・第二百十三話 『中断(インタラプト)』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、どこかで予感はあったんだ。
それは、兄貴がふと思い出した秋広のセリフのせいだったのかもしれない。
どうしてこんな再会になったんだろうな?
ハルやサカキ、マドカだって『地球』に居た時はあんな奴らじゃなかったはずだ。
おれはそんなに親しかった訳でも無いが、それでも一般的な地球人が虐殺者に変わるなんて、想像すらしえなかった。
環境や境遇があいつらを追い詰めたのか?
だけど一番わからないのはお前の事だぜ、ホナミ。
おれは幼馴染や撫子姉さん、それ以外じゃお前と一番親しくしていたつもりだ。
詳しくは知らなかったさ・・・お前の事情。
それでも・・・何がお前をそんな風に変えたんだ?
納得のいく説明をしろよ!
■
おれが試そうとしたのは、弱体魔法による状態異常の上書き。
いつもの闇属性、そして範囲弱体魔法だった。
もちろん、『堕落』みたいな、死に至る類の物じゃないぞ?
ヒントは『魔眼』で魔力を診断したポーラの言、未だ雪人族と氷人族の戦士たちに残留している魔力の質は「呪い」に近しい物ってこと。
ならばと、おれが思いついたのが手札に引いていたカード『中断』だ。
この魔法の効果は単純。
使用者を中心に、周囲の敵勢を一瞬だけ硬直させると言うもの。
本当に一瞬だから、それこそ瞬きをする間に回復してしまうし、カードゲーム時代なんか見向きもされず、悪あがき魔法とすら言われていた。
だが、この魔法 PUPAの登場と共に化ける。
それこそおれがVRで使うようになると、評価は急変した。
当たり前だよな。
テーブルの上で戦っている場合とは事情が違う。
自身の身体が一瞬とは言え、一切行動不能になるんだ。
効果的に使うのはフィニッシュブロー前、もしくは相手魔導士、魔法使い属性の盟友の魔法詠唱時だろう。
おれも普段はそんなタイミングで使っている。
いや実際、この魔法とリザイアのコンボは凶悪だぞ。
リザイア召喚時の『見参』+硬直で窮地を救われた事は数えきれない。
話が逸れたな。
しかし、今回おれが注目したのはそのカードテキストだった。
【この魔法を行使した魔導士の闇属性魔力により、範囲内の敵勢は1アクション硬直する。この効果は「呪い」として適用される。】
そう、効果の属性が「呪い」なんだ。
エフェクトも、対象の足元から伸びた闇の手が一瞬四肢を拘束するって感じ・・・闇属性らしいっちゃらしいだろ?
まぁ効果属性が「呪い」なせいで、ウララの使役する天使族に多い「呪い」無効持ちには、ことさら辛酸を舐めさせられた物だぜ。
あいつほんと容赦ねーんだ・・・たぶんおれに対するメタで『魔導書』組んでるよね?(白目
まぁそれは今どうでも良い。
おれの予想からすると、彼らが現在ホナミから受けている何らかの呪い状態を、『中断』の効果で上書き、一瞬の硬直から「呪い」回復状態で復帰するんじゃないかと思ったわけだ。
ちょっと希望的観測過ぎる気もするけどな。
ともかく物は試し、おれは展開したカードを選択。
範囲の性質上、敵勢の中心で履行しなくちゃいけない。
『中断のカードを指先に挟んだまま、テンガと兵士たちの転がる所へ踏み込もうとした時だった。
「主っ!」
ロカさんの鋭い注意喚起、遅れてピリリ、首筋に走る危険察知。
咄嗟に飛び退けたのは僥倖だった。
ズガッ!ズガッ!
おれが今まで立っていた場所に、氷で出来た大きな羽根が二枚。
羽根が突き立った場所からパキパキと音を立て、むきだしになっていた地面に薄氷が張っていく。
(なるほど・・・ここで来るのか。)
どこか予感はあった。
それは再会、秋広的に言うなら惹かれ合う運命?
羽根が飛んできたのは上、つまり頭上だった。
仰ぎ見れば逆光に霞む二人の人影。
切り立った崖上の端、広場を見下ろすのは青い氷の翼を広げた天使・・・陽光が水晶のような四枚翼に反射して煌めいている。
そして、白いローブに身を包み、狐の面で顔を隠した人物。
一目でわかるのは、その人物が女性であると言うこと。
当然思い当たるのは一人しかいない。
ホナミだ。
「主!無事であるか!?済まぬ、『索敵』外から急に現れたのである。」
おれの前へバッと飛び出しギリギリと歯ぎしり、怒り心頭で唸るロカさん。
彼の『索敵』に引っかからなかったと言うのも仕方ないことだろう。
奴ら・・・『略奪者』はどういう原理か転移ができるらしいからな。
「大丈夫だ、ロカさん。ポーラ、他の奴らを連れてきてくれ。」
ロカさんを安心させるために声をかけ、ポーラに仲間たちの集合を頼む。
ホナミが単独で動いているとは限らない。
今までの経験上、アフィナとシルキーが心配だった。
「わ、わかったべ!」と叫んだポーラが走り去っていく。
フォルテも居るからよっぽどの事は無いと思うが・・・。
■
ふぅっと一つ嘆息、ホナミは仮面のままおれを見据える。
相変わらずその表情、思惑を読むことはできない。
「今のも避けるのね・・・相変わらず腕は鈍っていないようね・・・『悪魔』。いいえ、セイ。」
「もう・・・隠れるのはやめたのか?ホナミ。」
ここでおれのあだ名を出したってことは、もう認識阻害の仮面とやらで誤魔化すのはやめたのだろう。
まぁ竜兵に顔を見られている以上、今更だがな。
お互いに沈黙、相手の出方を伺わざるおえない。
黙っていられなかったのはホナミ信者のカリョウ。
「ホナミ様!」と叫んで、彼女の立つ崖下へ駆け寄ろうとする。
一瞬遅れた、そうだった・・・こいつが居たんだ!
