・第二百八話 『紅雪の谷』前編
いつもお読み頂きありがとうございます。
ブクマ励みになります^^
※分割でございます。
私事ですが・・・今日の仕事帰りから恐ろしいほど背中が痛い!
背筋だと思うのですが、どこで捩じった作者?
予想としては・・・汗濡れのポロシャツ脱ぐのに半端ない苦労した・・・あれか!
もうね、あれです。
固形物を呑み込む時はおろか、呼吸ですら激痛が走る!
これ寝れるんだろうか?
それでもいつも通り一話書き上げた作者、遠慮なく褒めてもいいんじゃよ?(チラ
ウソです、調子乗りました、読んでくださるだけで嬉しいですorz
ただ、どなたか良い治療法があれば教えて頂けないッスかね?
あ!とりあえず冷蔵庫に入ってた湿布張ってみるッスよ。
ぐあああ!背中に湿布を張ることの難易度!
神は・・・死んだっ!
戦場を鮮やかに染め上げる、赤々とした炎の洗礼。
見るからに熱そうな炎だが、その実殺傷能力は皆無のはず。
現に直撃したように見える者たちにも、怪我や火傷は見当たらない。
(思った通りか・・・!)
『地球』のカード知識に裏打ちされた事象、『炎嵐』の効果に安堵する。
この魔法は、三種類の効果を選択できる使い勝手の良い物だった。
一、威力を上昇させる代わりに範囲を極小に、貫通性能まで併せ持つ一本の竜巻を形成するパターン。
二、云わば一番オーソドックス、火力も範囲もそれなりに、広範囲の敵を薙ぎ払うパターン。
三、威力を殺傷能力皆無なほど抑え、その代わりに範囲を極限まで増大した目くらましや、ある種の防壁のように使うパターン。
当然おれが今回選択したのは三番目、威力極小範囲極大のパターンである。
もちろん直撃していれば吹っ飛ばされるし、さすがにその時の落下ダメージまでは面倒見きれないのだが。
時間にしたら数秒、戦場を覆いつくさんばかりの逆巻く炎、静かに沈黙。
炎のカーテンが晴れた先、そこに居るのは当然おれとロカさんだ。
まさにど真ん中、激戦繰り広げるただ中に突如炎と共に現れたのは、黒衣の男と体長2mもある漆黒の大狼。
さぞや異物に見えたことだろう。
ただ・・・注目が欲しかった。
「お前らは・・・何のために戦ってんだ?」
アフィナが口に出すことを躊躇い、おれもそれに答えられないだろうと思った質問。
吹き飛ばされた後もしっかり二つの陣営に分かれ、油断なくおれたちに身構えながらも困惑を隠せない。
問いかけの言葉投げながら、おれは敢えて一切隠さなかった。
おれ、そしてロカさんから立ち昇っているはずの膨大な魔力。
多少なり実力のある者なら、可視化も容易なはずだ。
それに対し伝わってくる感情は警戒、恐怖、敵意。
すべての眼、今おれとロカさんを見据えている。
しかし己が理解の範疇外であろう生まれた暴虐の結界に、戦場居並ぶ武人たちも一切言葉を発さない。
だがいくらなんでも不自然。
彼らはただ答えないのではない。
全く言葉を発しない。
そう、不審な闖入者であるおれたちに対する、誰何の声すら出ないのだ。
(或いは・・・答えが無いか・・・。)
答えないのではなく、答える術ない可能性。
それは・・・彼らの戦い方を見た時に感じたこと。
どこかしら背後に闇を背負い、大した目的も無く突っ込んでいただけにしか見えなかった。
沈黙を切り裂いたのは、場違いに涼やかな二つの声。
「おやおや・・・。」
「これはこれは・・・。」
隠し切れない侮蔑、もしくは歪んだ愉悦を湛えた二つの声。
目をやれば氷人族、雪人族、陣営の最後尾に鎮座する色違いの美青年。
(まぁ・・・そうだろうとは思ったけどな。)
声と同時、冷たい氷を背中に入れられたような悪寒。
伸し掛かってくるような重苦しいプレッシャーをかけられていることが理解できた。
おそらくは特技か能力だろう。
だが・・・神様とガチンコしてきたおれやロカさんがその程度で怯むとでも?
