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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
247/266

・第二百三十八話 『憤怒(ラース)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^

 空白、おれや仲間たちの硬直に合わせて飛んでくる一枚のカード。

 『聖域の守護者』ティル・ワールドの乱入があったとは言え、完全に虚を突かれた形。

 動揺、焦り・・・そして、認識の甘さが招いた結果だろう。

 『地球』同様レオが騎士系の盟友ユニットを使っているなら、それと付随して『騎士達ナイツ・オブ栄光・グローリー』を発動しかねないと注意するべきだった。

 

 得物を眼前に構えて三者三様、並び立つ騎士の隙間から飛翔するカード。

 凶弾の投擲者は鳥面の『略奪者プランダー』サカキ。

 問うまでも無くわかる。

 魔法カードを多用する特異なスタイル、碌なものじゃない。


 「アニキィ!」


 自身も『騎士達ナイツ・オブ栄光・グローリー』の反撃効果で吹き飛んだまま、それでもおれの身を案じ声を張り上げる竜兵。

 

 (わかってる!)


 サカキの詠唱は聞こえなかったことから、この魔法の正体に見当が付かない。

 しかし、カードから感じられる余りにも不穏な気配に、受け止める・・・或いは弾き飛ばすなどと言う思考は全く頭に浮かばなかった。

 選べたことは、ただ全力の回避一択。

 倒れかけながらも上体を逸らせば、おれを掠めて後方へ流れていくそのカード。

 簡単に避けれた・・・とは思えない。

 正直狙いがかなり甘かった。

 たが、おれに当たらなかっただけで、問題の解決にはなっていないのだろう。

 なぜなら・・・。 


 「まさか・・・これも使うことになるなんてな・・・。」


 呟いた鳥面の声音が、セリフとは裏腹・・・全く落ち込んだものでは無かったからだ。

 むしろそこにあったのは、おれに魔法が当たらなかったことよりも、そのカードを使用すること自体が想定外だとでも言うかの如く。

 仰ぎ見てもサカキとレオ、それにティル・ワールドの三名は静観するのみ。

 事は済んだとばかり、細々とした会話が断片的に耳に入る。


 「ここまでやって収穫はテツ・・・いや、『太陽サン』一枚かよ。」


 「腐るなサカキ。今回はイレギュラーが過ぎた。」

 

 騎士達の絶対防壁に阻まれ、おれはもちろんのこと、竜兵やバイア、ガウジ・エオですら打つ手がない。

 効果時間が切れるまで、まだ時間がある・・・。

 おれ、竜兵、バイア揃って身構えるが、前門の『略奪者プランダー』、後門の謎光球。

 その余裕からか、会話を続ける『略奪者プランダー』二人。

 まだガウジ・エオの転移阻害は破られていないというのにだ。


 「まさかホナミが裏切るとはな・・・。」


 「確かに・・・これはツツジの機嫌が悪くなる。」


 (ホナミとツツジか・・・。)


 そこにどんな関係があったのかは、未だ想像しかできない。

 おそらくは以前話していた『地球』が壊れるって話と繋がっているのだろうが。

 だが彼女は今おれの・・・ガウジ・エオの庇護下にあり、ティル・ワールドも改めて手を出してくる気配も無かった。

 チラリ、魔女の結界の中、高速されたままの彼女に目線を向けた時、今まで沈黙を保っていた翼人が呟く。


 「・・・よそ見していて・・・良いのか?」

  

 おれに向けられたものだろう。

 カードの飛んだ先、おれの背後に生じる悪寒。

 

 (いやな・・・いやな予感しかしねぇ!)


 慌てて振り返れば、今まさにカードへと転じた『氷雪神』ノモウルザに、サカキの投じたカードがぴったりと張り付いていた。

 ほどなくして二枚のカードが光に包まれる。

 生まれたのは青い光球。

 まるでノモウルザの体色を顕現したような・・・。


 ズ・・・ズズ・・・ズズズ・・・

 不気味な鳴動、徐々に光球が肥大化していく。

 明らか異質な現象、傍目からも一目でわかるのは、その光球が内包する馬鹿げた魔力。


 (いくら神のカードでも、こんな力があるものなのか?)


 底の知れない翼人はまだしも、サカキやレオからはここまでの力を感じたことは無い。

 その真意を問い質す前に、サカキとレオから漏れる安堵のため息。


 「やっと時間か。この魔法は待機時間が長いってのがな。それと・・・コストがあれじゃあよ・・・。」


 「まぁ・・・やむおえんさ。だがこれで・・・『悪魔デビル』と『ストレングス』にご退場願えると思えば、神一枚高くは無い。」


 (神をコスト?待機時間が長い?)


 先ほどからこれ見よがしに続けられた会話が、意図した時間稼ぎだったとしたら・・・。

 危険察知がビンビンに伝えてくる。

 鮮明、蘇る『地球』での記憶、カードゲーム『リ・アルカナ』に存在する一枚の魔法。

 むしろ遅すぎる気付き。

 サカキの来訪より予期し、対策しておかなければいけなかった事象だ。

 

 「七つの大罪・・・!」


 おれがそこに思い至った時、バイアが叫んだ。


 「お竜ちゃん!兄者君!」

 

 そしてノモウルザのカードから産まれた光球が頭上高く舞い上がり、その真の姿を現しす。

 


 ■



 バキバキキキッ!

