・第二百三十六話 『祝福された痛撃(ブレスドストライク)』
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気絶する原因となった頭部への一撃。
しかし、その時の傷は感じない。
出血が無いにしても、コブくらいはできていてもおかしくなかったんだがな。
ひとえに、『魂の攪拌』で纏った『白炎鳳』トゥラケインの能力、『再生』が適用されてのことだろう。
それにきっと、おれの周囲だけ気温が急上昇しているはずだ。
先ほどから吹雪も氷塊も、一定距離からこっち一瞬で蒸気になって霧散する。
吹雪の柱と化したノモウルザを見据え、『祝福された痛撃』を発動しようとした正にその時、頭の中に直接声が響く。
【我ノ・・・声ガ・・・聞コエル・・・カ?】
バイアがするような『念話』だとは思う。
ただ・・・かなり弱弱しく不明瞭。
それに今まで一度も聞いたことが無い声だ。
【我ノ・・・声ガ・・・聞コエル・・・カ?】
再度声が問いかけてくるのに対し、おれはある種の予感を持って【ああ・・・。】と心に念じる。
予感の源は癒えていた傷、そしておれの身体の中、暖かい・・・否、すでに明確な熱量を持って主張するもう一つの存在。
それは『白炎鳳』トゥラケイン・・・『太陽』のテツ、最期の置き土産。
犬姿でも流暢に人語を扱うロカさんなんかと違い、トゥラケインが話している所などVRでも見たことは無い。
しかし、すんなりと浸透してくるその事実。
おれと意志が通じたことで、どこかホッとしたようなイメージが伝わってくる。
【異世界ノ・・・魔導師・・・『悪魔』ヨ・・・頼ミガアル・・・。】
【・・・何だ?】
振り絞るような鳳凰の声音は、怒りと悲哀に満ちていて・・・。
少しだけ身構えたおれに、途切れ途切れだがはっきりと。
【アレノ・・・テツノ・・・最期ノ願イ・・・我ノ力ヲ・・・!】
トゥラケインが抱いていた怒りも悲哀も・・・全ては使役者であるテツへのもの。
【・・・わかった!】
言うまでもない事だが、改めて真摯、心の中向き合うつもりで答える。
いや、これは答えたんじゃない・・・。
おれの気持ち、正確に言い表すのなら言葉は一つ。
そう・・・これは「誓い」だ。
【何度モ・・・言ッタノダ・・・ヤリ直スノニ・・・遅イコトナド無イ・・・ト】
伝わってくる感情の奔流に合わせ、漲る炎の魔力、自身の存在をそこに重ねていくイメージ。
確かに鳳凰の魔力とおれの魔力が繋がった感覚。
突如加速する意識に、フラッシュバックする数多の光景。
それはテツを見守ってきたトゥラケインの記憶だった。
記憶の中のテツは・・・いつも苦悩し後悔していた。
そしてわかってしまう。
あいつは・・・この世界で誰一人として命を奪っていない。
軽い態度で、勝手な素振りで、『略奪者』の命令を何度も反故にしていた。
これか、これが原因で『略奪者』どもは、テツを本当の仲間として扱っていなかったのか。
だからこそなのか?トゥラケインは、『略奪者』の使役する盟友とは明らかに違う。
【アレハ愚カダッタ・・・。ダガ決シテ、死スホドノ下種デハ・・・無カッタ!】
魔力が十全に繋がったからか、さっきよりもずっと明瞭になったトゥラケインの慟哭。
身体の中に息づく鳳凰が、一回り大きくなったような気がする。
【ああ・・・そうだな・・・トゥラケイン。あいつは・・・馬鹿だったけど・・・今はおれの友達だ!】
心の中で宣言、目の前浮かぶ一枚のカードを発動。
おれはノモウルザの形成した吹雪の竜巻へ向けて走り出す。
