・第二百二十七話 『白炎鳳』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
『地球』の美祈さん、聞こえてますか?
こちら現場の兄貴です。
是非一度、現在の状況・・・目を瞑って想像していただきたい。
はい、情報入ります。
まずは背景・・・むやみに広い空間、一際目立つ祭壇の先、壁に埋め込まれた青くて毛むくじゃら、とにかくでかいおっさん。
その前の中空に浮かぶ謎金属の時計と、その頭頂部に拘束と目隠しをされた女性の姿。
次いで状況・・・兄貴の前にまず立ちはだかったのは、ライオンの動物マスクを被った怪しい男。
ライオンマンとの戦闘中に現れたのが蛇男と鳥男。
双方怪しいマスクを標準装備。
「それ流行ってんのか?」と、ファッションに口さがない方なら・・・つっこまずにはいられないことでしょう。
なんということでしょう、突然攻撃されました。
どうもキレ易い若者?と言った様子の蛇男が、いきなり炎ぶっぱしてきたんですよ。
その際、おれのピンチに颯爽と現れたヒロイン?は、赤銅色の肌・・・ダイナマイトバディーを惜しげも無く衆目に晒す、ビキニ姿の魔女風美女。
注:この空間、たぶん気温一桁ですよ?
更に彼女が口に出したのは、見つからない眼鏡の幼馴染の名前。
対峙するおれたちの横合い、未だ剣戟を続ける黒と白の全身鎧。
うん・・・あえて言おう。
なんだこのカオス!
■
持ち前の雰囲気・・・オーラとも言うべきそれと、『略奪者』から発せられる恐れにも似た感情の波。
それは容易く彼女の実力を物語る。
言うなれば達人の持つ覇気。
恰好は魔法使い?であるだけになおの事、ただただ歪だった。
無言、双方何も言えないままの対峙、何となく口を開くことが危ぶまれるような空気。
言いたいことは聞きたいことは山ほどあるのだが・・・ビキニさんの手元でヒュンヒュン唸っている木の杖が不穏でならない。
コチリ、ホナミを捕らえた『時刑』が時を刻む音。
耐えきれなくなったのはやはりキレ易い若者、蛇面の『略奪者』。
「旦那方ぁ!相手は手札一枚の『悪魔』とあの年増だけなんだ!」
おいおい、年増って言うほどの年齢には見えなかったぞ?
この世界において、見た目と年齢が一致しないことはままあるが・・・そもそも、女性に年齢の話はタブーが常識。
間違いなく失礼、『地球』ならセクハラで訴えられている。
「ビビってねぇで三人がかりだ!」
叫ぶ、『魔導書』を展開する、二枚のカードを選択する。
一連の動作淀み無く、手を離れた一枚のカードが光の粒子に変わり、宙に炎の紋章が三つ。
やけに火魔導師に拘る奴の事、当然火属性の盟友召喚なのだろう。
「「待て!テツ!」」
声まで揃えたレオとサカキ、制止は間に合わない。
祝詞、召喚の理、間違いなく高位の召喚なのだが・・・。
その文言がまるで耳に入ってこない。
なぜなら・・・テツの言葉を聞いた目の前の女性が、「・・・年増?」と呟いた後とんでもない魔力を迸らせ始めたからだ。
敵ながらテツ、なんでお前気付かないんだよ!?おれにはわかるぞ!
これ・・・アカン奴や!
そのヤバ気な魔力に全く気付くことなく、理を唱え終えるテツ。
魔力って魔導師なら誰でもわかるもんじゃないのか?
おれの疑問を他所に開かれた金箱、一瞬金色に染まる世界。
案の定・・・奴の肩越しに現れたのは炎の鳳。
『不死鳥』状態のメルテイーオとよく似ているが、当然別個体だろう。
全体に少し白みがかかっているし、何よりメルテイーオはラカティスの守護者なのだから。
「『白炎鳳』トゥラケイン、俺の切り札・・・防げるもんなら防いでみなぁ!」
ああ、居たな・・・そんな盟友。
おれの『魔導書』とは相性が悪そうだったから入れなかったんだ。
いや、不死鳥ならもう一羽?居ますし。
白い炎をけぶらせて、鳳が両翼を広げた。
「テツ、やめろ!」
「落ち着け!」
相変わらず口々に制止をかけるレオとサカキだが・・・もはや「押すなよ押すなよ」の法則に見えてくる。
何こいつら?そういうグループなの?
