・第二百十一話 『傾国』
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異世界からこんにちは。
おれは九条聖、通称『悪魔』のセイだ。
さて美祈、またしても驚愕の新事実発覚である。
兄貴は情報に翻弄されまくりだ。
とりあえず、やんちゃが迸ってた二人の王様らしき人物を無力化してみたんだが・・・。
てっきりノモウルザ関連のあれこれが始まるんだと思っていたよ。
まさか・・・ホナミが絡んで来るとは。
今更と思うかもしれないが、本来なら想定しておくべきだったんだよな。
あいつのエース盟友って、『氷の天使』アリュセだろ?
しかも『氷河期』とか使うんだから、この地域・・・『氷の大陸』メスティアと何らか繋がりがあったとしておかしくない。
テンガの口ぶりからすれば、この戦争自体が指示された行動のようにも見える。
マドカが語っていたのは、この世界の住人100万人分のカードだったか。
ホナミも同組織に属している以上、それに沿って動いているはずなのだが、実際問題今回の戦争で倒れた戦士たちが回収されている雰囲気も無かったし・・・。
さっぱりだな、その目的は皆目見当も付かない。
素直に口を割ってくれればいいが・・・。
■
『炎乗り』の効果で火の川を操り、できるだけ遠方に散らす。
正直・・・マジで危なかった。
もう少し暴れられていたら、すでに無力化済みの雪人族が、完全に火の海に沈んでいた所。
最後の仕上げ、ロカさんが身体から『魔霧』を噴出。
あっと言う間、テンガを筆頭・・・氷人族を麻痺と睡眠マシマシの濃厚な霧が覆い尽くす。
まがりなりにも『魔霧』の発生に対抗できたテンガはすでに気絶中。
火の川から身を守るため障壁に集中していた戦士たちに、ロカさんの追撃を防げる者は残っていない。
元よりテンガが倒れた時点で、抵抗らしい抵抗も無かった。
次々膝を折り身体を伏せて、深い深い眠りへ誘われていく。
こうして、おれたちは戦場を制圧した。
自業自得だが少し疲れたぞ。
ぺたり、もはや剥き出しとなった大地に腰を下ろせば、まるで『地球』の温泉地地獄谷とかの如くポッカポカ。
風景も赤一色から、雪の白と地面の茶色、明らかに変わってしまっている。
そりゃあ・・・あの血塗られた不気味空間よりはマシだろうが、どう考えてもやりすぎだろう?
この状況まで想定内で、おれの手札が『炎乗り』一枚だったとしたら、「デビルドロー」云々の前に神の正気を疑うわ。
その辺どうなってるんですかね・・・アルカ様?
リライの背に乗り、崖を駆け下りてくる仲間たち。
「「「セイ(さん)ー!」」」「ヴォフー!」
アフィナ、シルキー、ポーラが声をハモらせ、リライが少々興奮気味に鳴いている。
フォルテは・・・姿が見えない所見るに、リライの長毛に潜っているんだろう。
そうですか、もうお仕事の時間は終わりなんですね。
いや、今回も重要な局面では働いていたけどさ・・・。
もうお前ずっと弓持っとけよぉ・・・。
しかし、ロカさんとおれも跳んだけどさ・・・リライは普通に崖を走ってるな。
なんだかすごい形相で迫る仲間たちに軽く手を振って答え、『図書館』を展開。
ロープやらの拘束に役立つものを具現化していく。
結構な人数居るからなぁ・・・足りるだろうか?
まぁ最悪ロカさんの『魔霧』で昏睡させとくしかねーか。
とりあえずで王を名乗る二人をぐるぐる巻きに、戦士たちは一塊に固めて転がしておく。
麻痺と睡眠で無力化しているとは言え、もちろん武装解除はしている。
さすがに鎧脱がすのは面倒だったけど、武器くらいは・・・な。
そこでリライに乗った仲間たちが到着。
ズザザーっと目の前で急停止、おれと目線を合わせて「ヴォフ!」。
一つ頷き「お疲れさん。」と声をかければ、彼も満足そうに頷いた。
これ・・・完全に言葉理解してるよね?
