表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
240/266

・第二百三十一話 『氷雪神』中編

 壊れた玩具のように宙を舞い、床にドサリと男の腕。

 一瞬戸惑い状況を把握。

 切断された場所を押さえ絶叫したサカキと、超然見据えて言い放つ竜兵。

 完璧な奇襲、おそらく派手な登場の後、ずっとタイミングを伺っていた。

 単純な戦闘以上に、ずっとおれたちが悩まされている問題。

 『略奪者プランダー』の十八番、転移からの不意打ちや逃げを許さないため。

 仇敵であるはずの鳥面・・・サカキを眼前に、その選択を実行した竜兵の胆力。

 簡単に真似できるもんじゃない。


 「ガウジ・エオ!」


 「今やっている!」


 奇しくもおれとガウジ・エオ、二人の声が重なった。

 おれの要望などとっくに読み取り、ビキニ姿の魔女は結界の再構築を始めていた。


 「ったく!『古龍』の爺め!もうちょっと壊し方ってもんがあるだろう!?」

 

 悪態が聞こえてきた所を見るに、がっつり壊されているのだろう。

 それにあの呼称、二人は面識があるようだ。

 まぁそれも当然か。

 双方、一万年越えの長命。

 その人生?竜生?で交錯することがあっても、全く不思議ではない。


 それはともかく。 


 (間に合う・・・か!?)


 とりあえず駆ける、おれと奴らは離れすぎている。

 手負いとは言え、竜兵に相対する『略奪者プランダー』は二人。

 それも傍から見ていたらチートにしか見えない『真・賢者』様を持ってして、「少々厄介」と言わしめた『使徒』なんて言われる奴ら。

 弟分の作り出した千載一遇のチャンスを無駄にしないため、兄貴としては全力でフォローだ。


 だがこんな時、一番に竜兵のヘルプに入るはずの彼は・・・?

 違和感、『古龍』バイアが動いていない。

 彼は現れた時のまま、いつもの老人姿になることもなく上空に鎮座する。


 (何を・・・そうか!)


 視線の向かう先で納得。

 バイアは神を・・・ノモウルザを警戒しているのだ。

 一瞬逸れた思考を引き戻したのは、耳元響いた甲高い声。


 「セ、セ、セ、セイ様!わ、わ、わ、私はどうすればっ!?」


 なぜかおれを追いかけ跳んでいるキアラ。

 ええい!なんで付いてきてるんだよ!?

 「箱に入って・・・。」言いかけて、気付く。

 

 「キアラ!あの倒れてる白いのと青いのを頼む!」


 そう、構っている暇が無かった故、戦場に放置されたままのカリョウとテンガを回収だ。

 ああ、でもホナミも・・・。

 くそ、守る奴が多すぎるだろ。

 ここは仕方ない・・・明らか重傷の王様二人を優先だ。


 「は、は、は、はいぃ!」


 ドモりながらも転身しようとしたキアラ、「あああああ!!」と叫ぶ。

 なんだおい、気になるけど止まれない。

 再度おれを追いかけ、更に即座に追い越し振り返る。

 バック飛行でおれの前を跳びながら、腰に下げたポシェットを探るキアラ。


 「あわわ!違うの!これ!?じゃない!いやーん!」


 目的の物は中々みつからないようだ。

 とりあえずモチツケ!

 バック飛行で全力疾走のおれより速く飛びながら、ポシェットをガサゴソ。

 竹とんぼ・・・とか、懐中電灯のような筒・・・とか、食べかけの和菓子、まるでドラや・・・うっ!危ない!

 とにかく色々とつっこみたくなるものが、ポシェットからドンドン飛び出してくる。

 こいつドモる以外の属性を!?

 一言だけ言わせてもらえるなら、何えもんなんだよ!

 とりあえずキアラとは、後でゆっくり話し合いをする必要がありそうだ。


 ややあって、「ありましたー!」と変な効果音がしそうな勢いで取り出したのは一枚のカード。 

 鳴ってないぞ!?

 断じて「テレテテッテテー」などと鳴っていない。 


 「これをっ!ウララ様がセイ様にって!」


 「ウララが?」


 訝しみつつも、差し出されたカードを受け取り確認する。

 

 (これはっ!)


 さすがはウララ、心憎い演出だぜ。

 「助かった!」とサムズアップを示せば、キアラは満面の笑み。


 「青いのと白いのは任せてくださいっ!」


 むんっ!と両腕を前に気合、瞬時飛び去る天使の少女。

 それを尻目、走りながら金箱の蓋を開ける。

 咄嗟、一番上のカードを引き抜く。

 ・・・火属性初級攻撃魔法『フレイム』だ。

 火属性攻撃魔法なら好き勝手やらかせるプレズントが居れば、こんな等級でも十分見せ札以上の効果はあるだろう。

 だが、今までの・・・現在の状況では使い道も無い。

 

 「図書館ライブラリ!」

 

 宙に浮かんだ黒い背表紙のカタログへ、無造作引き抜いた『フレイム』を突っ込み、代わりにウララから贈られたカードを挿入。

 蓋を閉じれば、箱内でカードがシャッフルされる。


 「魔導書グリモア!」


 おれの目の前に浮かび上がるのは、ドロータイミングを過ぎて二枚に増えたカード。

 聞くまでも無いだろう?

 当然・・・ウララが託したカードは、手札の中に舞い込んでいる。

 


 ■



 おれが駆け付けるよりも速く、残念ながら間近の獅子面が動いた。


 「『ストレングス』ッ!!」


 不意打ち、その片腕を両断したとはいえ、未だサカキを注視する竜兵に、レオがスネークソードの一撃を放つ。

 地を這った後、跳び上がる剣先が竜兵を立体的に襲う。

 ギャリンッ!