ダインやらノモウルザに感じた圧迫感に比べると、奴ら二人が行っているであろうなにがしかは・・・そうだな、低反発素材の枕を押し付けられている程度?
至って平然、へっちゃらなおれとロカさん。
美青年二人は特に動きを見せないが、興味深そうに眉を吊り上げたのは確認できた。
おれはロカさんと背中合わせ、自然お互いの背後を守る形に移動する。
目線は固定、おれが雪人族の白い鎧の奴。
逆にロカさんは、氷人族の青い鎧の奴を睨み付ける。
「なぁ、カリョウ。永く生きていると意外な事が起きるものだな?」
「そうだなテンガ。不審者君たちには、我らの威圧が効いていないようだ。」
両陣営に分かれて戦っているはずの二人、存外にフランクな感じで語り合う。
どうもおれが見ている白鎧がカリョウ、ロカさんの見ている青鎧がテンガと言う名のようだ。
カリョウは気障ったらしい動きで指をパチリ、その後おれを指さしてくる。
イラッ!こいつはどうやら「人を指さしちゃいけません」って親に習ってないらしい。
そんなおれの不快感に気付く訳も無く、奴は問いかけてきた。
「不審者君、ここが雪人族と氷人族にとって、神聖な決戦場だと理解して乱入したのかな?」
「決戦場・・・だと?」
手ひどい違和感・・・吐き気がする。
あれはそんな高尚なもんじゃなかった。
おれの気持ちを置き去りに、引き継ぐ形でテンガが語り出す。
「そうとも!蒙昧たる人族にはわからないかもしれないが、これは神を奉る儀式。無粋な横やりはご遠慮願おうじゃないか。」
(神を・・・奉る儀式・・・!)
やはりあの祟り神が起因してのことなのだろう。
だが・・・それだけでは納得できない。
なぜなら、ペラペラと語らうカリョウとテンガ以外、他の雪人と氷人に漂う空気。
感情を感じられないと思ったのは間違いだった。
彼らを支配しているものは・・・拭いようの無い圧倒的な諦念だったのだから。
■
「まぁ知らなかったと言うなら、今回だけは見逃そうじゃないか。幸いどちらにも被害は無かった訳だしね?なぁテンガ。」
「そうだな・・・。見ればまだ幼い子供じゃないか。若さゆえの義憤と思えば、存外微笑ましい・・・。」
「一つ聞かせろ。」
未だご機嫌に詠っていたらしいカリョウとテンガ。
その途中をばっさりと切って捨てる。
自分でも驚くほどの低い声が出た。
一瞬話を切られたのが信じられなかったのだろう、顔を見合わせそれでも不自然な笑みを浮かべる二人の男。
おれやロカさんの魔力を理解しているからなのか、或いはおれが殺傷能力を抑えた魔法を使ったことに対するある種の侮りか。
おれと向き合うカリョウが「・・・何かね?」と余裕ぶった態度。
周り居並ぶ武人たちを一度ゆっくりと見回して、おれは静かに問いかけた。
「こいつらが望んで戦っているようには見えない。そして仲間たちが次々倒れる中・・・お前ら二人は指揮官なんだろう・・・なんで高みの見物なんだ?」
おれの言葉が、戦場に立つ人々の間を通り過ぎていく。
深い・・・深い沈黙の末、カリョウとテンガは弾かれたように笑い出した。
「はは!ははは!聞いたかテンガ!?無知とは恐ろしい物だな!?」
「くっくく!言ってやるなカリョウ!どうやら並外れた力を持ってはいるようだが、所詮は浅慮な人族の子供なのだ!」
「貴様ら!主を愚弄するのであるか!?」
その態度に激昂したロカさんを、おれは必死に宥める。
周囲は突然しゃべり始めたロカさんに驚愕。
まぁ・・・2mもある狼がいきなりしゃべるとは思わないよな。
「主!なにゆえ止めるのである!?吾輩は彼奴らを・・・!」
まだだ、まだ・・・あいつらはおれの予想する言葉を発していない。
