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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
233/266

・第二百二十三話 『騎士』




 レオが転移したのは扉の奥、言わば祭壇の間だろう。

 後に続こうとするおれを牽制、進路を塞ぐ二対、武骨な鎧姿の防衛者。


 「どけっ!」


 気合と共に踏み込む一歩、一気に突っ切るつもりだったが・・・。

 おれの踏み込みに合わせ、足を上げドンッ!振り下ろす黄褐色の鎧、『大地の騎士』ゴリアテ。

 瞬間グラリ、比喩でも何でもなく揺れる床。


 「くっ!」


 バランスを崩されたたらを踏む。

 その時にはもう片方、薄緑色の鎧、『暴風の騎士』ダンテがこちらへ片手を突き出していた。

 不可視の衝撃、全身に見えない何かが叩きつけられる。

 当然、奴の称号通り風の塊なのだろう。

 おれは抵抗もできず、空中へ吹き飛ばされる。


 「主!」「「「セイ(さん)!」」」


 仲間たちの悲鳴を耳に受けながら、空中でなんとか姿勢を変更、かろうじて足先からの着地に成功。

 おれを弾き飛ばして満足したのか、ゴリアテとダンテは遭遇時の立ち位置に戻る。

 まるでそこが初期配置とでも言わんばかりに。

 その動きはやたら機械染みていて、すこぶる気持ちが悪かった。


 「セイ!あれは本当にゴリアテ様とダンテ様なの!?」


 一連の流れから我に返り、おれに声高問いかけるアフィナ。


 「むっ!知っておるのか娘!」


 ロカさんその言い方は良くない。

 脳裏に過ぎるのは、額に大往生と書かれたなまず髭のハゲの顔・・・う、頭痛が・・・!

 魁てる場合じゃ無かった。

 おれが不思議な悪寒に襲われている間に話は進んでいる。


 「え!?ロカさんは・・・知らないの?」


 「むぅ・・・?彼奴らと戦うのは初であるな・・・。」


 ロカさんが知らなかった事にかえって衝撃を受けるアフィナ。

 そして意味がわからないと言った風情のロカさん。

 おれには二人の心情が理解できた。

 たぶん・・・ロカさんは忘れてしまっているのだ。


 「だってロカさん・・・ゴリアテ様とダンテ様って、フローリアの建国期に活躍した騎士様だよ?」


 その通り、アフィナの言は今回正しい。

 あの全身鎧二人は『精霊王国』フローリア所属の英雄級 盟友ユニットなんだ。

 たぶんフローリアでかなりの長期活動していたロカさんと、あの二人は時代的に重なっていてもおかしくはない。

 ただロカさん、『第一次エウル大戦』以前の記憶は結構あいまいなんだよな。

 これが『カード化』の弊害なのかわからないが、基本的におれの盟友ユニットたちも生前の執着・・・イアネメリラにとってのウィッシュ関連であるとか、アリアンの帝国に対する憎悪以外は記憶が薄いんだ。


 「む、むぅ?」と首を捻ってしまったロカさんの背中をポンポンと叩き、「たぶん忘れてるんだよ。」とアフィナにも、そして・・・。


 「おそらく向こうもな。」


 顎で指し示した先、黄褐色と薄緑・・・二人の英雄。

 おれたちが近付かない限りは襲ってくる気配はない。

 しかし、こちらを先に通す気も全くないだろう。

 自国の英雄、それが敵対することに納得できなかったか、「ちょ!アフィナ!?」と制止するシルキーを振り切り、アフィナが数歩近付いて叫ぶ。


 「ゴリアテ様!ダンテ様!お二人がどうして!?ボクたちその先に行かなきゃいけないんです!通してください!」

 

 「出来ぬ。」


 「左様。それ以上近付けば、少女であれど敵と見なす。」


 どうやらしゃべれない訳ではないらしい。

 望外にもしっかりとした言葉が返ってきた。

 ただ・・アフィナが立った位置、そこが許容限界なんだろう。

 静かにチャキ!得物を構えての威圧。

 二人の騎士からは感情の起伏など一切感じず、ただ己が職務を果たすのみ・・・そんな様相を呈していた。


 「そ・・・そんな・・・。」

 

 当てられた威圧、殺気に狼狽えるアフィナ。

 ったく、『略奪者プランダー』が・・・いや、おれたちもだな。

 何度もこの世界に生きた英霊たちを使役しているのは見てきたはずだろうに。


 「我らが主から命じられたのは一つだけ。」


 「左様。この扉から先、何人たりとも通してはならぬ。」


 再度言い含めるように、最初にゴリアテ、言葉を引き継いでダンテ。


 「つまり・・・通りたければお前らを倒すしか無いって訳だ。」


 「「・・・・・・。」」


 おれの言葉には無言、しかし殺気のような物だけは目に見えて膨れ上がる。

 アフィナの肩を掴んで下がらせる。 

 シルキーがキャッチ、羽交い絞め、今度は逃がす気無さそうだ。


 「セ、セイ!ゴリアテ様とダンテ様はすごく強かったって!」


 必死に言い募るアフィナに、「知ってるよ。」と端的に。

 ま、カードゲームの知識だけどな。

 

 「ロカさん。」


 「承知。」


 ロカさんと二人、仲間たちの前に出て丹田の構え、呼気をしっかりと整える。

 出来れば強化魔法の一つもかけたい所だが、引いていない・・・無い袖は振れないってやつだ。

 ともかく、退かぬなら殴って退かそうホトトギス。

 そこを通してもらおうか。



 ■



 横っ飛び、不可視の斬撃・・・空間の揺らぎを感じて身をかわす。

 跳んだ先にはロカさん。


 (くそ!馴れてんな!)


