・第二百二十四話 『配役(キャスティング)』
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最奥と思われる部屋に転がり込んだおれ。
夢で見た通り、美祈が教えてくれたのと同じ光景が視界に入る。
憤怒の形相で壁に埋め込まれたノモウルザ。
その壁に半ば埋まっている三角錐。
あれがおそらく古代の兵器、奴を封印している要。
そして・・・宙に浮かんだ怖気を放つ金属製の時計と、文字盤の頂点に囚われの姫。
痛々しい拘束具と目隠しを嵌められ、未だぐったりとしたままのホナミ。
短針は11を大きく過ぎて、長針もすでに7の字へ差し掛かっている。
おれに残された時間は、30分を割り込んでいた。
どう考えても『迷路』に費やした二時間が無駄、今更ながら悔やまれる。
彼我の距離、走れば五分もかからないだろう。
しかし今、その距離が果てしなく遠い。
なぜならホナミとおれの間には、獅子面の『略奪者』・・・『皇帝』のレオが立ち塞がっているのだから。
おれが『魔導書』を展開して構え宣言したのに対し、奴は最初の呟き以来反応を返さない。
(何か・・・あるのだろうか・・・。)
ここは敵のテリトリーだ。
なんとか辿り着けたとは言え、現在おれは仲間たちと分断され一人。
おれがここで倒れたら、ホナミは救えずノモウルザの封印も解かれる。
それが奴らの怪しげな計画・・・100万人分のカードとやらにどう絡むのか。
最悪の予想は、ノモウルザの使役だ。
あちこちで神々の話が出てくる以上、想定に上げておかねばならないだろう。
唯一の救い・・・と言えば、ホナミのくれた情報だ。
おれがこの獅子面を、『皇帝』のレオだと認識できたおかげで、『地球』での奴の立ち回りを思い出せた。
騎士系と分類される盟友のみを使う魔導師。
竜兵のドラゴンやウララの天使と同じ、ファンデッキと言われる類の物だ。
レオ的には・・・おれにそう言われるのは心外らしいがな。
どうも誤解があるようだ。
おれの『魔導書』の場合は、ファンも何も闇属性と火属性、それとギルド『伝説の旅人』所属の指導者級以上しか選ばなかっただけだ。
秋広曰く、コース料理の前菜でステーキが出てくる『魔導書』だそうで。
っと、話がずれたな。
ともかく・・・たぶんこいつと相対した奴は、騎士系の盟友と言う分かり易い見せ札のせいで、真っ向勝負を疑わないだろう。
だが当の本人、レオの狙いは全く違う。
その正体は・・・おれと戦った時に見せた魔法、『反射』や『物真似』からも想像がつくように、搦め手の魔法を多用して敵魔導師や盟友を阻害し、相手に碌な抵抗をさせないと言う物。
いや、使役されている盟友自体は違うのかもしれない。
称号に騎士って付いてる奴らだ。
きっとその精神は高潔な者が多いんじゃないかと思う。
アルデバランとか『暗黒騎士』なのにあの調子だしな。
ラカティス?ああ・・・あいつは『不死鳥を追う者』だろ?
称号に騎士が付いてないんだ。
考えるな、感じろ。
それはともかく。
呼び出された盟友が使役者を裏切れる訳も無く、レオが呼び出した騎士たちの仕事、そのほとんどは・・・。
護衛の対象を守ることでも、勇猛果敢に騎馬で突撃することでもなく、ほぼ無力化された敵勢を蹂躙することのみ。
むしろ扉の前でおれたちを阻んだ、ゴリアテやダンテは稀有なパターンと言えるだろう。
レオの立ち回りを思い出し、おれは少しだけ光明を見た。
たぶんこの状況は、あいつにとっては最悪に近いパターンなのだろう。
なぜなら・・・おれは『地球』でレオとのバトルに負けたことが無い。
実際、相性ってのは本当にあるんだよ。
おれの『魔導書』は超速攻型だから、無視できない見せ札で奴の搦め手を潰しながら本人を殴ればいい。
それに騎士系の盟友ってのは、そのほとんどが重歩。
速度で圧倒できる者や、魔法使い系の攻撃魔法には対応しきれない。
まぁ・・・それでも英雄級とか呼ばれると、さっきみたいなことになるんだが。
とにかく、レオの動きがある程度予想の範囲内なのは、こちらにとって間違いなくアドバンテージ。
油断さえしなければ・・・この状況も打破できるはず。
目まぐるしく思考を巡らせながら、展開した手札と相談する。
対してレオ、未だ『魔導書』を展開しない。
(何を・・・考えている?)
不気味だが、睨み合っていても時計の針は進む。
今もまた長針が一歩、文字盤の7と重なった。
極論、奴はただ待っているだけでも目的を果たせるのだ。
(先に動くしかない。)
迷いを振り切り行動に移そうとした瞬間、黙っていたレオが口を開く。
「一応・・・聞くだけは聞いておくぞ?」
「・・・なんだ?」
奴が唇に乗せたのは予想外の一言。
「『悪魔』、今からでも俺たちに協力するつもりは無いか?」
■
時が止まる。
「・・・は?」
自分でもわかる間抜けな声が口から漏れた。
なんだその展開?どこの魔王様だよ?
