・第二百十二話 『堕落(フォールン)』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
美祈、不思議な縁・・・それとも必然なのだろうか?
兄貴は秋広のセリフを思い出す。
「そして時は動き出す。」
ごめん・・・違うわ。
確かにそれも言ってたけど、記憶が前後した。
今日引っかかったのはその前に言っていたこと。
「魔導師は引き寄せ合う!」
自分の守護霊的な存在を呼び出して戦う漫画の影響か、『リ・アルカナ』同様タロットが出てくる話だったからか、やたらと熱弁を振るっていた秋広。
曰く、強力な魔導師は無意識に惹かれ合うとか何とか・・・。
言われてみれば、『地球』の知人にタロット持ちがすげー多かった。
その時はカードゲームの性質上、実力の近しい者が集まるのは必然だと思っていたが。
こと異世界においても、お互いの利害や背景が絡むとは言え、どこへ行っても魔導士と遭遇する現状。
あながち間違っているとも言えないのかもしれないな。
ああ、余談だが秋広が時を止めた事実は無い。
■
ホナミから譲り受けたと言って渡された小箱の中には、一枚の魔法カードが入っていた。
(それにしても・・・『堕落』とはな。)
苦々しい気持ち、カリョウから渡された物とテンガの懐に入っていた物、二枚のカードを見て・・・自然深々と漏れるため息。
彼らがどのくらい戦っていたのか定かではないが、結構ギリギリのタイミングだったのかもしれない。
戦争の結果・・・精兵が残り30人ほどになった時使えと言われていたらしいのだが、カリョウもテンガも事前に開封することは疎か、テキストすら読まず使う気満々だったと言われて絶句した。
まぁ現在気絶中のテンガは、そこまでばかじゃないと信じたい所ではある。
神代級強化魔法『堕落』・・・強化であるにも関わらず、不穏な魔法名のこのカード。
効果のテキストがこれだ。
【この魔法が適用された時、エリア内の自軍 盟友を肉体、精神共に三段階強化し神兵と為す。魔法効果の終了時、適用された盟友全てを破壊する。】
三段階・・・云わば『幽霊船』にかかっていた『勝者』の効果を、範囲で自軍に施す魔法。
しかし、そのふざけた効果の対価が死。
強化が切れた瞬間にその盟友は等しく墓地送りが決定だ。
言うなれば決死の狂戦士を生み出す物。
自分の敵にぶつけるためだとか、或いは片軍にだけ預けてあるならまだわかる。
それを両軍?・・・どう考えても待っているのは全滅だ。
(これ・・・最初からカリョウとテンガすら、殺すつもりだったんじゃないか?)
「とりあえずこれはおれが預かる」とカリョウに声をかけながら、危険すぎる魔法を『図書館』へ収納。
おれが想像したホナミの思惑・・・自分に与する軍隊を作ろうとしていた・・・と言うのは、現時点で明らかに外れていたと言って良いだろう。
どちらかと言えば、ツツジとやらが目指してる100万人のカード?あれに近いのだろうか。
何らかの手段で輪廻するカードをインターセプトすることができるなら。
そうなると・・・秋広と一緒に居ると言う狐の女のことが脳裏を過ぎる。
地域的な面も考慮すれば、やはりホナミとしか思えない。
現にカリョウやテンガと初対面した時、彼女は狐の面を被っていたらしいし、雪人氷人のカードを奪うにしても、距離が離れればそれだけ難易度は上がるはず。
秋広がこの地方にとんぼ返りしたのは、その辺の絡みなんじゃないか?
しかし、秋広の特徴を話してもカリョウは首を傾げ、供は『氷の天使』アリュセだけだったと言う。
秋広は疎か、ホナミの動向も目的もさっぱりわからない。
正直頭を抱えたくなるレベルだ。
「ではセイ殿?我々は無為な事をしていたと・・・?」
不安げにおれを伺うカリョウ。
彼はすっかりと敵意を失ったので縄を解き、天幕へ招き入れて対話中。
まぁ、例え暴れてもロカさんが即鎮圧するだけだが。
「それは・・・何とも言えないな。」
一先ず保留、ここで安易に否定するのは愚策だろう。
彼らがやっていたことは明らか異常なことだが、そこに第三者の介入・・・ましてやおれたちと同郷の魔導師が絡んでいるとなると話は別だ。
(まぁ・・・ノモウルザがどうこうだったら、もっとボッコボコにしてるんだが・・・。)
それにどうも、兵にはホナミが魔法をかけたようだからなぁ。
たぶんだが、『誘惑』辺りの催眠系、それを『永続化』とかしていたとしても不思議じゃない。
二人の王も知らぬ間にかけられている可能性だってあった。
カリョウの言ゆえ完全に信じている訳じゃないんだが、彼自身現状の異常性には気付いていたらしい。
本人曰く、ノモウルザの強制力で永劫の戦を繰り広げていたのはもはや過去の事。
今代の王であるカリョウとテンガは、ずいぶん前から和議を結んで居たらしい。
それがまたホナミによって再燃、どこか自分の中で警鐘が鳴りつつも戦に臨んだと。
『堕落』の件をオブラートに包んで話したのだが、カリョウはホナミを崇拝、もしくは憧憬に近い念で懸想している。
「何か深いお考えがあってのことですよ!」と、非常にイイ笑顔で返答された。
カリョウ、テンガ揃ってネームレベル・・・端的に指導者級くらいの実力がありそうだし、中途半端に抵抗した結果が、妙な残虐性であったり一晩の伽・・・とか?
