・第二百二十話 『炎虎(フレイムタイガー)』
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「それにしても・・・建物とかねーんだな?」
駆けるリライの背中で思わず呟く。
いや、異常なんだよ実際。
この国・・・雪人族と氷人族の治める地域、二つの王城とノモウルザを封印しているドーム、それ以外は白銀の平原が広がるのみ。
おかげでずっと先、ドーム状建造物まで見通しが良いのは助かるが。
おれの呟きを聞き止めたか、カリョウが氷のボードを操り少し浮き上がる。
なんだそれ便利だな。
位置を合わせて彼が言うにはだ。
「我々は皆、王城にて生活していますからね。件の墓守等、一部が外で生活する以外、皆二つの城に住んでいるんですよ。」
逆側に並走してテンガ。
「正確にはちょっと違うな。周りの環境が少々酷過ぎて、王城の外ではまともな生活ができないんだ。」
兎にも角にも、雪と氷がひどいらしい。
本来寒さなどにはめっぽう強いはずの彼らとて、無防備で外に出れば遭難、凍死を免れないとか・・・よっぽどだろ?
当然食事とかどうすんだ?と思ったが、その辺も城内なら生産可能とか。
あとはまぁ、ポーラよろしく魔物狩りだそうな。
人型ならだめで魔物ならなんとか生息可能・・・ノモウルザ自身、もしくは封印に使用された古代兵器の影響か?
わかんねーけど、まぁ碌なもんじゃない。
「それは・・・不便だろうな・・・。」
ポツリと漏れた感想に「まぁ・・・慣れたよ。」と視線を逸らすテンガ。
無理矢理・・・納得させてんだろうなぁ。
「むむっ!」
「セイ!大型の魔物の反応だぁ!」
ロカさんとポーラ、索敵に優れた二人がほぼ同時に声を上げた。
ドームの方から結構なサイズの火球が飛んでくる。
ったく、どこの残念ハーフエルフだよ!
「リライ、避けろ!」
「ヴォフ!」
賢いリライはおれに言われるまでも無く危険を察知していた。
4mを超える巨体で颯爽とサイドステップ。
走る速度は全く落とさず、迫りくる火球を後方に流す。
「ガァァァァ!!」
「おいでなすったべ!」
ドームから炎を纏った大虎、雪を蹴立てて走ってくる。
舞い上がる雪を身体の炎で溶かし、その雫が外気であっという間冷やされダイアモンドダストに変わっていた。
場違い、幻想的にすら見える光景だが・・・。
ああ、ありゃ間違いなく『炎虎』だ。
リライ程じゃないが、全長3mはあるだろう。
虎本来の機動力や爪牙、注意点は数あれど、何よりも危険なのは当然その全身に纏う炎。
ただの野生動物程度の知能ならまだしも、さっきの先制攻撃からもわかるように、ノータイムでの火球生成なんかもこなすわけだ。
現に今・・・動きを止めたこちらに合わせて火球を三つも生み出してやがる。
ヒュゴッ!
思い切りが良い!
こちらにゆっくり思考する時間を与えないためか、即座に火球を撃ち放ってくる。
ふわりとボードから降りたカリョウとテンガが、吹雪と氷の障壁を展開した。
ゴッゴン!ゴン!
「なんという威力!」「くぅ!長くは持たんぞ!」
結構な強度に見えた障壁が一瞬で蒸発する。
続けて氷片や雪玉による攻撃も放つが、虎の下に辿り着く前に蒸気へと変わった。
長くも何も蒸発してるがな・・・。
氷人と雪人の王が二人がかりでこれなんだ、天敵ってのは事実らしいな。
ロカさんに魔力譲渡しながら雪原へ降りる。
「ポーラ!弱点は見えるか?」
『魔眼』に期待したんだが、「炎で視えねぇべ!」との返答。
そこでリライの背から身を乗り出し、我らの残念が言うのだ。
「セ、セイ!ボクも火球撃つ!?」
「あほか!大人しくしとけ!」
火属性に火属性で攻撃とか、虎さんもっと元気になっちゃうけど?
さすがアフィナ、ブレないな。
こいつ日に日に馬鹿になってきてるんじゃなかろうか・・・。
クリフォードに返品できないかなぁ?
「もう!アフィナはじっとしてて!」
「シ、シルキー!?ボクもセイの役に・・・!」
うん、シルキーが回収してくれたようだ。
お前だけが頼りだぞシルキー!
■
ポーラがリライから飛び降りたところで目くばせ。
リライがすすっと後方へ下がる。
「ちょ!リラーイ!なんで下がるの!?」とか「アフィナ!いい加減にして!」とか聞こえたが、今は考えない方が良いだろう。
一人でシルキーとリライを困らせるとか・・・。
「セイ殿!何か策が?」
雪原を滑るように移動、カリョウがおれに聞いてくる。
それ氷板無くてもできるんだね?