 光球から生まれたのは上下左右、長大な四本の柱。

 その柱が縦横に伸び、天井、床、壁へと接触する。

 接触面は一瞬で凍り付き、次いで巨大な氷の華が咲き乱れた。

 氷の華から飛ぶ雪の結晶。

 結晶が落ちた先でまたしても氷の華が咲き誇る。

 近くを舞う一片を『竜棍』で払おうとするバイア。


 「待て!触るなバイア!」

 

 おれは慌てて彼を止める。

 あんなものに触ったら・・・たとえバイアでも無事に済むとは思えない。 


 「なんだいこりゃ!あたしも大概の魔法は知ってるが・・・こんなの見たことも無いよ!?」


 彼女の問いに対する答え、おれと竜兵は持っている。


 「アニキ!これは・・・!」


 「ああ!『憤怒ラース』だ!」


 「ご明察。」


 あっさりと肯定するサカキに苛立ちを禁じ得ない。


 (なんて・・・なんてもんを使いやがる!)

 

 七つの大罪に分類される魔法カード『憤怒ラース』。

 神のカードを一枚破棄することによって、その神の持つ属性、能力アビリティに応じた『災害ハザード』を巻き起こす。

 ノモウルザの属性は当然氷と雪。

 能力アビリティは『再生』とか『自己修復』の類だと思う。

 いや、あの無尽蔵とも思えた体力、下手すると『増殖』って事もあり得るぞ・・・。

 背筋を冷たい汗が伝っていく。

 考えてみて欲しい。

 祟り神の魔力を有し、その魔力尽きるまで際限なく『増殖』する氷の華。

 最悪、この大陸が滅ぶぞ。

 

 「てめぇ・・・!」


 おれは拳を一層握り締め、サカキを睨み付けた。

 奴は「おーこえー。」と呟き、ついっと目を逸らして一歩下がる。

 

 「セイ!まずいよ!なんとかしな!」


 おれたちの睨み合いに割って入ったのはガウジ・エオ。

 彼女の視線の先はドーム状神殿の天井、バイアが割り砕いて入ってきたおかげで曇天が見えるそこだ。

 華から舞い上がる雪の結晶が、一定域で不自然に阻まれていた。

 ガウジ・エオの結界、『略奪者プランダー』どもお得意の転移を妨げるためのもの。

 しかし、阻んでいる結界が目に見えている。

 更には見覚えのある紫電が閃き、結界がスパークしていた。


 「あぁっ!くそっ!」


 ガウジ・エオが洩らした悪態と同時。

 パシャーン!

 何かをする間もない破砕音、それはまるでガラスが割れるように。

 結界が粉々に霧散する。

 それが意味することは・・・。 


 「『悪魔デビルに圧倒されてたからどうなるかと思ったが、まぁそこはさすがに神だわな。」


 「そうだな。では・・・そろそろお暇しよう。」


 どこか投げやりなサカキと、それに淡々と応対するレオ。

 奴らを挫く枷は、既に破られてしまった。

 

 「待ちやがれっ!」


 諦めきれないおれ、悪あがきの飛び蹴りも・・・当然、三人の騎士が作る防御障壁に防がれる。


 「くぅ!おおお!」

 

 繰り出した攻撃と同等の反撃に耐えながら、ひたすら拳を打ち込んでも揺るがない壁。

 そしてレオはおれたちから完全に興味を失い、翼人の男に問いかける。


 「『守護者』はどうする?」


 対してティル・ワールド、「・・・ふむ。」と小さく一人ごち、「私は目的を達したからな。外までは一緒に行こう。」と頷いた。

 奴の手に納まっていた一枚のカード。

 名称は読めなかったがイラストは見えた。

 氷塊に埋め込まれたピラミッド状の四角錐、ついさっき見たばかりの『ミステリア道具グッズ』。

 ノモウルザの封印に使われていたはずの古代兵器だ。


 (目的?奴はあれで一体何をするつもりなんだ!?)


 「では『悪魔デビル』、『ストレングス』さよならだ。もう二度と会うことも無いだろう。」


 レオがサカキとティル・ワールドの肩に手を乗せる。


 「「待て!」」


 重なるおれと竜兵の制止に答えたのは、サカキの「じゃあな」の一言のみ。

 『略奪者プランダー』とティル・ワールドは、忽然と姿をくらました。

 後を追うように消える白、緑、黄土色、三人の騎士。

 おれたちはまたしても同郷の悪意を取り逃がす。


 「お竜ちゃん、兄者君。どうするんじゃ!?」


 氷の華がドンドン増殖、おれたちはガウジ・エオの結界に逃げ込む。


 「転移で・・・逃げるかい?」


 そういえばガウジ・エオも突然現れた。

 『略奪者プランダー』同様、転移を使えるのだろう。

 だが・・・。


 「いや、だめだ。扉の外に仲間が居る。それに・・・。」


 脳裏に浮かぶロカさんやアフィナ、シルキーそれにポーラとリゲルの顔。

 

 「・・・それに?」


 言いよどんだおれを促すように問う賢者。


 「これを・・・『憤怒ラース』を放ってはいけない・・・!手伝って・・・くれるか?」


 方法はわからない。

 それでもこれは止めなきゃいけないものだ。 


 「さすがアニキ!もちろん、おいらも頑張るよ!」


 「わしもじゃ。兄者君に指示は任せるぞい!」


 「わ、わ、わ、私も居ますよ!力・・・弱いですけど・・・!」


 肯定は間髪入れずにやってきた。

 おれの頼れる弟分、ひまわりの笑顔でサムズアップ。

 柔和な微笑みを浮かべて髭をしごくバイア。

 そしてごめん、半ば以上忘れかけていたキアラ。


 「はぁ・・・秋広の言ってた通りだねぃ・・・。」


 何故か憂い顔のガウジ・エオに疑問を浮かべた時、思いがけぬ声が上がった。


 「「ここは、我々の出番だな!!」」







ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。


※最近全然セイがボヤいていない!

次回はボヤきます、たぶん、おそらく、きっと。

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