・第二百三十三話 『竜棍』
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竜兵、アルデバランと並び立ち、ノモウルザ及び『略奪者』二人と相対する。
ぼわん・・・見慣れた煙を上げて、バイアがドラゴン姿からいつもの仙人風、人型へ変化した。
それを見てノモウルザ、おれとの会話以上に迸る冷気を強める。
「竜の爺・・・何の真似だ・・・?」
ノモウルザと言う巨人が居るにも関わらず、体格的には不利となる『人化』。
あえて・・・だろう。
バイアが先ほど寄越した『念話』ではっきりと言っていた。
おれと竜兵に神殺しを成してもらうと・・・。
つまり、あの青いおっさんはおれたちに任せるってこと。
そして『人化』したバイアのターゲットは、サカキとレオって寸法だ。
「ふぉっふぉ・・・お竜ちゃん、こないだのアレはあるかのぅ?」
神の威圧を物ともせずにバイア、竜兵に軽い調子で問いかける。
「うん、あるよ。じっちゃん使って。」
竜兵が手札の一枚へ手を滑らせ、魔力を込めたカードをバイアに渡す。
バイアの手元、形作られる竜の装飾施された棒・・・『竜棍』。
ヒュンヒュン数度振り回し、連結部のギミックを操作して頷くバイア。
「また・・・しばらく借りるぞい?」
バイアの言葉に竜兵が「うん!」と、元気よく返答し、蚊帳の外なおっさんがキレる。
「何の真似だと聞いたぞ!爺ぃぃぃ!」
相変わらず沸点が低いな。
勢い任せ、ノモウルザの周囲に煌めく雪の結晶が、凶悪な氷柱になっておれたちへ降り注ぐ。
「やれやれ・・・。」
ふぅっとため息、バイアは人型のまま・・・口から『吐息』を放出した。
さすがにドラゴン姿ほどの範囲は無いが、正面の氷柱は全て融解。
おれたちに被害は一切無い。
と、思ったら・・・。
「ちょいと爺!あたしらの分も消しな!」
背後から怒声、次いで響くガインガインと硬い何かと何かがぶつかる音。
確かめるまでも無く声の主は、当然『真・賢者』ガウジ・エオ。
そして硬い物同士がぶつかる音は、ノモウルザの飛ばした氷柱・・・バイアが消し漏らしたそれを、彼女が防いだ音だろう。
ガウジ・エオはキアラとホナミ、それにカリョウとテンガを結界で守りつつ、ドヤ顔で腕組みしていた。
この人にノモウルザ任せた方が良いんじゃないのか?って気がしてきた。
「だめだよ。それは男の仕事だよ。」
ふぁっ!?おれ、声出してませんけど・・・。
いたって普通に、おれの思考と会話する賢者に困惑。
現実に引き戻したのは好々爺の声だった。
「ふぉっふぉ・・・すまんのぅ、小娘。」
(小娘て・・・。)
バイアとガウジ・エオ、及び青いおっさんことノモウルザの関係性が全く見えてこない。
雰囲気的には明らか旧知の仲っぽいのが更に・・・。
それはともかく。
思わずつっこんでしまいそうになった。
おれは悪くないと思うぞ。
だって・・・一万年生きてるらしいんだぜ?
見た目とか完全に20代後半くらいだけど。
何と言うか、アリアムエイダの『人化』モードよりも若いくらい?
まぁ、ガウジ・エオの倍生きてるバイアからすれば十分小娘なんだろうが・・・。
なんだこの釈然としない感じ。
「セイ・・・なんか言いたいことでもあるのかい?」
「・・・いや?何も無いぞ?」
おれの声・・・震えてないよね?
背後からどうやっておれの気持ち伺ったんだよ・・・ナチュラルに心読んでくる賢者怖い。
バイアはガウジ・エオを「小娘」呼ばわりして、おれと竜兵へ茶目っ気たっぷりのウィンク。
「こっちは任せて、お竜ちゃんと兄者君は伸び伸びやりんさい。」
一言、そして・・・走った。
ビシッ!
「悪戯をするのはこの腕かのぅ?」
「ぐぁ!」
誰もが反応できなかったバイアの一歩。
『竜棍』で強か手首を打ち据えられ、サカキが手にしていたカードを取り落とす。
どうやらノモウルザの派手な動向の影、密かにカードを準備していたらしい。
本当に油断も隙も無い。
あっちはさっき竜兵に切られた後、つなげたばっかりの腕じゃないか?
自業自得とは言え、正に傷口へ塩を塗り込まれた形。
「わしはおんしに用があるしのぅ。」
蹲るサカキにバイアは冷徹、追撃の打ち下ろし。
からがら、転がって避ける鳥面。
竜兵と話している時の好々爺の姿、そこには無い。
用と言うのは・・・当然『竜の都』のドラゴンたち、その魂とも言えるカードのことだろう。
さっき竜兵が『嵐竜』だけは回収していたが、犠牲者はもっとたくさん居たはずなのだから。
「サカキ!」
無論じっとなどしていられないレオ。
件の胡散臭い挙動、白ローブの懐へ手を忍ばせる。
「アルデバラン!」
「御意!」
あのよろしくない動きを看過できるはずもない。
声かけと共に投擲された大鎌が、弧を描いて獅子面へ飛翔する。
狙いは正確、全力で避けなければ・・・腰から上と下がお別れすることになるだろう。
「こっ・・・のっ!」
慌てて仰け反り大鎌を避けるが、その時にはすでにアルデバランが詰めていた。
凶悪な衝角を備えた肩甲を前面に、ショルダータックルで迫る。
あえなくお一人様脱落か?とも思ったが・・・。
「ワシを無視するなぁぁぁ!!!」
怒号、ノモウルザがレオとアルデバランの間に氷壁を形成した。
ドゴッ!