 思わず心の中で悪態。

 放たれた斬撃の射線上におれとロカさんを纏める技量、或いはそれを見越して放った斬撃だったのか。

 ともあれこれはよくない。

 斬撃は見えていないらしいロカさんを抱きすくめ、一緒に激しく床へ転がった。

 直後おれたちの脇を通り過ぎ、床面に着弾・・・裂傷を刻む不可視の斬撃。


 「ぬぅ!主、済まぬ!」


 「気にすんな!それよりまだだ!」


 転がった先、まるでワニの咢の如くおれとロカさんを挟み込もうと床が割れる。

 二人同時に拳と爪、反対方向へと振るい床の咢を砕く。


 おれの飛び出した先に待ち構えていたゴリアテ、大盾を前面に押し出し突っ込んでくる。

 大盾を踏み台に、跳躍から繰り出した踵落としを、フレイルの柄であっさりと受け止められそのまま吹き飛ばされた。

 柱にぶつかる直前ふわり、背面にクッションを感じて軟着陸。

 アフィナが風魔法で受け止めてくれたようだ。

 「助かった!」と一声、戦線に復帰。


 おれとは逆側に飛び出したロカさんが、今なおダンテと切り結んでいる。

 ロカさんが連続で振るう爪牙を、双頭の刃で軽々と受け流す。

 器用に弾いた所で反撃。

 ロカさんの常套句、「ぬぅ!小癪な!」も中々切羽詰まった感じ。

 それでも力尽くでダンテを弾き飛ばし、全身から漆黒の霧・・・『魔霧』を放ち襲い掛からせた。

 しかし・・・ダンテが片手をかざせば、勢いよく霧が吹き散らされる。


 「なんとぉ!」

 

 そのタイミング、図ったようにロカさんの足に纏わりつく岩、ゴリアテの使用した行動阻害。

 俊敏な動きを止められたロカさんに、ダンテの双頭刃とゴリアテのフレイルが迫る。

 タタタン!バチチ!

 間一髪、ポーラの銃撃が双頭刃を弾き、シルキーの雷撃がゴリアテの動きを竦ませた。

 一瞬の隙を突いて拘束から抜け出したロカさん。

 大きくバックステップ、おれの隣に並び立つ。

 

 「ポーラ、シルキー!世話になったのである!」


 ロカさんがお礼に叫ぶ。

 他の面々は答える余裕も無い様子、肩で息する仲間たち。

 彼、彼女らが攻撃を受けている訳ではないが、何度も訪れるおれとロカさんのピンチ。

 ヒヤリとするタイミングを的確に援護する為、神経をすり減らしていた。


 (まじかこいつら・・・。)


 文句無し最高クラスの英雄級であるロカさん、自画自賛になっちまうが・・・能力的には見劣りしないはずのおれを相手取り、更に部分的とは言え仲間たちの援護を受け、実質5vs2の戦いのはずなんだが・・・。

 いや、別にリライの事を忘れてる訳じゃ無いぞ?

 ただ・・・場所的にリライに奮闘してもらうには狭すぎるんだ。

 そしてもうお分かりだと思うが、残念ながらおれたち・・・大いに苦戦中である。

 むしろおれたちの方が押されている。

 何よりその連携が尋常じゃない。


 「まさかここまで強いとはな・・・。」


 思わず零れたボヤキ、苦々しさが満ち満ちて・・・それが自分にもわかる。

 小さくコクリと頷くロカさん、気持ちは一緒だ。


 「当たり・・・前だよっ!お二人は・・・伝説の騎士・・・なんだよ!」


 息も絶え絶えながら言い切るアフィナ。

 お前、どっちの味方よ?

 睨み合いながらも自然な構え、ゴリアテとダンテが武器を向けて言う。


 「中々の腕だが我らには勝てぬ。大人しくあと一時間・・・いや、もうすでに残り30分程か。そこで待っていたらどうだ?」


 「左様。どう足掻いても我らを抜けて、主の下には辿り着けぬよ。」


 この世界には一時間、何分って概念はまだなかったはずだが・・・。

 レオに使役されているからだろうか?正確に時間経過を伝えてくる。

 それにしても、奴らの言葉を信じるなら残り30分。

 文字通り一刻の猶予も無い。



 ■



 突如、耳元にささやき声。

 

 「セイ、何とか隙を作るだ。おめさは先に行くべ・・・。」


 (ポーラ?)


