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リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第一章 精霊王国フローリア編
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・第二十一話 『原初の宝物』

ブクマ、評価、感想ありがとうございます!

励みになります。


 異世界からおはよう・・・いや、時間的にはこんにちはだな。

 おれは九条聖くじょう ひじり、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈は、よくお菓子を作ってくれたよな。

 兄貴はお返しに、たまごサンドを作った。

 おれたちが小学生になるかならないかくらい、まだ君があまり笑わなかった頃だ。

 おれのお袋が仕事に行き、おれたちの食事を作り忘れた事があった。

 まだ幼かったおれには、君に満足するような食べ物を作ることができなくて・・・

 たまごサラダを作って、パンに挟んだだけのたまごサンド。

 それを食べた時のびっくりしたような顔と、「お兄ちゃん!おいしい!」と、弾んだ声が忘れられなくて、ばかみたいに何度も作ったんだ。

 君はいつも「お兄ちゃんの作ったたまごサンドが、一番好き。」って微笑んでくれたっけ。



 ■



 おれが目を覚ますと、『森の乙女』カーシャの守護する結界塔の窓から見えた太陽は、すっかり高くなっていた。

 今日は美祈の夢を見られなかったな・・・。

 異世界に転移してから、寝る度に見ていたんだが・・・何か条件でもあるんだろうか?


 昨夜は慌しい時間が過ぎて、結局『夢の林檎』を三つ譲り受け、『カード化』して『図書館ライブラリ』に収納した所で一時お開きになった。

 おれはまだ多少余裕があったが、アフィナが船を漕ぎ出したからだ。

 その際簡単にだが、カーシャに事情は説明した。

 カーシャはクリフォードからの親書を受け取り、「読んでおくわ。」と言ってから、アフィナを自室のベットへ運んだ。

 おれは居間のソファーを借りて、仮眠させてもらうことにした。

 仮眠にしては、すっかり寝過ごしてしまった感じだが、変態はまだ寝ているようだし、まぁいいだろう。

 もちろん身の危険を感じたので、ロープで縛ったまま転がして、毛布だけかけておいた。

 

 おれが起きるのを見越していたかのように、カーシャがティーセットと、装飾された木製の箱が乗ったトレイを持って現れる。


 「セイ君、良く眠れたようで良かったわ。アフィナも良く眠っていたわ、クリフォード様の親書を読んで、『回帰』のカードも持ってきたわ。それにしても、異世界の魔導師さんかぁ・・・」


 起きているおれに気付いて、そう微笑みかける。

 どこかの残念と血が繋がってるとは、とても思えない・・・。

 なるほど、あの箱に『回帰』のパーツが入っているわけか。

 さすがクリフォード、話が早い。

 おれがカーシャの促すままテーブルにつくと、噂の残念がカーシャの自室から現れる。


 「カーシャ様おはようございます!ベットありがとうございます!セイおはよ!昨日は先に寝ちゃってごめんなさい!」


 そう言ってペコリと頭を下げる。

 おれの隣の椅子に腰掛け、「お腹空いたな・・・セイ、なんかある?」とか小声で聞いてくる。 

 朝から・・・もう昼だが、元気に平常運転だな。

 背後でごそごそと何かが蠢いて、「ふごーふふ、ふごふふごふご。」とか聞こえてきた。

 すわっ!何奴!とか思ったが、忘れてただけの変態だった。

 目で訴えかけてくる変態に、「いいか?絶対に余計なことをしゃべるなよ?」と念押ししてから、猿轡とロープをはずしてやる。


 「ご主人様!おはようございます!あたいもお腹が空きました!」


 そういえばこいつには昨日、果物もやらなかった。

 縛って転がしておいたからな。


 「あらあら、みんなお腹が空いてるのね?どうしようかしら、ここにはあまり食料が無いのよ。私一人なら、果物と水だけで生きていけるから・・・」


 本物エルフすごいな、仙人みたいだ。

 「セイ、なんか作って?」と、上目遣いで頼んでくるアフィナ。

 うん、ハーフの劣化がひどい。

 「困ったわね~」と眉を寄せるカーシャに免じて、何か作ってやるか。



 ■


 

 おれはカーシャに台所を借りる許可をもらい、残念と変態を連れて調理に向かう。

 たまには残念と変態にも、役に立ってもらおう。

 

 「セ、セイ・・・これは・・・後どれだけ続けたらいいの?」


 「まだだな、頑張れ。」


 「ご、ご主人様、この新しいプレイはすごいですね!あたいの腕が上がらなくなりました!」


 「そうだろう?だが、まだ休むなよ、混ぜろ。」


 おれたちが何をしているかと言うと、そう、異世界の定番、『マヨネーズ』を作っている。

 いや、正確には作らせている。

 最初におれが手本を見せて、後は二人に丸投げだ。

 こっちの世界ではかき混ぜ器みたいなものが見当たらなかったので、所謂抹茶を混ぜるカシャカシャ(正式名称がわからん)のようなものを使わせているので、労力はひとしおだろう。