満面の笑みのカリョウに対し、ホナミの盟友『氷の天使』アリュセは、とても冷め切った目で彼を見据えていた。
アリュセのクリスタルのような青い羽根に魔力が集まっていく。
「おい!待てっ!ロカさん!」
「ぬぅ!」
いやな予感にロカさんを走らせる。
案の定アリュセからカリョウの進路上、放たれる羽根状の氷弾。
狙いは顔面、完全に直撃コースだ。
間一髪、ロカさんがカリョウの襟首を咥えて、地面へ強引に引き摺り倒す。
それでもすぐに立ち上がろうとしたカリョウの頬を掠め、羽根が地面に突き刺さる。
「え?」
気付いたのは自分の頬から血が流れているからだろうか。
痛むだろう頬を抑え、溢れた血流を掌に受け止めて、初めて間抜けな声をだす。
「ホナミ・・・様?一体何を・・・?」
ホナミは黙して答えない。
彼女の仮面に隠された視線、一時も離れずおれを見据えている。
「主は『悪魔』と話している。目障りだ下郎。」
アリュセがカリョウにかけたのは、永久凍土も真っ青の冷たい言葉。
ロカさんが、ずりずりとカリョウを引き摺って戻る。
見るからに呆然自失、とても信じられない裏切りだったのだろう。
うん、ちょっと転がしといてくれ。
少し・・・おれからアプローチしてみるか。
最悪でも秋広の情報を引っ張り出さねーと。
「ホナミ、お前は何を目指してんだ?」
警戒は解かない、アリュセはロカさんが威嚇している。
ホナミはおれの質問に答えず、逆に質問で返してきた。
「セイ、一つ聞きたいことがあるわ。」
「・・・何だ?」
「あなたは本当に、『地球』に帰れる手段を知っているの?」
やはりホナミもそれなのか?いや、普通ならそうだよな。
おれだって望んでこの世界に来たわけじゃない。
こくり、小さく頷くことで肯定すれば、彼女の雰囲気は明らかに変わった。
それはどこか期待するような・・・続けて問うホナミ。
「100万枚のカードを奉納する方法ではないのよね?・・・どうやって?」
ここが・・・勝負所だろうか。
『回帰』の情報はおれたちの切り札にもアキレス腱にも成りえる。
軽々しく信の置けない・・・少なくともこの世界で変容してしまったホナミに教えてしまって良い物なのか?
おれはあえて突っぱねる。
「一つと言いながら二つ目だよな?それにお前はおれの質問に答えちゃいない。あんまりにもフェアじゃないだろ?」
逡巡するホナミ、交渉の余地は・・・あるのか?
観念したのか所謂「お手上げ」のポーズ、「何が聞きたいのよ?」と答えるホナミ。
考える・・・もちろん、秋広のことを聞きたい。
しかし、おれの目には未だ倒れ伏す雪人族や氷人族の姿が目に入ってしまった。
放置はできない、気持ちが決まる。
「お前はここで・・・雪人族や氷人族を使って何をやっていた?言い残した『蠱毒』って言葉。カリョウとテンガに渡してあった『堕落』のカード、100万人のカード・・・本気で集めようとしてんのか?」
自分でも「これ一つじゃねぇな」と思いながら、おれの質問は止まらなかった。
彼女は「やれやれ」とでも言いたげに肩を竦め、「そんなこと・・・」と呟く。
「大体あなたの想像通りだと思うわ?殺し合わせて後から纏めて頂くつもりだったのよ。100万人分のカードの為にね・・・。」
悪い方の予感が当たっちまったわけだ。
だがその物言い、自分で聞いたことながら胸の奥燻る苛立ちの熱。
カリョウはホナミの口から直接発せられた言葉に、顔面蒼白のままへたり込んでいた。
「まぁでも・・・予定が変わったから止めに来たのだけど・・・あなたが先に止めてくれてたみたいね?あなたが居たなら、いつまで経ってもカードが集まらないはずよ。相変わらず・・・甘いわね。」
殺さずに無力化したことを指しているのだろう。
だが、甘い・・・のか?
おれの中で燃え始めた怒りに気付くことなく語るホナミ。
お前、本当にどうしちまったんだよ?
「さぁ、質問に答えたわよ?次はあなたの番。」
ホナミの雰囲気が元通り、冷たい空気を纏っておれを見る。
おれはその視線、真っ向から受け止めた。
「この世界の住人は生きている。それを・・・お前らは、お前はカードとして回収しようって言うんだな?」
おれの静かな非難、少しだけ歩み寄ったかに見えた空気は霧散。
沈黙、俯きふるふると肩を震わせたホナミ。
そしておれは聞く。
今までの付き合いで初めてかもしれない、鈴原保奈美と言う女性の魂の叫び。
「ふっざけた事いつまで言ってるつもり!?私は帰るの!帰らなきゃいけないのよ、『地球』に!この世界の住人なんて知った事じゃないのよ!」
既視感、マドカの時と同じだ。
これが彼女の本心?
おれは・・・ホナミの何を知った気になっていたのだろうか。
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