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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
235/266

・第二百二十五話 『宿敵(ライバル)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 相対する四人、二人の魔導師と二人の騎士。

 四人を指す言葉は同じなのに、その様相は余りにも違う。

 ただその陣営、傍から見れば一目瞭然だろう。

 並び立つのはいつもの戦装束・・・漆黒の法衣を着たおれと、いかつい突起を全身から突き出し、ばかげたサイズの大鎌を携えた黒曜石の鎧。

 逆に純白の全身鎧、騎士盾と直剣構える騎士を盾にして距離を取るのが、獅子面白ローブの『略奪者プランダー』・・・『皇帝エンペラー』のレオ。


 一時的、停滞した空気におれの声だけが響く。


 「アルデバラン、命令オーダーは一つ。おれがあのライオンマンを張り倒すまで、『白騎士』レオナルドを封殺しろ。」


 レオを睨み付け高らかと宣言。 


 「命令オーダーを拝命した。これより戦闘を開始する。」


 真横に控えるアルデバランは、一切の迷い淀みを見せず頷くと、関節部から文字通り気焔を上げる。

 チャキリと大鎌を構え直し、対照的な純白に向けて突っ込んだ。

 おれは、盟友ユニットを盾に時間稼ぎをしたいどこぞの誰かさんとは違う。

 当然アルデバランを追いかける。

 すぐに横並び、タイミングを合わせて並走。


 無意識でもおれを守っているのだろう、各部位から迸る仄暗い青炎がどこか幻想的に宙を舞う。

 しかしおれにとって無害なその青い炎は、犠牲者を黄泉へと連れていく送り火だ。

 大上段、振りかぶった凶刃が無造作に振り下ろされる。

 アルデバランの振り下ろした大鎌を、レオナルドが騎士盾で受け止めた。

 ギャィィィン!

 派手な金属音を上げ、ギリギリと拮抗。

 そんな攻防を端目、おれはレオナルドの横合いをすり抜ける算段。

 しかし・・・。


 「くっ!舐めるなぁ!」


 初めて明確な声を上げたレオナルドが、直剣を振るっておれの通るルートを塞ぎにかかる。

 剣の軌道を読んで転身。

 くるり、躍るようにその場で半回転、タイミングを完全にズラす。


 「舐めているのは、貴公では?」


 低い声で告げられた言葉、アルデバランが既に詰めている。

 手元で回転した大鎌、その凶悪な石突が召喚時同様レオナルドを強か打ち据えた。


 「くぅ!」


 それでもさすがは英雄級の騎士だ。

 強固な鎧が奴の身を守り、目立った被害は見受けられない。

 石突の一撃は堪えたレオナルドだが、それでバランスを崩していた。

 すれ違いざま足払い、軸足をローキックで刈り取る。


 「なっ!?貴様!」


 宣言からおれがレオ、アルデバランがレオナルドとタイマンだとでも思ったか?

 くだらない、おれが騎士道宜しく見守ってやる必要も無い。

 やれそうなら先に潰すまで。


 追撃をかけるアルデバラン。

 膝立ちになったレオナルドに、退路を塞ぐ斜めからの振り下ろし。

 如何に強固な鎧を着ていても、あの大鎌が直撃したら無事で済むとは思えない。 


 『硬化ハードスキン


 着弾寸前、またもや懐から出したカードを使用するレオ。

 レオの指先から放たれたカードが、レオナルドの眼前で弾けてその身体を覆う。

 ガィン!

 アルデバランの鎌がレオナルドの鎧に当たり、斬撃武器とは思えない音で止められた。

 さすがは『硬化ハードスキン』、一時的とは言え防御力倍化は伊達じゃない。

 その隙に体勢を立て直すレオナルド。


 (だが遅い!)


