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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
239/266

・第二百三十話 『氷雪神』前編

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 ベキベキ・・・ゴキゴキ・・・ガリガリ・・・と。

 凡そ人の身から奏でられるはずの無い騒音。

 姿を変え拷問器具、所謂万力と呼ばれる道具の形状。

 ノモウルザの封印された古代兵器を破るためなのだろう。

 微細振動する器具の部品さながら、ホナミの身代わりとなったテツの身体が引き絞られる。

 壁内のノモウルザ顔面、古代兵器の三角錐を中心に広がっていく罅割れ。

 どう考えても、封印が破れかけている。


 「あ・・・うああ・・・旦那ぁ!」


 テツ・・・既に半身は引き裂かれ、夥しい血を流している。

 たとえ今救い出しても、出血多量で長くないことは明らかだった。

 朦朧としているだろう意識の中、それでも仲間であるサカキとレオに手を伸ばす。

 動こうとするサカキをガウジ・エオも、あえて止めることはしなかった。

 逆に押し留めたのは・・・仲間であるはずの獅子面、レオ。


 「サカキよせ。無駄だ。」


 言葉少なに語られる、そこには一片の情も無く。

 レオに手で制されれば、サカキも「そうだな・・・。」と呟き習った。

 吐き捨てるように続く、身勝手なセリフ。


 「所詮は『加護』も得られなかった半端者。『悪魔デビル』への対抗心だけは一人前だったゆえ使ってきたが・・・最期は自爆で生贄とはな・・・。裏切り者のホナミを処理するついでで丁度良いと思ったんだが、辛うじてテツでも事足りるらしい。」

 

 「最優先は成ったか。」


 「ああ、何とかな。」


 自分たちのみで納得。

 もはや惨劇からは完全に目線を逸らし語らうその姿に、テツの伸ばしていた手が力無く垂れた。

 最悪だ。

 なぜかおれを目の敵にしていた。

 今までこっちの世界に散々迷惑もかけてきただろう。

 とは言え、同郷の人間が目の前で贄と為る。

 しかも仲間たちはどこ吹く風、そりゃあ心も折れる。

 決して許容できるものでは無い。

 気付けば・・・おれはホナミを床に横たえ、全力で『時刑ザ・クロック』が変化した拷問器具・・・万力を殴りつけていた。


 「おおぉ!らぁ!」


 ガッ!ゴン!ドガァ!

 叩いても蹴っても、武骨な機械はびくともしない。

 ただ、おれが万力を打ち据える音だけが響く。


 「なにを・・・して・・・いる?」


 蛇の仮面もいつのまにか外れ、黒髪黒目の『地球』人。

 テツは血塗れの顔面に、きょとんとした表情を浮かべておれを見つめていた。

 シカト、何度も何度も拳を万力へ叩きつける。


 「セ、セ、セ、セイ様!手から・・・血がっ・・・!」


 バイアの頭、竜兵の隣に乗っていたのは彼女か。 

 おそらくは道案内として、竜兵と共に来たのだろう。

 いつものようにドモりながらキアラ、おれの周りを旋回しつつ叫ぶ。


 (・・・気付かなかったな。)


 言われてみれば、おれの両拳が破れて血が滴っていた。


 「ぐっ!お前は・・・敵・・・だろうがっ!」


 「・・・うるせぇ!」


 ごぷり、血を吐き叫ぶテツに、負けじとおれも叫び返す。

 こんな隙だらけの状態で、他の面々は誰一人動こうとはしなかった。

 いや・・・違うな。

 仲間たちが無言で牽制してくれているのだろう。

 『略奪者プランダー』がおかしな動きを見せたら、ガウジ・エオやバイア・・・それにおれの弟分が黙っていない。

 だからこその空白。

 ボソリ、空間に響く獅子面の呟き。


 「無駄な事を・・・。」


 わかってんだよ・・・無駄だってことは!

 この万力が『ミステリア道具グッズ』なら力尽くで壊すことも可能だったかもしれない。

 しかし『時刑ザ・クロック』は魔法カードだ。

 中断したのならまだしも、一度発動してしまった魔法効果は、効果が完了するまでそのエフェクトを消すことは無い。

 そう、既に結果は出ている・・・生贄は発動してしまったんだ。

 ホナミの時とは違い、今テツが囚われている万力は・・・ただのエフェクトなんだ。

 