「アニキ!?」「我が君!」「セイ!?」「兄者君!」
傍目には炎の加護のような物で守られているとは言え、固まっていたように見えるおれが突然走り出したようにしか思えなかっただろう。
ガウジ・エオの結界内、仲間たちから不安と疑念、それに心配の声が飛んでくる。
ったく、竜兵はおれが使った魔法もわかっているだろうに・・・。
まぁ、自身が呼び出した『溶岩竜帝』が不運にもあっさり帰還してるからな。
本来は何らかの手段で、彼の竜の所有権を譲り渡すはずだったんだろう。
おれの身に起きた不思議現象・・・テツとの邂逅や融合を果たしたトゥラケインのこと、想像はできても確信は持てないか。
(なら・・・。)
『祝福された痛撃』
光の粒子に解けたカードへと飛び込みながら、定められた文言・・・魔法名を唇に乗せた。
飛散した光の粒子はおれの身体を包み、背中で一層激しく炎の翼が燃え上るのを感じ取る。
背中だけじゃない。
両の拳、両の足、額にも感じる大いなる祝福。
【トゥラケイン!わかってるな!】
【応ッ!】
心での会話はよりスムーズに、思考が簡単に相手に伝わる。
まるで自身の盟友と繋がるパス、いや・・・それ以上のレスポンス。
トン・・・軽く地を蹴った後にやってくる浮遊感。
「アニキ・・・!まさか・・・トゥラケインと!?」
背後、追いかけてくる竜兵の声は驚愕に満ち満ちていて。
おれの状況を正確に理解し、されど納得はいかないとばかり。
そう、その通りだよ竜兵。
肯定の意味も込め、大きく羽ばたかせる炎の翼。
おれは一条の弾丸となり飛んだ。
■
勢いそのまま、吹雪の竜巻に頭から突っ込む。
床と水平に飛行、ノモウルザのテリトリーに着弾する寸前、背中の翼が前方・・・錐のように展開する。
激突、貫通、拮抗。
バク転よろしく空中で一回転、制動、中空で狙いを定める。
今度は弱まった一か所へ向け、炎の翼に後押しされた蹴りを叩きこむ。
足元から燃え上る白き炎と竜巻が衝突。
湾曲、軋む、たわむ、こじ開ける。
「吹き飛べぇぇぇぇ!!」
【オオオオオォォォ!!】
咆哮、おれとトゥラケインの意志が、吹雪の結界を打ち砕く。
勢いを殺すために回転しながらの着地。
摩擦と身体から吹き出る炎で床から上がる蒸気。
眼前には、己が吹雪を破る者など想像し得なかったであろう巨人の神。
ノモウルザの後方控える『略奪者』二人。
サカキとレオも仮面越し、容易にわかる動揺。
「ばか・・・な!」
「何だ・・・その姿は・・・!」
呟いたのは誰だったのか。
丹田の構えで呼気を整えれば、おれの背中、両拳、両足に額、そこかしこから脈動する炎。
自分で見ることは叶わないが、おそらく今のおれの姿・・・件の悪魔なヒーローが覚醒した時のようになっているはずだ。
まぁ背中に生えてるのは悪魔のそれじゃなくて、鳳凰の翼なんだがな。
効果音でも付くなら「ドンッ!」ってとこかね?
「そろそろ・・・幕だぜ!」
一言、腰だめの拳に炎の集束。
「まずいぞノモウルザ!攻撃しろ!」
「ワシに指図するなぁ!」
おれの不穏な動きに真っ先反応したのはレオだった。
しかし、先ほどの愚行・・・ノモウルザ暴走と同じパターン。
どうやらノモウルザは命令されるのがよっぽど嫌いらしい。
まぁ・・・どんだけ気に入らないからって、おれを無視してレオを睨んでる場合じゃないと思うぞ?
「おらぁ!」
一息に踏み込み跳躍、でっかなおっさんのどてっ腹に拳を振るう。
今回は問答無用、左拳による全力の一撃だ。
それも・・・ため込んだ炎の魔力をがっつり乗せたきっつい奴だぜ?