『地球』のVRならそんな現象見たことも無いが、現実であるこの世界で『誘惑』・・・つまりは魅了状態になったら。
(ありえない話じゃあないな・・・。)
こりゃ根が深ぇわ、まったく・・・次から次へと。
■
おれは、あれから根気良く説明を繰り返した。
ある意味で説得とも言う。
自分たちや『略奪者』のこと、神々の思惑・・・特にアルカ様のことだな。
最初こそよくわからないと言った感じだったのだが、カリョウは突然全てを納得した。
まるで憑き物が落ちたような?おそらく、ホナミのかけた魔法効果が切れたんじゃないかと推察する。
全ては語弊があったわ。
どうあってもホナミに関してだけは信じてくれない。
あくまでも彼女を女神だと言い張り、「『略奪者』ではない、もし仮にそうだったとしてもやむにやまれぬ事情があったはずだ。」と言う。
マジでホナミ・・・何したんだよ?
それはともかく。
正気を取り戻したカリョウ、次に気にしたのは自国の兵士たちの安否。
「セイ殿!彼らは生きて・・・いや、もちろん貴殿を疑っているなどではなく・・・。」
すさまじい変化と言えるだろう。
下卑たニヤニヤ笑いを張り付かせていた口元もキリリ、それでも心配げに眉根を寄せる姿は戦場で見た姿と違いすぎる。
だが、逆に違和感やウソ偽りの気配は無かった。
むしろこれが、こいつの真の姿なのかもしれない。
そうしておれはロカさん、カリョウと連れだって外に出る。
向かうのはテンガ及び戦士たちを、纏めて転がしてある場所。
「あ・・・セイ。もう・・・いいだべか?」
「ヴォフ!」
リライと共に見張りをしてくれていたポーラがおれたちに気付く。
視線の先は居住まいを正したカリョウ。
簡単にしか説明しなかったが、仲間たちも彼が首魁の一人であることは知っている。
警戒するのは当然だろう。
「ああ、たぶんこいつはもう大丈夫だ。」
おれの言葉に合わせ、「貴殿らにも迷惑をかけた。兵たちを殺さぬよう苦心してくれたと聞いた。ありがとう。」と腰を折るカリョウ。
うーん、王様なのに普通に頭下げちゃうんだな。
この世界の王族、思いの外腰が低い。
「ん、まぁ・・・おいたちは特に・・・。」
相手が王族であると思い出したのか、ポーラは言葉に詰まる。
もしくは、ポーラが銃撃したのは氷人族だけなことに、自分で気付いたかもしれないな。
となると雪人族の王であるカリョウに頭を下げられるのも、お門違い、バツが悪い。
ぶっちゃけ、そんなに気にしなくていいのに・・・。
おれなんかどこの王家に対しても普通にため口だし、カリョウに至っては「こいつ」呼ばわりしたぞ?
むしろ門番に対する演技とかでしか、敬語を使った覚えが無い。
あれ・・・おれがおかしいのか?
いや、そんなことはどうでもいいんだ。
「それでポーラ。頼みがあるんだ。」
「なんだべ?」
首を傾げるポーラにおれの考え、導いた結論を相談する。
それは・・・彼の持つ『魔眼』で、テンガや他の兵士たちを診てもらおうと思ったのだ。
ポーラの『魔眼』は魔力を見ることができる。
もし何らかの魔法効果によって雪人族、氷人族が操られているのなら、その魔力を文字通り診察することもできるんじゃないかと思う。
「その考えは無かっただ。勿論良いべ。」
あんまりそういう使い方はしないのかね?
兎にも角にも集中するポーラ。
見た目からは良く分からないが、あれが『魔眼』を使用している状態なんだろう。
良かったな・・・赤く光ったり、オッドアイになったりしなくって。
そんな状態だとさすがにおれも、「厨二か!?」ってつっこんでしまいそうだ。
待てよ・・・身内に赤い目も居るし、『加護』くれた神様がオッドア・・・よそう。
地面が剥き出しになっている一画に、無造作転がされた人々。
ポーラがぐるり見回しながら嘆息。
「セイ、おめの言った通りだべ。全員、ロカさんの『魔霧』とは別の魔法効果、おそらくは呪いに近しい類の物に浸食されてるべな。」
「やっぱりな・・・。」
覚悟はしてたがやはり面倒なパターンだった。
それにしても、ただの魅了じゃなくて呪いの類かぁ。
告げられた情報に、「なんと・・・。」と呟いたカリョウも固まっている。
「主、どうするのであるか?」
「う~ん・・・。」
シルキーの『浄化の雷』でもいけるだろうか?
二次災害起きそうだよねぇ。
正直、解呪の類は得意じゃねーんだよな。
こういうのはアレだよ、ウララの担当。
それこそサーデインと『制約』のコンボでも無い限り・・・待てよ。
「魔導書」
おれは思いついた一枚、さっきカリョウを説得するために見せた手札を、もう一度展開するのだった。
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