・第二百三十八話 『憤怒(ラース)』
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空白、おれや仲間たちの硬直に合わせて飛んでくる一枚のカード。
『聖域の守護者』ティル・ワールドの乱入があったとは言え、完全に虚を突かれた形。
動揺、焦り・・・そして、認識の甘さが招いた結果だろう。
『地球』同様レオが騎士系の盟友を使っているなら、それと付随して『騎士達の栄光』を発動しかねないと注意するべきだった。
得物を眼前に構えて三者三様、並び立つ騎士の隙間から飛翔するカード。
凶弾の投擲者は鳥面の『略奪者』サカキ。
問うまでも無くわかる。
魔法カードを多用する特異なスタイル、碌なものじゃない。
「アニキィ!」
自身も『騎士達の栄光』の反撃効果で吹き飛んだまま、それでもおれの身を案じ声を張り上げる竜兵。
(わかってる!)
サカキの詠唱は聞こえなかったことから、この魔法の正体に見当が付かない。
しかし、カードから感じられる余りにも不穏な気配に、受け止める・・・或いは弾き飛ばすなどと言う思考は全く頭に浮かばなかった。
選べたことは、ただ全力の回避一択。
倒れかけながらも上体を逸らせば、おれを掠めて後方へ流れていくそのカード。
簡単に避けれた・・・とは思えない。
正直狙いがかなり甘かった。
たが、おれに当たらなかっただけで、問題の解決にはなっていないのだろう。
なぜなら・・・。
「まさか・・・これも使うことになるなんてな・・・。」
呟いた鳥面の声音が、セリフとは裏腹・・・全く落ち込んだものでは無かったからだ。
むしろそこにあったのは、おれに魔法が当たらなかったことよりも、そのカードを使用すること自体が想定外だとでも言うかの如く。
仰ぎ見てもサカキとレオ、それにティル・ワールドの三名は静観するのみ。
事は済んだとばかり、細々とした会話が断片的に耳に入る。
「ここまでやって収穫はテツ・・・いや、『太陽』一枚かよ。」
「腐るなサカキ。今回はイレギュラーが過ぎた。」
騎士達の絶対防壁に阻まれ、おれはもちろんのこと、竜兵やバイア、ガウジ・エオですら打つ手がない。
効果時間が切れるまで、まだ時間がある・・・。
おれ、竜兵、バイア揃って身構えるが、前門の『略奪者』、後門の謎光球。
その余裕からか、会話を続ける『略奪者』二人。
まだガウジ・エオの転移阻害は破られていないというのにだ。
「まさかホナミが裏切るとはな・・・。」
「確かに・・・これはツツジの機嫌が悪くなる。」
(ホナミとツツジか・・・。)
そこにどんな関係があったのかは、未だ想像しかできない。
おそらくは以前話していた『地球』が壊れるって話と繋がっているのだろうが。
だが彼女は今おれの・・・ガウジ・エオの庇護下にあり、ティル・ワールドも改めて手を出してくる気配も無かった。
チラリ、魔女の結界の中、高速されたままの彼女に目線を向けた時、今まで沈黙を保っていた翼人が呟く。
「・・・よそ見していて・・・良いのか?」
おれに向けられたものだろう。
カードの飛んだ先、おれの背後に生じる悪寒。
(いやな・・・いやな予感しかしねぇ!)
慌てて振り返れば、今まさにカードへと転じた『氷雪神』ノモウルザに、サカキの投じたカードがぴったりと張り付いていた。
ほどなくして二枚のカードが光に包まれる。
生まれたのは青い光球。
まるでノモウルザの体色を顕現したような・・・。
ズ・・・ズズ・・・ズズズ・・・
不気味な鳴動、徐々に光球が肥大化していく。
明らか異質な現象、傍目からも一目でわかるのは、その光球が内包する馬鹿げた魔力。
(いくら神のカードでも、こんな力があるものなのか?)
底の知れない翼人はまだしも、サカキやレオからはここまでの力を感じたことは無い。
その真意を問い質す前に、サカキとレオから漏れる安堵のため息。
「やっと時間か。この魔法は待機時間が長いってのがな。それと・・・コストがあれじゃあよ・・・。」
「まぁ・・・やむおえんさ。だがこれで・・・『悪魔』と『力』にご退場願えると思えば、神一枚高くは無い。」
(神をコスト?待機時間が長い?)
先ほどからこれ見よがしに続けられた会話が、意図した時間稼ぎだったとしたら・・・。
危険察知がビンビンに伝えてくる。
鮮明、蘇る『地球』での記憶、カードゲーム『リ・アルカナ』に存在する一枚の魔法。
むしろ遅すぎる気付き。
サカキの来訪より予期し、対策しておかなければいけなかった事象だ。
「七つの大罪・・・!」
おれがそこに思い至った時、バイアが叫んだ。
「お竜ちゃん!兄者君!」
そしてノモウルザのカードから産まれた光球が頭上高く舞い上がり、その真の姿を現しす。
■
バキバキキキッ!