 あくまでも『白騎士』は行きがけの駄賃。

 最初からアルデバランが封殺してくれると信じている。

 おれの本命は最初から一貫してレオ本人。

 駆け抜け接敵、右拳・・を腰だめに上体を捻る。


 「マスター!」


 「何を、よそ見している?貴公の相手は、こちらだろう。」


 主のピンチに叫ぶレオナルドと、その焦りを利用して相手の動きを遮るアルデバラン。

 さすがは歴戦の勇士だ。

 そして・・・相変わらずバックステップで距離を取ろうとする獅子面。

 構わず追いつき、直前まで全力・・・そして触れる瞬間一気に力を抜いて振り切った。

 バチン!

 レオの身体におれが触れたか触れないか、いつぞやとはまるで違う、柔らかく弱弱しい反動が返ってくる。

 奴の身体を覆っていた光の幕が罅割れ砕け散る。


 「なっ!?」


 獅子面に隠れていても、その驚愕ははっきりと感じ取れた。


 「やっぱりな、使ってたんだろう?『反射リフレクト』」


 レオが、また『反射リフレクト』を使っているだろうことは予想していた。

 前回は本気で殴ったから手ひどい反動を食らったが、最初からあるものだと判っていれば対処のしようなんて幾らでもある。

 要は本命の一撃を入れる前に、反射されても良いような攻撃を加えればいいだけだ。

 反動を利用して回転、後ろ回し蹴りを叩きこむ。

 レオはギリギリで回避、しかし踵が肩口に掠って「ぐっ!」と呻く。

 更に追撃、本当の本命・・・左の拳をご馳走だ。


 「くそ!『物真似ミミクリー』!」


 悪態を突きながらも諦めないレオは、『物真似ミミクリー』のカードを発動しようとした。

 直前の魔法、レオナルドに使用した『硬化ハードスキン』。

 だが・・・それも想定済みだ。

 即座、『魔導書グリモア』を展開、一枚のカードを選択。


 「しゃらくせぇ!『握り潰し(スクイード)』!」


 おれの妨害魔法が、文字通り『物真似ミミクリー』の効果を握り潰す。

 障害は全て排除、あとはぶん殴るのみ! 


 「歯ぁ食いしばれぇ!」


 硬く堅く握り締めた拳、レオの胸元に突き刺さる。



 ■



 ドゴッ!バガンッ!ズザザーーーッ

 決して人体から発せられる類の物では無い音。

 着弾、集束された魔力の爆発、床を滑って吹き飛ぶ。

 当然だ、例の「なんちゃって発剄」を全開でお見舞いしているのだから。


 「がぁ!ごはっ!」


 祭壇の階段下まで滑ったレオが、えずきながらヨロヨロと立ち上がる。


 「マスタァー!」


 「貴公の相手は、こちらだと、言った。」


 レオナルドが慌てて駆け寄ろうとするが、アルデバランは大鎌を小枝のように操り、それを許さない。

 

