表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・アルカナ ~彼方からの旅人~  作者: -恭-
・第四章 氷の大陸メスティア編
228/266

・第二百十八話 『時刑(ザ・クロック)』

お待たせしました!

いつもお読み頂きありがとうございます。

ブクマ励みになります^^


 異世界からおはよう。

 おれは九条聖、通称『悪魔デビル』のセイだ。

 美祈、これってアレだよな?

 さすがに兄貴もすぐにわかったぞ。

 決して忘れてた訳じゃあないし、最近見れなかったから心配はしてたんだ。

 ただ・・・おれがそっちに戻るまで、こっちのことなんて知れない方が良いんじゃないか?そんな風には思った。

 「怒るよ?」って?ごめんな。

 撫子姉さんの事があって、どうしても考えてしまうことがある。

 君は・・・何者なんだろうってな。

 わかってる、もちろんわかってるさ。

 おれのエンジェルめがみすべてだってことは!

 すまん、ちょっと取り乱した。

 今までは君の様子を垣間見れていただけと思ったが、そう言えば前にもこんなことがあったよな。

 そう、ウララがシャングリラで捕まっていた時だ。

 いや・・・竜兵がおれの救援に来てくれた時もあったか。

 今日は一体・・・なるほど、そういうことか。



 ■



 水面に背を預け漂うような感覚。

 もちろん物理的に・・・現実にってことじゃない。

 ゆらゆらと揺れ開いた瞼、案の定そこは不可思議な薄もやが広がる空間。

 緩慢な動きで身を起こす。


 (幽体離脱ってのは、こんな感じなのかねぇ?)

 

 上下左右は闇、頭は冴えているのに身体は碌に動かない。

 少し粘り気のある水中に、立ち泳ぎで浮いてるような・・・。

 

 (ああ・・・これはアレか。)


 ストン、胸に落ちてくる突然の納得。

 おれは・・・今、夢を見ているのだろう。

 ならきっとここには美祈・・・おれの最愛のめがみが居るはずだ。

 そう思い至った途端、身体が自然に流される。

 向かう先は前方、小さな光。


 そこには確かに彼女が・・・美祈が待っていた。

 膝立ち、胸の前で指を組み合わせ、瞳を固く閉じて祈りを捧げる乙女のポーズ。

 さすが、美少女がやると様になるなぁ。

 ちょっと髪、伸びたか?


 胸を突く郷愁と愛しさに、くだらないことばかり頭を過ぎる。

 美祈がゆっくりと瞼を開く。

 お互いの視線、間違いなく相手を見ているだろう・・・片時も目を離してはいけない・・・そうしたらきっと見失ってしまうとばかり。


 「美祈・・・!」


 自分でもびっくりするほど乾いた声、絞り出す。 

 彼女も唇が動く。

 なんて不親切設計な空間だろう。

 聞きたかった彼女の声は一切おれの耳に届かない。

 それでも・・・その唇が紡いだ言葉は「お兄ちゃん!」、はっきりとわかった。

 手を伸ばしたのは同時だった。

 触れ合うはずの指先は、お互いの手を素通り。

 有名な幽霊映画よろしく、おれたちは触れ合うことも言葉を交わすこともできない。


 「なん・・・でだよ!」


 美祈の表情歪み、それでもおれの頬辺りを両手で優しく包み込む。

 泣き笑い・・・そうとしか言えない微笑み、彼女の瞳から涙が一筋頬を伝う。

 言葉など出ない、おれより美祈の方がよっぽど我慢しているはずなのに。

 おれはいつになったら、この悲しい表情を本来の笑顔に戻してあげられるのだろう。


 未練振り切るようにおれに背を向けた美祈は、すーっと腕を上げ遥か前方を指し示した。

 身体が引き寄せられるように動き出す。

 美祈からどんどん遠ざかっていく。

 

 (なにか・・・伝えたいことがあるんだろうな。)


 流されながら思い至ったのは、ウララの危機を知らせてくれた時のこと。

 未練がましく振り返ったおれに、いつまでも小さく手を振り続け、泣きながら笑う彼女の姿が、一瞬だけ違う女性に重なって見えた。

 容姿は全く似ていないはずなのに・・・それはまるで・・・おれの守護者、黒翼の堕天使のように見えたんだ。


 美祈の姿が闇に消えてしばらく、どうやらこの光景が見せたいものらしい。

 クリスタルのような床、青い燐光を放つ広間だった。

 広間の最奥に人が10人並んで登れるサイズ、明らか人間用じゃ無いだろう白い階段。

 白い階段の先は壁とぴったりくっついていて、その少し上に1mくらいの四角錐・・・所謂ピラミッド型の突起物が埋め込まれている。

 そして・・・ピラミッドの先、壁の中には巨大な人影があった。

 10mを優に超える体躯、青い肌、青い髪と髭、巨大な棍棒を携え憤怒の形相。


 もう、お分かりだろう?

 そう・・・こいつは『氷雪神』ノモウルザだ。

 つまりここは、ノモウルザが古代兵器と共に封印、安置されている場所と見て良い。

 本体が壁に埋め込まれてんのに、神様の世界でも暴れてるとか・・・やんちゃがオーバーフローしてるわ。



 ■



 ノモウルザに注視していると、階段の一番下に人が現れる。


 (あれは・・・!)


