・第二百三十九話 『氷華』
いつもお読み頂きありがとうございます。
ブクマ励みになります^^
異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、少しだけ変な事を言うかもしれないが・・・許してほしい。
いやなに、兄貴がこうして君に語り掛けるのも、随分久しぶりな気がしてな。
「何言ってるの?」って思うよな。
わかってる、本人も・・・時間的にはそう、数時間前にもこうしてボヤいていたはずだ。
ただ、その間にイベントが多すぎて・・・。
途中で君に愚痴をもらす暇も無かった訳だ。
感覚的にはおよそ数日分、濃厚すぎるパーティータイムが続いていた。
ホナミの救出にテツの死、『真・賢者』と『聖域の守護者』の乱入に、今回も逃げおおせた『略奪者』・・・。
うん、改めて思い返しても完全にカオスだった。
今?そうだな・・・決してトラブルが解決したとは言えない。
むしろ現在進行形、本日のメインイベントが発生中だ。
祟り神の荒魂と禁止カード『憤怒』から産まれた『災害』。
周囲巻き込み広がっていく氷の花園を前に、おれは覚悟を決めた。
その時、「我々の出番だ!」と立ち上がったのは・・・!
まぁ、あいつらだ。
■
決意も新たにした仲間たちが、揃って声のした方を振り返る。
と言っても、全然予想外って訳じゃ無く、言葉発した連中にも当たりは付いているのだが・・・。
果たして・・・おれたちの目に入ってきたのは予想通りの二人。
青と白、綺麗に色分けされた鎧を着込んだイケメンだ。
「「ここは、我々の出番だな!!」」
(いや、それさっき聞いたし。)
二人並んで仁王立ち、さっきのセリフがおれたちに届いていないとでも思ったのか、キラッキラの笑顔で再度宣言。
「カリョウ、テンガ・・・お前ら大丈夫なのか?」
おれの記憶にあるこいつらは、レオに良い感じでボッコボコにされていたはずなんだが・・・。
「「もちろん!」」と声を揃えてすっく、しかし・・・足が生まれたての小鹿よろしくガクガクしている。
「はぁ~・・・。」
ビキニの魔女から呆れたようなため息が響く。
彼女は見事としか言いようのない三白眼、所謂ジト目を向けて呟いた。
「あんたらね・・・あたしが多少回復してやったからと言って、無茶したら今度こそ死ぬよ?」
どうやらガウジ・エオ、戦闘の最中で回復魔法もかけてくれていたらしい。
いつのまにとも思わなくはないが、ノモウルザとドンパチしていた時のおれは、全く周りが見えていなかった。
ここは素直に大賢者と二人の王が言を信じよう。
ただ・・・彼女の言葉通り、二人の体調は万全にほど遠く、ガクブルの膝頭は元より、額を伝う滂沱の脂汗が明らかな無理を如実に語っている。
何と言うかこう・・・満身創痍?感が半端ないんだけど。
「本来であれば・・・こたびの事由、我々が不甲斐なかったばかりに起きた案件だ。自分たちが信奉していた神の落とし前くらい付けられず・・・何が王族か!」
真摯、おれの目を見据えてカリョウが言う。
次いでテンガ、その言の葉に決意と覚悟を滲ませて。
「セイ殿・・・敵方に後れを取ったとはいえ、こうなってしまえば雪と氷に精通した我々の領分。どうか、我々を信じてくれ。」
全員の視線、自ずと荒ぶる氷の花園に向いた。
確かに、敵を殴って解決する問題とは違う。
餅は餅屋・・・って訳でも無いが、暴走する氷と雪を阻むには専門家?の力が必要だろう。
