・第二十二話 『輝石』
ブクマ、評価、感想ありがとうございます!
励みになります。
異世界からこんばんは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈の誕生石は、ペリドットだったな。
兄貴は、その綺麗なかんらん石の意味を知った時、なんとなく納得したんだ。
『運命の絆』・・・。
おれと君の運命は、まだ繋がっているよな?
いつか君に、この石の付いたアクセサリーを贈ろう。
それはそうと、一つだけ断っておきたいことがある。
断じておれは、この世界の住人を口説いたりなどしていない。
そう、絶対にだ!
■
(なんだこれ・・・)
いや、おれの不用意な行動が招いたことなんだが。
カーシャの手(正確には『原初の宝物』)を握り、「一緒に来てくれ。」と言ったおれに、一瞬静まり返った場は、現在混迷を極めている。
顔を真っ赤にしておろおろしながら、「300年生きてて、こんなにストレートに口説かれたのは初めてだわ・・・・」なんて言っているカーシャ。
いや、すまん。
言い方が悪かったが、口説いている訳ではない。
それにしても、さらっと300歳以上なことが判明したカーシャ。
見た目は20歳前後にしか見えない。
さすが本物エルフのファンタジー修正だ。
愕然とした表情で、「・・・そんな・・・クリフォード様にもタメ口で話すセイが、さん付けするなんて・・・まさか本気!?」などと呟くアフィナ。
待て、なんの本気だ?
さん付けならロカさんもだ。
『カードの女神』に至っては、様まで付けてるしな?
心の中では『幼女』呼ばわりしているが、それは秘密だ。
変態は・・・「ふふふ・・・性奴隷筆頭の地位は渡しませんよ。」と、昏い表情で笑っている。
怖いから・・・性奴隷とかにした覚えもないし、許してください。
その後彼女たちを落ち着かせるのに、小一時間かかった。
「取り乱しちゃって御免なさいね。・・・申し訳無いけれど、一緒に行くことはできないのよ。この『オリビアの森』は『森の乙女』が離れると、ちょっと困ったことになるのよ。」
「済まん、おれも軽率だった。」
いや、この返答は覚悟してたんだ。
むしろ、移動チートにちょっとだけ魅せられた。
アフィナはそのやりとりを見ながら、「そうだよ、セイは美形のくせに、さらっと女の人を誤解させるんだから自重だよ!」とか言って、ほっぺたをリスにしているので、見ないふりをしておく。
変態については語りたくない。
ただすごく気持ち悪い、とだけ言っておく。
それはともかく、今の騒動で聞くのを忘れていたが、『原初の宝物』があるならアレもあるかもしれん。
カーシャは300年も生きてるんだから、何か知っているかもしれない。
「ところで・・・この世界に『輝石』はあるのか?」
「はいはーい!ボクの誕生石はダイアモンドだよ!」
カーシャに尋ねたのだが、なぜかアフィナが割り込んでくる。
なにゆえ誕生石?
おれのジト目に「ウッ・・・」と詰まってから、
「だって・・・お母さんが、男が『輝石』について聞いたら、とりあえず誕生石はダイアって言っとけって・・・」
と、アフィナ。
カーシャがこっそり教えてくれたことによると、どうやらこの世界でも、婚約の際に女性の誕生石をあしらった指輪を贈るのが通例らしい。
先代『風の乙女』シイナは娘をどうしたかったのか・・・。
変態が興奮して、「婚約者のあたいを差し置いて、小娘がご主人様に指輪を貰える訳ないでしょう!」とか言ってる。
いつのまに性奴隷から婚約者にクラスアップした?
もうおれは疲れたよ。
しかしだ、ダイアモンドがあると言うことはだ。
「エメラルドやオニキスはあるのか?」
おれの問いに首肯で答えるカーシャ。
「ここには無いけれど、クリフォード様なら、いくつか所有されてるんじゃないかしら?セイ君にならきっと喜んで譲ってくださると思うわ。」
たしかに、クリフォードは器がでかいからな。
ふむ、これは助かる。
『リ・アルカナ』では、高ランクの魔法を使う時や、盟友を召喚する際、コストとして『紋章』が必要になる。
おれの使役する指導者級や、英雄級盟友になると一度に『紋章』を二つ、三つと消費する。
おれが盟友を召喚する際に、灰色のカードをタップして、『紋章』に変換しているのは、そのコストを支払うためだ。
もちろん、灰色のカードはコストが払えないから使えなくて、『紋章』に変えていたわけだが。
カードゲームでもVRでも、それで良かった。
カードならばターン制で、ドロータイミングは毎回あったし、VRでも三分で一枚、新しいカードが追加された。
おれのバトルスタイルは先攻逃げ切り型。
例え手札を一気に消費したとしても、相手が何か対策する前に、圧倒的火力で捻じ伏せることができた。
だが、この世界では違う。
手札を減らす行為は、そのまま自分の首を絞めることに繋がる。
『輝石』というのは使用することで、その『紋章』を産み出してくれる物だ。
まぁカードの変換と違って、一度に産み出す『紋章』は二つなんだが。
それを補って余りある性能が、【ドロー1】が付いていることだ。
なぜおれがこのカードを、『魔導書』に入れていなかったかと言うと、それは【ドロー1】よりもカード変換の『紋章』三つを選んだからだった。
だが状況は変わった。
手札はできるだけ維持した方が良いだろう。
■
おれはカーシャに礼と暇を告げ、宮殿へのゲートを開いてもらうことにする。
結界塔の外の広場に降りる。
カーシャが右手の『原初の宝物』を輝かせると、地面から生えてきた何本かの木がアーチを作っていく。
御多分に漏れず、アーチの下の空間がモヤがかかったように歪んでいる。
ここをくぐれば宮殿に着いてるという訳だ。
実に素敵な移動チート、今からでも残念とトレードを要求したい。
なんなら変態も付ける。
「世話になったな、カーシャさん。」
おれはアフィナをもう一度抱きしめ、「いつでも遊びに来てね?」と言っているカーシャに別れを告げる。
「セイ君もまた来てね?」
「ああ、気が向いたらな。」
そんな言葉を交わし、別れを惜しむカーシャに見送られおれたちはゲートをくぐった。
ゲートをくぐる酩酊感のような物を感じながら、カーシャが最後に呟いた、「またたまごサンドを作りに来てほしいわ・・・。」というのは流しておいた方が良いんだろうか・・・。
マヨネーズ作りで死体ができても良いなら、また作りに行ってやってもいいな。
移動チートをゲットするために・・・。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
よければご意見、ご感想お願いします。