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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
248/266

・第二百三十九話 『氷華』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からこんにちは。

 おれは九条聖くじょうひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、少しだけ変な事を言うかもしれないが・・・許してほしい。

 いやなに、兄貴がこうして君に語り掛けるのも、随分久しぶりな気がしてな。

 「何言ってるの?」って思うよな。

 わかってる、本人も・・・時間的にはそう、数時間前にもこうしてボヤいていたはずだ。

 ただ、その間にイベントが多すぎて・・・。

 途中で君に愚痴をもらす暇も無かった訳だ。

 感覚的にはおよそ数日分、濃厚すぎるパーティータイムが続いていた。

 ホナミの救出にテツの死、『真・賢者』と『聖域の守護者』の乱入に、今回も逃げおおせた『略奪者』・・・。

 うん、改めて思い返しても完全にカオスだった。

 今?そうだな・・・決してトラブルが解決したとは言えない。

 むしろ現在進行形、本日のメインイベントが発生中だ。

 祟り神の荒魂と禁止カード『憤怒ラース』から産まれた『災害ハザード』。

 周囲巻き込み広がっていく氷の花園を前に、おれは覚悟を決めた。

 その時、「我々の出番だ!」と立ち上がったのは・・・!

 まぁ、あいつらだ。



 ■



 決意も新たにした仲間たちが、揃って声のした方を振り返る。

 と言っても、全然予想外って訳じゃ無く、言葉発した連中にも当たりは付いているのだが・・・。 

 果たして・・・おれたちの目に入ってきたのは予想通りの二人。

 青と白、綺麗に色分けされた鎧を着込んだイケメンだ。


 「「ここは、我々の出番だな!!」」


 (いや、それさっき聞いたし。)


 二人並んで仁王立ち、さっきのセリフがおれたちに届いていないとでも思ったのか、キラッキラの笑顔で再度宣言。

 

 「カリョウ、テンガ・・・お前ら大丈夫なのか?」


 おれの記憶にあるこいつらは、レオに良い感じでボッコボコにされていたはずなんだが・・・。

 「「もちろん!」」と声を揃えてすっく、しかし・・・足が生まれたての小鹿よろしくガクガクしている。

 

 「はぁ~・・・。」


 ビキニの魔女から呆れたようなため息が響く。

 彼女は見事としか言いようのない三白眼、所謂ジト目を向けて呟いた。


 「あんたらね・・・あたしが多少回復してやったからと言って、無茶したら今度こそ死ぬよ?」


 どうやらガウジ・エオ、戦闘の最中で回復魔法もかけてくれていたらしい。

 いつのまにとも思わなくはないが、ノモウルザとドンパチしていた時のおれは、全く周りが見えていなかった。

 ここは素直に大賢者と二人の王が言を信じよう。

 ただ・・・彼女の言葉通り、二人の体調は万全にほど遠く、ガクブルの膝頭は元より、額を伝う滂沱の脂汗が明らかな無理を如実に語っている。

 何と言うかこう・・・満身創痍?感が半端ないんだけど。

  

 「本来であれば・・・こたびの事由、我々が不甲斐なかったばかりに起きた案件だ。自分たちが信奉していた神の落とし前くらい付けられず・・・何が王族か!」


 真摯、おれの目を見据えてカリョウが言う。

 次いでテンガ、その言の葉に決意と覚悟を滲ませて。 


 「セイ殿・・・敵方に後れを取ったとはいえ、こうなってしまえば雪と氷に精通した我々の領分。どうか、我々を信じてくれ。」


 全員の視線、自ずと荒ぶる氷の花園に向いた。

 確かに、敵を殴って解決する問題とは違う。

 餅は餅屋・・・って訳でも無いが、暴走する氷と雪を阻むには専門家?の力が必要だろう。

 ふらつきながらも前へ出る二人の王。

 それを止める者は誰も居ない。

 おれと竜兵は、黙ってカリョウとテンガに肩を貸していた。


 「セイ殿・・・。」「少年・・・。」


 きっとお互い、思うところがあったんだろうな。

 