ふらつきながらも前へ出る二人の王。
それを止める者は誰も居ない。
おれと竜兵は、黙ってカリョウとテンガに肩を貸していた。
「セイ殿・・・。」「少年・・・。」
きっとお互い、思うところがあったんだろうな。
「ったく・・・そんなふらふらでも・・・やっぱ王族かよ。」
「おっちゃんたち!頑張れ!」
軽口と応援、それぞれにできそこないの笑顔を返すカリョウとテンガ。
竜兵のおっちゃん発言にはガチで苦笑だったようだが。
後ろではガウジ・エオの「これだから男ってのは・・・。」なんて呟きが聞こえてきたが、まぁ目を瞑っていてほしい。
男には・・・馬鹿でも何かをしなきゃいけない時がある。
だが困ったな・・・こんな状況だと近接物理なアルデバラン、全く持って出番が無い。
おれが何かを言うより先に彼は言う。
「我が君、せめて、維持費分の、魔力を・・・。」
その一言で箱へと消えるアルデバラン。
気を・・・使わせてしまったな。
「アルデバラン、ご苦労さん。」
少しだけ戻ってくる魔力と一緒に、「御意。」と聞こえた気がした。
ちょっとした感動シーンなんだが、そこはカリョウとテンガ。
必要も無いのにオチを付けるのは忘れない。
うん、うちにも居るよ・・・そういう奴。
今は別行動だけど。
「それに・・・。」
呟き、耳に入った小声にカリョウの顔を伺えば、テンガも揃って同じ方を見ていた。
その視線の先、未だ回復せずに倒れたままのホナミ。
(・・・ホナミ?)
「「頑張ったら、女神様からご褒美があるかもしれない。」」
おい!声までそろえて言うことかよ!
こいつら、未だホナミの神聖視が解けてないぞ?
『誘惑』はもう切れてるはずだろうが・・・。
なんつうかお前ら・・・台無しだ!
■
おれたちに肩を貸され進み出た矢面。
結界の先端、氷の花園が浸食する広間で二人は頷いた。
「お二人とも、少し離れてくれ。」
促されおれと竜兵は少し下がる。
一体、何をするつもりなのだろうか?
「カリョウ、処理は任せるよ。」
「ああ。」
そんなやり取りを交わした直後、テンガはおもむろ、結界の外へとその身を躍らせた。
「「なっ!?」」
当然、即座に雪の結晶に纏わりつかれるテンガ。
しかしそれを見守るカリョウも、結界の外に居るテンガも慌てた様子は無い。
良く見れば雪の結晶は、テンガの身体に直接触れる直前の中空を滞動している。
すーっと両手を前へ構えるカリョウ。
雪の王に集中していた結晶が、彼の頭上で合わさり球体になったかと思うと、一瞬後には氷塊に呑まれて床面に落ちた。
そこから氷の華が咲くことは無い。
そして意志持つが如く、周囲の結晶がテンガに集まっていく。
ゆらりゆらりと右左、緩やかな舞を踊っているかのように、結晶を身に纏わせるテンガ。
テンガが集めた結晶をカリョウがまとめて氷塊に包む。
その動作はやけに手馴れていて、流れ作業のようにも見えた。
「最初から・・・対応策がわかっていたみたいだな?」
正直おれにはどうすれば良いかわからなかった。
とりあえずなぐ・・・もとい、なんとかしようと思っただけ。
逆に二人の王は、まるでこの事態を想定していたような動き。
結晶を氷塊に閉じ込めながらカリョウは言う。
「この現象は、我々の国で『氷華』と呼ばれるものに酷似している。あの結晶に触れた者は等しく氷の華の中だ。原因がわからなかった当時、雪人族と氷人族がかかる奇病だとも、『氷雪神』の呪いだとも言われ、二世代前には国民の凡そ六割が生きたまま氷像と化した。」
