・第二百二十九話 『機械仕掛けの鋏(メタルワークシザー)』
意外過ぎた人物との共闘。
しかし受け入れ、認識してしまえば・・・。
「くそがぁ!『機械仕掛けの鋏』!」
トゥラケイン秒殺の衝撃から目覚めたテツが、手札から一枚、選択したカードを使用する。
空中解けた光の粒子が、巨大な機械仕掛けのハサミと化しておれたちを襲う。
その刃渡り、2mを優に超え持ち手の部分からは不快なモーター音が聞こえる。
刃が閉じ合わさったなら、簡単におれやガウジ・エオを真っ二つ、両断することだろう。
威力は十分だが見え見え、当然そんなものを食らってやる道理も無いわけで。
簡単にバックステップ、範囲外へと逃げたおれとは違い、赤銅色の美女は一瞬の迷いすら見せずに前進した。
ゴシャッ!
ハサミの中央部分、つなぎ目を木の杖で殴打するガウジ・エオ。
石を投げられたガラスのように霧散する巨大バサミ。
(おいおい、まじか!)
わかっては居たが規格外、しかもやたらアグレッシブだ。
避ければ済む魔法を敢えての粉砕である。
さらに・・・。
「余計な事すんじゃないよ!」
流し目、彼女は床のガレキを蹴り上げて浮かせると、その破片に回し蹴りを放つ。
懐に手を入れていたサカキが、慌てて障壁を作り飛び退いた。
おれも気付いてはいたが、また何かやらかそうとしていたらしい。
飛び来るガレキを障壁で弾いたサカキが息つく暇も無く、ガウジ・エオは転移もかくやのスピードで走り、杖で障壁に刺突を加える。
バギャッ!
破砕音響き粉々、宙を舞うサカキの張った障壁だったもの。
「なっ!?ぐはぁ!」
今日何度目かの驚愕の叫び。
直後振り抜かれた杖の一撃で、高々宙を舞う鳥面の『略奪者』。
「ババア!死に腐れ!」
サカキへの追撃を止める為なのか、テツが自殺志願とも取れる挑発。
手には発動間近の光るカードが一枚。
案の定「あ゛ぁん?」と振り返ったガウジ・エオだが、その発言も罠。
彼女の背後、いつの間にか能力『転生』の効果で復活していたと思わしき、『白炎鳳』トゥラケインが突撃体勢を取っていた。
「クルァァァァ!!」
飛翔、頭から突っ込む白炎の鳳。
しかし・・・。
「邪魔!」
一言、言い捨てたガウジ・エオがあっさりとスウェー。
流れるような動きで横に回ったかと思うと、燃え盛る炎の翼を素手で掴む。
全く力など込められているようには見えないのに、それだけで動きを止めるトゥラケイン。
「クルァァ!?」ともがいているが、そのままグルリ振り回される。
フォンッ!
小気味の良いスイング音一つ、錐もみ状態で召喚者の下へ投げ飛ばされる鳳。
直撃コース、慌てたテツがトゥラケインを金箱に回収するも、その時すでにガウジ・エオが目の前に迫っていた。
「こんな美女を捕まえて・・・ババアとは良く言ったものさね!」
ドフゥ!
容赦無用のミドルキック。
テツの腹部へと赤銅色の長い脚がめり込み、「ごふぅ!」と悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。
『略奪者』二人を相手取って子供扱い。
うん・・・やっぱりちょっと受け入れるの待とうかな。
これ、賢者の戦い方じゃねーよなっ!?
いや、すごい強いのは文句無いんだけどさ。
なんだろう・・・この釈然としない感じ。
おれ?おれももちろん戦ってるぞ?