仲間たちがリライから飛び降りる。(注:約一名は降りていません。
「セイ!おめはなんつぅ・・・おいは心配で!」
責めるようなポーラの視線。
済まんな・・・今は(ちょっと)反省している。
結果は完全勝利だが、仲間たちに心配をかけたのは事実。
少々バツが悪くて頬を掻いていると、アフィナとシルキーが何とも言えない表情で近付いてきた。
「セイ!ボクたちがどれだけ・・・!」
まずはアフィナか・・・。
おれはそう覚悟を決めたのだが・・・。
「娘は・・・こっちである。」
彼女たちの背後、地の底から響くような低い声。
普段はダンディなはずのそれは、誰が聞いてもわかる明確な怒りを孕み・・・うん、ロカさんだよ。
瞬時にして襟首を咥えられたアフィナは、「わわ!?ロ、ロカさんっ!?」「黙るのである!つい昨日説教をしたばかりと言うのに・・・正座である!」などと騒ぎ立てながら引き摺られていった。
ですよね・・・テンガを倒す時も「正座!」言ってたし。
そしてシルキー、何も言わずに目を潤ませるのはやめようか。
手を胸の前で組み長い睫毛を伏せる。
その心情、不安気にゆっくりと振られるポニテが雄弁に語っていた。
「セイさん、心配・・・したんだよ?」
「あぁ・・・悪かっ・・・!」
おれは謝罪の言葉を皆まで発すること叶わなかった。
うん、思いっきり抱き着かれてしまってな。
爆発しろ!とか言うなよ?
そういうのじゃないはずだ!たぶん、おそらく、きっと。
まぁ・・・ぎゅうっと力を込めて腕を背中に回されれば、せいぜいできるのは頭をポンポンするくらいだ。
アフィナとの格差・・・これが女子力!
「まぁったく・・・少しはおいたちを信用して欲しいべ。」
ヒュウっと口笛を吹きながらポーラ。
悪かったよ・・・。
しばらく頭を撫でていると落ち着いたのか、頬を赤く染めたシルキーが上目遣い。
「次やったら・・・イアネメリラさん呼ぶね?」
本日最大の爆弾であった。
待てシルキー!落ち着くんだ、話せばわかる!
■
「がはぁっ!ごほ!げほっげほっ!なっ!?何事っ!?」
とりあえず、水玉を顔面に落としてみました。
ぐるぐる巻きなのに器用に跳び上がり、盛大に咳き込むカリョウ。
一発で目覚めるとは・・・中々寝起きが良いじゃないか。
慌てて周囲を見回し、視線が低すぎることに気付いたのだろう。
やっとこさ身動き一つ取れない自分、そして視界に入ったであろうおれとロカさんの足に怯えを滲ませる。
ゆっくりと視線を上げた先、そこにはおれとロカさんのイイ笑顔が待っているはずだ。
「おはよう、気分はどうだ?」
「こ・・・これは?まさか・・・我が負け・・・た?」
「信じられない」と言う表情を顔に張り付かせ、忘我の中呟くカリョウ。
そこにはご機嫌に詠っていた姿は当に無い。
そういえば最後まで抵抗したテンガと違って、カリョウは一瞬で沈んだからなぁ。
「き、貴様らは・・・一体何が目的だ?」
毅然とした表情のつもりなんだろうが、頬は引き攣っているし、声は完全に震えている。
やめろよー、そんな顔したら、まるでおれたちが苛めてるみたいじゃないかー(棒読み
ロカさんが何も言わずにゆっくりと近付いていく。
2mサイズの狼だ、それだけで恐怖感を煽るのだろう。
ロカさんはカリョウの肩にたしっと前足を乗せると、ぐっと体重をかける。
それだけでカリョウ、「ひぃ!」と悲鳴を上げた。
「無駄口、余計な詮索不要である。お主はただ主の質問に答えれば良いのである。」
今日のロカさんは凄みが抜群だぜ。
アフィナも未だに正座中らしいし、色々溜まっていたのかもしれない。
うん、おれもしっかり労わろう。
「な、何を・・・聞きたいと言うのだ?」
ロカさんに怯えながらも、おれと視線を合わせて問うカリョウ。
おれは『魔導書』を展開した。
目の前に浮かぶA4のコピー用紙サイズ、一枚のカード。
カリョウの不安に沈んだ表情が劇的に変化した。
「きさ・・・いや、貴方はホナミ様の関係者だったのか!?」
(よし、かかった!)
無言で鷹揚に頷き、おれは内心でガッツポーズ。
これである。
多少か頭の良さそうなテンガではなく、あえてカリョウを覚醒させたのはこれが目的だった。
どうもこの世界の住人にとって、『魔導書』と言うものは異様に驚かせるものらしいからな。
その力を扱える人間をホナミ以外知らなかったのなら、おれが彼女と所縁ある人間だと誤解するんじゃないかと思ったわけだ。
まぁウソも言っていない・・・敵対関係だとしても、関係者に間違いは無いだろ?
