・第二百二十二話 『迷路(メイズ)』
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「さぁ、セイ殿!」
「我らの心配など無用!行け!」
示されたのは、回廊に新た生まれた道標。
ひしめく『動く鎧』を真っ二つに縦断、氷と雪の防壁で造られたトンネル。
鎧たちが巻き込まれた同族を助けようとしているのか、何度も剣や斧頭を叩きつけているが、トンネルは全く崩れる気配も無い。
氷は全ての攻撃を弾き、雪は衝撃を吸収して凹んでもすぐに元通り盛り上がる。
「セ、セイ?王様たちは一体どうしただ?」
ややドモりながらポーラ、小声で尋ねてくる。
そう言われても・・・おれの方が聞きたいくらいなんだが・・・。
とにかく、どのタイミングでカリョウとテンガのスイッチが入ったのか知らないが、突然死亡フラグを量産しながらおれたちの前へ飛び出した訳だ。
何かを期待してきらきら輝く両の眼、にっこりと笑みを象った口内に光る白い歯、王子様然とした容貌から放たれる文句無しのイケメンスマイル。
迫る全身鎧の群れを牽制しながら頷く二人に促され、おれたちは二人の造った道へと進むことに。
正直・・・大いに困惑している。
よくあるっちゃよくあるテンプレ?なのかもしれないが・・・なにゆえこのタイミングなのか。
せめてもう少しあの二人と仲が深ければ、逆の意味で納得もできたのだろうが。
出会って一日、共闘関係は数時間だぞ?
まぁ・・・ぶっちゃけ裏切られるとかって雰囲気でも無いからこそ、なおの事意味がわからなかった。
ただ何となく感じたのは、態度やセリフとは裏腹の真剣さのようなもの。
「一緒に戦った方が・・・。」
言ってやるなシルキー、おれもそう思う。
だが託された以上、いつまでも躊躇ってもいられない。
トンネルに入った後も振り返り、二王を気にするポーラやシルキーを宥めつつ、おれたちは回廊の奥を目指す。
ロカさんとおれが並んで先頭、手綱を引くポーラが続き、リライの背には気絶したままのアフィナと、それをきゅっと押さえているシルキー。
なんという足手まとい、あの残念ほんとどうすりゃいいのよ。
甘く見てたわ・・・。
てっきり一本道、進めば封印の祭壇だと思っていた。
我々、現在、迷宮inである。
トンネルを抜けてしばし、道なりに進んだ先に下層への階段があった。
それは良い、予想の範囲内だ。
そこはかとなくいやな予感を覚えながらも、しばらく何事も無く階段を降りた。
行きついた先はそれなりの大きさの部屋。
またしても扉・・・どこでフラグ立てたかしら?と思ったが。
意外、一押しで開く鋼鉄製っぽい扉。
いや・・・たぶん重量は結構な物だったと思うが、普段から入念に手入れされているかのように、軋む音一つ立てずに開いたんだ。
しかし、扉開けた先が氷の迷宮だったなんて、誰が想像できただろう。
人が十人は並んで歩けるようだった回廊の様相はすでに無く、かろうじてリライが通れる程度の幅まで狭まった通路。
高さは十分だが、Uターンはたぶんしんどいんじゃねぇかと。
かといって手前の部屋に置いてくのも不安だし、その時はまだあいつが寝てたからな。
今の所敵が出てこないのが救い・・・なのか?
かれこれ二時間は彷徨い、道中で噂の残念も目を覚ます。
「み、みんな、あんまり怒らないでよ・・・ボクはちょっと偵察を・・・。」
えらくバツが悪そうな残念ハーフエルフが、リライの背から救いを求めるような眼差しを送ってくるので、とりあえずおれはジト目をプレゼントしておく。
「「・・・・・・。」」
シ・カ・ト!