 この森に、レモンっぽい果物があって助かった。

 油とたまごは街で買い込んで、『図書館ライブラリ』に入れてきたからな。

 あとは同じく『カード化』してある丸パンを出して、ゆで卵と玉ねぎっぽい野菜を刻む。

 みじん切りと輪切りだ。

 みじん切りの物はマヨネーズと混ぜてサラダにし、輪切りのゆで卵と一緒に挟む予定だ。


 「よし、いいだろう。」


 二人の頑張りでマヨネーズは完成したようだが、約二名ほどの死体が転がっているのは見ないことにしよう。

 おれはささっとマヨネーズを取り分け、玉ねぎ(のようなもの)とたまごを加えざっくりと混ぜた後、塩コショウで味を調える。

 丸パンに切り込みを入れて、サラダと輪切りのゆで卵を挟む。

 食パンみたいなものは売っていなかったので、サンドウィッチとは言えないが、美祈が喜んでくれたたまごサンドに、味はかなり近いと思える。


 「「「こ・・・これは!」」」


 たまごサンドにかぶりついた女性陣が、一様に絶句すると一心不乱にパクつきだした。


 (・・・こんなもんだろ?普通のたまごサンドだし・・・)


 おれには、彼女たちの気持ちがわからない。

 むしろエデュッサが食べた物が、どうなるのか気になる。

 あいつ普通に「お腹空いた。」とか言ってたが・・・おれの魔力で活動してるんじゃないのか?

 今思えば、ロカさんも普通に焼き鳥食ってたしな・・・

 

 「セイ君、こんなおいしい物を頂いたのは初めてよ。」


 「ん、まぁ『夢の林檎』の礼だ。」


 丁寧にお辞儀して感謝を述べるカーシャに適当に答え、食後のお茶を飲みながらおれは、『図書館ライブラリ』を開いて、『夢の林檎』を一枚『魔導書グリモア』のカードと入れ替えた。

 ついでに『回帰』のカードも回収させてもらう。

 うん、ちゃんとスタックしたな。

 

 「セイ?『夢の林檎』は二枚しか使わないの?」


 それをじっと見つめていたアフィナが、聞いてくる。


 「残り二枚は、幼馴染たちの分だ。」


 無駄に逞しいあいつらならきっと、おれと同じ問題にぶつかってるはずだからな。


 「あれ?でもセイと一緒に転移したのって三人じゃ・・・」


 小首を傾げ、呟くアフィナの疑問に答えてやる。


 「ああ、秋広の『魔導書グリモア』には『夢の林檎』が四枚入ってるんだ。」


 「僕は運なんて信じないよ。」って言って、いつも眼鏡をクイっとしてた。

 

 「さて、そろそろ行くか。」


 おれは『図書館ライブラリ』を消して、ローブを羽織り旅支度を始める。

 『回帰』のパーツも回収できたし、『夢の林檎』四枚も嬉しい誤算だ。

 そろそろ出ないと、また森の中で夜を迎えることになる。

 一応、昨日アフィナに頼まれた大臣のことも、クリフォードに言っておかないとな。

 頼んだは良いが追放済みでした。じゃ、笑い話にもならない。

 そんなことを考えながら、アフィナとエデュッサを急かすが、そこにカーシャから声がかかる。


 「セイ君?そんなに急がなくても良いじゃない?今日中に宮殿に戻れたら良いんでしょう?」


 その通りだが、そのためにはもう出発しないとまずいだろう?

 訝しむおれの顔を見て、カーシャが右手を目の前に差し出してくる。

 「これ、知らない?」いたずらっぽく微笑むカーシャの右手の中指に、大きな緑色の宝石をあしらった指輪がはまっている。

 たしかにカードゲームの『リ・アルカナ』で見覚えがある。


 「・・・『原初の宝物』?」


 おれの呟きに、「やっぱり知ってるのね。」と頷いてから、カーシャは説明を始める。


 「昨晩の『夢の林檎』のように、セイ君の知っているものとは効果が違うのかもしれないけど、この『謎の道具ミステリアグッズ』は、『森の乙女』の力を大きく高めてくれるものなの。私の『特技スキル』でこの国の木ならどこへでも、転移ゲートを開いてあげられるわ。」


 (何だとっ!?)


 カードゲームの『リ・アルカナ』では『謎の道具ミステリアグッズ』『原初の宝物』は、【森の力が秘められた指輪:樹海操作】とか、ふわ~っとした説明文だった。

 たしか使ってた奴は、森フィールドで木をニョキニョキさせていただけの気がする・・・。

 

 「まぁ、送ることしかできない一方通行なんだけど、宮殿の庭木にゲートを開くくらい訳も無いことよ?」


 なんてこった、本物エルフすごいよ。

 移動チートとか、一通でもどれだけ助かるか。

 うちの残念とトレードしたい。

 おれは思わず、カーシャの差し出した右手を握り、


 「カーシャ・・・いや、カーシャさん、おれと一緒に来てくれないか?」


 と、口説くような事を言ってしまった。

 言ってしまってから気付いたが、当然その後の騒ぎは回避不可能だった。




ここまで読んで頂きありがとうございます。

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