「ちぃ!旦那方は動けねぇなら黙ってやがれ!そういう契約だ!」
一方的に言い捨て、腕を真下に振り下ろす。
「クァァァァ!!」
一鳴き、滑空、何の工夫も無く、おれと眼前に立つ女性へ向けて、直線で飛翔する『白炎鳳』トゥラケイン。
先ほどの『炎帝』より遥かに速く、あっと言う間灼熱が肌をひりつかせるが、女性もおれも一切動かない。
訂正、おれの場合は動けない。
彼女が直前口にした、「あたしゃ、年寄り扱いされるのが嫌いでね・・・。」の呟きが聞こえたのはおれだけだったろう。
静かなのに背筋も凍る、神様とガチンコした時よりはっきりと視える死のイメージ。
ねぇ、まじでこの人誰なんですか!?
■
ヒュンヒュンと振り回していた木製の杖、パシリと最後に掌に打ち付けて上へ放る。
認識できたのはそこまで。
気が付けば彼女、迫りくるトゥラケインの嘴を素手で掴んでいた。
「やかましいヒヨコだよ。」
無造作、左右に開かれる両手。
当然その手にトゥラケインの嘴を握りしめたまま。
「ギュルワァァァァ!!」
意味の無い絶叫、だが・・・言いたいことは明確にわかる。
ブチブチブチメチメチメチッ!
食事中の皆様済まん!その行動は予想外過ぎたわ!
ちょっとありえない光景が形成されている。
見るから魔法使いの女性が、不死鳥を文字通り真っ二つに引きちぎっている。
いや、どっかで見たことがあるような気がするけども!
勇者の親友な魔法使いが、火魔法の鳥を真っ二つにしていたような気はするけども!
なんかあの光景とは、根本的に違う気がする。
生身成分が少ないのが救い、炎の身体でグロさは半減した・・・と、言っておく。
悲鳴とか、見た目とか、当事者としてはそれどころじゃない。
半身になって光の粒子放つ鳳を、ポイっと投げ捨てる彼女。
そこへ落ちてきた木製の杖が、当たり前のように掌に納まる。
「なっ!?」
思わず漏れ出た驚愕の声は、果たして誰のものだったのか。
空白、意識を逸らした瞬間、彼女の姿は移動していた。
「テツ!避けろ!」
気付いたのはレオ。
そう、奴が叫んだ時既に、女性はテツに向け木の杖を振りかぶっていた。
テツと言えば、全幅の信頼を寄せた切り札の無残な姿に呆然、「そんな・・・ウソだろ?」などと視線も定まらない。
メンタル弱すぎ!これも昨今の若者っぽいのか?
それでもレオの警鐘に反応し、緩慢ながら視線を上げる。
迫るのは木製の杖、奴がしこたま頭部を打ち据えられる姿を幻視した。
しかし・・・。
「ぼぅっとするな!『瞬盾』!」
懐からカードを出したサカキが、テツの前に飛び出し魔法を使用。
カードから生まれた輝く盾が、魔女?の振り下ろした木の杖と激突して粉砕した。
(一撃ッ!?)
絶句するおれとは別に、ある程度予測していたのかテツを突き飛ばし、サカキも同様跳び退る。
うん、疎外感がすごいわ。
何と言うか、ずっと戦い続ける白黒の騎士とおれだけ目に映ってない感じ。
もう全部無視してホナミ助けに行って良いかな?
あ、ごめん。
それ以上に空気なカリョウとテンガはどうしたものか!
「癪だねぇ・・・。」
一回転した木の杖を肩に担いで呟く女性。
いやいや・・・これ、つっこむべきなの?