あの人が良いポーラとナチュラル紳士なロカさんが、死んだ魚のような目で一瞥をくれた後、ため息と共に視線を逸らす。
一番怖いのはあの子だな。
うん、シルキー。
「アフィナ?しゃべらない、動かない、邪魔しない。」
「は、はぃ・・・。」
静かな、されど妙にドスが効いた声音でくぎを刺し、掌上に雷バチリッ、感情をさとらせない無表情だが、当然の如くポニテがとんでもなく荒ぶっていらっしゃる。
どうも彼女、アフィナ本人もさることながら、止められなかった自分にも怒りの矛先が向いているようで・・・宥めるの大変だったわ。
まじでアフィナの奴、フローリアにクーリングオフできないのかしら?
とりあえず左手の法則だっけ?
迷路に入った時迷わないようにするアレ、左手を壁に付けて~ってやつをしながら進んだ。
接触型の罠とかは怖かったんだが、曲がり角も多いし袋小路もある。
分岐点はある程度ロカさんに先行してもらって、偵察後相談しながら進む。
長すぎる・・・この迷宮は何の意味があるんだろうな・・・。
まぁ普通に考えたら侵入者撃退?でも敵も罠も無い。
だとしたら時間稼ぎ・・・何の?
そりゃノモウルザの召喚の為だろう。
ってことは、これはノモウルザが仕掛けたものじゃない?
ゾクリ・・・背中を走る悪寒。
(・・・しまった!)
■
おれたちはすでに罠にかかっている。
ただそれに気付けなかっただけだ。
いかにもな体の空気感、ここまで来て今更迷宮なんて物がある違和感に意識を傾けず、いつのまにか思考を止めていた。
(こりゃ・・・まずいタイムロスだぜ・・・。)
実際問題どれだけ時間を無駄にした?
このドームに入る時点で残り五時間、『警報』の騒動からこの迷路を彷徨うこと、ゆうに二時間どころか三時間に近いだろう。
ホナミを救えるタイムリミット、もう実質二時間程度しかないんじゃないか?
もっとポーラに『魔眼』を使って注意してもらうべきだった。
「ポーラ!天井に何か無いか!?『魔眼』で調べてみてくれ!」
突然叫んだおれに戸惑いつつも「わ、わかったべ!」とポーラが天井を注視する。
数秒後、「あ、あれは何だべ!?」と彼が指さす先。
おれには正直何も見えないんだが、ロカさんも目が「くわっ!」ってなっているし、おそらくはそれが正解。
ポーラには天井に浮かぶ文様が、随分はっきりと見えているらしい。
「撃ってくれ!」
おれの要請に「わかったべ!」と言い切る前に、ポーラの猟銃が火を噴く。
タタターン!
ほとんど同時に聞こえてくる三発分の銃声。
等間隔、所謂三角形で天井に銃痕が穿たれる。
パシャァーン!
弾ける破砕音、粉々に砕けたのは周りの風景。
そこには寒々とした氷の迷宮など存在していなかった。
入ってきた場所と同じ、巨大な円柱を左右並べた回廊が先に続くのみ。
「こ、これは!?」
自分の行動が引き起こした現象に呆然となるポーラ。
おれ以外の仲間たちも同様だ。
突如消え去った迷宮にきょろきょろと視線を彷徨わせている。
「主っ!」
「やられたよロカさん。最初からこの回廊、『迷路』がかかっていやがったんだ!」
吐き捨てるように言葉を紡ぐ。
ロカさんもいつものセリフ、「ぬぅ・・・!小癪な!」と悔しそうに。
『迷路』・・・特殊環境魔法の一つ。
効果は【指定されたエリアに幻視の迷宮を作り出す。】・・・幻の迷路、ただそれだけの魔法。
おれたちは、実在もしない迷宮の中をただぐるぐる回っていただけに過ぎない。
せめて敵や罠でもあれば、きっとポーラの『魔眼』にもっと早く頼っていただろう。
そうすれば自ずと違和感にも気付けたはず・・・或いはそれを避ける為にわざと敵や罠を配置しなかったのかもしれない。
いや、言い訳だな。
知識がある、情報を持っているのに気付けない。
これはもう、おれの油断であるとか注意力不足としか言いようが無い。
くそっ!シルキーじゃないが自分が不甲斐ないぜ。
それに置いてきたカリョウとテンガ、回廊にその姿は見出せなかった。
まだ・・・戦い続けているのか?それとも『迷路』を回避して先に進んだのか?