 「・・・何故だ。何故・・・助成に来ないレオナルド!」


 獅子面が絞り出すように口に乗せたのは、己が盟友ユニットに対する不信。

 それを聞き更に動揺する『白騎士』。


 「済みません!マスター!すぐにっ・・・くぅ!」


 隙を見逃さず撃ち込まれる剣戟に、防戦一方。

 まぁ・・・傍目から見れば違和感があるのかもしれないな。

 アルデバランは『冥王化』を使用していない。

 と言うよりも、出来なかったと言うのが正しいだろう。

 『冥王化』発動時の範囲攻撃を鑑みればカリョウとテンガが近すぎたし、搦め手大好きレオ君を相手取るに追加の手札二枚は不安過ぎた。

 現に現在の手札は残り二枚。

 アルデバランを『冥王騎士』に進化させていた場合、おれの手札は無くなっていた訳だ。


 そしてアルデバラン、『冥王化』をせずに呼んだ場合の等級は指導者級。

 英雄級である『白騎士』レオナルドを、封殺できるのは単純に考えたらおかしい。

 それはレオもわかっているのだ。

 だからこそ納得できずに、ただ檄を飛ばす。


 「レオナルド!早くアルデバランを倒してこっちへ来い!」


 「済みませんマスター!必ず!」


 悲痛な主従の決意、通るわけも無い。

 なぜならそこには確かな理由があるのだから。

 一歩、一歩とゆっくりレオへ距離を詰めながら・・・。


 「おいおい、あんま無茶言ってやるな。あいつはあのまま釘付けだよ。」


 「なん・・・だとっ!?」


 おれの言葉に面白いまで反応を返すレオ。

 どうやらクールの仮面は剥がれ落ちてしまったらしい。

 

 「どうも忘れてるようだから教えてやるよ。『宿敵ライバル』が発動してるんだぞ?このまま『千年手ミレニアム』だ。」


 「・・・しまった!」


 そう・・・おれが狙ったのは『宿敵ライバル』と言う特殊効果。

 カードテキストには明記されていないのにも関わらず、公式でははっきりと発表され大いに困らされた効果だ。

 その効果とは・・・。


 【一部 盟友ユニットには『宿敵ライバル』が設定されている。『宿敵ライバル』同士の戦闘はその等級、特技、能力を除外し、決着がつかないものとする。また、この戦闘に別の存在が割り込んだ場合はその限りではない。】


 つまり、『宿敵ライバル』は千年戦っても勝負が付かない。

 それをいつからか『リ・アルカナ』プレイヤーは『千年手ミレニアム』と呼ぶようになった。

 もちろん、カードテキストにも載っていないような後付けルールだ。

 散々叩かれた公式も、スタンダードルールからは除外している。

 だがこの世界のルールはどうだ?

 『無制限アンリミテッド』・・・何でもあり、そりゃ当然『宿敵ライバル』も適用される。

 

 ここまで話せば・・・もうお分かりだろう?

 レオが使役する『白騎士』レオナルドと、おれが使役する『暗黒騎士』アルデバランは『宿敵ライバル』なのだ。

 おれがアルデバランを引き、召喚に成功している時点でレオナルドは無力化したも同然。

 マイナールールに等しいゆえに、レオはすっかり忘れていたのだろう。


 「・・・だが!他者の介入があれば『千年手ミレニアム』は崩れる!」


 懐に手を入れカードを取り出そうとするレオ。

 道理だ、事実・・・『宿敵ライバル』を崩すのは、枠外からの妨害が最もシンプルである。


 「だから、それをさせねぇって言ってんだ!」


 こいつがなぜ『魔導書グリモア』を使わないのか、なぜ懐から出したカードで魔法が使えるのか。

 突っ込みどころは山ほどあるが、今は後回し。

 カードを指に挟んだ手、無造作蹴り飛ばす。

 本気で蹴った・・・たぶん手首は折れただろう。

 「ぐぁ!」と叫び蹲るレオに、おれは最後通牒。


 「一回しか言わねぇぞ?・・・盟友ユニットを帰還させてホナミを解放。その後大人しく捕縛を受けろ。」


 蹴られた腕を押さえたまま蹲るレオは、それでもおれを見上げてあざ笑う。


 「出来んな。」


 「・・・そうかよ。」


 足を振り上げ踵落としの構え。

 気絶させりゃ維持が切れるか?

 いや・・・おれが気絶してる時も盟友ユニット全部が帰還した訳じゃ無い。

 最悪・・・殺らなきゃならねぇか・・・。

 同郷の人間に対して冷酷だろうかとも思う。

 それでも・・・身を挺しておれをここへ送り込んだ仲間たち、一人一人の顔が頭に過ぎれば迷いは消えていく。

 決断と共に響いたのは聞きなれない声だった。


 「まぁ待てや『悪魔デビル』?」


 直後、無数の火弾がおれに向かって降り注ぐ。





ここまでお読み頂きありがとうございます。

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