「ホナミから多少は聞いたのだろう?このままだと『地球』が滅ぶんだぞ。お前は帰りたいと思わないのか?」
一体何のつもりなんだ?今更説得?
いや、惑わされるべきじゃない。
あいつの最大目標はあくまで時間稼ぎだ。
おれが戸惑うこの数瞬ですら、奴にとっては得難い数瞬であるかもしれない。
レオは構わず話し続けていた。
「お前が協力を約束するなら、俺からツツジを説得してやっても良い。それに信用が成れば『加護』も与えてやろう。」
なんだそりゃ・・・段々衝撃も納まって、逆に苛立ちが募ってきた。
「まっぴら御免だな。大体お前らとは・・・趣味が合わねぇよ。」
カマかけ、ポンと一枚カードを選択しながらの視線。
コストとして使う予定のカードだが、さも魔法カードであるかのように指に挟む。
小首を傾げ、わざとらしく「ああ・・・。」と呟くレオ。
「ホナミのことか?それとも・・・。」
「それとも・・・?」
おれが言ったのは真実ホナミのこと。
それ以外にも奴には、思い当たる節があるとでも・・・?
なぜか『魔導書』ではなく、ローブの懐からカードを取り出すレオ。
咄嗟身構えるおれに、「まぁ待て。」と鷹揚に言い捨てながら、レオはカードを発動する。
『放逐』
ちょうどおれとレオが相対する真ん中、空間に開く暗い洞穴。
ホナミを呑み込み連れ去ったその魔法。
今度は中から何かが現れる。
ドサッドサッ・・・。
放り出されたのは、特徴的な青と白の鎧を着込んだ二人の男。
この地域治める二人の王、カリョウとテンガ。
彼らはホナミ同様しっかりと拘束され、まるで荷物のように転がっていた。
「カリョウ!テンガ!」
こっちか!
死亡フラグじゃなくて捕獲フラグだった訳だ。
目隠しこそされていないが目は閉じられたまま。
と言うよりも二人、完全に意識が無かった。
全身に夥しい数の切り傷、中には折れた剣が鎧の隙間に突き刺さっていたり、相当な重傷であることは間違いない。
弱弱しくも胸が動いている。
まさに満身創痍、かろうじて生きている・・・と言うレベル。
駆け寄ろうとしたおれに、今まで以上冷たい声がレオから響く。
「それ以上近づくなよ?たかが数時間、行動を共にしただけでその反応とは・・・本当にカードを生物と認識しているのか。これは・・・本格的にだめだな。」
これは奴にとってテストか何かだったのかもしれない。
奴の使役する騎士同様、見せ札って奴だ。
明らかに侮蔑、諦念が込められたセリフ。
「あ゛?」
ため息混じり告げられた言葉に、一瞬で目の前が真っ赤に染まった。
「とりあえずぶっ飛ばす!」
罠?あるだろうな。
関係ないね・・・罠ごとぶっ潰す!
勢いに任せ踏み込む、走る、二人を庇ってレオの前へ躍り出る。
「それ以上寄るなと言った。」
おれの動きに合わせてバックステップ、懐に手を入れるレオ。
どうせ短距離転移とか使うんだろうが、身体能力はおれの方が上、すぐに追いつく。
抜き出した手には輝くカードが一枚握られている。
だから何なんだよそれ!
『魔導書』使いやがれ。
奴がカードを発動するのも無視して更に突っ込む。
「おせぇ!」
跳躍から跳び蹴り、直撃コース。
しかし、一瞬だけレオの使用した魔法の効果が先行する。
「お前の相手はこっちだ。『配役』」
前方地面に違和感、首筋にチリリと危険察知。
滞空中のおれとレオの間、何も無かった床面から迸る白い光。
光の中から、特徴的な騎士盾と直剣を携えた純白の全身鎧が現れ、おれの蹴りを盾でしっかり受け止める。
やはり罠、今レオが使った『配役』ってのは、予め召喚済みの盟友を潜伏、任意で範囲内の好きな場所に配置できる魔法。
そして純白の全身鎧は当然ネームレベル。
ゴリアテやダンテと同じくレオの切り札。
『レイベース帝国』所属、光属性の英雄級 盟友『白騎士』レオナルド。
だが、ここまでの流れ読んでいた!
思い出してみれば、どこまでも『地球』でのバトルと行動が同じ。
シールドバッシュの勢いをそのまま、跳躍のエネルギーに変え跳び上がる。
空中で『魔導書』を展開、一枚を選択。
すでに選択して隠し持っていたカードを瞳の形、三つの紋章に変換。
詠うように、謳うように、紡ぎ出した召喚の理。
『砂漠の瞳に誓いし者、暗黒を世界に教える者、我と共に!』
金箱の蓋が開き、世界が金色に包まれる。
ギャリィィィィン!ゴッ!
金色の世界に響く甲高い金属音と鈍い金属音。
「ぐっ!」
次いで聞こえてきたのは、くぐもった呻き。
光が消えた先に待つ者は・・・3mに達する大鎌、その石突を突き出したメタリックブラックのトゲトゲ鎧と、その一撃によって後退している『白騎士』レオナルド。
「・・・王よ。我が君、命令を。」
「『暗黒騎士』アルデバラン・・・。」
おれの盟友、彼の名を呟いたのはレオ・・・。
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