・第二百二十一話 『警報(アラート)』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、レトロなTVゲームではよくあったことらしい。
兄貴も何となく覚えがあるよ。
もちろんリソースはあの眼鏡ボーイだ。
「魔王からは逃げられない!」
その昔は魔王どころか、魔王の住む居城の敵からすら逃げられなかったらしい。
なるほど納得だな。
うん、まぁ・・・何が言いたいかと言うとだな。
なんというかアレだ、退路が断たれた。
いや、元から前進しか考えてなかったからそれは良いんだ。
それよりも大きな問題が発生したんだ。
きっかけはいつもあいつ。
頭に思い浮かんだ一人目、それがたぶん正解だ!
「「ここは我らに任せて先に行けー!」」
ちょ!待て!それフラグー!
■
目の前にあるのは見上げるような鋼鉄の門。
前情報・・・雪や氷の魔法を受け付けなかったってことと、まぁ・・・VRでも見覚えのある造形。
こりゃ『金剛石の門』で間違いないわ。
正確には鋼鉄では無く、金剛石・・・所謂ダイアモンドで形成された物、さらに言うと雪や氷だけじゃなく攻撃魔法に属するものは大体弾く。
そして・・・傍目には完全に無機物であるこれは、歴とした盟友だ。
まぁ・・・攻撃魔法無効化の代わりに、同様の盟友として扱われる壁・・・『茨の壁』みたいな反撃手段は持たないし、そもそもこれが意志を持つ存在か?と聞かれれば非常に怪しいところではあるのだが・・・。
いやでも『緑の壁』とか『骨壁』なんかは自然再生する壁だからあながち・・・。
っと、話がずれたな。
それはともかくだ。
あれが盟友である以上、おれの選択肢は確定している。
『渦の破槌』
この世界に来てから、何度となくお世話になった魔法カード。
ご存じ、「壁」「門」「扉」の属性を持つ盟友や『謎の道具』を一撃で粉砕する強化魔法だ。
カードを選択、魔法名を厳かに。
一瞬だけ宙に浮き発光、解けたカードは光の粒子へ変容する。
光の粒子は魔法文字へ転化、左腕に逆巻く三連の螺旋を形成した。
迸る魔力にカリョウとテンガ、等しく瞠目。
「セイ殿!そ、その力はっ!」
「まぁ・・・見てろ。ふっ!」
小さな呼気を洩らし、十分な助走、突き立てるように打ち抜くように、握りこんだ左拳を『金剛石の門』へお見舞いする。
ガッ!
接触点で弾き返される程の硬質、されどそんなことは一切関係ない。
すでに螺旋の魔力はおれの左腕を離れ、じんわりと門の内部へと吸収されていた。
門に走る蜘蛛の巣状の罅割れ。
・・・ドンッ!
遅れて響く破砕音、内側から弾け飛ぶダイアモンドの門。
煌めくダイアモンドが宙を漂い、雪原へと落ちる前に光の粒子へ転じていく。
上空かざした掌に、ストンと落ちてくる『金剛石の門』のカード。
さっくりと『図書館』へ収納。
門の先には・・・リライですら余裕で呑み込めそうな、暗い回廊が現れた。
回廊の先から感じる濃い深い怖気。
間違いなくこの先は碌なもんじゃない。
だからと言って、おれたちには進むしか無いんだがな。
「行くぞ!」
仲間たちに声をかけて前進、注意は怠っていなかった。
ただ、ロカさんとポーラ、二人の意識は当然回廊の先へと向いていただろう。
いや、二人だけじゃない、おれたちだってそうだ。
門番役だったろう『炎虎』をロカさんが鎧袖一触したから・・・。
それに加え、結界であろう『金剛石の門』も容易く破れてしまったから。
障害を打ち破って進む空気になってしまっていた。
全員が回廊に踏み込み、最後尾のリライが入り口から10歩も進んだ時だろうか。
見計らっていたかのように・・・いや、事実タイミングを見ていたのだろう。
ゴゴゴゴゴッ!と不穏な音を立て、入り口の上下から壁がせり出してくる。
「ちぃ!」
思わず漏れる舌打ち。
ロカさんと共に慌てて引き返すも、たった数秒で完全に上下組み合わさる壁。
入り口を封じた壁と思われる物の正体は、分厚く硬い氷。
上下から生まれたはずなのに、継ぎ目すら見えない。
そして不自然に明るくなる回廊。
回廊の明かりに照らされる入り口の氷壁は、つい最近見たものにそっくりだった。
それは撫子姉さんとポーラの両親を捕らえていた物、或いは現在ノモウルザの肉体を捕らえている物。
自ず導かれる答えは・・・。
(そうか、ここで出て来やがるのか!)
■
認識していたはずなのについ置いてしまった事由。
ここはまさしく『氷雪神』ノモウルザのお膝下、奴の権能もさぞかし介入しやすいだろう。
山脈で一度襲われているとはいえ、あの時もきっかけはキアラだった。
ゆえにホナミや『略奪者』の事ばかりに意識が向いていたが、よく考えたらむしろこのタイミングまで、ちょっかいを出してこなかった事にこそ寒気を覚える。
暗に伝わってくるのは・・・「逃がす気は無い」と言うことだろうか?
