・第二百十九話 『三刻』
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異世界からおはよう。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、ちょっと確認したいんだけどさ。
兄貴が見た「ホナミピーンチ!」の映像って、リアルタイムなんだよな?
いや、さすがに時すでに遅しってことは無いと思うが・・・。
半日寝てたって聞いたら少し不安になってきたぞ。
カリョウとテンガに積もる話もあるんだが、悠長に会議してる場合でも無いよなぁ。
毎度毎度タイムリミットに悩まされるのはこの世界の仕様なんだろうか?
とりあえず動いてから考えるしかねーな。
結界と魔物か。
え?また壁っすか?いや、そんないつもいつも・・・。
手札を確認しろって?
あ、はい。
■
ポーラに続いて室内へ、カリョウとテンガの姿を見止め、よっとばかりベッドから身を起こす。
抱き着いたままのアフィナとシルキーをやんわり引きはがして二人の王に正対。
左右から不満そうな鼻息が漏れ聞こえたが無視しておく。
両肩を回して再確認。
うん、ダメージは一切残ってない。
ベッドから降りてサイドテーブルの上にあった法衣を羽織る。
いつもの如くロカさんを抱え上げ、定位置・・・頭の上へ。
正直すぐに動きたいところだが、残念ながらおれはノモウルザの神殿っぽい場所も知らない。
「カリョウ、テンガ、ノモウルザの神殿に異変が無かったか?」
「やはりご存知でしたか・・・。」
どこか確信めいた表情のカリョウと、困惑を滲ませるテンガ。
二人の違いはやはり覚醒した時点でおれと話したかどうかってことだろう。
おそらくテンガへの説明はカリョウが行ったんだろうが、それだけじゃまだ半信半疑だったのかもしれないな。
顔を見合わせたカリョウとテンガ、意を決すように頭を下げる。
「「まずは異世界の魔導師・・・『悪魔』のセイ殿に謝罪を・・・」」
この世界の王様は簡単に頭下げ過ぎだと思うぞ?
少なくとも『地球』の王権じゃ絶対考えられないことだろう。
「いや、そういうのは大丈夫だ。実質おれと同郷の人間がお前ら一族に迷惑をかけていた訳だしな。それより先のことだ。」
ベッドから抜け出して二人を促す。
真剣な表情になり二人の王も頷く。
「因みに・・・セイ殿はどうやって異変を?我らの城にお招きしてから・・・ずっと寝ておられたようですが?」
あー、やっぱ城なのね。
想像はしていたけども、相変わらず縁があるな。
ともあれ質問に答える。
「ん、ああ・・・妹が教えてくれた。」
「ほぅ・・・アールカナディア様がですか。」
アルカ様では無いな・・・むしろもっと高位の存在だ。
得心したとばかりカリョウとテンガ。
逆にアフィナとシルキーが首を捻り、二王には聞こえないくらいの小声で聞いてくる。
「セイ、本当にアルカ様?」
「セイさんずっと・・・「美祈!」って言ってたよ?」
おおう、寝言恐るべし。
まぁ美祈が女神であることは間違いじゃないし、今はそれどころじゃない!
なにやら不穏なオーラを出す二人から離れ、カリョウとテンガから続きを聞く。
「実際問題、お前らはどこまで把握してる?」
「もうお身体が大丈夫なら、一緒に来ていただけますか?」
カリョウのお伺いに「わかった。」と答え、促されるままに部屋を出る。
仲間たちもおれに続き、連れだって石造りの廊下。
歩くこと二、三分。
どうやら目的地はすぐ側だったらしい。
案内されたのは外を一望できるテラス。
視界いっぱいに広がる白銀の世界。
ちょうど対角線、それなりの距離に青い城。
(あれは氷人族の城か?)