 ややあって・・・テツは言った。


 「なぁ・・・『悪魔デビル』・・・本当に・・・もう、いいぜ?」


 「うるせぇ!」と返したおれにも、その声が果てしなく弱っていることが理解できた。

 もはや虚ろになった視線。

 それでもおれを捉えて奴は言う。


 「もう・・・粗方意識が・・・無ぇんだ。旦那方は・・・こんな・・・こんな残酷な方法で・・・ホナミを殺そうとしてたんだな。」


 その顔はまるで、憑き物が落ちたように。

 いつのまにかおれから視線を外し、どこか遠くを見つめていた。

 『略奪者プランダー』として相対した男、『太陽サン』のテツと別れが迫っている。



 ■



 限りある時間で問い詰める。

 テツが自分でも言ったように、こいつはもうどうやっても助からない、助け・・・られない。

 ならばせめて・・・。


 「なんで・・・お前はあっちに行ったんだ?」


 沈黙、重い口、だが奴にも伝えたい想いがあった。


 「それを・・・てめぇが聞く・・・かねぇ・・・。」


 意味は何となくわかる。

 奴がこだわっていた最強の火魔導師と言う言葉。

 だがおれには心当たりが一切無かった。


 「単純な・・・話さ・・・。俺は・・・てめぇに勝ちたかった・・・。だから・・・旦那方の誘いに乗った・・・それだけだ。」


 「そんな・・・ことで!」


 『地球』に帰ってからだって、何度でもバトルすればいい。

 なぜこの世界で、こんな風に命のやり取りになってしまったのか。

 

 「まぁ・・・『悪魔デビル』にゃ・・・人間の気持ちは・・・わからないだろうよ?」


 揶揄、おれの称号を持ち出しニヤリ。

 最後に口角を上げて笑みの形を作り、奴は光の粒子になって弾けた。


 「セイ様・・・セイ様は優しい方です!」


 絶句するおれと、なぜか憤慨して頭の上を飛び回るキアラ。

 慰めて・・・くれているのだろうか。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 その時、今日一番の地揺れ。

 もう地揺れどころか、世界が揺れてるんじゃないかってくらいの衝撃だ。

 いつのまにやら、万力と古代兵器の三角錐も消失していた。

 ノモウルザの埋まる壁の前、ただ一つ残っているのは・・・砂漠を燦燦と照らす『太陽』のカード。


 (また・・・!同じ現象!)


 既視感、見覚えがありすぎる。

 マドカが倒れた時に現れた『死』のカードとリンクする。

 思わず手を伸ばせば・・・狙いすましたかのように奴の声が聞こえた。


 「それに勝手をされては困るな。」


 「なにっ!?」


 「うぇぇ!?」


 余りにも近い声に、キアラと二人慌てて振り向けば、獅子面。

 未だ様子見していたはずのレオが、いつのまにか真横に立っていた。

 手が止まった瞬間、横合いからカードを掻っ攫うレオ。

 おれたちが行動を起こすより早く姿を消し、気付けばサカキのすぐ傍に居る。


 「てめぇ!転移はできないはずじゃ!」


 おれの詰問に対して肩を竦めるだけのレオ。


 (いや・・・待てよ?)


 ふと、思い出したのは竜兵が現れる直前の事だ。

 もしかしてと思いつつ、結界の主・・・ガウジ・エオの様子を伺えば・・・「うむ。『古龍』の爺が壊したねぇ。」との言。

 やっぱりだよ・・・そういや、結界に干渉されてるって言ってたわ。

 

 原因に思い当たる頃には、世界の揺れが立っていられないほどになっている。

 そして壁面からビキリビキリと不穏な音。

 『氷雪神』ノモウルザ様もスタンバイオッケーだな。

 あ・・・今目が合ったわ。

 やっべ・・・あれ完全におれのこと覚えてるね。


 こうなると案の定だ。


 「さて・・・最低限は果たしたからな。そろそろお暇しよう。」


 「そうだな。ちょっとばかしイレギュラーが多すぎる。」


 毎度の如く逃げの一手。

 さっさと立ち去ろうとするレオとサカキ。

 だが・・・そうは問屋が卸さねぇぜ?

 こっちが何回同じパターンで辛苦を舐めてると思ってるんだ。


 短距離転移の連発で息切れなのだろう。

 近付いたレオの肩に、片手を乗せようとするサカキ。

 おれやガウジ・エオは遠い。

 だが・・・最初の登場で視線を集めた後、あいつはずっと息を潜めていた。

 目立たずに乾坤一擲、そのタイミングを図っていた。

 そう、竜兵だ。


 (本当に成長したな・・・。)


 『地球』に居た頃だったら、まず一番に殴りかかったはずだろうに。


 「まぁせいぜい・・・祟り神と戯れてくれ。『悪魔デビル』、『真賢者』ガウ・・・!?サカキッ!」


 レオが放つそんな捨て台詞、途切れて注意を喚起。

 しかし間に合うはずも無い。

 竜兵の近接戦闘能力は、おれやウララに匹敵するのだから。

 ゾブンッ!

 肉を絶つ音、サカキの伸ばした腕が・・・肘先から宙を舞った。


 「あ、あ、ああああ!俺の腕がああああ!?」


 絶叫のサカキ、呆然のレオ、二人の間に割って入る竜兵。

 くるり、回した鉈状の大剣・・・『竜王の牙』から飛ぶ血糊。

 大剣を肩に担ぎ、普段からは想像も付かない低い声で竜兵は吠えた。


 「逃がすと思う?おいら、怒ってるんだよ・・・サカキィィィ!!!」


 うん、本当に・・・成長・・・した・・・な?




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