あの賢者様よりはかなり地味だけどな。
ただ今、レオとガチンコ中だ。
奴もいよいよ後が無いのか、刃部分が伸縮する剣・・・所謂スネークソードで応戦してくる。
踏み込みの手前を鞭のようにして薙ぎ払い、近付けば刀身を収納して切り結ぶ。
スネークソードなんていう一癖も二癖もある得物、見た目は凶悪なそれであるのに、その軌跡は驚くほどの光を伴い美しい。
奴が使っているのは、当然『謎の道具』。
その名も『輝跡の帯剣』・・・傷受けた犠牲者の視力を奪う効果付き。
名前やエフェクトからも判別できるように、光属性であるこの武器は、メスティア特有の封印効果を無効化しているはず。
ならばまともに食らうどころか、少々かすっただけで事態の悪化を招く。
身体能力でなら圧倒していると思えるのだが、回避へ意識を割かれ決定力に欠けた状態。
まぁちょっと・・・苦手な距離感ではあるな。
■
「まさか三人がかりで、ここまで追い込まれるとはな。」
おれと切り結びながらレオ、何とも憎々し気に呟く。
それはおれも同感だ。
相手が三人になった時は相当の苦戦を覚悟したが、蓋を開けてみれば意外。
ひとえに賢者様のおかげとも言えるのだが。
「だが・・・!もう手遅れだ!」
言いたいことはわかる。
ホナミを捕らえた『時刑』、すでに長針が11の文字を過ぎ去っていた。
「ガウジ・エオ!」
頼りっぱなしで申し訳ないが、時間稼ぎだけを念頭に置いたレオが抜けない。
期待を込めて端目、声をかけるも・・・。
「セイ!こちらも手詰まりだ!あんたが何とかしな!」
ガウジ・エオは木の杖に、サカキが伸ばした輝く鉄鎖を絡めて叫ぶ。
テツは蹲ったまま肩で息をしているし、二人を釘付けにしてくれてる以上文句も言えない。
事実、彼女が言う。
「蛇の魔導師はどうにかなるが・・・この鳥とそっちの獅子は・・・『使徒』だね!」
(『使徒』・・・?)
またもや耳慣れない情報、響きから判断するに・・・おれがアルカ様の使徒って言われているような類の物だろうか。
いよいよまずい。
このままでは一番の目的、ホナミの救出が間に合わない。
コッチン・・・。
長針がまた一歩進み、一か八かの特攻にかけるしかないと思った時。
ゴッゴンッ!ゴゴゴゴゴッ!
世界が揺れた。
全員立っても居られない振動に耐えながら、それでも各人の役割を果たそうと動く。
しかし、ひどい揺れも轟音も続いている。
「な、なんだっ!?」
一際激しい揺れ、誰が発した言葉だったのだろう。
答えた訳でも無かろうが、問題の原因に思い至ったのはガウジ・エオ。
今日初めて見せる困惑顔で言う。
「あたしの結界に・・・干渉してるだってぇ!?」
結界・・・先ほど、『略奪者』どもの怪しいチート能力を制限したと言っていたアレのことだろう。
しかし一体誰が、何のために?
もしかして・・・『略奪者』の増援?
言われてみれば、今からツツジとハルが出てきてもおかしくはないのだ。
「ウソだろ!破られちまう!上っ!?」
ガウジ・エオが叫んだ直後、室内に目も開けて居られないような眩いフラッシュ。
そして上空、天井を割り割いて現れた白い長毛のドラゴン。
頭部にすっく立つ、小柄な人影二つ。
空間を埋め尽くすように放たれる咆哮。
ドラゴンの・・・ではない。
ドラゴンの頭に立つ人影の片方、派手なプリントTシャツ、ハーフパンツに野球帽、身の丈ほどもある大剣を担いだ少年の雄叫びだ。
「アニキーーーーー!!!おいらが助けに来た!」
その声に、おそらくほとんどの面々が天を仰ぎ見ただろう。
おれは、そのドラゴン・・・バイアの姿を見た瞬間に駆け出した。
狙うは当然ホナミ、彼女を捕らえる悪し様な機械。
全力疾走、空白の時間でレオの横をすり抜ける。
「しまっ!サカキ、テツ止めろ!」
すれ違いざまに振るわれたスネークソードの一撃を躱し、奇怪な時計のオブジェに跳躍。
『時刑』の解呪系魔法以外による解除方法は二つ。
長針の破壊か、生贄の交代。
後者は対象が代わるだけで何の解決にもならない。
ならば当然狙いは一つ。
「おおおおおっ!」
握り締めた拳を叩きつける。
しかし、手が届く寸前・・・目の前を何かが塞いだ。
ゴスッ!
おれの目の前に躍り出たのはテツ。
彼が今まで蹲っていた場所に落ちている金色の箱。
蓋を開けたそれから顕現した『白炎鳳』トゥラケインが、テツをおれの前まで運んだ結果だった。
たぶん・・・狙いはおれに直接ぶち当てるつもりだったのだろう。
しかし、少々ではあるが致命的にズレた。
結果、おれに殴り飛ばされ『時刑』にぶつかったテツが、逆にその醜悪な機械へと取り込まれ、代わりにホナミが弾き飛ばされる。
宙舞うホナミを抱き止めたと同時。
無情、コチリと時計は時を刻み、長針と短針が12の文字上に重なった。
「ぐ・・・ぎゃあああああああああああああ!!!」
瞬間、全身から血を吹き出し絶叫する蛇面の男。
時計はすでに姿を変え、内部の贄から血液を搾り取る作業に移っている。
そしてその時計は、ノモウルザを封印する壁面の三角錐に取り付いて、細やかな振動を始めた。
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