 「ったく・・・そんなふらふらでも・・・やっぱ王族かよ。」


 「おっちゃんたち!頑張れ!」


 軽口と応援、それぞれにできそこないの笑顔を返すカリョウとテンガ。

 竜兵のおっちゃん発言にはガチで苦笑だったようだが。

 後ろではガウジ・エオの「これだから男ってのは・・・。」なんて呟きが聞こえてきたが、まぁ目を瞑っていてほしい。

 男には・・・馬鹿でも何かをしなきゃいけない時がある。

 だが困ったな・・・こんな状況だと近接物理なアルデバラン、全く持って出番が無い。

 おれが何かを言うより先に彼は言う。


 「我がきみ、せめて、維持費分の、魔力を・・・。」

 

 その一言で箱へと消えるアルデバラン。

 気を・・・使わせてしまったな。

 

 「アルデバラン、ご苦労さん。」

 

 少しだけ戻ってくる魔力と一緒に、「御意。」と聞こえた気がした。


 ちょっとした感動シーンなんだが、そこはカリョウとテンガ。

 必要も無いのにオチを付けるのは忘れない。

 うん、うちにも居るよ・・・そういう奴。

 今は別行動だけど。


 「それに・・・。」


 呟き、耳に入った小声にカリョウの顔を伺えば、テンガも揃って同じ方を見ていた。

 その視線の先、未だ回復せずに倒れたままのホナミ。


 (・・・ホナミ?)


 「「頑張ったら、女神様からご褒美があるかもしれない。」」


 おい!声までそろえて言うことかよ!

 こいつら、未だホナミの神聖視が解けてないぞ?

 『誘惑テンプテーション』はもう切れてるはずだろうが・・・。

 なんつうかお前ら・・・台無しだ!



 ■



 おれたちに肩を貸され進み出た矢面。

 結界の先端、氷の花園が浸食する広間で二人は頷いた。


 「お二人とも、少し離れてくれ。」

 

 促されおれと竜兵は少し下がる。

 一体、何をするつもりなのだろうか?


 「カリョウ、処理は任せるよ。」


 「ああ。」


 そんなやり取りを交わした直後、テンガはおもむろ、結界の外へとその身を躍らせた。


 「「なっ!?」」


 当然、即座に雪の結晶に纏わりつかれるテンガ。

 しかしそれを見守るカリョウも、結界の外に居るテンガも慌てた様子は無い。

 良く見れば雪の結晶は、テンガの身体に直接触れる直前の中空を滞動している。

 すーっと両手を前へ構えるカリョウ。

 雪の王に集中していた結晶が、彼の頭上で合わさり球体になったかと思うと、一瞬後には氷塊に呑まれて床面に落ちた。

 そこから氷の華が咲くことは無い。

 

 そして意志持つが如く、周囲の結晶がテンガに集まっていく。

 ゆらりゆらりと右左、緩やかな舞を踊っているかのように、結晶を身に纏わせるテンガ。

 テンガが集めた結晶をカリョウがまとめて氷塊に包む。

 その動作はやけに手馴れていて、流れ作業のようにも見えた。


 「最初から・・・対応策がわかっていたみたいだな?」


 正直おれにはどうすれば良いかわからなかった。

 とりあえずなぐ・・・もとい、なんとかしようと思っただけ。

 逆に二人の王は、まるでこの事態を想定していたような動き。

 結晶を氷塊に閉じ込めながらカリョウは言う。

 

 「この現象は、我々の国で『氷華』と呼ばれるものに酷似している。あの結晶に触れた者は等しく氷の華の中だ。原因がわからなかった当時、雪人族と氷人族がかかる奇病だとも、『氷雪神』の呪いだとも言われ、二世代前には国民の凡そ六割が生きたまま氷像と化した。」