盛大にフラグを立てていたが、まさかやられたってことは・・・無いと思う。
苛立つ気持ちと心配を堪えつつ移動、回廊はまだ続いているのだから。
急いでいるが無理に走ったりはしない。
ここで再度、『迷路』のようにあからさまな時間稼ぎに引っかかる訳にはいかないし、それ以外にも冷静さを欠くのはまずいだろう。
現に『紅雪の谷』でレオと相対した時は、まるで児戯の如く良いようにあしらわれてしまっている。
現在の手札は『渦の破槌』を使って一枚減った四枚に、新たに引いてきた一枚を加えて五枚。
あの時は『中断』一枚だったが、今回は五枚だ。
そう簡単に手玉に取られるつもりはない。
直線の回廊が終わり大部屋。
またもや鋼鉄製の巨大な扉が鎮座する。
今度こそ油断はしない、ポーラの『魔眼』で
階段・・・今度は登りだ。
警戒を解かずゆっくりと、されどできるだけ急いで歩を進める。
階段を登り切るとまたもや似たような風景。
薄青い光を灯す回廊と、左右等間隔に並んだ円柱が四本。
しかし、今までとは違う、目的地が近いのがすぐにわかる。
まず、次の扉までが非常に短い。
体感で間違いなく数百mは歩かされた今までと違い、およそ30m先に存在する扉。
奥から発する気配が・・・何度も味わってきた神域のそれ。
そして、扉の前には・・・。
黄褐色の全身鎧、同色の大盾とフレイルを携えた騎士。
薄緑色の全身鎧、中央に持ち手の付いた双頭の刃を構えた騎士。
『地球』のカードゲーム『リ・アルカナ』、そこから導かれる答えをおれは知っている。
ああ、間違いない・・・こいつらはおれにとってのリザイア、或いはイアネメリラ。
あいつの切り札だ。
「『大地の騎士』ゴリアテと『暴風の騎士』ダンテか・・・。」
洩らした呟きが消えかかる時、どこからともなく二人の騎士の後ろ現れるのは、腕組みをした獅子面、白ローブの男。
『皇帝』のレオ。
「意外と・・・早かったな。」
全く意外とも思っていない口ぶり、そんな返し。
おれもそれには触れず、思っていたことを口にした。
「相変わらずファンデッキなんだな。騎士使いのレオ?」
他人の『魔導書』をどうこう言うつもり、当然おれには一切無い。
それが平時だったなら。
だが、異世界でも垣間見えた奴のこだわり、それが何となく自分に少し重なって、だからこそ感じた違和感に・・・気付けば口に出していた。
沈黙、ただ空気だけは張りつめている。
「ファンデッキか・・・お前にだけはそれを言われたくないな。『悪魔』のセイ。」
返ってきた答えがこれだった。
おれの『魔導書』がネームレベルしか入っていないように、レオの『魔導書』には騎士系の盟友しか入っていない。
だから『地球』では騎士使いなんて呼ばれていたんだ。
無自覚にも成功していたカマかけ。
この答えが暗に示唆することは・・・『炎虎』の違和感だ。
騎士しか使わない男が、なんで獣系の盟友使ってるんだ?
否、あの虎はレオの盟友じゃない・・・まだ他にも『略奪者』がいやがる。
まぁ、それはともかくだ。
「そこを・・・通してもらおうか。」
「それはできない相談だ。積もる話も色々あるが・・・そこであと一時間ほどおとなしくしていてくれるか?」
闘気を目に宿し言えば、即座否定の言葉。
そりゃそうだろうな。
一瞬の睨み合い、ふいっと背を向けるレオ。
「待て!レオ!」
「ゴリアテ、ダンテ後は任せる。」
進路に立ちはだかる黄褐色と薄緑。
レオは後ろ手に片手を振りながら消えていった。
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