああっと、『略奪者』だっけか?あいつらに隠れ家を壊された時に、どうも空間がねじ曲がったらしくってな・・・。」
概要は何となく想像が付く、だが敢えてそこで溜めるガウジ・エオ。
「こっちの入り口はもう開かないから・・・向こう側から出るしか無いだろうよ・・・。」
「因みに・・・向こう側ってのは、何処と繋がってるんだ?」
おれの問いに、「んー、ああ・・・。」と視線を逸らす。
やはり・・・面倒な所なのだろう。
「元『知識の都』、現在『亡国』トリニティ・ガスキンかな・・・たぶん。」
「「・・・・・・。」」
言葉も無いとは正にこの事。
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