「そいつぁ・・・。」
『憤怒』だけが原因じゃないと言う事実。
この冷酷な花園は、ノモウルザ本人が選んだ悪意そのものだったらしい。
国民の六割、とんでもない被害だ。
「なるほどどうして、『氷雪神』の呪いと言うのが正解か。唯一の救いは・・・『氷華』に抗する術を我とテンガが確立していた事だな。」
そうか、カリョウとテンガは、この『災害』に対して明確な自信を持って挑んでいた訳か。
しかし・・・。
「だが・・・。」と呟いた氷の王、表情は苦痛に歪んでいた。
「数が・・・多すぎる・・・!」
それはおれも感じていた。
テンガが集め、カリョウが処理するその総量よりも、氷の華から生み出される結晶の数が圧倒的に多い。
このままじゃジリ貧、時間稼ぎにしかならない。
「これ以上、速度は上げられない?」
竜兵の問いに即座、「正直・・・厳しい。」と答えるカリョウ。
彼が言うには、体調は元より魔力の残量が余りにも心もとないらしい。
「おれの魔力も空に近いが使って良いぞ?竜兵は・・・。」
「もちろんおいらも!」
そう言ってカリョウの肩に手を乗せるが、彼は力なく首を振った。
「申し出はありがたい。しかし・・・セイは闇、竜兵と言ったか?君は土属性の魔力だ。今の我では氷属性に変換するような繊細な魔力のコントロールはできない。」
くそ・・・ここでも属性が仇になるのか。
カリョウが見つめるのは、一人結界の外で舞い踊るテンガ。
確かにカリョウが結晶の処理を止めたら、テンガはあっという間に物量に押しつぶされかねなかった。
ガウジ・エオとバイア・・・もだめだな。
賢者様は結界の維持に余念がないし、バイアは炎と天属性だったはず。
更に余裕は無くなり結界の外に居るテンガは元より、カリョウですら話すこともできなくなってしまった。
やきもきする・・・何か・・・手は無いのか?
ゆるゆると押し込まれるのを待つしかないのかと思いかけた時、ドガァン!と破砕音を響かせて、神殿の扉が開け放たれた。
■
「ヴォフーーーーーーーーーーー!!」
「主ぃーーーーーーーーーーーー!!」
叫びと共に転がり込んでくる毛玉が二つ。
いや、黒い方は縮んでるから毛玉だけど、白い方は全長4m、到底毛玉ってサイズじゃあなかった。
「ロカさん!リライ!」
ダッシュ、ジャンプ、ビターン。
走って飛んで、そしてガウジ・エオの結界に阻まれる。
「なんのぉ・・・これしきぃ・・・!」
「ヴォフゥゥゥゥ!!」
全力で結界をこじ開けようとするロカさんとリライ。
その目にはおれしか映っていない。
まてまて、落ち着け!
「ガウジ・エオ。彼らは仲間だ、入れてやってくれ!」
少しだけ眉を顰めた賢者様が、ロカさんとリライを結界へ招き入れる。
ポーン!ドフッ!
肩口に飛び乗ってきたロカさんと、思うさまおれの腹に体当たりをかますリライ。
「主!無事であったか!」
「ヴォフ!」
「ちょ・・・ま!・・・リライ!」
二人を受け止めながら異変に気付く。
ロカさんは汚れているだけだが、リライの白毛があちこち朱に染まっていた。
話せない彼に代わって、説明をくれたのはロカさん。
「あの二騎士を止めるのに、こやつが身を挺して扉を守ってくれたのである。途中でいきなり消えてしまったのであるが・・・今度はこちらから扉が開かずに、やむなくぶち破ったのである。」
そんなことが・・・リライ・・・お前って奴は!