肩口から氷壁に突っ込んだアルデバランは動きが止まる。
そこへ、高角度から一気に振り下ろされるノモウルザの棍棒。
だが・・・それがアルデバランを打ち据えることは叶わない。
なぜなら・・・。
「「てめぇの相手は、おれ(おいら)だ!」」
おれのフックと竜兵の横薙ぎの一撃が、ノモウルザの巨体を支える膝でクロスした。
■
ガゴスッ!ゾンッ!
「ぐがぁぁぁ!!!」
悲鳴を上げよろめき膝立ち、体勢を崩す青い巨人。
その間に氷壁から身を引きはがし、アルデバランはレオに追撃をかける。
痛撃を撃ち込んだはずのおれと竜兵は・・・。
「「かってぇ!」」
二人揃って腕が痺れていた。
(くそー、まじか・・・さすが本体だわ。)
不意も突いたし、結構な力も込めた。
だがしかし、以前張り倒した分体よりも遥かに硬い。
音こそ抜群だったが、おれの打撃は元より、竜兵の大剣による一撃でも奴の傷は浅かった。
それでも多少か傷は入っているのだが・・・本来血が流れるべきであろうそこから漏れ出すのは、極寒・・・液体窒素とでも言うべき冷気の奔流。
傷口はビキビキと音を立て、あっという間氷の膜で覆い隠された。
うん・・・これたぶん、『再生』に近い現象と思われる。
「うげー、インチキくさー!」
言ってやるな竜兵、気持ちはわかる。
幸か不幸か奴のヘイトは、完全におれたちへ固定されたらしい。
まぁ、おれたちを狙ってくれるならそれに越したことは無い。
「アルデバラン!レオを自由に動かせるなよ。バイア、奴らが懐に手を突っ込んだら注意しろ。カードが来るぞ!」
仲間たちと作り出した得難い隙に、アルデバランとバイアへ指示を出す。
同時に返ってくる「相分かった!」「御意!」の頼もしい応答。
「神と相対しておきながら・・・他者の心配か・・・ワシも舐められたものだ!」
相対して距離を取ったおれと竜兵を、交互睨み付けるノモウルザの目は怒りで完全に血走っていた。
身体から生じる冷気も鋭さを増している。
「楽に・・・死ねると思うな!生きたまま内臓を引きずり出してやる!」
膝立ちから立ち上がった奴が、おれたちへ向け言い放ったのはそんなセリフ。
ノモウルザの口上を聞いて、竜兵が何とも言えない表情になる。
「アニキ!アニキ!」
訝しみながらも目線で「なんだ?」と問えば、予想外の言葉が返ってきた。
「今のヤラレフラグだよね!?あきやんが言ってた!」
「・・・まぁ・・・テンプレだな・・・。」
それ以外どう言えと?確かに・・・敵がハラワタ云々言い出して現実になった試し、古今東西見たことないけども。
おれも確かに、ありきたりなセリフだなーとは思ったけども。
純真な竜兵に何教え込んでるんだ・・・秋広ェ・・・。
見ろよ、青いおっさんブッルブル震えてるじゃん。
どうすんだこの空気。
「ころ・・・ころ・・・殺ぉぉぉぉすぅぅぅぅ!!!」
ほら怒ったぁ・・・いや、もうすでに怒ってたけどね?
「あ!それもパターンだよね!?」
やめてやれ竜兵、おっさんのHPはすでに0よ!
もはや言葉も無く、ノモウルザはめったやたらに棍棒を振り回す。
まぁ・・・そんな適当な攻撃は当たらないんだけども。
逆にガウジ・エオが守ってくれてるとはいえ、けが人居る方狙われたりする方がずっとしんどかった訳で・・・。
ともあれ、暴風さながらの棍棒を容易く回避しながら、おれと竜兵はノモウルザにヒット&アウェーで攻撃を加えている。
完全に回避している相手の攻撃もさることながら、おれたちの方も残念ながら効いているようには見えない。
こいつ、純粋な物理攻撃にやたら強い。
かと言って魔法攻撃に弱いって訳でも無いけどな。
事実、おれの「なんちゃって発剄」でも大した効果は得られなかった。
さて・・・どうしたもんか。
「よっ!はっ!アニキ!手札は、あと、何枚?」
竜兵は確か残り三枚のはず。
「ふっ!おらぁ!二枚だ!」
おれたちは、ノモウルザと戦いながら普通に会話する。
その態度が、更にノモウルザの頭に血を上らせていく。
何か言えばフラグだテンプレだと言われたことが堪えたのか、完全にキレてる顔つきのくせに黙々と棍棒を振り回すのみ。
「キレてないっすよ!神キレさせたら大したもんですよ!」って幻聴が聞こえてきた。
いかんいかん、真面目にやろう。
しかし・・・このままじゃ双方決定打に欠けたまま。
今の所はバイアとアルデバランが、『略奪者』二人組を完全に牽制しているが、こちらが長引けば何をしでかすか未知数。
できればあいつらには、このまま大人しくしていてもらいたい。
そんなちょっとした焦燥の中、竜兵がそれに思い当たる。
「アニキ!ウラ姉のアレは?」
問いかけに首肯で返せば、「さすがアニキ!」とサムズアップ。
その間もノモウルザの猛攻は続いているがどこ吹く風。
「アニキが引いてるなら・・・。」呟いた竜兵は、『魔導書』を展開し、二枚のカードをタップした。
カードが解け空中へ漂うのは、炎を模した紋章三つ。
「アニキの道はおいらが開ける!」
勝利へのルート、正にそのための布石を打つと宣言する竜兵。
おーけー、おれはお前を信じるぜ!
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