 視線を向ければ小さく頷く白熊。

  

 「セイ、こっちを見ないで話して。ボクの風魔法で、仲間だけに声を届けてるよ。」


 次いで響く声はアフィナ。

 所謂パーティチャットみたいなもんか?

 しかしいつのまに・・・こんな便利なものがあるならさっさと使えと。

 それはともかく。

 現在5vs2でやっと維持している戦線、おれが抜けてどうにかなるものでは無いだろう。

 逡巡がわかったか、続けざまシルキーが言う。 


 「セイさん、このままじゃ本当にまずいよ。30分がどれくらいかわからないけど・・・間違いなく時間が無いよね?さっきからあの騎士たちは時間稼ぎしかしてない。」


 それはおれにもわかっていた。

 ゴリアテとダンテの防御はとても厚い・・・そして、その理由の一つに消極的な攻撃性が起因する。

 一定距離からは絶対に近づかない、目立つ隙にも深追いはしない、あくまでも排除ではなく防衛を主とする行動。

 わかってはいるが・・・ここに仲間たちを置いていく?

 無理だろ・・・。


 「セイ、良く考えるだ。おいたちの目的は、あの騎士たちさ倒すことじゃねぇべ。あくまでもノモウルザ召喚の妨害だ。」


 まるで説得するような声音、ポーラは冷静に語る。


 「つまりね、ボクたちの勝利条件は、セイをあの扉の向こうに送ることだけなんだよ。その後はきっと、どうにかしてくれるんでしょう?」


 アフィナまでもが真面目な事を言う。

 明日雪でも降るんだろうか?いや、ずっと降ってるわ。


 「セイさん、考えてたんだよ。二人の王が、私たちを先に送ったのはなぜだったのか?って。」

 

 「それは・・・。」


 さすがにそれは、おれにも何となく想像できる。

 カリョウとテンガは、あの短い触れ合いでもおれの力を感じ、成功の可能性を上げるために行動したんだろう。

 満を持してロカさんが告げた。


 「なるほど・・・。お主らの覚悟は良く分かったのである。吾輩が主に追随できないのは不安でもあるが・・・ここは吾輩たちで時間を稼ごう。」


 何だこの展開、まるで最終回みたいだぞ?

 戸惑うおれを尻目、仲間たちが頷いたのが感覚でわかる。


 「吾輩が先陣を切るのであるっ!!」


 風魔法の囁きでは無く、広間に響き渡る宣言を上げた直後、ロカさんが二人の騎士に向け突っ込んだ。


 「まだ来るか。」


 跳躍から振り下ろされたロカさんの爪を、双頭刃で受け止めるダンテ。

 一合、すぐさまの転身、飛び退いたロカさんの足元へシルキーが雷を放つ。

 一瞬前まで彼が居た足元は、大きな水たまりができていた。

 着弾、迸る『浄化の雷』。


 (あれは・・・!いつかやった水に雷を這わせる・・・)


 忍び寄る雷に反応、足踏みで地面を隆起させるゴリアテ。


 「それを・・・待ってただ!」


 タタタン!

 踏み込んだ足の逆、軸足にポーラが神速の三連射。

 大盾の隙間を縫うような精密射撃だが、ダンテの双頭刃に阻まれる。

 そこまで確認した時、おれはすでに地上に居なかった。

 いつのまにやら暴風に巻き上げられ、騎士たちの頭上を飛び越える。

 アフィナの風魔法による大跳躍だ。

 降り立った先は扉の真ん前。


 「おのれ!」


 初めて感情を露わにした二人の騎士。

 おれに向かおうとした所を、ロカさんが回り込んで牽制。

 

 「主!行くのである!」


 ここまで・・・お膳立てされたからには、期待に答えない訳にも行かないだろ?


 「・・・わかった!お前ら絶対死ぬなよ!」


 言い残し扉に手をかける。

 「無論!」「あったりめぇだべ!」「「もちろん!!」」等々、仲間たちの決意を耳に、ぐいっと一気力を込めてやる。

 カギでもかかっているかと思ったが、普通に手前へと開かれる扉。

 出来た隙間に身を躍らせ、転がり込むように室内へ。


 「待て!」


 「そこを退け!」


 「否!ここは吾輩が死守するのである!」


 奇しくも当初と逆転したやり取り。

 そして、怒り狂う猛獣の咆哮。


 「ヴォフーーーー!!」


 リライの咆哮、ドゴンッ派手な音を立て、おれが開いた扉が閉められる。

 途端、消え失せる戦闘音。

 直前見えたのは、幾度となく視線合わせたリライの、確かな知性を宿す瞳だった。

 

 (そうかよ・・・お前もおれを信じてるって言いたいんだな。)


 胸に燻る熱い物を感じながら立ち上がり正対。

 当然の如く、そこで待ち構えていた獅子面の男。


 「ここまで・・・来るか。」


 奴の洩らした呟きには答えず『魔導書グリモア』を展開。

 両拳を胸前で打ち付け、おれはレオを睨み付けた。


 「さぁ・・・決闘バトルの時間だ。」






ここまでお読み頂きありがとうございます。

なんだかすごく書きたくて、活動報告にSS上げたいと思います。

ぜひ覗いてやってください^^

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