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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
234/266

・第二百二十四話 『配役(キャスティング)』

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 最奥と思われる部屋に転がり込んだおれ。

 夢で見た通り、美祈が教えてくれたのと同じ光景が視界に入る。

 憤怒の形相で壁に埋め込まれたノモウルザ。

 その壁に半ば埋まっている三角錐。

 あれがおそらく古代の兵器、奴を封印している要。


 そして・・・宙に浮かんだ怖気を放つ金属製の時計と、文字盤の頂点に囚われの姫。

 痛々しい拘束具と目隠しを嵌められ、未だぐったりとしたままのホナミ。

 短針は11を大きく過ぎて、長針もすでに7の字へ差し掛かっている。

 おれに残された時間は、30分を割り込んでいた。

 どう考えても『迷路メイズ』に費やした二時間が無駄、今更ながら悔やまれる。


 彼我の距離、走れば五分もかからないだろう。

 しかし今、その距離が果てしなく遠い。

 なぜならホナミとおれの間には、獅子面の『略奪者プランダー』・・・『皇帝エンペラー』のレオが立ち塞がっているのだから。

 おれが『魔導書グリモア』を展開して構え宣言したのに対し、奴は最初の呟き以来反応を返さない。


 (何か・・・あるのだろうか・・・。)


 ここは敵のテリトリーだ。

 なんとか辿り着けたとは言え、現在おれは仲間たちと分断され一人。

 おれがここで倒れたら、ホナミは救えずノモウルザの封印も解かれる。

 それが奴らの怪しげな計画・・・100万人分のカードとやらにどう絡むのか。

 最悪の予想は、ノモウルザの使役だ。

 あちこちで神々の話が出てくる以上、想定に上げておかねばならないだろう。


 唯一の救い・・・と言えば、ホナミのくれた情報だ。

 おれがこの獅子面を、『皇帝エンペラー』のレオだと認識できたおかげで、『地球』での奴の立ち回りを思い出せた。

 騎士系と分類される盟友ユニットのみを使う魔導師。

 竜兵のドラゴンやウララの天使と同じ、ファンデッキと言われる類の物だ。

 レオ的には・・・おれにそう言われるのは心外らしいがな。

 どうも誤解があるようだ。

 おれの『魔導書グリモア』の場合は、ファンも何も闇属性と火属性、それとギルド『伝説の旅人』所属の指導者級以上しか選ばなかっただけだ。

 秋広曰く、コース料理の前菜でステーキが出てくる『魔導書グリモア』だそうで。

 っと、話がずれたな。


 ともかく・・・たぶんこいつと相対した奴は、騎士系の盟友ユニットと言う分かり易い見せ札のせいで、真っ向勝負を疑わないだろう。

 だが当の本人、レオの狙いは全く違う。

 その正体は・・・おれと戦った時に見せた魔法、『反射リフレクト』や『物真似ミミクリー』からも想像がつくように、搦め手の魔法を多用して敵魔導師や盟友ユニットを阻害し、相手に碌な抵抗をさせないと言う物。


 いや、使役されている盟友ユニット自体は違うのかもしれない。

 称号に騎士って付いてる奴らだ。

 きっとその精神は高潔な者が多いんじゃないかと思う。

 アルデバランとか『暗黒騎士』なのにあの調子だしな。

 ラカティス?ああ・・・あいつは『不死鳥フェニックスを追うシーカー』だろ?

 称号に騎士が付いてないんだ。

 考えるな、感じろ。


 それはともかく。

 呼び出された盟友ユニットが使役者を裏切れる訳も無く、レオが呼び出した騎士たちの仕事、そのほとんどは・・・。

 護衛の対象を守ることでも、勇猛果敢に騎馬で突撃することでもなく、ほぼ無力化された敵勢を蹂躙することのみ。

 むしろ扉の前でおれたちを阻んだ、ゴリアテやダンテは稀有なパターンと言えるだろう。

 

 レオの立ち回りを思い出し、おれは少しだけ光明を見た。

 たぶんこの状況は、あいつにとっては最悪に近いパターンなのだろう。

 なぜなら・・・おれは『地球』でレオとのバトルに負けたことが無い。

 実際、相性ってのは本当にあるんだよ。

 おれの『魔導書グリモア』は超速攻型だから、無視できない見せ札で奴の搦め手を潰しながら本人を殴ればいい。

 それに騎士系の盟友ユニットってのは、そのほとんどが重歩。

 速度で圧倒できる者や、魔法使い系の攻撃魔法には対応しきれない。

 まぁ・・・それでも英雄級とか呼ばれると、さっきみたいなことになるんだが。


 とにかく、レオの動きがある程度予想の範囲内なのは、こちらにとって間違いなくアドバンテージ。

 油断さえしなければ・・・この状況も打破できるはず。

 目まぐるしく思考を巡らせながら、展開した手札と相談する。

 対してレオ、未だ『魔導書グリモア』を展開しない。

 

 (何を・・・考えている?)


 不気味だが、睨み合っていても時計の針は進む。

 今もまた長針が一歩、文字盤の7と重なった。

 極論、奴はただ待っているだけでも目的を果たせるのだ。

 

 (先に動くしかない。)


 迷いを振り切り行動に移そうとした瞬間、黙っていたレオが口を開く。


 「一応・・・聞くだけは聞いておくぞ?」


 「・・・なんだ?」


 奴が唇に乗せたのは予想外の一言。


 「『悪魔デビル』、今からでも俺たちに協力するつもりは無いか?」

 


 ■



 時が止まる。


 「・・・は?」


 自分でもわかる間抜けな声が口から漏れた。

 なんだその展開?どこの魔王様だよ?