こいつらならきっと言う、そしてその時こそおれは、この怒りを解き放つ。
目に見えて怒気発するロカさんと、静かに怒りをため込むおれ。
カリョウとテンガは気付いているのかいないのか、一しきり笑いあった後質問に答える。
「高みの見物などではないよ。ただ・・・あくまでも我らは王だからね。この戦を永劫終わらせない使命があるのだよ。」
「その通り。無知蒙昧な人族にはわからないかもしれないが、これは必要な行程なのだ。散り行く同胞には・・・我らも心を痛めているのさ。」
そう言って二人は、いかにもわざとらしく眉根を寄せた。
だがおれは知っている、明らか愉悦に歪んでいた冷たい微笑。
白々しいにも程がある、どの口がそれを言うのか・・・。
抑えていたロカさんよりも先に、おれが爆発していた。
「じゃあなんで、てめぇらは笑ってやがるんだ!」
無意識に身体から迸る、膨大な闇の魔力。
今まで比較的静かに話していたおれの怒号に、カリョウとテンガは動揺。
そして、絶対に紡いではいけない言葉を唇に乗せた。
「き、貴様には関係無いだろう!?それにこの使命、我らが神の御心に従っているに過ぎん!」
「どうやら・・・こやつらが血を流す事に不満があるようだが、王たる我ら二人以外は、所詮血の詰まった肉人形。神の遊戯・・・その盤上を彩る駒に過ぎぬのだ!」
(こいつらが王とか・・・正直終わってる。)
予想はしていたが本人の口から語られてしまった上、戦場の誰もが否定しない。
そして・・・最後の一節、それが決定的決別。
(ゲームの駒・・・その言葉をやはり使うんだな。)
良く漫画やラノベの世界、創作物で語られる悪役の常套句。
生ある者に対して絶対に使ってはいけない、おれの逆鱗に触れる言葉。
今ここで・・・てめぇらの運命は決まった。
一度目を閉じ深呼吸、腕をクロスに胸の前、引いた拳を腰だめに。
物心付いてからこのかた、何度繰り返してきただろう丹田の構えに呼気が整う。
不用心と思うかもしれないが、一回だけ沸騰する頭を冷やしたかったんだ。
爆発させてしまった魔力をゆっくり体に馴染ませるように、押さえつけ全身に漲らせていく。
雪人と氷人の王らしい二人、律儀におれが目を開くのを待っていた。
そしてぶつかる視線、諭すように宥めるように。
「悪いことは言わぬよ少年。今ならまだ間に合うゆえ、全てに目を瞑って去りたまえ?」
「そう、所詮お前には関係の無い話。ましてやそれだけの魔力を持つのだ。神の絡む事象に嘴を挟むほど愚鈍でもなかろう?」
おれが奴らの忠告に従うと、誰もが信じていたのだろう。
いや、「主・・・!」と呟くロカさんだけが、おれの構えた意味を正確に理解していた。
二人の馬鹿王に・・・最低限の礼儀を見せようか。
少なくとも奴ら、おれたちに対し不意打ちだけはしなかった。
「おれは魔導師のセイ。こっちの狼はおれの相棒である、『幻獣王』ロカさん。」
突然始めた自己紹介に、カリョウとテンガは鼻白む。
「少年・・・一体・・・何を?」
「別に名乗りなど聞いておらぬ!・・・待てよ、『幻獣王』ロカだとっ!?ばかな!」
どうやらテンガの方は、ロカさんの事を知ってるらしいな。
そしてカリョウ、「一体何を?」ってか。
こちらも質問に答えようじゃないか。
「聞くだけじゃあフェアじゃないからな。おれたちが今から何をするか・・・簡単さ。お前ら二人をぶん殴って、このくだらん戦を終わらせるんだ。」
「「なっ!」」
カリョウとテンガ、驚愕の叫びはこちらが驚くほどハモっていた。
そして・・・。
「『悪魔』のセイ!」「『幻獣王』ロカ!」
「「推して参る!!」」
おれとロカさんの口上も綺麗にハモった。