・第二百二十六話 3vs1
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聞きなれぬ声と共に飛来した火弾の群れ。
キュド!ドココココッ!
着弾、太鼓のような音を立てて巻き上がる紅蓮。
傍から見たら、おれは炎の城壁に覆い尽くされたように見えただろう。
「我が君ぃ!」
炎の狭間からおれの身を案じるのはアルデバランの声。
駆け寄ろうとするアルデバランを、さっきまでと逆転レオナルドが押し留める。
「邪魔だ!」
「それはこちらのセリフ!」
そして『宿敵』の効果が発動、相も変わらず黒と白の戦いは『千年手』。
しかし・・・アルデバラン、今はレオナルドに集中しろ。
なぜなら、おれは無傷なのだから。
熱量を感じた時には、すでに身体が動き出していた。
いつもの危険察知さんありがとうである。 口調からして新手の『略奪者』。
蹲るレオと諸共かと思ったが、射線は横合いから・・・着実におれだけを狙っている。
『魔導書』からカードを選択。
カードに魔力を込め、即座に解放する。
光の粒子へと転じるそれが、おれの言の葉で明確な効果に変わった。
『炎乗り』
炎が噴き上がる寸前に逸らした足裏に、魔力の粒子が集束。
おれはその足で炎を蹴り上げる。
瞬時、おれの管理下に置かれる炎の波。
「やーれやれ、完全な不意打ちだと思ったんだがなぁ。」
軽口、完全に姿を現した蛇面白ローブの目線は、炎の中に居るおれを見据えている。
炎の中と外、期せずして絡み合う視線。
その光景を端目で捉えたか、アルデバランも落ち着きを取り戻す。
忠義に厚い奴の事だ。
おそらく早くレオナルドを倒して、明確な敵の増援に対処したいとか思っているんだろうが・・・。
レオナルドがアルデバランを倒せないように、アルデバランもレオナルドを倒せない。
少なくとも横やりが入らない限り。
(とりあえず問答無用!)
先に仕掛けてきたのは向こうだ。
ご丁寧に御用伺いする必要も無い。
むしろ要件など知れている。
ダガンッ!
音たてて踵、床面を踏み抜く勢いで叩きつける。
途端、一時の落ち着きを見せた炎の波が、意志を持って・・・正確にはおれの意志を反映し、炎の河に転じ蛇面の『略奪者』に襲い掛かった。
隙を突き、蛇面の方へ逃げようと転移するレオ。
いつぞやに見たものより、随分と飛距離が短い。
遮るように炎の河を操り妨害。
たたらを踏んだところで追いつき、容赦なくローキックで転ばせる。
「ぐあっ!」
(弱点見たりってとこだな。)
たぶんあのチート能力、本人の体調が大きく関係するのだろう。
あとは時間か・・・。
頻度もそれなりに限られるのだろう。
推測に過ぎない以上は油断できる問題じゃないが、そう考えないとこの追い詰められた状況で、レオが逃げないのも説明できない。
その様子に「うわぁ、容赦無いねぇ?」などと言っている蛇面。
迫りくる炎の河に狼狽える様子も無い。
「魔導書」
宣言と共に、奴の目の前・・・A4のコピー用紙サイズ、カードが五枚浮かび上がる。
どうやらこいつは『魔導書』を使うらしい。
どこぞの猫型ロボット宜しく、「こんなこともあろうかと!」懐からカードを取り出すレオの存在が更に謎になる。
そこから蛇面は一枚のカードを選択すると魔法名を告げた。
『消火』
言霊によって弾けたカード、赤い波動が広間を突き抜ける。
おれが掌握していた炎は見る影も無く鎮火、炎の河どころかライターの火一つ見当たらない。
鷹揚に頷いた蛇面が語る。
「真の火魔導師は、発火も消火も思いのままなんだぜ?」
火属性の使い手が居るのはわかっていた。
でないと『炎虎』が居た理由が付かないしな。
やたら得意げ、「どうだ、すごいだろう?」とでも言いたいのか?