戦争をしていた割にずいぶん近い。
おれの疑問を読み取ったか、カリョウは言う。
「我とテンガの世代になってから遷都したのです。」
「なるほどな・・・。」
まぁそれはいい。
今問題になっているのは間違いなくあれだろう。
ちょうどここと氷人族の城から同距離に、青と白に塗り分けられたドーム状建造物。
そこから一目でわかる禍々しいオーラが立ち昇っていた。
■
「神殿・・・と言うか、封印はあそこか。」
おれの呟きに答えたのはテンガ。
「我々はあの建造物に対し、古代の大罪人の墓としか聞いていなかった。まさかあれがノモウルザの封印祭壇だとは・・・。」
あえて・・・隠したんだろうなぁ。
この地域じゃ一応守護神なんだし、かといってあの性格だ。
不用意に近付けばどんな被害があってもおかしくはない。
「墓守が獅子面の人物を目撃してから三刻がたっています。その際ホナミ様と思わしき女性を抱えていたことも確認されましたので、件の獅子面と見て間違いないでしょう。そしてあの建造物が異様を発したのもその報告とリンクしています。」
相変わらずホナミに様付けしてるのは、たぶん突っ込まない方がいいんだろうな。
しかし、三刻ってのは・・・凡そ六時間か。
やべぇな。
もし、おれの見た夢がレオの動いた直後なら、『時刑』の効果がすでに半分経過している。
安全マージンを取るなら、せいぜいあと五時間ってとこか。
見た感じ近い・・・移動に時間がかからないのが救いっちゃ救いだな。
「我々も何度か侵入を試みたが・・・結界と、それを守る魔物のせいで難航している。」
カリョウの言を補足するようにテンガ、手をこまねいて見ていただけではないらしい。
結界と魔物か・・・。
「因みにその結界と魔物ってのは?」
「結界の方はわからん・・・とにかく氷や雪属性の攻撃を弾く鋼鉄の壁だ。魔物は『炎虎』・・・我々の天敵だ。」
なるほど。
氷や雪属性を弾く鋼鉄の壁・・・おそらくは『金剛石の門』と、火山域に生息する炎を纏った大虎『炎虎』。
確かにこの国の人間じゃ手出しができないか。
「魔導書」
手札を確認するために『魔導書』を展開。
目の前に浮かび上がるA4のコピー用紙サイズ、五枚のカード。
まぁ・・・どっちもおれなら対処できる。
『魔導書』を仕舞って宣言。
「よし!状況はわかった。ロカさん、ポーラ行くぞ。アフィナとシルキーは・・・。」
「「セイ(さん)!」」
言い切ることもできねーよ。
はいはい、付いてくって言うんだろ?
「シルキー、お前だけが頼りだ。アフィナを頼むぞ?」
「セイさん、任せて!」
シルキーの目を覗き込んで頼めば、彼女はしっかりと頷いた。
不服なのは残念である。
「なにそれ!ボクも頑張るよ!?」
握りこぶしでつっかかてくるが・・・。
「娘!お主は頑張らなくて良いのである!」
ペチーン!ほらつっこまれた。
「カリョウとテンガも手伝ってくれるか?」
二王が頷いたのを尻目に踵を返す。
時間は有限、即行動あるのみだ。
レオとガチンコで負けてんのは少し不安だけどな。
いや、あの時はおれの手札一枚しかなかったし・・・でも待てよ?
(あいつ『魔導書』出してたか・・・?)
正体の見えない悪寒に首を振り、案内されたのは中庭。
王城の庭には、リライがじっとおれを見詰めて待っていた。
「リライ、ひとっ走り頼めるか?」
「ヴォフ!」
長毛を撫でながら尋ねれば「当たり前だ!」と言わんばかりの返事が返ってくる。
「我々はこれで!」
カリョウとテンガは氷の板?所謂ボードみたいな奴で移動するらしい。
ロカさんをリライの頭に放り投げ、おれ、ポーラ、アフィナ、シルキーの順でリライの背へ。
「行くぞ!」
走り出したリライに並走、滑るように動くカリョウとテンガが決意を込める。
「「ホナミ様!必ずお助けします!」」
あれ?『誘惑』切れてんだよな?
なんか急に不安になってきたぞ・・・。
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