光球から生まれたのは上下左右、長大な四本の柱。
その柱が縦横に伸び、天井、床、壁へと接触する。
接触面は一瞬で凍り付き、次いで巨大な氷の華が咲き乱れた。
氷の華から飛ぶ雪の結晶。
結晶が落ちた先でまたしても氷の華が咲き誇る。
近くを舞う一片を『竜棍』で払おうとするバイア。
「待て!触るなバイア!」
おれは慌てて彼を止める。
あんなものに触ったら・・・たとえバイアでも無事に済むとは思えない。
「なんだいこりゃ!あたしも大概の魔法は知ってるが・・・こんなの見たことも無いよ!?」
彼女の問いに対する答え、おれと竜兵は持っている。
「アニキ!これは・・・!」
「ああ!『憤怒』だ!」
「ご明察。」
あっさりと肯定するサカキに苛立ちを禁じ得ない。
(なんて・・・なんてもんを使いやがる!)
七つの大罪に分類される魔法カード『憤怒』。
神のカードを一枚破棄することによって、その神の持つ属性、能力に応じた『災害』を巻き起こす。
ノモウルザの属性は当然氷と雪。
能力は『再生』とか『自己修復』の類だと思う。
いや、あの無尽蔵とも思えた体力、下手すると『増殖』って事もあり得るぞ・・・。
背筋を冷たい汗が伝っていく。
考えてみて欲しい。
祟り神の魔力を有し、その魔力尽きるまで際限なく『増殖』する氷の華。
最悪、この大陸が滅ぶぞ。
「てめぇ・・・!」
おれは拳を一層握り締め、サカキを睨み付けた。
奴は「おーこえー。」と呟き、ついっと目を逸らして一歩下がる。
「セイ!まずいよ!なんとかしな!」
おれたちの睨み合いに割って入ったのはガウジ・エオ。
彼女の視線の先はドーム状神殿の天井、バイアが割り砕いて入ってきたおかげで曇天が見えるそこだ。
華から舞い上がる雪の結晶が、一定域で不自然に阻まれていた。
ガウジ・エオの結界、『略奪者』どもお得意の転移を妨げるためのもの。
しかし、阻んでいる結界が目に見えている。
更には見覚えのある紫電が閃き、結界がスパークしていた。
「あぁっ!くそっ!」
ガウジ・エオが洩らした悪態と同時。
パシャーン!
何かをする間もない破砕音、それはまるでガラスが割れるように。
結界が粉々に霧散する。
それが意味することは・・・。
「『悪魔に圧倒されてたからどうなるかと思ったが、まぁそこはさすがに神だわな。」
「そうだな。では・・・そろそろお暇しよう。」
どこか投げやりなサカキと、それに淡々と応対するレオ。
奴らを挫く枷は、既に破られてしまった。
「待ちやがれっ!」
諦めきれないおれ、悪あがきの飛び蹴りも・・・当然、三人の騎士が作る防御障壁に防がれる。
「くぅ!おおお!」
繰り出した攻撃と同等の反撃に耐えながら、ひたすら拳を打ち込んでも揺るがない壁。
そしてレオはおれたちから完全に興味を失い、翼人の男に問いかける。
「『守護者』はどうする?」
対してティル・ワールド、「・・・ふむ。」と小さく一人ごち、「私は目的を達したからな。外までは一緒に行こう。」と頷いた。
奴の手に納まっていた一枚のカード。
名称は読めなかったがイラストは見えた。
氷塊に埋め込まれたピラミッド状の四角錐、ついさっき見たばかりの『謎の道具』。
ノモウルザの封印に使われていたはずの古代兵器だ。
(目的?奴はあれで一体何をするつもりなんだ!?)
「では『悪魔』、『力』さよならだ。もう二度と会うことも無いだろう。」
レオがサカキとティル・ワールドの肩に手を乗せる。
「「待て!」」
重なるおれと竜兵の制止に答えたのは、サカキの「じゃあな」の一言のみ。
『略奪者』とティル・ワールドは、忽然と姿をくらました。
後を追うように消える白、緑、黄土色、三人の騎士。
おれたちはまたしても同郷の悪意を取り逃がす。
「お竜ちゃん、兄者君。どうするんじゃ!?」
氷の華がドンドン増殖、おれたちはガウジ・エオの結界に逃げ込む。
「転移で・・・逃げるかい?」
そういえばガウジ・エオも突然現れた。
『略奪者』同様、転移を使えるのだろう。
だが・・・。
「いや、だめだ。扉の外に仲間が居る。それに・・・。」
脳裏に浮かぶロカさんやアフィナ、シルキーそれにポーラとリゲルの顔。
「・・・それに?」
言いよどんだおれを促すように問う賢者。
「これを・・・『憤怒』を放ってはいけない・・・!手伝って・・・くれるか?」
方法はわからない。
それでもこれは止めなきゃいけないものだ。
「さすがアニキ!もちろん、おいらも頑張るよ!」
「わしもじゃ。兄者君に指示は任せるぞい!」
「わ、わ、わ、私も居ますよ!力・・・弱いですけど・・・!」
肯定は間髪入れずにやってきた。
おれの頼れる弟分、ひまわりの笑顔でサムズアップ。
柔和な微笑みを浮かべて髭をしごくバイア。
そしてごめん、半ば以上忘れかけていたキアラ。
「はぁ・・・秋広の言ってた通りだねぃ・・・。」
何故か憂い顔のガウジ・エオに疑問を浮かべた時、思いがけぬ声が上がった。
「「ここは、我々の出番だな!!」」
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