『瞬盾』って、単体攻撃なら英雄級の攻撃、攻撃魔法なら神代級まで防ぐんだぜ?
まぁ、一回だけど。
つまりあの打撃・・・それと同等の威力があるんだろ・・・?
この人、絶対魔法使いじゃねーわ。
おれ?おれでも・・・二発は殴らなきゃだめじゃねぇかな・・・。
(むっ!)
彼女の視線は退いた二人、鳥面と蛇面。
その隙間縫うように、獅子面が動く。
狙いは・・・レオナルドとアルデバランの状況に横やりだろう。
良かったよ、まだあいつらのこと忘れてない奴が居てさ。
懐からカード取り出したタイミング、戦闘で砕けた床の破片を拾い上げ投擲。
狙い違わず奴の手を打ち据える石片。
「ぐぅ!」とくぐもった苦鳴、指先からカードを取り落とすレオ。
「邪魔をするなっ!・・・『悪魔』!」
「こっちのセリフだ!」
レオの身体能力はたかが知れた。
駆け出して肉薄、連撃で追い詰めていく。
その動き目に見えて精彩を欠き、フェイントを少し混ぜるだけで息が上がっていた。
違和感、いつもならとっくに転移で逃げるはず。
そうしないのは・・・出来ないからと考える。
見せ札、大ぶりな後ろ回し蹴り、途中で勢いを殺して反転。
所謂格闘ゲームのキャンセル技?生身でするのもどうかと思うが・・・。
本命の左拳を振るう。
(また・・・引っかかるんだな・・・。)
魔力を込めた左拳は、またもやレオの胸元に吸い込まれていく。
否、直前で気付いた奴はなんとか上体を捻った。
しかし、完全には避けれず肩口にめり込み爆発。
ガッ!ドゴォ!
吹き飛び転がるが、その勢いで距離を取る。
方向がいまいちだった。
不本意ながら合流してしまう三人の『略奪者』。
サカキの肩を借りよろよろと立ち上がるレオ。
洩らした呟きがやけにはっきりと聞こえてきた。
「何故だ・・・何故、転移ができん!」
やはり何らかの理由で、奴のチート能力が防がれている。
原因は恐らく・・・。
チラリ、視線を向ければ「然り。」とばかりに頷いて、彼女は高らかに宣言する。
「あんたらのしゃらくさい転移魔法、ここではもう使えやしないよ?あたしがありがたい結界を張ったからねぇ!」
予想はしていたが・・・このビキニさんハイスペックすぎるぞ。
さすがにここまで来ると、おれだって聞かずにはいられない。
「貴女は一体・・・誰なんだ?」
問いに答えたのは彼女自身では無かった。
「『悪魔・・・お前も名前は知っているはずだ!そこの化け物は・・・ガウジ・エオ。またの名を『真・賢者』!」
叫ぶように、されどどこまでも苦々しくレオが告げた名。
(なん・・・だとっ!?)
まさかとは思うが、この圧倒的な強さもそれなら理解できる。
「化け物とはひどいねぇ・・・。」などと呟く姿には想像もつかないが、彼女自身否定する素振りは見られない。
ならば事実、その通り・・・この国での目的の一つに、彼の人物との邂逅があった訳だが。
図らずもここで果たしていたと言うことか。
何よりも・・・彼女が未だおれに助力してくれているのは事実。
言うべきは一つ、腹を決めろ。
「『真・賢者』ガウジ・エオ、助力に感謝する!おれはあの時計に囚われた女性を助けたい。手伝ってくれ!」
恥も外聞も無い。
レオとサシならまだしも、似たような奴が他に二人も居る。
今必要なのは確かな実力を有す協力者の承諾。
秋広がおれのことを話している人物、それだけで信用に値する。
真っ直ぐ、他の面々を無視して真摯、告げたセリフが空間に響く。
「ふふふ・・・。」
最初に彼女から聞こえたのは小さな笑い声。
そして『真・賢者』は「良いだろう、任せな。」と、バチコーン振り向きざま・・・蠱惑的なウィンク一つ寄越すのだ。
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