「とりあえずお前とテンガは氷と雪で牽制し続けてくれ。」
コクリ、頷き散開していく二人の王。
散開した後は得意だろう雪玉の連弾と氷片の連射、質では無く量で押す作戦に切り替えている。
それを鬱陶しそうに身に纏う炎でかき消す虎。
雪原にけぶる蒸気はまるで温泉地のようだ。
よし、カリョウもテンガもわかってるな。
虎が勢いに任せて突っ込んでこなかったのは実に重畳。
カードゲーム時代の話だが、『炎虎』は確かに雪や氷属性の攻撃に強かった。
現実になったこの世界で、指導者級以上であろうカリョウやテンガの攻撃すら無力化できるのは少々盛りすぎな気がしないでもないが。
ああ、もちろん炎にも強いぞ?
炎は吸収されて生命力の回復につながるからなお悪い。
ただ・・・当然弱点もある。
ポーラの『魔眼』で肉体的な・・・普通の生物で言う眉間等が認識できれば言うことは無かったんだが、今回はカードのテキストを信じよう。
奴の弱点は水だ。
氷と雪に強いくせに水弱点とか・・・そう思うだろう?
実際ヴィリスとかアリアムエイダなら瞬殺だと思うぜ。
だが、この地域においてはどうなんだろうな。
雪と氷しか力を持たない種族の真ん前に放たれたとしたら・・・確かにとんでもない脅威に成りえる。
現にカリョウとテンガ、雪人族と氷人族が誇る二王の攻撃ですら通用している気配はない。
ただ思い出してほしい。
おれの相棒にして強大な力を持つ『幻獣王』ロカ。
彼の持つ特技には『水支配』と言う完全チートな代物がある。
その掌握力、海限定で言えばヴィリスの『海の覇者』に及ばないものの、およそそれが水そのもの、或いは水を素とする物質ならば、雪だろうが氷だろうが・・・気体である水蒸気だろうが彼の支配下に置かれてしまうのだ。
そして今この雪原は、『炎虎』に溶かされた雪や氷の水蒸気が漂う世界。
奴は知らずに墓穴を掘っている。
「ロカさん、やれ!」
「承知!」
ロカさんの身体から生まれた漆黒の霧が、辺りに滞遊する水蒸気を静かに浸食していく。
虎は・・・気付けないだろう。
むしろ今はカリョウとテンガ、自分に刃向い無駄な攻撃を続ける二人を威嚇するのに夢中だ。
「うわぁ・・・おいは絶対ロカさんを敵に回したくねぇべ・・・。」
『魔眼』で魔力の流れを見ていたのだろう、ポーラの呟きは真意だな。
全く持って同感、周囲の水を操るって言うロカさんの力ははっきり言って反則だ。
見た目が派手な火魔法や光魔法なんか目じゃねぇぞ?
言わば周辺の空気、それすら彼の支配下なんだからな。
そろそろ時間かね。
さぁ、『水支配』からの『魔霧』、それも遠慮なく毒素マシマシの奴をたらふく飲み乾してくれ。
いつのまにか忍び寄っていた漆黒の霧が、『炎虎』に絡みつく。
「ガ、ガガガ、ガッァァァ!?」
目に見えてふらつき、身体の炎も明滅を繰り返す虎。
「ポーラ、見えるか?」
「任せるべ!」
タタタン!返答と同時、ポーラが構えた猟銃から三発のマズルフラッシュ。
相変わらず見事な腕前だ。
ポーラの三連射は、寸分違わず『炎虎』の眉間、口腔、喉を捉えていた。
声も出せず倒れ伏す最中、光の粒子を発してカードに転じる大虎。
手を伸ばせばそのカード、素直におれの掌に納まる。
『図書館』にカードを収納している内に、カリョウとテンガも戻ってきた。
また氷の板に乗ってるな・・・なんなのそれ?おしゃれ?
「セイ殿、見事です。」
「我らの天敵をああも容易く・・・。」
口々に驚きを告げてくるが、今回の功労者は間違いなくロカさん。
それと的確なトドメを刺したポーラだ。
「まぁおれと言うかロカさんとポーラがすごいだけだ。それより先を急ぐぞ。」
戻ってきたリライにポーラが乗ったところで移動を再開。
おれはこのままロカさんに乗っていく。
近付くにつれわかる異様。
禍々しいオーラを放つドーム状の建造物はとてもでかかった。
そして、その入り口を潰していると思われる鋼鉄の門。
門のくせに開かねーとはこれ如何に?って奴だな。
「お前ら、ちょっと離れとけよ?」
「どうやってこの門を開けるのだ?」
「・・・セイ殿?」
ロカさんから降りて門の前、丹田の構えで呼気を整え始めたおれに、不安げな二人の王が問う。
仲間たちはおれのセリフで大方予想が付いたのだろう、何も言わずに一定の距離を取る。
ポーラはまだしも、リライの順応性がすごいな。
「魔導書」の宣言で、目の前に浮かぶA4のコピー用紙サイズ五枚のカード。
「決まってるだろ?殴って開けるんだよ!」
なんとかの一つ覚えと思うならそれで結構。
大体にして毎度毎度、壁やら扉やらで妨害してくるのは『略奪者』の連中だからな?
クレームはあっちによろしく!
ってな訳で行くぜ。
『渦の破槌』
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