それにしても真の火魔導師とは・・・ずいぶんご機嫌に謳ったものだ。
ぜひうちの放火魔と語らってくれ。
おれには興味が無い。
対峙したまま、とりあえず「・・・そうかよ。」と呟いておく。
数瞬、沈黙に包まれる世界。
沈黙を破ったのは蛇面だった。
「『悪魔』、てめぇはどうなんだ?」
さっきまでの軽薄な雰囲気を一転、地の底を這うような重苦しい声。
そこに込められた感情は・・・言うなれば怨嗟?
何かまた・・・知らない所で恨まれてるパターンか・・・うぜぇ・・・。
それより今はレオの処遇なんだよ。
おれが生殺与奪権握ってるから大人しいけどな、ちょっと目離したら何するかわかんねーんだから。
「ああ、すげぇな。おれは燃やすのはできても、消すのは得意じゃないからな。」
面倒になり、奴が望んでいそうな言葉を投げかける。
おれの言葉を聞いた途端、蛇面は天を仰ぎ大声で笑い出した。
「くっくっく、くわーはっはっはっは!そうかそうか、そうだよなぁ!」
一しきり笑った後、ゆらり・・・おれを睨みつける。
作り物の蛇の顔が、まるで本物の大蛇のように怖気を誘う。
「じゃあ何で・・・何でてめぇが、火魔導師の代名詞みたいに言われてんだよ!?てめぇは辛気臭ぇ闇魔導師だろうが!」
え・・・なにこれ、怖い。
■
「俺は忘れてねぇぞ!てめぇに受けた屈辱をなぁ!」
絶叫、正に猛るとはこのこと。
「・・・・・・。」
(そんなこと言われてもな・・・。)
全く身に覚えが無いのだが、どうやらおれは奴のプライドを甚く傷つけたことがあるようだ。
おそらくは『地球』でだろう。
まぁ、接点がそれしか思いつかない。
ただ・・・どう対処したものか?
うん、とりあえずレオをきっちりしめとこう。
蛇面から興味を失い警戒は解かないまでも一先ず放置。
目下ボコボコで絶賛蹲り中の獅子面へ意識を割く。
「てめぇ『悪魔』!シカトしてんじゃねぇぞぉ!?」
しかし案の定、おれの注意が逸れたことを認識した蛇面が語気を荒げた。
その言、まるで深夜のコンビニ前で、無意味に車座を形成する予備軍の皆さん。
『リ・アルカナ』のトップランカーに、こんなチンピラは居ただろうか?
思い出せない・・・だが、居たのだろう。
でなきゃこいつが、ここに存在する理由がわからない。
おれが逡巡してしまった間に、蛇面は目の前のカードを選択した。
割り込むには距離があるし、むしろ短絡的に見える蛇面よりレオの方が警戒すべき対象だった。
奴の掲げた両手、徐々に巨大な火球を形成する。
おれも一枚だけ『魔導書』に入れてある魔法カード。
指導者級の盟友ですら直撃の際には即死する、古代級火属性攻撃魔法。
「行くぜぇ『悪魔』!あの世で『太陽』のテツ様が本当の火魔導師でした。おだって済みませんって詫びるんだなぁ!」
口上、『太陽』のテツ。
テツと名乗った蛇面の頭上、3m大の火球へと変貌を遂げた種火。
居たなそんなヤツ・・・いや、居たっけ?