 「ホナミから多少は聞いたのだろう?このままだと『地球』が滅ぶんだぞ。お前は帰りたいと思わないのか?」


 一体何のつもりなんだ?今更説得?

 いや、惑わされるべきじゃない。

 あいつの最大目標はあくまで時間稼ぎだ。

 おれが戸惑うこの数瞬ですら、奴にとっては得難い数瞬であるかもしれない。

 レオは構わず話し続けていた。 


 「お前が協力を約束するなら、俺からツツジを説得してやっても良い。それに信用が成れば『加護』も与えてやろう。」


 なんだそりゃ・・・段々衝撃も納まって、逆に苛立ちが募ってきた。


 「まっぴら御免だな。大体お前らとは・・・趣味が合わねぇよ。」


 カマかけ、ポンと一枚カードを選択しながらの視線。

 コストとして使う予定のカードだが、さも魔法カードであるかのように指に挟む。

 小首を傾げ、わざとらしく「ああ・・・。」と呟くレオ。

 

 「ホナミのことか?それとも・・・。」


 「それとも・・・?」


 おれが言ったのは真実ホナミのこと。

 それ以外にも奴には、思い当たる節があるとでも・・・?

 なぜか『魔導書グリモア』ではなく、ローブの懐からカードを取り出すレオ。

 咄嗟身構えるおれに、「まぁ待て。」と鷹揚に言い捨てながら、レオはカードを発動する。


 『放逐ディメッジョン


 ちょうどおれとレオが相対する真ん中、空間に開く暗い洞穴。

 ホナミを呑み込み連れ去ったその魔法。

 今度は中から何かが現れる。

 ドサッドサッ・・・。

 放り出されたのは、特徴的な青と白の鎧を着込んだ二人の男。

 この地域治める二人の王、カリョウとテンガ。

 彼らはホナミ同様しっかりと拘束され、まるで荷物のように転がっていた。

 

 「カリョウ!テンガ!」


 こっちか!

 死亡フラグじゃなくて捕獲フラグだった訳だ。

 目隠しこそされていないが目は閉じられたまま。

 と言うよりも二人、完全に意識が無かった。

 全身に夥しい数の切り傷、中には折れた剣が鎧の隙間に突き刺さっていたり、相当な重傷であることは間違いない。

 弱弱しくも胸が動いている。

 まさに満身創痍、かろうじて生きている・・・と言うレベル。

 駆け寄ろうとしたおれに、今まで以上冷たい声がレオから響く。


 「それ以上近づくなよ?たかが数時間、行動を共にしただけでその反応とは・・・本当にカードを生物と認識しているのか。これは・・・本格的にだめだな。」


 これは奴にとってテストか何かだったのかもしれない。

 奴の使役する騎士同様、見せ札って奴だ。

 明らかに侮蔑、諦念が込められたセリフ。


 「あ゛?」


 ため息混じり告げられた言葉に、一瞬で目の前が真っ赤に染まった。


 「とりあえずぶっ飛ばす!」


 罠?あるだろうな。

 関係ないね・・・罠ごとぶっ潰す!

 勢いに任せ踏み込む、走る、二人を庇ってレオの前へ躍り出る。


 「それ以上寄るなと言った。」


 おれの動きに合わせてバックステップ、懐に手を入れるレオ。

 どうせ短距離転移とか使うんだろうが、身体能力はおれの方が上、すぐに追いつく。

 抜き出した手には輝くカードが一枚握られている。

 だから何なんだよそれ!

 『魔導書グリモア』使いやがれ。

 奴がカードを発動するのも無視して更に突っ込む。


 「おせぇ!」

 

 跳躍から跳び蹴り、直撃コース。

 しかし、一瞬だけレオの使用した魔法の効果が先行する。


 「お前の相手はこっちだ。『配役キャスティング』」


 前方地面に違和感、首筋にチリリと危険察知。

 滞空中のおれとレオの間、何も無かった床面から迸る白い光。

 光の中から、特徴的な騎士盾と直剣を携えた純白の全身鎧が現れ、おれの蹴りを盾でしっかり受け止める。

 やはり罠、今レオが使った『配役キャスティング』ってのは、予め召喚済みの盟友ユニットを潜伏、任意で範囲内の好きな場所に配置できる魔法。

 そして純白の全身鎧は当然ネームレベル。

 ゴリアテやダンテと同じくレオの切りエース

 『レイベース帝国』所属、光属性の英雄級 盟友ユニット『白騎士』レオナルド。


 だが、ここまでの流れ読んでいた!

 思い出してみれば、どこまでも『地球』でのバトルと行動が同じ。

 シールドバッシュの勢いをそのまま、跳躍のエネルギーに変え跳び上がる。

 空中で『魔導書グリモア』を展開、一枚を選択。

 すでに選択して隠し持っていたカードを瞳の形、三つの紋章クレストに変換。

 詠うように、謳うように、紡ぎ出した召喚のことわり


 『砂漠の瞳に誓いし者、暗黒を世界に教える者、我と共に!』


 金箱の蓋が開き、世界が金色に包まれる。

 ギャリィィィィン!ゴッ!

 金色の世界に響く甲高い金属音と鈍い金属音。

 

 「ぐっ!」


 次いで聞こえてきたのは、くぐもった呻き。

 光が消えた先に待つ者は・・・3mに達する大鎌、その石突を突き出したメタリックブラックのトゲトゲ鎧と、その一撃によって後退している『白騎士』レオナルド。


 「・・・王よ。我がきみ命令オーダーを。」


 「『暗黒騎士』アルデバラン・・・。」


 おれの盟友ユニット、彼の名を呟いたのはレオ・・・。







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