 白ローブに獅子の面、『皇帝エンペラー』のレオ・・・『地球』から転移した魔導師。

 おれが・・・届かなかった男だ。

 レオは胸にホナミを抱きかかえていた。

 所謂お姫様抱っこなんだが、抱えられているホナミはぐったりとして意識があるようには見えない。

 そして手足の拘束とご丁寧に目隠しまで。

 ゆっくりと階段を上っていく。

 最悪だな、これからどんな悪趣味なプレイを見せられるのかと思ったが、結果はおれの想像を越えていた。


 レオは頂上まで登るとホナミを床に横たえ、懐からカードを出す。

 カードが光の粒子に変わる。

 光の粒子はノモウルザの正面、顔面の前で武骨な金属を形成した。

 生み出されたのは巨大な時計、ノモウルザの顔と同じくらいの大きさがある。

 禍々しいオーラを放ち宙に浮かぶ時計が光を発し、その光がホナミを照らし出す。

 光は数秒、納まった時床にホナミの姿は無い。

 時計の上部、文字盤で言うなら12時、長針と短針が重なる場所に彼女の頭が生えていた。

 それを確認してレオは、どこかへ転移していったようだ。

 まじであの転移、チート過ぎるだろ。


 時計の心当たり?もちろんあるぜ・・・。 


 「やろう・・・『時刑ザ・クロック』じゃねーか・・・!」

 

 自分でも苦々しい声音だってわかるぜ。

 七つの大罪を冠した魔法、『傲慢アーロゲント』に近い効果の魔法カードだ。

 さすがに禁止カード程ぶっこわれちゃいないが、これでレオがホナミを連れ去った理由が納得できた。

 この魔法は、高位 (厳密には指導者級以上)の魔法使い系 盟友ユニットを一体生贄にして神を召喚する魔法。

 ホナミは『地球』産の魔導師だが、『時刑ザ・クロック』の条件を満たせるようだな。

 『略奪者プランダー』の奴らは、ほとほと神様召喚が大好きらしい。


 おれは必死で考察した。

 『時刑ザ・クロック』が『傲慢アーロゲント』よりも明らかに劣っている点。

 それは生贄の種別が指導者級以上の魔法使い限定なこと。

 そして何よりもかかる時間だ。

 お察しの通り、あの魔法は時計の長針と短針が重なるまで発動しない。

 カードゲーム時代なら四ターン、VRバーチャルリアリティになってからは12分、なら・・・現実となったこの世界では?

 長針の動きを見れば、針が進むのは一分と同じに感じる。

 つまり・・・12時間。


 美祈のお願いは間違いなくこれだろう。

 『時刑ザ・クロック』の発動前、12時間以内にホナミを救って欲しい。

 なんともハードスケジュールなミッションじゃねーか。

 彼女の事情も知ってしまった以上、見過ごすつもりも諦めるつもりも無いけどな。

 何より・・・あいつらの視点から裏切りだと言え、つい今しがたまで身内だった人間、それも女を生贄にするなんざ看過できることじゃない。


 どうやら時間のようだ。

 徐々に視界が歪み、風景がぼやけていく。

 完全に自己を喪失する前に、しっかりとこの光景を記憶に焼き付ける。

 封印の祭壇か・・・。

 まぁカリョウかテンガが場所の情報くらい持ってるだろ。


 ホナミ、約束したからな・・・ちょっと寝苦しいかもしれないけど待っててくれや。

 お前の最後の抵抗はおれを信じさせるのに十分すぎた。

 おかげで思い出したよ。

 レオに関しては『地球』での名前を聞いてもそこまで印象は無かったが、ツツジ・・・てめぇのことだけははっきり思い出した。

 トップランカーのほとんど・・・特におれの幼馴染たちから蛇蝎の如く嫌われていた男。

 気持ち悪い笑い方しやがる蟲使い。

 あんまりにも卑怯なことばっかりしやがるから、おれが一回Oshiokiしてやったよな?

 異世界でもお前は相変わらず下種な奴らしい。

 運が無かったな、おれが居る以上てめぇの好きにはさせねぇぜ?


 薄れゆく意識の狭間、そんな事を考えていた。


 目が覚めると、一目で豪華だとわかる室内。

 おれはキングサイズとも言えるようなベッドに横たわっていたらしい。

 ああ、いつものパターンね。

 どうせカリョウかテンガ・・・氷人か雪人の王城客間とでも言うんだろ?

 身じろぎに気付いたか、真っ先に飛んでくる漆黒の影。

 ロカさんだ。


 「主っ!目が覚めたであるか!?」


 覗き込む彼の肩越しに、仲間たちの心配そうな顔があった。

 まぁいつもの如くアフィナとシルキーなんだが。

 

 「「セイ(さん)!」」


 名前を呼ぶ時も安定のハモリ、ベッドにダイブしておれに抱き着いてくる時も同時。

 こいつらタイミング合わせてんのかな?


 「どのくらい寝てた?」


 二人の頭をポンポンしながらロカさんに問いかける。

 

 「約半日である。」


 良かったよ、これで三日とか言われたらどうしようかと思った。

 あとは・・・ニートと熊さんが居ねーな。

 ああ、リライのことも忘れてないぞ?

 ただここ、普通に一般的人型サイズの室内ですし、リライは入れないだろうと思ってな。


 「フォルテとポーラは?」


 「フォルテは魔力切れである。」


 そっかぁ、あいつ帰っちゃったか。

 まぁ箱内もいい加減落ち着いてるだろうし大丈夫だろ。

 そしてロカさんが「ポーラは・・・。」と言いかけた時、扉が開いた。

 扉の影からぬっと姿を現す白いもこもこ。


 「セイ!起きただか!」

 

 「おう、ポーラも無事だな。」


 ポーラは「おいはどうもねぇべ~」と少し気の抜けた返事を返しながらおれの下へ。

 差し出された手を握る。

 うむ、安定のもふもふと肉球である。

 扉から現れたのはポーラだけじゃ無かった。


 「セイ殿、起き抜けで申し訳ないが話がある。」

 

 「ああ、おれもだ。」


 カリョウとテンガ、揃っての来訪だった。







ここまでお読み頂きありがとうございます。

良ければご意見、ご感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