 「そいつぁ・・・。」


 『憤怒ラース』だけが原因じゃないと言う事実。

 この冷酷な花園は、ノモウルザ本人が選んだ悪意そのものだったらしい。

 国民の六割、とんでもない被害だ。


 「なるほどどうして、『氷雪神』の呪いと言うのが正解か。唯一の救いは・・・『氷華』に抗する術を我とテンガが確立していた事だな。」


 そうか、カリョウとテンガは、この『災害ハザード』に対して明確な自信を持って挑んでいた訳か。

 しかし・・・。

 「だが・・・。」と呟いた氷の王、表情は苦痛に歪んでいた。


 「数が・・・多すぎる・・・!」


 それはおれも感じていた。

 テンガが集め、カリョウが処理するその総量よりも、氷の華から生み出される結晶の数が圧倒的に多い。

 このままじゃジリ貧、時間稼ぎにしかならない。


 「これ以上、速度は上げられない?」


 竜兵の問いに即座、「正直・・・厳しい。」と答えるカリョウ。

 彼が言うには、体調は元より魔力の残量が余りにも心もとないらしい。


 「おれの魔力も空に近いが使って良いぞ?竜兵は・・・。」


 「もちろんおいらも!」


 そう言ってカリョウの肩に手を乗せるが、彼は力なく首を振った。

 

 「申し出はありがたい。しかし・・・セイは闇、竜兵と言ったか?君は土属性の魔力だ。今の我では氷属性に変換するような繊細な魔力のコントロールはできない。」


 くそ・・・ここでも属性が仇になるのか。

 カリョウが見つめるのは、一人結界の外で舞い踊るテンガ。

 確かにカリョウが結晶の処理を止めたら、テンガはあっという間に物量に押しつぶされかねなかった。

 ガウジ・エオとバイア・・・もだめだな。

 賢者様は結界の維持に余念がないし、バイアは炎と天属性だったはず。

 更に余裕は無くなり結界の外に居るテンガは元より、カリョウですら話すこともできなくなってしまった。

 やきもきする・・・何か・・・手は無いのか?

 ゆるゆると押し込まれるのを待つしかないのかと思いかけた時、ドガァン!と破砕音を響かせて、神殿の扉が開け放たれた。


 

 ■



 「ヴォフーーーーーーーーーーー!!」


 「主ぃーーーーーーーーーーーー!!」


 叫びと共に転がり込んでくる毛玉が二つ。

 いや、黒い方は縮んでるから毛玉だけど、白い方は全長4m、到底毛玉ってサイズじゃあなかった。


 「ロカさん!リライ!」


 ダッシュ、ジャンプ、ビターン。

 走って飛んで、そしてガウジ・エオの結界に阻まれる。


 「なんのぉ・・・これしきぃ・・・!」


 「ヴォフゥゥゥゥ!!」


 全力で結界をこじ開けようとするロカさんとリライ。

 その目にはおれしか映っていない。

 まてまて、落ち着け!


 「ガウジ・エオ。彼らは仲間だ、入れてやってくれ!」


 少しだけ眉を顰めた賢者様が、ロカさんとリライを結界へ招き入れる。

 ポーン!ドフッ!

 肩口に飛び乗ってきたロカさんと、思うさまおれの腹に体当たりをかますリライ。


 「主!無事であったか!」


 「ヴォフ!」


 「ちょ・・・ま!・・・リライ!」


 二人を受け止めながら異変に気付く。

 ロカさんは汚れているだけだが、リライの白毛があちこち朱に染まっていた。 

 話せない彼に代わって、説明をくれたのはロカさん。


 「あの二騎士を止めるのに、こやつが身を挺して扉を守ってくれたのである。途中でいきなり消えてしまったのであるが・・・今度はこちらから扉が開かずに、やむなくぶち破ったのである。」


 そんなことが・・・リライ・・・お前って奴は!