しかし、敵もさるもの。
さすがにこいつを食らう訳にはいかないと判断したのだろう。
『祝福された痛撃』により、逆属性への『貫通』を得た拳が突き刺さる直前、 「そんなものに当たるかぁ!」と、巨体を物ともせずノモウルザが飛び退く。
(なるほど、さっきまでは避けるまでも無いからそのまま食らってたってことね?)
事実、おれと竜兵の与えたダメージは奴に一切残っていない。
肯定するがの如くニヤリ、ドヤ顔になる青いおっさん。
「ワシを舐めるなよ!貴様の攻撃など本来どうとでも・・・なっ!?」
だが・・・奴が避けるのも想定外ならば・・・その後に起きた事も想定外。
いや、おれには幸運な想定外だったんだが。
結論から言おう。
振りぬいた拳から・・・鳳凰出ました。
「クァァァァ!!!」
ゴシャァ!
一声鳴いて滑空、白き鳳凰がノモウルザの身体にぶち当たる。
「ぎゃああああああああ!!!」
所謂、効果はバツグンだ。って奴。
激突したトゥラケインも消えたが、ノモウルザの全身から水蒸気が噴出。
直接当たった場所には巨大な空洞が開いている。
おれ、いつのまにか格ゲーのキャラみたいなことできるようになってたらしいよ?
だけどこれ・・・自爆特攻じゃないよな・・・?
【案ジルナ。今ノハ我ノ分体ダ。】
考えた途端に返ってくる鳳凰の声。
それならいいけど・・・ねぇトゥラケイン、出るなら出るって言って?ガチで焦るから。
っと、それはともかく。
ノモウルザはがっくりと両膝をつき、棍棒を杖替わりに倒れるのだけは堪えている様子。
「ばかな!ノモウルザが一撃だとっ!?」
未だ結界に隠れたままのレオが叫ぶ。
外野がうるせぇよ。
一度経験してしまえば後は簡単だ。
着地と同時に放った回し蹴りから飛び出すトゥラケインの分体。
「レオ!」
ゴン!ドバァ!
「「ぬぁぁぁ!」」
一瞬速く反応したサカキが結界を強化するが、その結界に分体がぶち当たって爆炎を撒き散らす。
ナニコレ・・・すごい便利。
『祝福された痛撃』の効果は、翼を含む全身にしっかりと影響を及ぼしていた。
しかもおれの弱点ともいうべき遠距離と、継戦能力を補完する形。
いかんいかん、今はノモウルザだ。
仲間たちに視線を送れば、それぞれから首肯が返ってくる。
おーけー、サカキとレオは任せるぞ?
「ふざけ・・・ふざけるなぁぁぁ!!!ワシは神だぞぉぉぉ!!!」
はぁ・・・また激昂してらっしゃる。
ノモウルザが叫ぶと、おれを囲むように氷や雪の人型が生まれた。
身体溶けかかってんのに元気いっぱいだな。
「しゃらくせぇ!」
ドンと足踏み、おれの足元から全ての氷像、雪像に火線が奔る。
足元から噴き上がった火柱に呑み込まれ融解する人形。
接敵、一歩で距離を詰め・・・ヨロヨロしているおっさんの杖替わり、棍棒を蹴って一気に跳躍。
炎の翼で宙を舞い、奴の顔面に迫る。
「・・・ひっ!」
初めて・・・神を名乗るその巨人の顔に浮かんだ恐怖。
「ま・・・待て!ワシを殺せば・・・!」
こういう奴の最期ってどこも似偏ったもんなのかね?
続く言葉はなんだろうな・・・聞く気も無いけど。
「お前はもう・・・詰んでんだよ!」
くるり半回転、裏拳で奴のこめかみを捉える。
おれは容赦なく「なんちゃって発剄」、「飛び出す鳳凰アタック」を繰り出す。
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