 チラリと横目、あくまでもサカキから目は離さず大剣の一閃。

 あえなく弾かれると思ったレオのスネークソードは、軌道こそ逸らされたものの、竜兵の振るう大剣の刀身に絡みつく。

 更に刀身を遡るように蛇腹が伸びて、剣先を輝く金属の蛇に変え噛みつこうとした。

 明らか物理法則など無視した動き。

 隠しギミック、或いはこれも『加護』の力か?

 レオの奥の手・・・なのだろう。

 『地球』でのバトルで見たことは無い。


 それに対し竜兵、冷静・・・としか言いようのない反応を返す。

 己が身に蛇頭が届く寸前、あっさりと得物を手放した。


 「魔導書グリモア、『土槍アースグレイブ』」


 普段の快活な声音からは、想像もつかない冷たい声。

 竜兵は、目の前に浮かび上がったカードから魔法カードを選択、一切の迷いも見せずに行使した。

 床に散らばるガレキが槍を形成し、レオへ向けて飛来する。

 しかし、敵もさるもの。

 「くっ!」と呻くも、同様スネークソードの柄から手を離すレオ。

 土槍の着弾間際、獅子面の男は消失する。

 お得意の短距離転移だ。

 

 跳んだ先は・・・未だ蹲るサカキの間近。

 竜兵はそれでも慌てない。

 見えているのかもしれないな・・・。

 おれにはまだ見えない「勝利へのルート」って奴が。


 無造作、大剣を拾い上げ、絡みついたスネークソードごと床に叩きつける竜兵。

 レオの手を離れた時点でその『ミステリア道具グッズ』は本来の力を果たせないのだろう。

 さっきまでの蛇頭も消え、長さも常識的なものに転じていた。

 バギャ!

 粉々、砕け散り宙に舞う煌めく刀身。 

 そのまま接敵しようとした竜兵に、レオはサカキの懐を漁り、一枚のカードを提示する。


 「なっ!?」


 竜兵の動きが止まる。

 

 「やはり・・・これが狙いか。『嵐竜ストームドラゴン』の子供を気にしていたとは聞いていたからな・・・。」


 おれの角度からレオの示したカードは見えない。

 だが、サカキの懐から出てきたこと、竜兵の動きが止まったこと、そしてレオのセリフから鑑みれば答えは明白だった。

 つまり『嵐竜ストームドラゴン』・・・ヴェルデの母親だ。

 憤るおれたちに、「破るぞ。」と牽制。


 (クズがっ・・・!)


 ホナミが、『誘惑テンプテーション』のカードを破いて破棄していたのは、おれにとって記憶に新しい。

 竜兵はその場にこそ居なかったが、死者の魂が宿っているとも言えるカードを破かれても大丈夫とは思わないだろう。


 レオは切り落とされたサカキの腕を拾い上げ、「おい、いけるか?」と声をかける。

 その声には焦りとは別に僅かばかり、サカキの身を案じる雰囲気が感じられた。

 テツやホナミと何が違うんだろうな。

 たぶん『加護』云々なんだろうが釈然としない。

 おれもこいつらも・・・『地球』ではただのカードゲーマーに過ぎなかったはずなのに、どこで分岐点を間違ったのだろう。


 レオに肩を貸されて立ち上がるサカキ。

 切られた手をくっつけ、回復魔法で癒している。


 「『ストレングス』・・・!この痛みは・・・忘れないからな!お前にも同じ・・・いや、何倍にもして返してやる!」


 どこの銀行マンだお前?

 呪いの言葉は重く暗く。

 しかし・・・竜兵は動じない。

 どころか、その怒りは更に燃え上っていた。


 「ヴェルデのお母さんや他のドラゴンたち・・・魔獣たちはもっと痛かった、悲しかった、苦しかったんだ。」


 「・・・・・・。」


 「だからこいつらは嫌いなんだ・・・。あれが中坊のする目かよ・・・。」


 無言のレオ、毒づくサカキ、もう腕は完全に繋がったようだ。

 二人が転移する挙動、竜兵は動いた。


 「勝手なことばっか言うなぁぁぁ!!!」


 神速の踏み込みで大剣の一閃。

 真上から振り下ろされた刃は、完全にレオを捉えていた。

 警戒していただろうレオやサカキ、離れていたおれですらはっきりとは見えない斬撃。

 常識では考えられない速度の答えは一つ。

 竜兵の展開した『魔導書グリモア』が一枚減っている。

 思わずレオが手放した『嵐竜ストームドラゴン』のカードを掴み、更にサカキへ向けて横薙ぎの斬撃を見舞う。


 寸前、竜兵の大剣が凍り付いた。


 「くぅ!何っ!?」


 突如重みを増した得物に、竜兵は戸惑い追撃を失敗してしまう。


 【お竜ちゃん、兄者君、済まぬ。わしの妨害もここまでのようじゃ!】


 頭に直接響く声は、聞きなれたバイアの『念話テレパシー』。

 そして、巨大なプレッシャーと共に響くのは・・・。


 「ぬあああああああああ!!くそまずい男の贄だったが・・・ワシを封印から解いてくれたのは、お前らのようだな!まずは礼を言っておこう!そして・・・どうやらそこの人族のクソガキと敵対しているらしい・・・ワシもそいつには煮え湯を飲まされてな・・・今度こそ頭から喰ろうてやるわ!」


 (長セリフご苦労さん、そろそろだとは思ってたよ。)


 場は一気に混沌を増していく。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