 ロカさんとリライをわしわししながら問いかける。


 「それでロカさん!アフィナとシルキー、それにポーラは・・・?」


 まさかとは思う。

 だが、あいつらの姿を直接見ないまでは心配が尽きない。

 コクリ頷いたロカさん。

 

 「三人とも無事である。無論、無傷では無いが・・・とりあえず傷ついたままでは主の邪魔になると言って・・・む、追いついたようであるな!」


 その言葉通り、扉から姿を現すおれの仲間たち。


 「「「セイ(さん)!」」」


 三人ともそれなりによれよれ、しかし各員しっかりとした足取りでこちらへ走ってくる。

 これで仲間は全員集合、最悪転移での脱出も視野に入れかけた。

 だが、その後ろに続く人々が予想外。

 目算、五十人は居るだろう。

 白と青の鎧に身を包んだ雪人族と氷人族の兵卒たちだ。

 目線でガウジ・エオにお願い、意図を汲んで結界を変容、全員を受け入れる賢者様。


 「無事だったかお前ら!」


 「うん!」「セイさんこそ!」「だべ!」


 お互いの無事を喜ぶ間も惜しんで尋ねる。


 「それで・・・そいつらは一体?」

 

 「この、人たちも、一緒に、戦うって!」


 ぜぇはぁと荒い呼吸整えながらアフィナが言う。

 彼らの目にはカリョウやテンガ同等、確固とした信念が宿っていた。


 「アニキ!」


 気付いたのは竜兵が一番。 

 その声でおれもハッとする。

 そうだ、カリョウの魔力不足は・・・属性変換の余裕が無いため解消されていない。

 しかし・・・元から雪や氷の属性なら?

 事は一刻を争う。


 「お前ら、カリョウとテンガにありったけの魔力を注いでやれ!」


 一瞬戸惑い顔を見合わせた兵士たち。

 小さく、だが鋭く、「頼むっ!」とカリョウが声を上げる。

 迷いは吹っ切れた。

 兵士たちは「はっ!」っと気合一閃、全員掌を前に出し、カリョウとテンガへ向けて魔力を放つ。

 それからは・・・完全な逆転劇だった。


 十分な魔力を得てテンガの舞いも速度を上げ、カリョウが一時に氷塊に変える結晶の量も増えた。

 ポーラが『魔眼』で氷の華の弱点を見抜き、ガウジエオがそこへピンポイント、破呪魔法をぶち当てる。

 ロカさんとバイアがシルキーと協力してガウジ・エオの結界を引き継ぎ、アフィナはリライやホナミ、それにカリョウの治癒をした。

 おれと竜兵はそんな彼、彼女たちに魔力の譲渡をしていたのみ。


 ほどなくして・・・。

 目を覚ましたホナミが言った。


 「私も・・・手伝うわ。」


 彼女の有していた莫大な氷の魔力。

 それはカリョウとテンガを更に強化して、雪の結晶も氷の華も駆逐された。


 沈黙、根絶やしにされた氷の華・・・その一欠けを見て思う。

 全員で力を合わせて巨悪を討つ。

 正しく王道、少年漫画的展開とも言える。

 だが、今日ここに主人公は居ないだろう。

 確かにノモウルザ本人を打ち破ったのはおれだ。

 しかし、本当の『災害ハザード』には手も足も出なかった。

 おれも竜兵も、属性の事があったにせよ・・・異世界の魔導師は最後に詰んだ。

 ホナミも魔力の譲渡こそすれ、カリョウとテンガがしたような対策はできなかったことだろう。

 お前らなら何とかできたのか?

 いや、例え今回がどうなろうと、そのスタンスじゃいずれ詰むのは明白だろう。

 なぁ・・・サカキにレオ・・・この世界の住人は・・・強いぜ?


 「アニキ・・・!」


 呼びかけ、竜兵を初めとした仲間たち、意外な助っ人『真・賢者』ガウジ・エオ、氷と雪の王、その兵卒たち。

 彼ら全員の視線が、いつの間にかおれに集中していた。

 コクリ、深く頷いたカリョウとテンガ。


 (そう・・・かよ。)


 一瞬過ぎったのはあいつ・・・『太陽サン』のテツのこと。

 しかしそれも強引に振り払い。

 普通はこういうの、王族の勤めなんじゃねぇのと思いつつ、おれは高々拳を突き上げる。


 「おれたちの・・・勝ちだ!」


 「「「「わぁぁぁぁぁ!!!」」」」


 歓声は、神殿の天井に開いた大穴、その曇天へ吸い込まれていった。







ここまでお読み頂きありがとうございます。

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