正直思い出せない・・・たぶん居たんだろう。
蛇面の凶行を止めたのは意外な人物だった。
「落ち着けテツ。それを撃てばレオを巻き込む。」
テツの背後から突然現れた白ローブ、またしても転移。
(また新手・・・しかも3vs1だ。)
メスティアに来てから『略奪者』が大盤振る舞い。
ある意味では、遂に本腰を入れたと言った所か。
次から次へとめんどくせぇ、誰か転移禁止の結界でも張ってくれないもんか・・・。
新たに現れた人物、顔を覆い隠す面は鳥を模したそれ。
静か、落ち着けるように蛇面を諭す。
「鳥・・・面・・・!サカキ・・・『魔術師』のサカキ!」
脳裏を過ぎる弟分の・・・竜兵の握り締めた拳。
そしてバイアとヴェルデの顔。
いつのまにか口から呟きが零れた。
それを拾った二者の反応は対極。
一層警戒を強める鳥面と、俯き肩を震わせる蛇面。
テツはさっと顔を上げると、妙にすっきりとした声で告げた。
「サカキの旦那は覚えてるのに、俺の事は名前すら覚えてねぇのか。まぁいいや・・・てめぇもう死ねよ。『炎帝』!」
「待て!テツ!」
仲間からの制止も振り切り緩慢、死刑宣告が如く振り下ろされる腕。
テツの腕の動きに合わせ、やけにゆっくりと落ちてくる火球。
この位置、レオが巻き込まれるんだが、テツにとってはもう眼中に無いのか。
直後、盛大な舌打ち、そして魔法名が聞こえた。
「チィ!この馬鹿が!『引寄』!」
サカキが懐から出したカードを使用する。
(お前もそれやるのかよ!)
おれの内心、何度目かもわからないつっこみを華麗にスルーして魔法が発動。
カードから荒縄が生まれ、レオの全身に巻き付く。
「がは!」
おれにさんざ殴られ蹴られした傷が痛むのだろう。
レオの口から乾いた呼気が漏れる。
縄の先端は当然サカキの手の内に。
「緊急事態だ、許せよ?」そう言い捨て、勢いよく縄を引くサカキにレオが引き摺られ、奴らの下へと引き寄せられる。
(しまった!)
そう思ったときにはもう遅い。
サカキが使ったのは自軍専用の移動魔法だ。
さすがに魔導師三人相手に一人はジリ貧だぞ。
元からおれは短期決戦型なんだよ。
そして、もはや目の前『炎帝』。
さすがに直撃はまずい。
サーデインくらいになると多重障壁で防いでくれそうだが、残念ながらおれにそんな力は無い。
少しでも被害を和らげようとバックステップ。
(間に合うかっ?)
衝撃に備えクロスした両腕で顔を庇い、効果があるかわからないまでも全身に魔力を張り巡らせる。
言うな、無いよりもマシの判断だ。
火球が着弾するまでの、永劫にも似た一瞬。
しかし・・・。
炎はいつまでも襲い掛かってくることは無かった。
恐る恐る腕を下ろすと・・・おれを庇うように立った赤銅色の後ろ姿。
魔女のようなとんがり帽子に木製の杖、そして・・・ビキニの上下しか身に着けていない女性の後ろ姿があった。
(え・・・?誰?・・てか、なんでビキニ?)
頭には疑問符しか出てこない。
そんなおれを赤銅色の女性はチラリ、いや・・・ギロリと一瞥。
彼女はそれだけで『略奪者』の方へ視線を戻す。
間違いなく助けられたのだろうし、文句無しの美人なんだが・・・なんだこの釈然としない気持ち。
背中越しにかけられる言葉で更に困惑。
「あんたがセイで間違いないね?秋広の言った通りの容姿だよ。フン・・・本当に良い男じゃないか。」
おれがどう言われてるとか、この際どうでもいいわ。
それより問題は、突如舞い込んだ幼馴染の名前である。
「あき・・・秋広!?貴女は秋広を知っているの・・・ですか!?」
思わず敬語になったおれを誰も責められないだろう。
窮地を救われた上、もうね・・・オーラがすげーんだ。
それに彼女が答えるより先に、どうやらサカキに回復されたらしいレオが立ち上がり口を開く。
「二人とも助かった・・・と言いたい所だが、お前らは何て者を連れてきたんだ・・・!」
「いや!これは!」
「済まんレオ・・・まさか追跡けられていたとは・・・!」
声でしか判断できないからこそわかることもある。
微かに震えるレオの声と、慌てるテツ、サカキ。
困惑はどうやらおれだけじゃなかったらしい。
ってか、これマジで誰なん?
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