ロカさんとリライをわしわししながら問いかける。
「それでロカさん!アフィナとシルキー、それにポーラは・・・?」
まさかとは思う。
だが、あいつらの姿を直接見ないまでは心配が尽きない。
コクリ頷いたロカさん。
「三人とも無事である。無論、無傷では無いが・・・とりあえず傷ついたままでは主の邪魔になると言って・・・む、追いついたようであるな!」
その言葉通り、扉から姿を現すおれの仲間たち。
「「「セイ(さん)!」」」
三人ともそれなりによれよれ、しかし各員しっかりとした足取りでこちらへ走ってくる。
これで仲間は全員集合、最悪転移での脱出も視野に入れかけた。
だが、その後ろに続く人々が予想外。
目算、五十人は居るだろう。
白と青の鎧に身を包んだ雪人族と氷人族の兵卒たちだ。
目線でガウジ・エオにお願い、意図を汲んで結界を変容、全員を受け入れる賢者様。
「無事だったかお前ら!」
「うん!」「セイさんこそ!」「だべ!」
お互いの無事を喜ぶ間も惜しんで尋ねる。
「それで・・・そいつらは一体?」
「この、人たちも、一緒に、戦うって!」
ぜぇはぁと荒い呼吸整えながらアフィナが言う。
彼らの目にはカリョウやテンガ同等、確固とした信念が宿っていた。
「アニキ!」
気付いたのは竜兵が一番。
その声でおれもハッとする。
そうだ、カリョウの魔力不足は・・・属性変換の余裕が無いため解消されていない。
しかし・・・元から雪や氷の属性なら?
事は一刻を争う。
「お前ら、カリョウとテンガにありったけの魔力を注いでやれ!」
一瞬戸惑い顔を見合わせた兵士たち。
小さく、だが鋭く、「頼むっ!」とカリョウが声を上げる。
迷いは吹っ切れた。
兵士たちは「はっ!」っと気合一閃、全員掌を前に出し、カリョウとテンガへ向けて魔力を放つ。
それからは・・・完全な逆転劇だった。
十分な魔力を得てテンガの舞いも速度を上げ、カリョウが一時に氷塊に変える結晶の量も増えた。
ポーラが『魔眼』で氷の華の弱点を見抜き、ガウジエオがそこへピンポイント、破呪魔法をぶち当てる。
ロカさんとバイアがシルキーと協力してガウジ・エオの結界を引き継ぎ、アフィナはリライやホナミ、それにカリョウの治癒をした。
おれと竜兵はそんな彼、彼女たちに魔力の譲渡をしていたのみ。
ほどなくして・・・。
目を覚ましたホナミが言った。
「私も・・・手伝うわ。」
彼女の有していた莫大な氷の魔力。
それはカリョウとテンガを更に強化して、雪の結晶も氷の華も駆逐された。
沈黙、根絶やしにされた氷の華・・・その一欠けを見て思う。
全員で力を合わせて巨悪を討つ。
正しく王道、少年漫画的展開とも言える。
だが、今日ここに主人公は居ないだろう。
確かにノモウルザ本人を打ち破ったのはおれだ。
しかし、本当の『災害』には手も足も出なかった。
おれも竜兵も、属性の事があったにせよ・・・異世界の魔導師は最後に詰んだ。
ホナミも魔力の譲渡こそすれ、カリョウとテンガがしたような対策はできなかったことだろう。
お前らなら何とかできたのか?
いや、例え今回がどうなろうと、そのスタンスじゃいずれ詰むのは明白だろう。
なぁ・・・サカキにレオ・・・この世界の住人は・・・強いぜ?
「アニキ・・・!」
呼びかけ、竜兵を初めとした仲間たち、意外な助っ人『真・賢者』ガウジ・エオ、氷と雪の王、その兵卒たち。
彼ら全員の視線が、いつの間にかおれに集中していた。
コクリ、深く頷いたカリョウとテンガ。
(そう・・・かよ。)
一瞬過ぎったのはあいつ・・・『太陽』のテツのこと。
しかしそれも強引に振り払い。
普通はこういうの、王族の勤めなんじゃねぇのと思いつつ、おれは高々拳を突き上げる。
「おれたちの・・・勝ちだ!」
「「「「わぁぁぁぁぁ!!!」」」」
歓声は、神殿の天井に開いた大穴、その曇天へ吸い込まれていった。
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