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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
238/266

・第二百二十九話 『機械仕掛けの鋏(メタルワークシザー)』


 意外過ぎた人物との共闘。

 しかし受け入れ、認識してしまえば・・・。


 「くそがぁ!『機械仕掛メタルワークけのシザー』!」


 トゥラケイン秒殺の衝撃から目覚めたテツが、手札から一枚、選択したカードを使用する。

 空中解けた光の粒子が、巨大な機械仕掛けのハサミと化しておれたちを襲う。

 その刃渡り、2mを優に超え持ち手の部分からは不快なモーター音が聞こえる。

 刃が閉じ合わさったなら、簡単におれやガウジ・エオを真っ二つ、両断することだろう。

 威力は十分だが見え見え、当然そんなものを食らってやる道理も無いわけで。

 簡単にバックステップ、範囲外へと逃げたおれとは違い、赤銅色の美女は一瞬の迷いすら見せずに前進・・した。

 ゴシャッ!

 ハサミの中央部分、つなぎ目を木の杖で殴打するガウジ・エオ。

 石を投げられたガラスのように霧散する巨大バサミ。


 (おいおい、まじか!)


 わかっては居たが規格外、しかもやたらアグレッシブだ。

 避ければ済む魔法を敢えての粉砕である。

 さらに・・・。


 「余計な事すんじゃないよ!」


 流し目、彼女は床のガレキを蹴り上げて浮かせると、その破片に回し蹴りを放つ。

 懐に手を入れていたサカキが、慌てて障壁を作り飛び退いた。

 おれも気付いてはいたが、また何かやらかそうとしていたらしい。

 飛び来るガレキを障壁で弾いたサカキが息つく暇も無く、ガウジ・エオは転移もかくやのスピードで走り、杖で障壁に刺突を加える。

 バギャッ!

 破砕音響き粉々、宙を舞うサカキの張った障壁だったもの。

 

 「なっ!?ぐはぁ!」


 今日何度目かの驚愕の叫び。

 直後振り抜かれた杖の一撃で、高々宙を舞う鳥面の『略奪者プランダー』。


 「ババア!死に腐れ!」


 サカキへの追撃を止める為なのか、テツが自殺志願とも取れる挑発。

 手には発動間近の光るカードが一枚。

 案の定「あ゛ぁん?」と振り返ったガウジ・エオだが、その発言も罠。

 彼女の背後、いつの間にか能力アビリティ『転生』の効果で復活していたと思わしき、『白炎鳳』トゥラケインが突撃体勢を取っていた。

 

 「クルァァァァ!!」


 飛翔、頭から突っ込む白炎の鳳。

 しかし・・・。


 「邪魔!」


 一言、言い捨てたガウジ・エオがあっさりとスウェー。

 流れるような動きで横に回ったかと思うと、燃え盛る炎の翼を素手・・で掴む。

 全く力など込められているようには見えないのに、それだけで動きを止めるトゥラケイン。

 「クルァァ!?」ともがいているが、そのままグルリ振り回される。

 フォンッ!

 小気味の良いスイング音一つ、錐もみ状態で召喚者の下へ投げ飛ばされる鳳。

 直撃コース、慌てたテツがトゥラケインを金箱に回収するも、その時すでにガウジ・エオが目の前に迫っていた。

 

 「こんな美女を捕まえて・・・ババアとは良く言ったものさね!」


 ドフゥ!

 容赦無用のミドルキック。

 テツの腹部へと赤銅色の長い脚がめり込み、「ごふぅ!」と悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。

 『略奪者プランダー』二人を相手取って子供扱い。


 うん・・・やっぱりちょっと受け入れるの待とうかな。

 これ、賢者の戦い方じゃねーよなっ!?

 いや、すごい強いのは文句無いんだけどさ。

 なんだろう・・・この釈然としない感じ。


 おれ?おれももちろん戦ってるぞ?

 あの賢者様よりはかなり地味だけどな。

 ただ今、レオとガチンコ中だ。

 奴もいよいよ後が無いのか、刃部分が伸縮する剣・・・所謂スネークソードで応戦してくる。

 踏み込みの手前を鞭のようにして薙ぎ払い、近付けば刀身を収納して切り結ぶ。

 スネークソードなんていう一癖も二癖もある得物、見た目は凶悪なそれであるのに、その軌跡は驚くほどの光を伴い美しい。

 奴が使っているのは、当然『ミステリア道具グッズ』。

 その名も『輝跡の帯剣』・・・傷受けた犠牲者の視力を奪う効果付き。

 名前やエフェクトからも判別できるように、光属性であるこの武器は、メスティア特有の封印効果を無効化しているはず。

 ならばまともに食らうどころか、少々かすっただけで事態の悪化を招く。

 身体能力でなら圧倒していると思えるのだが、回避へ意識を割かれ決定力に欠けた状態。

 まぁちょっと・・・苦手な距離感ではあるな。



 ■



 「まさか三人がかりで、ここまで追い込まれるとはな。」


 おれと切り結びながらレオ、何とも憎々し気に呟く。

 それはおれも同感だ。

 相手が三人になった時は相当の苦戦を覚悟したが、蓋を開けてみれば意外。

 ひとえに賢者様のおかげとも言えるのだが。


 「だが・・・!もう手遅れだ!」


 言いたいことはわかる。

 ホナミを捕らえた『時刑ザ・クロック』、すでに長針が11の文字を過ぎ去っていた。

  