分体相手、多勢に無勢だったとは言え、一回ガチンコで張り倒してるからなぁ。
「閉じ込め・・・られただか?」
リライから降りて、不安げにポーラが尋ねてきた。
他の面々も概ね同じような表情になっている。
「まぁ・・・そうだろうな。」
ただあほみたいに硬いだけの氷壁に見えるが、どんな罠が仕掛けられていてもおかしくはない。
遠目に壁を見ながらポーラに銃撃を促してみる。
コクリ頷いたポーラが、タタタンと軽快に三連射。
その銃弾が全て氷壁の手前で減速、勢いを失ってポトリと回廊に転がる。
「こりゃ・・・ただ硬いだけじゃなくて、変な魔法もかかってるべ。」
何となくそんな気はした。
うーん、『渦の破槌』使ったのは早計だったか?
でも使わなかったら『金剛石の門』が厳しかったしなぁ。
「カリョウとテンガは何か無いか?どう見ても氷雪系だと思うんだが・・・。」
厳しい目で壁を睨んでいた二王、顔を見合わせ力なく首を振る。
「これはノモウルザの干渉がある。我らには荷が重い。」
悔しそうにテンガ。
やっぱりか、そうだよなぁ。
あいつ腐っても?いや、祟っても神だし。
「悔しいですが、これを破壊するには先ほどセイ殿が使われた魔法でも無い限りは・・・。」
次いでカリョウ。
やっぱり『渦の破槌』なら砕けたか。
少し期待した眼差しを向けてくるカリョウに、「済まんな、あれはしばらく使えん。」と断りを入れる。
「そうですか・・・。」と目に見えて落胆。
どちらにせよ後退の選択は無い。
退路が断たれたのは良い気分じゃないが、最悪ノモウルザを何とかすれば開くだろう。
そう考えて再度前進の指示を出そうとした時だった。
振り返ったおれの目に飛び込んできた信じられないサプライズ。
いつのまにか、リライの背からアフィナとシルキーが居ない。
なぜか二人、回廊の先・・・巨大な円柱が等間隔で並ぶ方へ歩き出している。
愕然としたおれの顔を見てロカさんがそれに気付く。
途端、目を見開き顎がガクンと落ちた。
「アフィナ!だめだって!セイさんに怒られる!」
そう言ってしきり、アフィナの腕を引っ張るシルキー。
しかし残念は退かない、媚びない、省みない。
だめだった、シルキーだけじゃアフィナには勝てなかったよ。
「大丈夫だよシルキー!ちょっとだけ偵察!セイたちが壁を調べてる間だけ!」
そして我らの残念は、当然地雷を踏み抜くのだ。
彼女は突然立ち止まり、大人二人がかりでもないと手を回せないような回廊の円柱を注視した。
「あれ?これ・・・なんだろ?」
視線の先、柱にへばりつくようにして赤い菱形。
宝石が柱に張り付いているように見えた。
全くの無警戒でそれに近づき、おもむろに手をかざす残念。
いやな・・・いやな予感がする!
「娘ぇー!」「あのバカ!」
奇しくもおれとロカさんの叫びは同時。
おれたちの声が届いたのか、「ほへ?」などと場違いな声を洩らしながら振り返るアフィナ。
だが、差し出した手は止まらずに宝石に触れた。
ビィィィィィィィィィィィィィィ!!!
瞬間、異音が回廊に響き渡った。
「ひゃっ!?なに!」「アフィナのバカ!」
シルキーのイナズマチョップが炸裂!
おたついたアフィナの意識を刈り取り、ずるずると引き摺ってくる。
「セイさん!ごめんなさい!」
涙目で謝るシルキーのフォローも後回し、他の全員が回廊の奥を伺っていた。
ジャ!ガシャガシャ・・・ガッシャガッシャガッシャ!
「主ぃ!すごい数である!」
「セイ!やばいべ!なんかいっぱい来るべぇ!」
わかってる!ああ、わかってるよ!
ぬぅ・・・回廊奥の暗がりから現れる抜き身の剣先、大盾、斧頭。
そして多種多様な得物携えた全身鎧。
さっきアフィナが触ったのは間違いなくトリガーだ。
それも回廊の奥から現れた存在によって、どんなトラップカードだったかはっきりわかった。
『警報』・・・起動用スイッチに敵勢が接触することによって発動。
50体の将軍級 盟友『動く鎧』をけしかける魔法だ。
「小癪な!『動く鎧』であるかっ!」
『動く鎧』は、その名の通り中身の無い鎧の魔物。
当然・・・鎧そのものであるこいつには、ロカさんの『魔霧』が効かない。
おそらくはポーラの射撃も同様だ。
奴らを潰すためには純粋な魔力、もしくは打撃。
このメンバーで言うなら二王とおれ、それにシルキーと今は寝ているアフィナか。
「ヴォフ!」
そうか、リライも戦ってくれるか。
腹を決めため息、戦闘に備えるおれの目の前に二本の手がかざされた。
カリョウとテンガ、頭上に幾つもの氷塊と雪玉を作り解き放つ。
全身鎧とは思えぬ機敏さで避けた数体と、巻き込まれた何体か。
ちょうどリライ一頭分、雪と氷の壁に守られた道ができる。
「他愛のない!異世界の魔導師の力を借りるまでも無いわ!」
「ここは我らで十分です。セイ殿たちはホナミ様を!」
え・・・これって?あれですよね・・・。
つい最近まで敵だった奴が突然目立ったり、かっこつけたり・・・。
「心配せずともすぐに追いつく!」
「ふふ、セイ殿がもたもたしていたら、我らがホナミ様を救ってしまいますぞ?」
いや、お前らちょっと待て、モチツケ。
そして奴らは満面の笑み、サムズアップで言うのだ
「「ここは我らに任せて先に行けー!」」
ちょ!フラグマスターは一人でお腹いっぱいなんだって!
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