「確か・・・セイ殿と名乗られたか?貴方はなぜ我々の妨害を?」
逡巡したカリョウ、口調すら柔らかくなっておれに問いかける。
いつのまにか貴様からセイ殿扱い、ホナミの関係者効果がバツグンだ。
見事なチョロさ、この調子でご機嫌に詠って頂こう。
「どうにもな・・・お前たちの行動が理解できなくてな。おれはホナミからこんな話は聞いていない。
テンガからホナミの名前が出るまで、てっきりノモウルザ関連の話だと思ったのだが・・・計画に変更があったのか?お前たちは彼女にどんな指示を出されたんだ?」
ウソは・・・言っていない。
行動が理解できなかったのも、ホナミにこの話を聞いていないのも、当初はノモウルザ関連だと思っていたことも全て事実。
なればこそ自信を持って語ることもできる。
おれの示す明確な自信に、カリョウはすっかり狼狽した。
「なんですと!?計画の変更!?」
何か思うところでもあったのか、「いや・・・しかし、また連絡すると・・・。」ブツブツと呟いている。
促すように頷いてやれば、縋るような目でおれを見る。
「我々がホナミ様から指示されたのは・・・軍備の拡張と精兵の育成です。その方法として戦争を指示されました・・・『蠱毒』とか言っておられましたが・・・。」
軍備の拡張と精兵の育成・・・そして。
(『蠱毒』ねぇ・・・。)
ホナミ、お前こんなとこで何やろうとしてんだ?
メスティアの隠された二大国、氷人族と雪人族に潜り込み掌握。
おそらく何かとの戦いに備えているように思うが、それはおれたちなんだろうか?
まだ話には続きがあるようだ。
「セイ殿は余りこちらに詳しく無いのですかな?ノモウルザを奉っていたのはすでに過去の事。現実に顕現なされた我らが女神、ホナミ様に害為す悪神です。」
あるぇ?また何か・・・やべーフレーズが聞こえてきた気がするぞ?
女神がどうとか・・・ホナミ!お前もか!
いや、現実問題それが事実じゃ無くても良いんだろうな。
ホナミが相応の力を示し、こいつらがそれを信じてさえしまえば。
きっと『魔導書』を駆使すれば、そう難しい話でも無かったのだろう。
うーん・・・これは宜しくない状況かもしれんな。
「そ・・・それでですね?失礼ですが、セイ殿は・・・。」
急にもじもじし始めるカリョウ、何だか妙にそわそわ、頬も赤らんでいるように見える。
アフィナとかシルキーがよくやるのはまだわかる。
だが、てめーはだめだ。
少々不機嫌に「何だ?」と聞けば、意を決すように告げられる言葉。
「セイ殿はホナミ様とどういう関係ですか!?ま、まさか・・・恋人・・・とか?」
「・・・・・・はぁ?」
予想外過ぎだろ、なんだその質問?
疑問符浮かべるおれの顔を見て、見るからホッと胸を撫で下ろすカリョウ。
ぐるぐる巻きだから実際には撫で下ろしてないけども、そんなことはどうでもいい。
その後、彼が打ち明けたこと、床ドンせざるおえないおれを責められる者など居ないはずだ。
「いえね。ホナミ様は我かテンガ、この戦争であの方の目標に大きく近付けた方と、一夜を共にして下さると仰られたのです。セイ殿があの方の良い人であるなら望み薄かと思いましたが・・・一夜あれば我はきっとあの方の心を射とめて見せますよ。ええ、見せますとも!」
あれ・・・なんか頭痛がしてきた。
もしかして色仕掛け?しかもそんな理由でがっつり殺し合い?
「お前もテンガも・・・そんな理由で?」
不埒な妄想に縋るカリョウは、おれの乾いた声に気付かない。
少し憮然としながらも嬉しそうに言う。
「セイ殿、そんな理由とは何ですか!あの方ほど美しく強い女神を我らは知りません!あの方と閨を共にすれば、それは素晴らしい『加護』を授けて頂けるでしょう!」
「うん、お前もう黙れ。」
カリョウはロカさんの犬パンチで意識を刈り取られた。
それにしてもホナミ!お前何やってんだよぉ!?
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