 「ガウジ・エオ!」


 頼りっぱなしで申し訳ないが、時間稼ぎだけを念頭に置いたレオが抜けない。

 期待を込めて端目、声をかけるも・・・。


 「セイ!こちらも手詰まりだ!あんたが何とかしな!」


 ガウジ・エオは木の杖に、サカキが伸ばした輝く鉄鎖を絡めて叫ぶ。

 テツは蹲ったまま肩で息をしているし、二人を釘付けにしてくれてる以上文句も言えない。

 事実、彼女が言う。


 「蛇の魔導師はどうにかなるが・・・この鳥とそっちの獅子は・・・『使徒』だね!」


 (『使徒』・・・?)


 またもや耳慣れない情報、響きから判断するに・・・おれがアルカ様の使徒って言われているような類の物だろうか。

 いよいよまずい。

 このままでは一番の目的、ホナミの救出が間に合わない。

 コッチン・・・。

 長針がまた一歩進み、一か八かの特攻にかけるしかないと思った時。

 ゴッゴンッ!ゴゴゴゴゴッ!

 世界が揺れた。


 全員立っても居られない振動に耐えながら、それでも各人の役割を果たそうと動く。

 しかし、ひどい揺れも轟音も続いている。


 「な、なんだっ!?」


 一際激しい揺れ、誰が発した言葉だったのだろう。

 答えた訳でも無かろうが、問題の原因に思い至ったのはガウジ・エオ。

 今日初めて見せる困惑顔で言う。


 「あたしの結界に・・・干渉してるだってぇ!?」


 結界・・・先ほど、『略奪者プランダー』どもの怪しいチート能力を制限したと言っていたアレのことだろう。

 しかし一体誰が、何のために?

 もしかして・・・『略奪者プランダー』の増援?

 言われてみれば、今からツツジとハルが出てきてもおかしくはないのだ。


 「ウソだろ!破られちまう!上っ!?」


 ガウジ・エオが叫んだ直後、室内に目も開けて居られないような眩いフラッシュ。

 そして上空、天井を割り割いて現れた白い長毛のドラゴン。

 頭部にすっく立つ、小柄な人影二つ。

 空間を埋め尽くすように放たれる咆哮。

 ドラゴンの・・・ではない。

 ドラゴンの頭に立つ人影の片方、派手なプリントTシャツ、ハーフパンツに野球帽、身の丈ほどもある大剣を担いだ少年の雄叫びだ。


 「アニキーーーーー!!!おいらが助けに来た!」


 その声に、おそらくほとんどの面々が天を仰ぎ見ただろう。

 おれは、そのドラゴン・・・バイアの姿を見た瞬間に駆け出した。

 狙うは当然ホナミ、彼女を捕らえる悪し様な機械。

 全力疾走、空白の時間でレオの横をすり抜ける。


 「しまっ!サカキ、テツ止めろ!」


 すれ違いざまに振るわれたスネークソードの一撃を躱し、奇怪な時計のオブジェに跳躍。

 『時刑ザ・クロック』の解呪系魔法以外による解除方法は二つ。

 長針の破壊か、生贄の交代。

 後者は対象が代わるだけで何の解決にもならない。

 ならば当然狙いは一つ。


 「おおおおおっ!」


 握り締めた拳を叩きつける。

 しかし、手が届く寸前・・・目の前を何かが塞いだ。

 ゴスッ!

 おれの目の前に躍り出たのはテツ。

 彼が今まで蹲っていた場所に落ちている金色の箱。

 蓋を開けたそれから顕現した『白炎鳳』トゥラケインが、テツをおれの前まで運んだ結果だった。

 たぶん・・・狙いはおれに直接ぶち当てるつもりだったのだろう。

 しかし、少々ではあるが致命的にズレた。

 結果、おれに殴り飛ばされ『時刑ザ・クロック』にぶつかったテツが、逆にその醜悪な機械へと取り込まれ、代わりにホナミが弾き飛ばされる。

 

 宙舞うホナミを抱き止めたと同時。

 無情、コチリと時計は時を刻み、長針と短針が12の文字上に重なった。


 「ぐ・・・ぎゃあああああああああああああ!!!」


 瞬間、全身から血を吹き出し絶叫する蛇面の男。

 時計はすでに姿を変え、内部の贄から血液を搾り取る作業に移っている。

 そしてその時計は、ノモウルザを封印する壁面の三角錐に取り付いて、細やかな振動を始めた。








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